22 / 32
10.言うべきか、言わざるべきか
10-1
しおりを挟む
結論から言うと、タイムカプセルはアッサリ見つかった。
今は、ブルーシートのしかれた体育館にタイムカプセルを運びこんで、
開封作業の真っ最中だ。
タイムカプセルは、がちがちにガムテープで封をされた、
衣装ケースくらいのプラスチックの箱だった。
劣化しているみたいで、中には雨水が少したまっている。
そのガムテープにハサミを入れて、箱をあける。
すると、中からビニールとガムテープでぐるぐる巻きにされた、
ちょっと小さな箱が出てきた。
その後、また同じようにされた小さな箱、と続いていき……。
とうとう金属でできた、大きめのお菓子の缶が出てきた。
これは、全然劣化していない。
キレイで、中身も無事なようだ。
それを開けると……、わあっと歓声が上がった。
中にあったのは、タイムカプセルを発掘した四十歳の自分に宛てた手紙と、
文集のようだ。
ま、これは、おれの念写でもわかってたことなんだけどな。
リーダーおじさんによって、手紙の宛名の名前が読み上げられる。
手紙はどんどん持ち主にかえっていった。
「わ~、なつかしい!」
「こんなこと、書いてたっけ?」
「あはは、バカ~。
超金持ちと結婚しましたか? だって」
そこかしこで、楽しそうな声が上がる。
「阿部ミサさ~ん!」
「あっ、はい!」
旧姓が呼ばれ、
母さんは緊張とうれしさがないまぜになった表情で手紙をうけとった。
まるで乙女がラブレターを抱きしめるように、
大切にもってこちらにやってくる。
「きゃ~、ちょっと待って!
ヘンなこと書いてなかったら、
みんなにも見せてあげるから!」
母さんは、手紙の封をあけると、ざっと手紙に目を通した。
「あら?」
「どうしたんだ?」
「わたしったら、おもしろいこと書いてるわ~」
母さんはうふふ、と笑いながら、手紙の一部分を指さした。
「おれも見ていいですか?」
「もちろん! はい、どうぞ」
手紙をわたされ、おれとマナトで顔をつきあわせてそれを読む。
――サトシさんと結婚するのは絶対でしょー。
だから、次に予想するのは、ふたりの間の子どもについてね。
うーん、どんな子か想像もつかないなぁ。
よし、ズバリ予言しちゃおう。
その子はね、エスパーなの!
……なーんてね。
ちょうど今、サトシさんの撮ってる映画部の映画が、エスパーものなの。
すっごくおもしろいのよ~。
エスパーの毎日って、たいへんだけど、楽しそうよね。
だから、わたしもエスパーを産んでみせる!――
思わず吹き出しそうになった。
母さんって、予知能力者⁉
それとも、有言実行のカタマリなのか⁉
「え、えーと、エスパーですか。夢があっていいですね」と、
マナトが動揺を隠しつつコメントする。
「でしょ!
……でも、その次が一番大事なのよ。
よく読んでね」
母さんの優しいまなざし。
その次……? と、おれたちは再び手紙に目をうつした。
――まあ、エスパーでも、そうじゃなくても、
まったく関係ないんだけどね。
わたしとサトシさんの子なんだもの!
愛して、愛して、世界で一番幸せにしてあげる!
その子もこの手紙を読んでるかな?
お母さん、あなたのこと(あなたたちかも?)、
とっても愛してるわ!――
「エスパーでも、そうじゃなくても、まったく関係ない」……。
「世界で一番幸せにしてあげる」、「愛してる」……。
母さんのストレートな言葉に、
なんだか目頭が熱くなってきた。
やべ、泣きそうかも。
実際、おれって幸せ者だよな……。
エスパーなのに、平穏な生活送れてるし。
「……ミサさん、カッコイイ。
ステキなお母さんですね」
マナトが感心したようにつぶやいた。
「あら、ありがとう。
でも、マナトくんもカッコイイわよ」
「……おれも?」
「だって、人によっては、
『愛してる、だなんてカッコつけすぎ~』とか、
『キモイ』みたいな反応してもおかしくないでしょ?
愛情を素直に受けとめるのが恥ずかしいのね。
でも、マナトくんは言葉の重みをしっかりうけとめてくれた。
そんな子が、リキくんの友だちで、お母さんうれしいわ」
ぶわわっとマナトの顔が赤くなる。
わー、トマトみてぇ。
「これからも、リキくんをよろしくね」、
「は、はい」と、なんだかおれにとって
ものすごく恥ずかしい会話を聞いていると、
スタッフのところにいた父さんがやってきた。
父さんが連れてきたのは、カメラマンとアナウンサー。
そして……、エマだ!
「失礼します。
エスパーガール、エマさんによるタイムカプセル捜索成功。
その感想を、ぜひ聞かせてください」
アナウンサーはおれにマイクをむける。
おお、カメラ回ってんの? 緊張するな。
でも、母さんの手紙にもらった、あったかくて幸せな思い。
それは自分の宝物にしたくて、おれは無難な回答をした。
「父さんと母さんの埋めた、
大切なタイムカプセルがみつかってよかったです。
エスパーなんて、最初は信じられなかったけど……。
今はただ、驚いています。
エマさん、本当にありがとうございました」
続いてマイクをむけられたマナトは
「エスパーが実際にものを探す現場に立ち会えて、感動しました。
本当に貴重な体験ができてうれしいです」と、
これまたあたりさわりのない回答をした。
それでも、アナウンサーは満足そうに、
「ありがとうございました~」と言って、カメラマンと去っていった。
って、あれ? エマは、ついていかないのか?
「ちょっと、お話していいかな?」
お話って……、おれに? エマが? なんだろ?
「ええっと、あなた、名前は?」
「神通リキヤですけど……」
「カミドオリ、リキヤ……。
そう、リキくん、なのね。
ねえ、ちょっと、耳貸して」
思わず、ドキッとする。
だって、こんなかわいい子が、おれに耳打ち?
母さんはほほ笑ましいものを見るように、
父さんとマナトはニマニマしながら、おれの様子を見ている。
「ど、どうぞ?」
すぐ近くから、ふわっと甘い匂いが香る。
うう、落ち着かない。
エマは手で筒をつくって、おれにひっそりと話しかけた。
「リキくんて……、ううん。
リキくんも、『エスパー』だったりする?」
「⁉」
予想外の言葉に、心臓がとまりそうになる。
おれが、エスパー⁉ いつ、バレた⁉
ばっとエマからはなれる。
どうする? この子もエスパーだし、正直に話すか?
それとも、正体を隠す?
その方が危険性が少ないが……。
何も言えないでいるおれを見て、
エマは「や~、やっと見つけた!
ウチだけじゃなかったんね~」と、
いつもと違う口調で笑った。
「エマ! なにしてるの!」
「あ、金田さん。なんでもないで~す!
ちょっとファンサをね☆
ねえ、そっちのキミは? なんて名前?」
「あ、マナトです」
「マナトくん! カッコイイね~。
うちの事務所入らない?」
話し続けるエマに、金田さんと呼ばれた女の人は、
「もう、いいかげんにしなさい」とエマの手をひいて歩きだした。
「エマ単独のインタビューも撮るんですって!
こっち来なさい!」
「は~い! じゃあ、『また』ね、リキくん!
あと、マナトくんも!」
笑顔で手を振りながら、エマは去っていった。
今は、ブルーシートのしかれた体育館にタイムカプセルを運びこんで、
開封作業の真っ最中だ。
タイムカプセルは、がちがちにガムテープで封をされた、
衣装ケースくらいのプラスチックの箱だった。
劣化しているみたいで、中には雨水が少したまっている。
そのガムテープにハサミを入れて、箱をあける。
すると、中からビニールとガムテープでぐるぐる巻きにされた、
ちょっと小さな箱が出てきた。
その後、また同じようにされた小さな箱、と続いていき……。
とうとう金属でできた、大きめのお菓子の缶が出てきた。
これは、全然劣化していない。
キレイで、中身も無事なようだ。
それを開けると……、わあっと歓声が上がった。
中にあったのは、タイムカプセルを発掘した四十歳の自分に宛てた手紙と、
文集のようだ。
ま、これは、おれの念写でもわかってたことなんだけどな。
リーダーおじさんによって、手紙の宛名の名前が読み上げられる。
手紙はどんどん持ち主にかえっていった。
「わ~、なつかしい!」
「こんなこと、書いてたっけ?」
「あはは、バカ~。
超金持ちと結婚しましたか? だって」
そこかしこで、楽しそうな声が上がる。
「阿部ミサさ~ん!」
「あっ、はい!」
旧姓が呼ばれ、
母さんは緊張とうれしさがないまぜになった表情で手紙をうけとった。
まるで乙女がラブレターを抱きしめるように、
大切にもってこちらにやってくる。
「きゃ~、ちょっと待って!
ヘンなこと書いてなかったら、
みんなにも見せてあげるから!」
母さんは、手紙の封をあけると、ざっと手紙に目を通した。
「あら?」
「どうしたんだ?」
「わたしったら、おもしろいこと書いてるわ~」
母さんはうふふ、と笑いながら、手紙の一部分を指さした。
「おれも見ていいですか?」
「もちろん! はい、どうぞ」
手紙をわたされ、おれとマナトで顔をつきあわせてそれを読む。
――サトシさんと結婚するのは絶対でしょー。
だから、次に予想するのは、ふたりの間の子どもについてね。
うーん、どんな子か想像もつかないなぁ。
よし、ズバリ予言しちゃおう。
その子はね、エスパーなの!
……なーんてね。
ちょうど今、サトシさんの撮ってる映画部の映画が、エスパーものなの。
すっごくおもしろいのよ~。
エスパーの毎日って、たいへんだけど、楽しそうよね。
だから、わたしもエスパーを産んでみせる!――
思わず吹き出しそうになった。
母さんって、予知能力者⁉
それとも、有言実行のカタマリなのか⁉
「え、えーと、エスパーですか。夢があっていいですね」と、
マナトが動揺を隠しつつコメントする。
「でしょ!
……でも、その次が一番大事なのよ。
よく読んでね」
母さんの優しいまなざし。
その次……? と、おれたちは再び手紙に目をうつした。
――まあ、エスパーでも、そうじゃなくても、
まったく関係ないんだけどね。
わたしとサトシさんの子なんだもの!
愛して、愛して、世界で一番幸せにしてあげる!
その子もこの手紙を読んでるかな?
お母さん、あなたのこと(あなたたちかも?)、
とっても愛してるわ!――
「エスパーでも、そうじゃなくても、まったく関係ない」……。
「世界で一番幸せにしてあげる」、「愛してる」……。
母さんのストレートな言葉に、
なんだか目頭が熱くなってきた。
やべ、泣きそうかも。
実際、おれって幸せ者だよな……。
エスパーなのに、平穏な生活送れてるし。
「……ミサさん、カッコイイ。
ステキなお母さんですね」
マナトが感心したようにつぶやいた。
「あら、ありがとう。
でも、マナトくんもカッコイイわよ」
「……おれも?」
「だって、人によっては、
『愛してる、だなんてカッコつけすぎ~』とか、
『キモイ』みたいな反応してもおかしくないでしょ?
愛情を素直に受けとめるのが恥ずかしいのね。
でも、マナトくんは言葉の重みをしっかりうけとめてくれた。
そんな子が、リキくんの友だちで、お母さんうれしいわ」
ぶわわっとマナトの顔が赤くなる。
わー、トマトみてぇ。
「これからも、リキくんをよろしくね」、
「は、はい」と、なんだかおれにとって
ものすごく恥ずかしい会話を聞いていると、
スタッフのところにいた父さんがやってきた。
父さんが連れてきたのは、カメラマンとアナウンサー。
そして……、エマだ!
「失礼します。
エスパーガール、エマさんによるタイムカプセル捜索成功。
その感想を、ぜひ聞かせてください」
アナウンサーはおれにマイクをむける。
おお、カメラ回ってんの? 緊張するな。
でも、母さんの手紙にもらった、あったかくて幸せな思い。
それは自分の宝物にしたくて、おれは無難な回答をした。
「父さんと母さんの埋めた、
大切なタイムカプセルがみつかってよかったです。
エスパーなんて、最初は信じられなかったけど……。
今はただ、驚いています。
エマさん、本当にありがとうございました」
続いてマイクをむけられたマナトは
「エスパーが実際にものを探す現場に立ち会えて、感動しました。
本当に貴重な体験ができてうれしいです」と、
これまたあたりさわりのない回答をした。
それでも、アナウンサーは満足そうに、
「ありがとうございました~」と言って、カメラマンと去っていった。
って、あれ? エマは、ついていかないのか?
「ちょっと、お話していいかな?」
お話って……、おれに? エマが? なんだろ?
「ええっと、あなた、名前は?」
「神通リキヤですけど……」
「カミドオリ、リキヤ……。
そう、リキくん、なのね。
ねえ、ちょっと、耳貸して」
思わず、ドキッとする。
だって、こんなかわいい子が、おれに耳打ち?
母さんはほほ笑ましいものを見るように、
父さんとマナトはニマニマしながら、おれの様子を見ている。
「ど、どうぞ?」
すぐ近くから、ふわっと甘い匂いが香る。
うう、落ち着かない。
エマは手で筒をつくって、おれにひっそりと話しかけた。
「リキくんて……、ううん。
リキくんも、『エスパー』だったりする?」
「⁉」
予想外の言葉に、心臓がとまりそうになる。
おれが、エスパー⁉ いつ、バレた⁉
ばっとエマからはなれる。
どうする? この子もエスパーだし、正直に話すか?
それとも、正体を隠す?
その方が危険性が少ないが……。
何も言えないでいるおれを見て、
エマは「や~、やっと見つけた!
ウチだけじゃなかったんね~」と、
いつもと違う口調で笑った。
「エマ! なにしてるの!」
「あ、金田さん。なんでもないで~す!
ちょっとファンサをね☆
ねえ、そっちのキミは? なんて名前?」
「あ、マナトです」
「マナトくん! カッコイイね~。
うちの事務所入らない?」
話し続けるエマに、金田さんと呼ばれた女の人は、
「もう、いいかげんにしなさい」とエマの手をひいて歩きだした。
「エマ単独のインタビューも撮るんですって!
こっち来なさい!」
「は~い! じゃあ、『また』ね、リキくん!
あと、マナトくんも!」
笑顔で手を振りながら、エマは去っていった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
小悪魔ノート
ことは
児童書・童話
「わたしのノートを見つけてほしいの。願いを叶える、本物の、小悪魔ノート❤︎」
小学5年生の颯太の部屋に現れたのは、背中にコウモリの翼のような羽と、頭にツノが生えた小さな可愛い女の子。小悪魔のライアだった。
ライアが探しているのは、人間と小悪魔が契約を結ぶための小悪魔ノート。それが颯太の担任が配ったノートの中に、紛れ込んでしまったというのだ。
正式な契約を結んでいないノートは危険だという。
颯太とライアは、クラスメイトに配られたノートの中から、本物の小悪魔ノートを探し出せるのか!?
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる