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10.言うべきか、言わざるべきか

10-1

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 結論から言うと、タイムカプセルはアッサリ見つかった。 
 今は、ブルーシートのしかれた体育館にタイムカプセルを運びこんで、
 開封作業の真っ最中だ。
 タイムカプセルは、がちがちにガムテープで封をされた、
 衣装ケースくらいのプラスチックの箱だった。
 劣化しているみたいで、中には雨水が少したまっている。
 そのガムテープにハサミを入れて、箱をあける。
 すると、中からビニールとガムテープでぐるぐる巻きにされた、
 ちょっと小さな箱が出てきた。
 その後、また同じようにされた小さな箱、と続いていき……。
 とうとう金属でできた、大きめのお菓子の缶が出てきた。
 これは、全然劣化していない。
 キレイで、中身も無事なようだ。
 それを開けると……、わあっと歓声が上がった。
 中にあったのは、タイムカプセルを発掘した四十歳の自分に宛てた手紙と、
 文集のようだ。
 ま、これは、おれの念写でもわかってたことなんだけどな。
 リーダーおじさんによって、手紙の宛名の名前が読み上げられる。
 手紙はどんどん持ち主にかえっていった。

「わ~、なつかしい!」

「こんなこと、書いてたっけ?」

「あはは、バカ~。
超金持ちと結婚しましたか? だって」

 そこかしこで、楽しそうな声が上がる。

「阿部ミサさ~ん!」

「あっ、はい!」

 旧姓が呼ばれ、
 母さんは緊張とうれしさがないまぜになった表情で手紙をうけとった。
 まるで乙女がラブレターを抱きしめるように、
 大切にもってこちらにやってくる。

「きゃ~、ちょっと待って! 
ヘンなこと書いてなかったら、
みんなにも見せてあげるから!」

 母さんは、手紙の封をあけると、ざっと手紙に目を通した。

「あら?」

「どうしたんだ?」

「わたしったら、おもしろいこと書いてるわ~」

 母さんはうふふ、と笑いながら、手紙の一部分を指さした。

「おれも見ていいですか?」

「もちろん! はい、どうぞ」

 手紙をわたされ、おれとマナトで顔をつきあわせてそれを読む。

――サトシさんと結婚するのは絶対でしょー。
だから、次に予想するのは、ふたりの間の子どもについてね。
うーん、どんな子か想像もつかないなぁ。
よし、ズバリ予言しちゃおう。
その子はね、エスパーなの! 
……なーんてね。
ちょうど今、サトシさんの撮ってる映画部の映画が、エスパーものなの。
すっごくおもしろいのよ~。
エスパーの毎日って、たいへんだけど、楽しそうよね。
だから、わたしもエスパーを産んでみせる!―― 

 思わず吹き出しそうになった。
 母さんって、予知能力者⁉   
 それとも、有言実行のカタマリなのか⁉

 「え、えーと、エスパーですか。夢があっていいですね」と、
 マナトが動揺を隠しつつコメントする。

「でしょ! 
……でも、その次が一番大事なのよ。
よく読んでね」

 母さんの優しいまなざし。
 その次……? と、おれたちは再び手紙に目をうつした。

――まあ、エスパーでも、そうじゃなくても、 
まったく関係ないんだけどね。
わたしとサトシさんの子なんだもの! 
愛して、愛して、世界で一番幸せにしてあげる! 
その子もこの手紙を読んでるかな? 
お母さん、あなたのこと(あなたたちかも?)、
とっても愛してるわ!――

  「エスパーでも、そうじゃなくても、まったく関係ない」……。
 「世界で一番幸せにしてあげる」、「愛してる」……。
 母さんのストレートな言葉に、
 なんだか目頭が熱くなってきた。 
 やべ、泣きそうかも。
 実際、おれって幸せ者だよな……。
 エスパーなのに、平穏な生活送れてるし。

「……ミサさん、カッコイイ。
ステキなお母さんですね」

 マナトが感心したようにつぶやいた。

「あら、ありがとう。
でも、マナトくんもカッコイイわよ」

「……おれも?」

「だって、人によっては、
『愛してる、だなんてカッコつけすぎ~』とか、
『キモイ』みたいな反応してもおかしくないでしょ? 
愛情を素直に受けとめるのが恥ずかしいのね。
でも、マナトくんは言葉の重みをしっかりうけとめてくれた。
そんな子が、リキくんの友だちで、お母さんうれしいわ」

 ぶわわっとマナトの顔が赤くなる。
 わー、トマトみてぇ。
 「これからも、リキくんをよろしくね」、
 「は、はい」と、なんだかおれにとって
 ものすごく恥ずかしい会話を聞いていると、
 スタッフのところにいた父さんがやってきた。
 父さんが連れてきたのは、カメラマンとアナウンサー。
 そして……、エマだ!

「失礼します。
エスパーガール、エマさんによるタイムカプセル捜索成功。
その感想を、ぜひ聞かせてください」

 アナウンサーはおれにマイクをむける。
 おお、カメラ回ってんの? 緊張するな。
 でも、母さんの手紙にもらった、あったかくて幸せな思い。
 それは自分の宝物にしたくて、おれは無難な回答をした。

「父さんと母さんの埋めた、
大切なタイムカプセルがみつかってよかったです。
エスパーなんて、最初は信じられなかったけど……。
今はただ、驚いています。
エマさん、本当にありがとうございました」

 続いてマイクをむけられたマナトは
 「エスパーが実際にものを探す現場に立ち会えて、感動しました。
 本当に貴重な体験ができてうれしいです」と、
 これまたあたりさわりのない回答をした。
 それでも、アナウンサーは満足そうに、
 「ありがとうございました~」と言って、カメラマンと去っていった。
 って、あれ? エマは、ついていかないのか?

「ちょっと、お話していいかな?」

 お話って……、おれに? エマが? なんだろ?

「ええっと、あなた、名前は?」

「神通リキヤですけど……」

「カミドオリ、リキヤ……。
そう、リキくん、なのね。
ねえ、ちょっと、耳貸して」

 思わず、ドキッとする。
 だって、こんなかわいい子が、おれに耳打ち?
 母さんはほほ笑ましいものを見るように、
 父さんとマナトはニマニマしながら、おれの様子を見ている。

「ど、どうぞ?」 

 すぐ近くから、ふわっと甘い匂いが香る。
 うう、落ち着かない。
 エマは手で筒をつくって、おれにひっそりと話しかけた。 

「リキくんて……、ううん。
リキくんも、『エスパー』だったりする?」

「⁉」

 予想外の言葉に、心臓がとまりそうになる。
 おれが、エスパー⁉ いつ、バレた⁉
 ばっとエマからはなれる。
 どうする? この子もエスパーだし、正直に話すか?
 それとも、正体を隠す? 
 その方が危険性が少ないが……。
 何も言えないでいるおれを見て、
 エマは「や~、やっと見つけた! 
 ウチだけじゃなかったんね~」と、
 いつもと違う口調で笑った。

「エマ! なにしてるの!」

「あ、金田さん。なんでもないで~す! 
ちょっとファンサをね☆ 
ねえ、そっちのキミは? なんて名前?」

「あ、マナトです」

「マナトくん! カッコイイね~。
うちの事務所入らない?」

 話し続けるエマに、金田さんと呼ばれた女の人は、 
 「もう、いいかげんにしなさい」とエマの手をひいて歩きだした。

「エマ単独のインタビューも撮るんですって! 
こっち来なさい!」

「は~い! じゃあ、『また』ね、リキくん! 
あと、マナトくんも!」

 笑顔で手を振りながら、エマは去っていった。
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