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5.生きた宝石

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★★★


 その日の夜。
 夕飯を食べた、午後七時。おれはこっそりと瞬間移動で部屋を抜け出した。
 ウチ、門限夕方六時なんだよな。
おれとしてはもうちょいのばしてほしいんだけど、
父さんと母さんいわく、「危ないからダメ」だそうだ。
いや、おれ、エスパーなんだけど?
母さんは普通に「リキくんに何かあったらたいへん!」って考え。
父さんは、「リキヤが不審者相手に何かしたらたいへん!」って考えだった。
 うん、父さんが圧倒的に正しいな。
 移動してついたのは、学校の上。
 そう、空中です。
 防犯カメラとかに映ると面倒だからな。

「おーい、待ったか?」

 マナトは、ホウキにのってやってきた。
 ノワールもいっしょだ。

「うぃーす。
今来たとこだ」

「お、よかった。
じゃあ、ドラゴン見学ツアー、するか」

 マナトはにかっと笑った。「ドラゴン」という言葉に、
 おれのテンションがどんどん上がっていく。
 でも、それを悟られるのはなんだか恥ずかしくて、「おう」とだけ返した。
 マナトはそれを聞いて、今度はチェシャ猫みたいに、にま~っと笑った。

「オマエ、そうとう楽しみにしてるだろ?」

 くそう、お見通しってワケか。

「……ああ! そうだよ! 悪いか! 
生で幻獣を見れるなんて、わくわくすんに決まってんだろ!」

 やけくそで言うと、
マナトは「ごめんごめん、ちょっとからかっただけだって」
と手を合わせて謝った。
両手をはなしてもホウキから落ちないのはさすがだ。

「さて、魔法界と人間界の話はしたよな? 
で、この絵空市には、ゲートがあきやすいって話も」

 マナトの問いに、こくりとうなずく。

「そのゲートから、最近ジュエルドラゴンが人間界に来たって話を父さんがしててさ。
しかも、なぜかずっとおれらの学校の周りにいるらしいんだ」

「ジュエルドラゴン?」

「ああ。『生きた宝石』って言われるほど、
めちゃくちゃきれーなドラゴンなんだ」

 「生きた宝石」かぁ。
 く~っ、どんなドラゴンなんだ⁉
 そこで、ふと思う。

「そのジュエルドラゴンだっけ? 
ソイツはこっちに来て、おれたち人間に見つかったりしないのか?」

「ああ、そこらへんは大丈夫。
いったん魔法界の幻獣が人間界に出たら、
人間が見えるようになるまでしばらく時間がかかるんだよ。
幻獣は生き物というより、精霊に近いから。
いわゆる、グーラの法則な。
だから、その幻獣が人間界の物体に影響をおよぼすまでにも、
しばらく時間がかかって……」

マナトは、
「人間界での幻獣物体化は~」とか、
「精霊学によると認識の重要性が~」とか、難しい話をしだ。
 やっぱ飛び級してるだけあって、頭がいいんだろうな。
 でも、おれには魔法界の法則なんて、サッパリだ。
 早くドラゴンが見たい。

「ストップ、ストップ! 
とりあえず、今は見えなくなってるってことでOK?」

「あ、ごめん。それでいい。だから、ほい」

 マナトからわたされたのは、メガネ。そういえば、マナトはメガネ姿だ。 

「これをかければいいのか?」

 おれはワクワクしつつ、かけてみた。
 瞬間。

「くおおおぉぉぉ!」

 と、獣のような巨大なおたけび。耳がキーンとする。
なんだ⁉ と思って、声のした方を向くと……。
そこにいたのは、トカゲの体に、コウモリのような翼をもち、
額には角のある生き物……、
まさしく、想像していたドラゴンが空をとんでいた。
いや、想像通りじゃないな……。
想像より、ずっと、ずっとキレイだ。
体は細身で、しなやか。
でもめちゃくちゃ大きい。
ゾウを二頭並べたくらいか?
ウロコの一枚一枚が、角度によって、虹のように様々な色合いに変化していく。
サファイアのように青くなったと思ったら、ルビーのように真っ赤にもなる。
 二本の角は、ダイアモンドのように透き通って、ギラギラと輝いていた。
 まさに、「生きた宝石」の名前がふさわしい。

「すげえ……」

 ため息まじりの声に、「だろ?」とマナト。

「おれさ、ずっと人間界のヤツにも、こういうの見せたかったんだ。
すげーだろ、おれの世界の生き物!」

 そう言ったマナトの瞳はきらきらと輝いていた。
 そっか。
 ドラゴンがいる、なんてヒミツ、他のやつには言えないもんな。

「ああ、めちゃくちゃすげーよ! 
ありがとな、見せてくれて!」

そう言うと、マナトは誇らしげ胸をドンドンッとたたいたあと、
びしっとグーサインをした。
ははっ、カッコつけめ!

「もっと近くに行ってみよう」

「ええ⁉ 大丈夫なのかよ」

「大丈夫だって。
ジュエルドラゴンはおとなしいから」

 マナトはホウキをあやつり、どんどんジュエルドラゴンに近づいていく。
 おれも、おそるおそるあとに続いた。

「くおおおぉぉぉん!」

うお、また鳴いた! マジで大丈夫か⁉
 てか、この声も、メガネをしてない限り人間界のやつらには聞こえないんだな。
 魔法って、やっぱすげえ。
 とうとうマナトは、ジュエルドラゴンの顔のすぐそばに並んだ。
 そのまま、顔をなでてやっている。
 すると、「きゅるるるっ!」とジュエルドラゴンが目を閉じ、
 うれしそうな声を出した。
 おお、なんかかわいいな……。

「ほれ、リキもやってみ?」

「お、おう……」

 おれは緊張しながら、ジュエルドラゴンに近づいた。

「よ、よろしく」

 そのまま、そっと顔のほほのあたりをなでてやる。
 思ったよりも表面はすべすべしていて、ちょっとひやっとしていた。

「きゅるるるんっ!」

 ……! ははは、すげえ! おれ、ドラゴン触っちまった!
 思わず、ぎゅーんっと急上昇して、空中で宙返りをする。

「あー、もう、サイコー!」

 おれの叫びは、空にとけていった。
 それからしばし、おれとマナト、そしてジュエルドラゴンは、
 夜空の散歩を楽しんだ。
 きらきらと輝く星に、遠い下に見える、街の灯りたち。
 おれはきっと、この空中散歩を一生忘れないだろう。
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