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『特異点』編
最後の特訓
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a.m.0:40
「フーッ……フーッ」
セリカは怒りに狂っていた。目の前で一番の親友が殺されたからである。
セリカは憎んでいた。親友を殺すだけじゃなく、一番大事な人までも殺そうとするその態度が憎かった。
そして今、その怒りと憎しみがそのまま反映された姿になっている。
「ガアッ!」
「-----!」
セリカが左の2本の尻尾で黒騎士を叩きつける。だが黒騎士はその黒い剣で攻撃を受け止める。セリカは中くらいの距離を保ちながら、次々と4本の尻尾でラッシュを仕掛ける。
黒騎士はそのラッシュを耐え続けるが、長くはもたずに剣を弾かれ、黒騎士の体を真っ二つに斬られ、灰となって消滅した。そして無防備となったケリーを攻撃しようと1本の尻尾で攻撃しようとするが--
「シールド」
ケリーは自分の身を包むようにバリアを貼って、尻尾での攻撃を防ぐ。
「フフフ、いいパワーとスピードだ。やはりお前の能力は面白い」
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」
セリカは尻尾で次々とラッシュを仕掛けるが、そのバリアを突破することはできなかった。
「そうかそうか。それほど私が憎いか!それほど私を殺したいか!当然だろうな!私はお前の大事な物を奪っているのだからな!」
セリカの連撃はさらにそのペースを増す。
「私はもっとお前が苦しむのを見たい、お前が悲しむのを見たい、お前が絶望するのを見たい、お前が不幸になるところをもっと見たい!だから、さっさと私の所に戻ってこい!お前の目の前で、お前の恋人を殺してやる!そして絶望しろ!」
フハハハハハハ!!とゲスな顔で高笑いをして、セリカを煽る。
「ガアアアアアアアアアア!!」
セリカはさらに怒りを増し、ラッシュを止めて自らケリーに接近する。
「発現……《ファントム・ナイト》」
ケリーの周りから8本の黒い鎖が飛び出し、セリカの両手、両足、4本の長い尻尾をガッチリ拘束する。
「!?」
「おかえり、セリカ」
セリカはその鎖を解こうと必死に足掻いた。
「無駄だよ。それは私の《ファントム》の力で作られている鎖だ。いくら強くなったお前でも、ファントムの鎖を解くことは不可能だよ」
「ウガアッ!ガアッ!」
それでもセリカは必死に足掻く。すると地面から黒い影が現れ、その中からセリカの目の前に黒騎士が出てくる。
「コロシテヤル!コロシテヤル!コロシテヤル!コロシテ--
「おやすみだ、セリカ」
そうして黒騎士はセリカの頭を掴み、念波を流した。
ドグン!
「ガッ……あっ……」
--あぁ……意識が遠くなる……
--しくじっちゃったかぁ……私……
--ゴメンね、和斗君……
--最後まで守れなくて……ゴメンね……
--ゴメンね--
セリカは力尽きて意識を失った。
-----
1週間後
a.m.11:30
「で、ここがこうあるからこうで--」
(本当に2人とも大丈夫かしら……)
舞は学校で授業を受けていた。チラリと左斜め後ろの方を見ると、2つの空席があった。それは和斗とセリカの席だった。
セリカはあの件以来、姿を見せることはなかった。そして和斗は……
--同時刻、藤村宅、道場
「ぐあっ!」
ドサッ!と思いっきり倒れる。
「ほら、まだまだ行けるはずだ!立て!」
「くっ……」
この俺、黒田和斗は何をしているのかと言うと、現在俺は学校に行かずに舞の父親、暁のおっちゃんの所で猛特訓をしている。
暁のおっちゃんに頼んで、弟子にしてくれとは言ったがその返答はまさか学校を1週間休めと言われたのだ。既に学校には季節外れのインフルエンザと伝えてあるらしい。現在の俺はこんなにもピンピンしてるのに。おっちゃんに理由を聞くと
「お前には1週間後までには能力を使いこなせるようになっておかなくちゃいけない理由があるから」と言うことらしい。
1週間後に何かあるのか?と聞くと、今はまだ言えないと返されてしまった。
そしてなんやかんやで俺は1週間学校を休み、おっちゃんと特訓していた。そして今日で1週間が経つ。
「さぁ、竹刀を構えろ!もう一戦だ!」
「はいっ!」
俺は竹刀を再び構え、試合を再開する。
-----
p.m.17:55
「さぁ、最後の特訓だ。能力を使って、俺に一撃を浴びせられたら特訓は終わりだ」
「はい」
俺は精神を集中させる。自分の能力を強くイメージをして、体の魔力回路が開くのを感じた。
「発現……《InFinite》」
ドオッ!
「ほぅ……」
特訓を重ね、最初の頃にこれを発動した瞬間、頭の中でこの能力が理解できるようになり、使い方までもが勝手にわかってしまった。
《InFinite》
自分が今まで見た能力を自分も使えるようにするという能力。簡単に言えばコピーだ。ただ魔力消費が激しいため、3分近くが限界だが、その3分間の間は色んな能力を使いたい放題できるということになる。
「最初に比べればなかなかいい感じになってきてるじゃないか。今日こそは一本取れるといいな」
「へっ、最後こそ1発当ててみせんよ」
そうして俺は記憶の中から他のやつが使っていた能力をイメージする。
「《beast》!」
全身の魔力回路のリミッターを外して、紫のオーラに包まれる。
「今日はそれでいくのか。それじゃあ本物の力を見せつけてやんよ」
そう言っておっちゃんは構える。
「発現……《ビースト》」
ドオッ!
おっちゃんの身体が赤いオーラに包まれて、眼は緑色になり、獲物を狙う鋭い眼をしていた。凄い……この気配は舞以上だ。
「さぁ、かかってこい!」
「いくぜ……」
そして姿が消えたと思ったら一瞬の間でお互い拳を合わせていた。その驚異のスピードでラッシュをかける。俺の攻撃は全ておっちゃんに防がれてしまうがそれでも連撃のペースを落とさず攻撃し続ける。
反撃されようとするが、それを掠めるように避けてカウンターを狙うが紙一重のところで避けられてしまう。
「《ビースト》状態での攻撃をここまで避けるとはな。流石和坊だな!」
「そりゃどうもっ!」
そう言って蹴りを入れようとすると、ガシッと掴まれてしまう。
「げっ!」
おっちゃんは俺の腹に拳を入れようとする。
「《death・hand》!」
俺は咄嗟に今発動している能力を解除し、ジギルが使っていた黒い手の能力を発動して、おっちゃんの拳をギリギリで掴み防いだ。そして残り5本の手で攻撃しようとする。
「ほぅ!だが甘い!」
おっちゃんは掴んでいた足を使って思いっきり俺ごと投げた。投げられた俺は6本の手でうまく着地した。
着地した瞬間、ズキッと頭に痛みが走る。
(やばい、そろそろ切れる……)
能力のタイムリミットが迫っていた。次で決めないと能力が解除されるかもしれない。
「《beast》!」
俺は再びオーラを纏う。そして全力のラッシュでおっちゃんに攻撃する。
「うおおおおお!」
「フッ……3分。時間切れだ」
ズキッ!
3分が経過し、力が失われていく。そしてふらついた俺に拳が迫ってきた。
まだだ!まだ……終わらせない!
「能力……延長……!」
ゴオッ!
「何っ!?」
俺は再び力を取り戻し、オーラを纏った。
「もらったぁぁあ!」
「しまっ---
ドゴッ!
俺は隙を見せたおっちゃんの腹に拳を入れた。
「ぐはっ!!」
そしてその巨体を2mくらい吹っ飛ばした。
「ぜえ……ぜえ……」
「いやぁ~、1本取られたなぁ~」
おっちゃんはヌッと立ち上がって、笑顔でそう言った。
「合格だ。今までお疲れさん、和坊」
「へへへ……やった……ぜ……」
バタッと俺は仰向けに倒れてしまう。
「がははは!でも無理しすぎたな。待ってろ、今呼んでくる」
そう言って、おっちゃんはボロボロとなった道場を出た。
(ははっ……体が全然動かねぇ……無理しすぎたな……でも、やり遂げたぜ……)
俺は天井を見つめながら、何とも言えない達成感に浸っていた。
-----
「はい、治療終わったよ。お疲れ様、和くん♪」
「ありがとう、瑞希さん」
エプロン姿の綺麗な長い茶髪を下ろしている30代前半くらいの女性、藤村 瑞希。彼女が唯一、治癒能力を使える異能者で暁のおっちゃんの妻であり、俺と楓の義理の母でもある。
「もおっ。前みたいにママって呼んでもいいのよ?」
「いや、流石にそれはちょっと……」
流石に高校生にもなってママはないわ。
「それにしても和くん、本当に立派になったわね。筋肉もいい感じについて、あんなに可愛いかった和くんがこんなにも男らしい姿になっちゃって……お母さん惚れちゃいそう♪」
「あははは……ありがとう」
笑顔で瑞希さんは俺を褒めてくれた。俺は苦笑いしながらもお礼を言う。
「な~に誘惑してんのよお母さんは……」
「あら舞ちゃん。おかえりなさい♪」
いつの間にか舞が帰ってきたみたいだ。俺もおかえりと舞に言う。舞もただいまと返してくれた。
「じゃあ私は料理の方に戻るわね?」
瑞希さんは夕食作りの途中だったので台所へ向かおうとする。
「あっ、俺も手伝いますよ」
「あら、それは嬉しいけど特訓で疲れたでしょう?美味しい物いっぱい作ってるから楽しみに待ってなさい♪」
そう言って瑞希さんはウィンクをして、台所に戻った。
そういえば何年前かによく瑞希さんの料理している所を見てたり、瑞希さんに料理を基礎から色々と教えて貰ったりしてたなぁと思い返す。
戦闘面での師匠は暁のおっちゃんで、家事や料理面での師匠は瑞希さんということになる。今度何か恩返ししないとな思いながら、いつも暁組の皆と食べていた和室へと向かう。
襖を開けるとそこはとても広い和室だ。長方形のテーブルがいくつか繋がっていて、上には皿が人数分置いてある。
「……あれ?」
「どうしたの和斗?」
皿を運んでいた舞に声をかけられる。
「いやさ、人数が多いのはいつものことだけど……何か多すぎね?」
「そう?」
「うん。なんか5人分多い気が……」
「あぁ、今日お客さん来るみたいなのよ」
お客?そんな話聞いてないぞ。
「こういうのは珍しいわ。きっと大事なお客様なのね」
そう言って舞はテーブルメイクの続きをする。俺もそれを手伝った。
p.m.19:30
暁組の皆も席につき、俺が夕飯を作れないため、楓も呼んで一緒に夕飯を済ますことにした。
ピンポーン
するとインターホンが鳴る。例のお客様が来たみたいだ。しばらくすると瑞希さんが来て、例のお客様達が来たと暁のおっちゃんに報告する。そしてお客達を招き入れたが
その黒いスーツを着たお客達の正体に俺と舞は言葉を失った。
「うわぁ~!凄いっすね!ご馳走がいっぱい!」
「あんま騒ぐんじゃねぇよ」
「まぁまぁいいじゃないデスか~。っておやおや?」
「………」
そう。嫌というほど顔を覚えているのが3人、短髪の黒コートの男に、深緑の短髪で眼鏡をかけた男、そしておかっぱ頭で少し脳のネジがはずれてる男。
「お前ら……」
「あらあら!誰かと思えばこの前の人達じゃないデスか!」
「ちっ……」
「『天災の掟』!?」
えええええええええ!?
暁組の組員全員が驚いて思わず声が出る。
するとその4人の背後からさらに大男がヌッと出てくる。
「おぉ!来たか!」
「フッ……その侍らしい格好とそのまげ……お前も相変わらずだな」
「いいセンスだろ!」
「ただ髪が長いから結んでいるだけじゃないか」
「がははは!」
そうして暁のおっちゃんとその大男は拳をトンと合わせた。
「久しいな!バゼル!」
「お前もな、暁……」
今この場に居る2人以外の全員がポカンと口を開ける。
「あの、組長はこのお方とお知り合いで?」
暁組の1人が恐る恐る尋ねる。
「おうよ!バゼルとは旧友の仲だぞ!」
えええええええええええ!?
さらに驚きの声を上げてしまった。
-----
一旦落ち着くと天災の掟の人達は席に着き、大男が自己紹介を始めた。
「自己紹介をしよう。私はバゼル。『スローネ』と呼ばれるマフィアのボスだ。今は『天災の掟』と呼ばれているらしいがな……」
驚いた。まさか天災の掟のボスが直々に来るとは思っていなかった。190はあるかもしれないその身長。ちょっと長めの銀髪に、少し目つきが悪くて、ガタイもいい。ボスと納得せざるを得ない。
「まず私達がメインの話をする前に言っておきたい事がある」
そう言ってバゼルさんは俺の方を向いた。
「黒田和斗。君にしてきた事は決して許されるものではないが……今まですまなかった……」
そして謝罪をして俺に頭を下げた。
「……えっと……」
「君が『特異点』である以上、君の事を監視し、命を殺ようとしてしまった……」
「なっ!?貴方、兄さんを殺そうと!?」
楓がバゼルさんに問いかける。俺は落ち着けと一言言って、とりあえず楓を落ち着かせる。
「ああ……『特異点』が存在する以上、奴らに利用される前に殺しとかないといけなかったからな……」
「しかし別の『特異点』が現れて、奴らはそいつを捕らえたと……そういう事だな?」
「ああ。暁の言う通り、黒田和斗以外にも『特異点』が存在したらしく、そいつを捕らえて黒田和斗を捕獲対象から外したそうだ」
「その奴らって一体……」
俺は恐る恐る問いかけた。
「ああ……『正義の盾』だ」
「……は?」
思わず声が出る。なんだって……『正義の盾』が、俺を殺す?
「ちょっとまってくれ……なんで正義の盾が俺を……そもそもあの組織は--
「あの組織は表は正義の味方だが、裏の顔は相当なテロリストの組織だぜ」
俺の言葉を短髪の男はそう重ねて言った。
「嘘だろ……?ならセリカは……」
「セリカ?あぁ、あの嬢ちゃんもそのテロリストの1員だったってことよ。残念だったな」
そんな……あのセリカが……テロリスト?
「ふざけるな!あんないい奴がテロリストなわけないだろ!」
「おいおい熱くなってんじゃねぇよガキが。あの嬢ちゃんがどれほどいい奴なのかは知らねぇが、現実はテロリスト集団の1人って事実は変わんねぇだろうが。見事に嵌められやがって」
「てめぇ……いい加減に--
「やめんか和坊!」
暁のおっちゃんが声を上げた。ピリピリと空気が震えた気がする。
「ハイド。お前も口が過ぎるぞ……」
「……ちっ」
対してバゼルさんはハイドを鋭い目つきで睨んで低く冷たい声で言った。ハイドは舌打ちをしてそっぽを向く。
「ゴホン……バゼルよ、本題から言った方がいいのでは?」
「それもそうだな……」
そしてバゼルさんは真面目な顔をして全員に声が行き渡る声でこう言った。
「私達が今日ここに来たのは、『天災の掟』と『暁組』である目的を達成させるためだ。その目的は、
『正義の盾』の殲滅だ」
『正義の盾』の……殲滅だと……?
「フーッ……フーッ」
セリカは怒りに狂っていた。目の前で一番の親友が殺されたからである。
セリカは憎んでいた。親友を殺すだけじゃなく、一番大事な人までも殺そうとするその態度が憎かった。
そして今、その怒りと憎しみがそのまま反映された姿になっている。
「ガアッ!」
「-----!」
セリカが左の2本の尻尾で黒騎士を叩きつける。だが黒騎士はその黒い剣で攻撃を受け止める。セリカは中くらいの距離を保ちながら、次々と4本の尻尾でラッシュを仕掛ける。
黒騎士はそのラッシュを耐え続けるが、長くはもたずに剣を弾かれ、黒騎士の体を真っ二つに斬られ、灰となって消滅した。そして無防備となったケリーを攻撃しようと1本の尻尾で攻撃しようとするが--
「シールド」
ケリーは自分の身を包むようにバリアを貼って、尻尾での攻撃を防ぐ。
「フフフ、いいパワーとスピードだ。やはりお前の能力は面白い」
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」
セリカは尻尾で次々とラッシュを仕掛けるが、そのバリアを突破することはできなかった。
「そうかそうか。それほど私が憎いか!それほど私を殺したいか!当然だろうな!私はお前の大事な物を奪っているのだからな!」
セリカの連撃はさらにそのペースを増す。
「私はもっとお前が苦しむのを見たい、お前が悲しむのを見たい、お前が絶望するのを見たい、お前が不幸になるところをもっと見たい!だから、さっさと私の所に戻ってこい!お前の目の前で、お前の恋人を殺してやる!そして絶望しろ!」
フハハハハハハ!!とゲスな顔で高笑いをして、セリカを煽る。
「ガアアアアアアアアアア!!」
セリカはさらに怒りを増し、ラッシュを止めて自らケリーに接近する。
「発現……《ファントム・ナイト》」
ケリーの周りから8本の黒い鎖が飛び出し、セリカの両手、両足、4本の長い尻尾をガッチリ拘束する。
「!?」
「おかえり、セリカ」
セリカはその鎖を解こうと必死に足掻いた。
「無駄だよ。それは私の《ファントム》の力で作られている鎖だ。いくら強くなったお前でも、ファントムの鎖を解くことは不可能だよ」
「ウガアッ!ガアッ!」
それでもセリカは必死に足掻く。すると地面から黒い影が現れ、その中からセリカの目の前に黒騎士が出てくる。
「コロシテヤル!コロシテヤル!コロシテヤル!コロシテ--
「おやすみだ、セリカ」
そうして黒騎士はセリカの頭を掴み、念波を流した。
ドグン!
「ガッ……あっ……」
--あぁ……意識が遠くなる……
--しくじっちゃったかぁ……私……
--ゴメンね、和斗君……
--最後まで守れなくて……ゴメンね……
--ゴメンね--
セリカは力尽きて意識を失った。
-----
1週間後
a.m.11:30
「で、ここがこうあるからこうで--」
(本当に2人とも大丈夫かしら……)
舞は学校で授業を受けていた。チラリと左斜め後ろの方を見ると、2つの空席があった。それは和斗とセリカの席だった。
セリカはあの件以来、姿を見せることはなかった。そして和斗は……
--同時刻、藤村宅、道場
「ぐあっ!」
ドサッ!と思いっきり倒れる。
「ほら、まだまだ行けるはずだ!立て!」
「くっ……」
この俺、黒田和斗は何をしているのかと言うと、現在俺は学校に行かずに舞の父親、暁のおっちゃんの所で猛特訓をしている。
暁のおっちゃんに頼んで、弟子にしてくれとは言ったがその返答はまさか学校を1週間休めと言われたのだ。既に学校には季節外れのインフルエンザと伝えてあるらしい。現在の俺はこんなにもピンピンしてるのに。おっちゃんに理由を聞くと
「お前には1週間後までには能力を使いこなせるようになっておかなくちゃいけない理由があるから」と言うことらしい。
1週間後に何かあるのか?と聞くと、今はまだ言えないと返されてしまった。
そしてなんやかんやで俺は1週間学校を休み、おっちゃんと特訓していた。そして今日で1週間が経つ。
「さぁ、竹刀を構えろ!もう一戦だ!」
「はいっ!」
俺は竹刀を再び構え、試合を再開する。
-----
p.m.17:55
「さぁ、最後の特訓だ。能力を使って、俺に一撃を浴びせられたら特訓は終わりだ」
「はい」
俺は精神を集中させる。自分の能力を強くイメージをして、体の魔力回路が開くのを感じた。
「発現……《InFinite》」
ドオッ!
「ほぅ……」
特訓を重ね、最初の頃にこれを発動した瞬間、頭の中でこの能力が理解できるようになり、使い方までもが勝手にわかってしまった。
《InFinite》
自分が今まで見た能力を自分も使えるようにするという能力。簡単に言えばコピーだ。ただ魔力消費が激しいため、3分近くが限界だが、その3分間の間は色んな能力を使いたい放題できるということになる。
「最初に比べればなかなかいい感じになってきてるじゃないか。今日こそは一本取れるといいな」
「へっ、最後こそ1発当ててみせんよ」
そうして俺は記憶の中から他のやつが使っていた能力をイメージする。
「《beast》!」
全身の魔力回路のリミッターを外して、紫のオーラに包まれる。
「今日はそれでいくのか。それじゃあ本物の力を見せつけてやんよ」
そう言っておっちゃんは構える。
「発現……《ビースト》」
ドオッ!
おっちゃんの身体が赤いオーラに包まれて、眼は緑色になり、獲物を狙う鋭い眼をしていた。凄い……この気配は舞以上だ。
「さぁ、かかってこい!」
「いくぜ……」
そして姿が消えたと思ったら一瞬の間でお互い拳を合わせていた。その驚異のスピードでラッシュをかける。俺の攻撃は全ておっちゃんに防がれてしまうがそれでも連撃のペースを落とさず攻撃し続ける。
反撃されようとするが、それを掠めるように避けてカウンターを狙うが紙一重のところで避けられてしまう。
「《ビースト》状態での攻撃をここまで避けるとはな。流石和坊だな!」
「そりゃどうもっ!」
そう言って蹴りを入れようとすると、ガシッと掴まれてしまう。
「げっ!」
おっちゃんは俺の腹に拳を入れようとする。
「《death・hand》!」
俺は咄嗟に今発動している能力を解除し、ジギルが使っていた黒い手の能力を発動して、おっちゃんの拳をギリギリで掴み防いだ。そして残り5本の手で攻撃しようとする。
「ほぅ!だが甘い!」
おっちゃんは掴んでいた足を使って思いっきり俺ごと投げた。投げられた俺は6本の手でうまく着地した。
着地した瞬間、ズキッと頭に痛みが走る。
(やばい、そろそろ切れる……)
能力のタイムリミットが迫っていた。次で決めないと能力が解除されるかもしれない。
「《beast》!」
俺は再びオーラを纏う。そして全力のラッシュでおっちゃんに攻撃する。
「うおおおおお!」
「フッ……3分。時間切れだ」
ズキッ!
3分が経過し、力が失われていく。そしてふらついた俺に拳が迫ってきた。
まだだ!まだ……終わらせない!
「能力……延長……!」
ゴオッ!
「何っ!?」
俺は再び力を取り戻し、オーラを纏った。
「もらったぁぁあ!」
「しまっ---
ドゴッ!
俺は隙を見せたおっちゃんの腹に拳を入れた。
「ぐはっ!!」
そしてその巨体を2mくらい吹っ飛ばした。
「ぜえ……ぜえ……」
「いやぁ~、1本取られたなぁ~」
おっちゃんはヌッと立ち上がって、笑顔でそう言った。
「合格だ。今までお疲れさん、和坊」
「へへへ……やった……ぜ……」
バタッと俺は仰向けに倒れてしまう。
「がははは!でも無理しすぎたな。待ってろ、今呼んでくる」
そう言って、おっちゃんはボロボロとなった道場を出た。
(ははっ……体が全然動かねぇ……無理しすぎたな……でも、やり遂げたぜ……)
俺は天井を見つめながら、何とも言えない達成感に浸っていた。
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「はい、治療終わったよ。お疲れ様、和くん♪」
「ありがとう、瑞希さん」
エプロン姿の綺麗な長い茶髪を下ろしている30代前半くらいの女性、藤村 瑞希。彼女が唯一、治癒能力を使える異能者で暁のおっちゃんの妻であり、俺と楓の義理の母でもある。
「もおっ。前みたいにママって呼んでもいいのよ?」
「いや、流石にそれはちょっと……」
流石に高校生にもなってママはないわ。
「それにしても和くん、本当に立派になったわね。筋肉もいい感じについて、あんなに可愛いかった和くんがこんなにも男らしい姿になっちゃって……お母さん惚れちゃいそう♪」
「あははは……ありがとう」
笑顔で瑞希さんは俺を褒めてくれた。俺は苦笑いしながらもお礼を言う。
「な~に誘惑してんのよお母さんは……」
「あら舞ちゃん。おかえりなさい♪」
いつの間にか舞が帰ってきたみたいだ。俺もおかえりと舞に言う。舞もただいまと返してくれた。
「じゃあ私は料理の方に戻るわね?」
瑞希さんは夕食作りの途中だったので台所へ向かおうとする。
「あっ、俺も手伝いますよ」
「あら、それは嬉しいけど特訓で疲れたでしょう?美味しい物いっぱい作ってるから楽しみに待ってなさい♪」
そう言って瑞希さんはウィンクをして、台所に戻った。
そういえば何年前かによく瑞希さんの料理している所を見てたり、瑞希さんに料理を基礎から色々と教えて貰ったりしてたなぁと思い返す。
戦闘面での師匠は暁のおっちゃんで、家事や料理面での師匠は瑞希さんということになる。今度何か恩返ししないとな思いながら、いつも暁組の皆と食べていた和室へと向かう。
襖を開けるとそこはとても広い和室だ。長方形のテーブルがいくつか繋がっていて、上には皿が人数分置いてある。
「……あれ?」
「どうしたの和斗?」
皿を運んでいた舞に声をかけられる。
「いやさ、人数が多いのはいつものことだけど……何か多すぎね?」
「そう?」
「うん。なんか5人分多い気が……」
「あぁ、今日お客さん来るみたいなのよ」
お客?そんな話聞いてないぞ。
「こういうのは珍しいわ。きっと大事なお客様なのね」
そう言って舞はテーブルメイクの続きをする。俺もそれを手伝った。
p.m.19:30
暁組の皆も席につき、俺が夕飯を作れないため、楓も呼んで一緒に夕飯を済ますことにした。
ピンポーン
するとインターホンが鳴る。例のお客様が来たみたいだ。しばらくすると瑞希さんが来て、例のお客様達が来たと暁のおっちゃんに報告する。そしてお客達を招き入れたが
その黒いスーツを着たお客達の正体に俺と舞は言葉を失った。
「うわぁ~!凄いっすね!ご馳走がいっぱい!」
「あんま騒ぐんじゃねぇよ」
「まぁまぁいいじゃないデスか~。っておやおや?」
「………」
そう。嫌というほど顔を覚えているのが3人、短髪の黒コートの男に、深緑の短髪で眼鏡をかけた男、そしておかっぱ頭で少し脳のネジがはずれてる男。
「お前ら……」
「あらあら!誰かと思えばこの前の人達じゃないデスか!」
「ちっ……」
「『天災の掟』!?」
えええええええええ!?
暁組の組員全員が驚いて思わず声が出る。
するとその4人の背後からさらに大男がヌッと出てくる。
「おぉ!来たか!」
「フッ……その侍らしい格好とそのまげ……お前も相変わらずだな」
「いいセンスだろ!」
「ただ髪が長いから結んでいるだけじゃないか」
「がははは!」
そうして暁のおっちゃんとその大男は拳をトンと合わせた。
「久しいな!バゼル!」
「お前もな、暁……」
今この場に居る2人以外の全員がポカンと口を開ける。
「あの、組長はこのお方とお知り合いで?」
暁組の1人が恐る恐る尋ねる。
「おうよ!バゼルとは旧友の仲だぞ!」
えええええええええええ!?
さらに驚きの声を上げてしまった。
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一旦落ち着くと天災の掟の人達は席に着き、大男が自己紹介を始めた。
「自己紹介をしよう。私はバゼル。『スローネ』と呼ばれるマフィアのボスだ。今は『天災の掟』と呼ばれているらしいがな……」
驚いた。まさか天災の掟のボスが直々に来るとは思っていなかった。190はあるかもしれないその身長。ちょっと長めの銀髪に、少し目つきが悪くて、ガタイもいい。ボスと納得せざるを得ない。
「まず私達がメインの話をする前に言っておきたい事がある」
そう言ってバゼルさんは俺の方を向いた。
「黒田和斗。君にしてきた事は決して許されるものではないが……今まですまなかった……」
そして謝罪をして俺に頭を下げた。
「……えっと……」
「君が『特異点』である以上、君の事を監視し、命を殺ようとしてしまった……」
「なっ!?貴方、兄さんを殺そうと!?」
楓がバゼルさんに問いかける。俺は落ち着けと一言言って、とりあえず楓を落ち着かせる。
「ああ……『特異点』が存在する以上、奴らに利用される前に殺しとかないといけなかったからな……」
「しかし別の『特異点』が現れて、奴らはそいつを捕らえたと……そういう事だな?」
「ああ。暁の言う通り、黒田和斗以外にも『特異点』が存在したらしく、そいつを捕らえて黒田和斗を捕獲対象から外したそうだ」
「その奴らって一体……」
俺は恐る恐る問いかけた。
「ああ……『正義の盾』だ」
「……は?」
思わず声が出る。なんだって……『正義の盾』が、俺を殺す?
「ちょっとまってくれ……なんで正義の盾が俺を……そもそもあの組織は--
「あの組織は表は正義の味方だが、裏の顔は相当なテロリストの組織だぜ」
俺の言葉を短髪の男はそう重ねて言った。
「嘘だろ……?ならセリカは……」
「セリカ?あぁ、あの嬢ちゃんもそのテロリストの1員だったってことよ。残念だったな」
そんな……あのセリカが……テロリスト?
「ふざけるな!あんないい奴がテロリストなわけないだろ!」
「おいおい熱くなってんじゃねぇよガキが。あの嬢ちゃんがどれほどいい奴なのかは知らねぇが、現実はテロリスト集団の1人って事実は変わんねぇだろうが。見事に嵌められやがって」
「てめぇ……いい加減に--
「やめんか和坊!」
暁のおっちゃんが声を上げた。ピリピリと空気が震えた気がする。
「ハイド。お前も口が過ぎるぞ……」
「……ちっ」
対してバゼルさんはハイドを鋭い目つきで睨んで低く冷たい声で言った。ハイドは舌打ちをしてそっぽを向く。
「ゴホン……バゼルよ、本題から言った方がいいのでは?」
「それもそうだな……」
そしてバゼルさんは真面目な顔をして全員に声が行き渡る声でこう言った。
「私達が今日ここに来たのは、『天災の掟』と『暁組』である目的を達成させるためだ。その目的は、
『正義の盾』の殲滅だ」
『正義の盾』の……殲滅だと……?
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でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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