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私はずっとあなたの味方です(前編)
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♪~♪~♪
「……ん」
スマホのアラームが五月蝿く鳴り響く。俺はけだるい体を起こして、スマホのアラームを止めた。
「はぁ……飯の準備しよ」
俺は--柿原 雅人--、高校2年生だ。両親はすでに他界していて今は1人で生活している。食事から家事全般、学費を払うためにアルバイトをしたりなど色々と忙しい日々だ。だかそんな忙しい俺にも……
ピーンポーン
「先輩!おはようございます!」
1個下の彼女がいる。
黒髪のショートヘアーに150cmの小柄な身長。彼女の名は--杉村 真央--。俺の後輩であり、いつも家事を手伝ってくれている。
「何時もすまないな。真央」
「何言ってるんですか!私が好きでやってることなんですし、大好きな先輩のためなら私頑張ります!」
「真央……ありがとな」
俺はお礼を言って、真央の頭を優しく撫でた。
「えへへ……やっぱり先輩のなでなではいいです……///」
「よし、じゃあ準備しますか」
「はい!」
通学路--
「それでですね先輩。やっぱり先輩の生活を手伝う以上、同居することも考えた方がいいかと」
「いや……さすがにそれはできねぇよ」
「なんでですか!私と先輩の仲なんですよ!?」
「アホか。そしたらお前とお前の親に迷惑がかかるだろうが」
「……先輩、そこの所真面目ですよね~」
「真面目も何も、ちゃんとしないといけないことだろうが」
「むぅ……私はいつでも準備できてますよ?」
「はいはい」
いつも俺は真央と2人で学校へ登校している。去年までは色々とひとりで全部やっていたため、疲れが溜まった状態で登校していた。しかし彼女が家事のことを手伝ってくれているおかげで前よりも健康な状態で学校に行く事が出来ている。
そして学校の目の前まで来ると急に黒色のリムジンカーが校門の目の前で止まった。
「おぉ、見ろ。あの人だぞ」
「わぁ……お嬢様だ……」
ちょうどそこにいた何人かの生徒がざわつき始める。黒色のリムジンカーから出てきた長い銀髪を靡かせているその少女に周りの者は惹かれていた。ちょうど俺はその少女と目が合ってしまう。
「あら、おはよう。雅人君」
「あぁ。おはよう」
お互いに挨拶を交わし、彼女は微笑みながら校舎へと歩いていった。
「ちょっと先輩?誰ですかあの人?名前で呼ばれてましたけど?」
「あぁ。同じクラスの佐原さんだよ。あの人はあの佐原財閥の娘なんだ。まぁ要するにお嬢様ってこと」
「ふぇ~……先輩のクラスにあんな美人が……」
真央は目を丸くして驚いていた。
スラリとした背丈に綺麗な銀髪のロングヘアー、彼女は--佐原 アリサ--。俺と同年代にして佐原財閥のお嬢様。勉学はもちろんのこと、運動や料理、何から何まで完璧にこなしてしまう人だ。
「……先輩を、取られないようにしないと……」
「ん?どうした、真央」
「何でもないです!はやくいきましょ?」
「そうだな」
------
放課後--
「先輩、本当に大丈夫ですか?私が行かなくても平気ですか?」
今日も1日が終わり、帰宅するところを真央に止められている。
「大丈夫だよ。真央は部活頑張ってきな」
「でも……」
真央はテニス部に所属しており、夜に俺の手伝いができないという事で心配してくれている。
「心配すんな。前までは俺が全部やってたんだから。朝だけでもお前が手伝ってくれるだけで俺は本当に嬉しいからさ」
「先輩……わかりました。じゃあ部活に行ってきます。絶対に無理しないでくださいね!なんか困った時とか、寂しくなったら遠慮なく言ってくださいね!」
そう言い残して真央は活動場所であるテニスコートに向かって走って行った。
さて、今日は商店街で買出しの日だったな……早速向かうとしよう。
1時間後
商店街にて--
「ふぅ……買った買った」
俺はスーパーで食品や日常用品など色々と買って、帰宅している。すると、とある光景に目がいった。
「なぁ嬢ちゃん、俺達と今から楽しいことしない?」
「俺達がおごるからよ。一緒に付いて来てくれないか?」
「あら、楽しいこととは?」
人通りの少ない所で女の子が3人のヤンキー集団に絡まれていた。今時こんな馬鹿なことするやつもいるんだな……
「まぁまぁ。それは後でのお楽しみってことで……」
「キャッ!」
女の子が1人のヤンキーに腕を掴まれ、強引に連れていこうとする。
さすがに見て見ぬ振りはできないな……
「おい」
「あぁん?」
俺は女の子を助けようと、ヤンキー達に声をかけた。
「彼女嫌がってるだろ?やめたらどうだ」
「ほうー、今の時代にヒーロー気取りか?」
「ぶっは!マジで!?ちょーウケるんだけど!ギャハハハハ!」
「お前みたいなガキはさっさと帰って、お子様が見るアニメでも見てな」
ヤンキー達は大笑いして、俺をバカにしてくる。まぁ、そうなるだろうな。
「はぁ……いいから、さっさとその子を離せよ」
「ちっ、うるせぇな。てめぇ、俺達に喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇか」
「よほど怪我したいっぽい?」
「じゃあ正義の味方らしく、俺達を倒してみろよ!ギャハハハハ!」
ヤンキー達は拳をゴキゴキ鳴らしながら俺を挑発する。
「……へぇー、いいんだ。じゃあ……」
「あ?」
「骨の1、2本くらい、折れても文句言わねぇよな……?」
と俺はヤンキー達を睨みつける。
「ひっ……」
「おいどうした、かかって来いよ。それなら……俺から行くぞ?」
拳の骨をパキパキっと鳴らす。
「ちっ……いくぞ!」
「お、おう!」
ヤンキー達は何もせずにその場を立ち去った。ヘタレな野郎達だ……
「ふぅ……大丈夫?」
「ええ、ありがとうございます」
「って、あれ?佐原さん!?」
「はい、佐原です。雅人君」
驚いた。さっきはヤンキー達に囲まれていてよく姿は見えなかったが絡まれていたのは佐原さんだったのか。
「なんでこんな所に?」
「ちょっと暇だったから色々と店を回ろうと」
「こんな所で暇潰すなんて……佐原さんに似合うような店なんてここにはないぜ?」
「そうでもありませんよ?私はキラキラした高級感がある所よりこういうちょっと落ち着いた感じの所が好きなので……」
「な、なるほどなぁ……」
財閥のお嬢様なのに、佐原さん自身は意外とこういう所の方が好きなのか?
「お嬢様!探しましたよお嬢様!」
すると執事姿のガタイのいい爺さんが走ってきた。
「困りますお嬢様!勝手に外へ出かけられるなど!もう帰宅時間を30分過ぎています!」
「あら、もうそんな時間?」
「まったく……申しわけない。お嬢様がご迷惑をおかけして」
執事の爺さんは深々と頭を下げる。
「い、いえ。大丈夫ですよ」
「そうですか……では行きますよ。お嬢様」
「ええ。今日はありがとう雅人くん。また明日ね」
そして佐原さんは執事の人と一緒に去っていった。
------
翌日--
四時間目の授業が終わり昼休みに突入。俺はバックから弁当を取り出して友人の元へ行こうとすると、
「雅人くん。たまには私と一緒にお昼を過ごしませんか?」
佐原さんから誘われてしまう。
「昨日のお礼も兼ねてあなたのためにお弁当を作ってきたのです。食べてくれませんか?」
と言って、佐原さんは三段に重なった弁当箱を持ってくる。既に自分の分は用意してあるし、どうしようか……
「げ!弁当忘れた!あっ、金もねぇ……昼飯どうしよう……」
どうやら1人の友人が弁当を家に忘れて落ち込んでいる。ちょうどいい。俺の弁当をあいつにあげよう。
「俺の弁当いるか?」
「えっ、いいのか!でもお前は……」
「俺は大丈夫だよ。佐原さんからご馳走になるから。ほら」
弁当をちょっと強引に友人に渡す。
「おぉ……心の友よぉぉ……ありがとな!雅人!」
友人は俺の弁当を持って教室を出て行った。さて、問題は解決したし、これで安心して佐原さんの弁当が食べれるぞ。
「さぁ、行きましょうか」
「えっ?ここで食べないの?」
「いい場所があるのです。ついてきてください」
とりあえず俺は佐原さんについて行くことにし、教室を出る。
向かった先は図書室にあるフリールームだった。ここの学校の図書室は交流を深める目的で作られたフリールームという場所があり、ここで食事をとったり遊んだりなど名前の通り自由に使っていい場所がある。静かな音楽が流れており、とても落ち着ける場所だ。ただ生徒は学年ごとに使える日が分かれており、週に一回しか使えない。今日は生徒達は使えない日のはずだが……
「先生にお願いして、貸切にしてもらいました。安心してゆっくり過ごせますよ」
さすが学年トップの優等生。ほかの生徒達はそんな事を頼んでも許してはもらえないだろう。優等生である佐原さんの頼みだから許可してもらえたのだろう。
「なんかすまねぇな。わざわざ昼飯や場所までとってもらえて」
「いえいえ。あなたが満足してくれれば、私はそれで充分ですよ」
さすがお嬢様。感謝するしかございません。
「お腹がすいているでしょう?さぁ、どうぞ。存分にお食べください」
三段に重なっている弁当箱をテーブルにそれぞれ分けて置いて蓋を開ける。中身は高級感満載のおかずが入っていた。
「おおっ、美味しそうだなぁ」
「ふふっ♪これ全部、私が作ったのですよ?」
「えっ!?マジでか!」
なんということだ。こんな量をひとりで作ったのか。さすが佐原さん。本当にひとりで何でもできるんだなぁと思った。
「これ、全部俺のために?」
「はい♪一生懸命作りました」
昨日ちょっと助けただけでここまでしてくれるとは……
「ありがとな。じゃあ、いただきます」
俺は箸をとって一番の好物、唐揚げを口に入れる。
「……うめぇ」
「……!良かった……」
「すげぇうまいよ!……これも!……あっ、これもうめぇ!」
佐原さんの料理の腕は完全に俺を越していた。どのおかずもよく出来ており、どれも美味しい。バクバクと食べる俺を佐原さんは満足そうに見つめていた。
「佐原さんも食べなよ。こんな量俺1人じゃ食いきれないよ?」
「えぇ。いただきます」
そして3箱あった弁当箱を2人で完食し、その後は昼休みが終わるまで、2人で色々な話をして過ごした。
佐原さんは友達が居なかった。財閥のお嬢様だからだろうか。その高貴な雰囲気からほかの人たちからは近寄り難く、無意識に避けられていた。昼休みはいつもひとりで読書していたのをよく見かけた。でも俺はそんな近寄り難いことなど気にしなかった。
「おっ!その本、佐原さんも読んでるのか」
「……え?」
これが俺と佐原さんの最初の会話だった。その時は席替えで隣同士だったため、交流を深めようと佐原さんに話しかけたのがきっかけだ。話しかけられた佐原さんは驚いた顔をしていたのをよく覚えている。
それ以来、俺と佐原さんは本の話や世間話などをして次第に打ち解けていった。佐原さんも前より笑顔になることが増えて、今では俺にとって大切な友人だ。
(あぁ……雅人くんが喜んでいる……頑張ったかいがありました)
(もっと頑張れば、雅人くんに振り向いてもらえる……もっと私を求めてくれる……)
(……どうしたら、あなたは私の物になるんでしょうか……)
(雅人くんの全てが欲しい……大好きなあなたを独占したい……ずっと2人っきりで幸せに過ごしたい……)
(どうすれば……)
放課後。俺は帰宅しようとするところを佐原さんに止められ、
「家まで送っていきますよ?」
と言われた。さすがにそこまでしてもらうのは悪いので俺は丁重に断った。
「そんな遠慮しなくてもいいのですよ?」
「いや、本当に大丈夫だよ。今日は色々とありがとうな」
そう言って、この場から立ち去ろうとする。
「せーんぱいっ!」
すると背後から声がして、振り返るとそこには真央の姿があった。
「あれ?お前今日部活は?」
「今日は休みです!だから先輩と一緒に帰れますよ!ささ、行きましょう!」
と強引に手を繋いでくる真央。
「わかったから、そんなに慌てるんじゃない」
「えへへ~♪」
「………」
(誰なんでしょう、あの女……そういえば、今朝も一緒に登校していましたね……)
その光景を後ろでまじかに見ていた佐原さんは何を思っていたのかは知る由もない。
------
『ごめんなさい!><今日は私が朝練の当番なので家に来ることができません。本当にごめんなさい(´;ω;`)夜はちゃんと来ますからね!先輩、大好き(*´ω`*)♡』
翌日。朝起きるとケータイに1着の着信メールがあった。それは真央からのメールで今朝は来れないという内容だった。仕方が無い。今日の朝食は食パン2枚でやり過ごそう。
学校へ行くと、周りの生徒達が俺を見てなにやらヒソヒソと話している。まるで汚物を見ているような痛い視線が周りから突き刺さる。俺、何かしたっけな……
「あ、おい!雅人!」
「おう。おはよう……ってどうしたんだよ?」
校舎内に入ると1人の友人が血相を変えてこちらに来る。
「どうしたって!お前あれ本当なのか!?」
「あれってなにが?」
「いいから来い!」
友人は俺の腕を力強くつかんで引っ張りながら階段を登る。2年生の教室がある2階に辿り着くと、掲示板に生徒が集まっていた。
「なっ……!」
掲示板に貼られていたのは大きな1枚の写真。その写真の内容は、セーラー服を着ている女子中学生が目隠しをされており、口には猿轡をかませられ腕を縄で縛られた状態で男に犯されている。
そしてその男の顔は、俺の顔であった。
「な、なんだよこれ!」
俺はその写真を剥がした。よく見ると顔の部分だけ合成されている。当たり前だ。俺はこんな事をした覚えはない。
「見て……あの人よ。まさかあんな趣味があったなんて……」
「マジキモイんですけど……」
「中学生を犯すなんて、変態だな……」
周りからはザワザワと俺を軽蔑するような感じの声が聞こえる。
「違う!俺はこんなことやっていない!本当だ!」
「嘘つかないでよ!だったらこの写真はなんなのよ!?」
俺が否定すると、1人の女子がそう言ってくる。
「合成に決まってるだろ!誰だよ!?こんなイタズラしたやつ!出てこい!ぶっ殺してやる!!」
俺は完全に頭に血が上っていた。冷静さを失い、このどうしようもない怒りを周りにぶつけていた。
「うわ、殺すだって……やっぱり犯罪者だねぇ……」
「絶対あいつが犯人だよ……」
しかし周りからはさらに軽蔑の声が上がり、説得するのがさらに難しくなった。
「さっさと刑務所に行けよ犯罪者!」
「なんだと……」
1人の男子生徒がそう声を上げると、その声の主の胸ぐらをつかむ。
「ひっ……ついに本性を出しやがったな!やっぱりお前が犯人だ!」
「てめぇ……っ!」
そしてそいつを殴ろうと右拳を振りかざそうとすると……
「やめんか」
生徒指導部の先生に右肩を掴まれる。俺はハッと我に返って、掴んでいた相手の胸ぐらを離す。
「柿原。お前、これはどういう事だ」
「違うんです!俺はこんなことしていません!」
「詳しくは指導室で話を聞こうじゃないか。ほら来い」
先生に肩をグイっと力強く寄せられる。後ろをチラッと見ると、集まった生徒達は相変わらず蔑んだ目や軽蔑の目で見られている。
「………」
「あっ……」
するとその集団にいた真央と目が合ってしまう。
「違うんだ……本当に俺じゃない……」
「……っ」
しかし真央は目をそらして走り去っていってしまった。
「はやくしろ!」
「そんな……真央……」
一番信頼していた真央に見捨てられてしまった。考えてみればあんな写真が出た後じゃ関わりたくはないだろう。誰もがそう思う。別におかしいことじゃない。だけど俺は結構悲しくなった。
結局今朝の出来事は俺の無実で終わった。俺は何度も何度も否定したが先生達からはあまり信じてもらえなかったが、写真を詳しく調べると合成だと発覚し、柿原雅人へのたちの悪いイタズラだという事になった。
だが、あんな事が起きた後だ。いつも通りの生活が戻ることなどないだろう。
取り調べが終わったのは2時間目がちょうど終わったところだ。俺は3時間目から授業を受けるため、教室に戻る。
「おっ!来ました!変態犯罪者、柿原君!」
自分のクラスの教室の引き戸を開けるとクラスのやんちゃ者の1人の男子がそう言った。俺が戻ってきたことにより、ヒソヒソと陰口を言う者や、警戒している者もいる。無実が証明されたのはつい先程だ。まだ他のみんなが知る訳がないだろうし、俺の口から無実だと訴えても信じてもらえないだろう。何言われようと我慢することにした。
「あれれ~?無視っすか?やっぱ格が違いますねぇ~」
ケラケラとやんちゃ者の男子集団は笑う。無視だ無視。あんなのは気にする必要は無い。
「……チッ」
自分の机の上にはマジックで書かれた落書き。椅子には画鋲がぎっしりと針を上にして乗せられている。小学生のいじめかよ……と呆れながら椅子の上に乗っている画鋲を回収しようとすると
「あっ!手が滑ったぁ~」
「ッ!」
1人の男子が俺の背中を力強く押す。咄嗟に反応し、俺は上半身を守ろうと片腕を椅子の上に置く形になった。画鋲が何本か片腕に突き刺さる。
「ごめんごめん~、大丈夫かい?ありゃあ血が出ちゃってるよぉ。こりゃ大変だぁ~」
周りの者はケラケラと笑う。……ぶっちゃけ俺1人でこいつら全員再起不能になるまで叩きのめすことはできるが、感情的になったらそれこそあいつらの思うつぼ。下手に反応しないように我慢する。とりあえず腕に刺さっている画鋲を取る。
「……チッ、つまんねぇ……」
「面白くないぞ犯罪者~。今朝みたいに怒らないのかぁ~?ほらほら、胸ぐら掴んでみろよ!ガッと!」
野次馬共の五月蝿い声がするが気にしない。実力は圧倒的にこちらが上なのだから。試しにやんちゃ共を睨みつけて威嚇してみる。
「ひっ……お、おおう!?やる気かぁ!?かかってこいよぉ!?ほらほらぁ!!」
手と足が震えているのが分かる。やはりただのヘタレみたいだ。俺はそいつらを無視して回収した画鋲を元々あった箱に戻す。教室を出て傷口を軽く洗い、濡らした雑巾で落書きを消す作業を行う。
「む?これはこれは……みんな見てくれ!」
メガネ男子が声を上げる。俺は声の主の方を向くと1枚の写真を見せびらかしている。
「てめぇ……なんでそれを……!」
その写真は学ラン姿に、その上から『絶対王者』赤い文字で大きく書かれた白い上着を着ている俺の姿……当時ヤンチャしていた時の写真だった。
中学の頃に両親を失った俺は見事にグレてしまい、喧嘩に明け暮れる日々で片っ端から1人でヤンキー団体をぶちのめし、舎弟を作って団体を作りながら別のヤンキー集団をぶちのめす。遂には番長になってでも先陣を切って数々のヤンキー集団をぶちのめし、さらに舎弟を増やしていった。
「元はお前番長だろ?何がきっかけで更生したのかは知らんが、これが出回れば先生達がだまってないな?」
クソが……俺の過去まで引っ張ってくるとは……そもそもあのメガネ野郎は俺と同じ出身の中学校ではないはず。なんで他校出身のやつがそんな写真持ってるんだ?一体どうやって手に入れた?
「なぁに、僕もそこまでゲスじゃない。この写真1枚で君の行動は制限されるからね。大切に保管しておくよ。ふふふ」
写真をポケットにしまい、ゲスな顔で微笑むメガネ男子。もう俺はこのクラスでの立場がない。味方してくれる奴もいないだろう……
また、1人になってしまった。
「授業だぞ!席につけー!」
授業開始のチャイムが鳴り、生徒達は自分の席に座る。
「授業の前に、今朝のことだがあの写真は合成であることがわかり、柿原は無実だ。誰の仕業かは知らないがこれは悪質なイジメだ。イジメは絶対に許してはならない----」
その後、先生は4時間目の授業が緊急全校集会になることと、これからの事を厳重注意して授業が始まった。無実と知ったやんちゃ者の男子達や例の写真を見せびらかしたメガネ男子は表情に焦りが出ていた。俺がそいつらを睨みつけると、ビクッと怯える。どうやらさっきみたいな事はもう起きる事はないと思った。完全に俺に怯えてしまっているからである。
授業が終わり、生徒達が集会場所である体育館へ移動する。先生に集会が終わるまで指導室で待機していてくれと言われたが体調が優れないことと、精神的なダメージを訴えて早退しても良いかと訪ねた。先生は渋々了承し、俺は学校から自宅へ帰宅した。
------
帰宅後、着替えもせずに自分の部屋のベッドに寝転がった。
(どうして……こうなっちまったんだろうな……)
何も無い天井を見つめて、そう思った。いくら無実が証明されたからって、俺の人間関係は完全に壊れてしまっただろう。また孤独に戻ってしまった。
ふと真央の顔を思い浮かべてしまう。すると何故か色々と昔のことを徐々に思い出していった。
先輩!と笑顔で呼びかけてくれる真央。
ケチですね。とちょっとムスッとした顔で言う真央。
あはははっ!先輩!これ面白いですよ!と爆笑する真央。
そして……
「やめてください……」
「おお?なんだ嬢ちゃん。いいじゃないか俺達と楽しいことしようぜ?」
夜の暗い通路。ある1人の女子中学生が5人組のヤンキー達にからまれていた。
「きゃっ!やめて!離して!」
「へへへへっ」
そしてその長である1人の大男が女子の腕をつかみ、連れていこうとする。
「おい」
すると大男の背後からまた別の男の声がする。
「あぁん?なんだてめ--」
「ふんっ!」
大男の背後にいた学ラン姿の男は右拳で振り向いた大男の顔面を殴る。
「ひぎゃっ!」
「お、親方ぁ!」
ほかの4人が喧嘩の構えに入る。
「こ、こいつ……やっちまえぇぇ!」
…………
「す、すいませんしたぁー!!」
コテンパンにやられたヤンキー達はその場から逃げるように去っていった。
「ふぅ……大丈夫か?」
「はい……ありがとう、ございます」
これは俺が真央と最初に出会ったことである。これを思い出した時には、俺はいつの間にか眠っていたのであった。
「……ん」
スマホのアラームが五月蝿く鳴り響く。俺はけだるい体を起こして、スマホのアラームを止めた。
「はぁ……飯の準備しよ」
俺は--柿原 雅人--、高校2年生だ。両親はすでに他界していて今は1人で生活している。食事から家事全般、学費を払うためにアルバイトをしたりなど色々と忙しい日々だ。だかそんな忙しい俺にも……
ピーンポーン
「先輩!おはようございます!」
1個下の彼女がいる。
黒髪のショートヘアーに150cmの小柄な身長。彼女の名は--杉村 真央--。俺の後輩であり、いつも家事を手伝ってくれている。
「何時もすまないな。真央」
「何言ってるんですか!私が好きでやってることなんですし、大好きな先輩のためなら私頑張ります!」
「真央……ありがとな」
俺はお礼を言って、真央の頭を優しく撫でた。
「えへへ……やっぱり先輩のなでなではいいです……///」
「よし、じゃあ準備しますか」
「はい!」
通学路--
「それでですね先輩。やっぱり先輩の生活を手伝う以上、同居することも考えた方がいいかと」
「いや……さすがにそれはできねぇよ」
「なんでですか!私と先輩の仲なんですよ!?」
「アホか。そしたらお前とお前の親に迷惑がかかるだろうが」
「……先輩、そこの所真面目ですよね~」
「真面目も何も、ちゃんとしないといけないことだろうが」
「むぅ……私はいつでも準備できてますよ?」
「はいはい」
いつも俺は真央と2人で学校へ登校している。去年までは色々とひとりで全部やっていたため、疲れが溜まった状態で登校していた。しかし彼女が家事のことを手伝ってくれているおかげで前よりも健康な状態で学校に行く事が出来ている。
そして学校の目の前まで来ると急に黒色のリムジンカーが校門の目の前で止まった。
「おぉ、見ろ。あの人だぞ」
「わぁ……お嬢様だ……」
ちょうどそこにいた何人かの生徒がざわつき始める。黒色のリムジンカーから出てきた長い銀髪を靡かせているその少女に周りの者は惹かれていた。ちょうど俺はその少女と目が合ってしまう。
「あら、おはよう。雅人君」
「あぁ。おはよう」
お互いに挨拶を交わし、彼女は微笑みながら校舎へと歩いていった。
「ちょっと先輩?誰ですかあの人?名前で呼ばれてましたけど?」
「あぁ。同じクラスの佐原さんだよ。あの人はあの佐原財閥の娘なんだ。まぁ要するにお嬢様ってこと」
「ふぇ~……先輩のクラスにあんな美人が……」
真央は目を丸くして驚いていた。
スラリとした背丈に綺麗な銀髪のロングヘアー、彼女は--佐原 アリサ--。俺と同年代にして佐原財閥のお嬢様。勉学はもちろんのこと、運動や料理、何から何まで完璧にこなしてしまう人だ。
「……先輩を、取られないようにしないと……」
「ん?どうした、真央」
「何でもないです!はやくいきましょ?」
「そうだな」
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放課後--
「先輩、本当に大丈夫ですか?私が行かなくても平気ですか?」
今日も1日が終わり、帰宅するところを真央に止められている。
「大丈夫だよ。真央は部活頑張ってきな」
「でも……」
真央はテニス部に所属しており、夜に俺の手伝いができないという事で心配してくれている。
「心配すんな。前までは俺が全部やってたんだから。朝だけでもお前が手伝ってくれるだけで俺は本当に嬉しいからさ」
「先輩……わかりました。じゃあ部活に行ってきます。絶対に無理しないでくださいね!なんか困った時とか、寂しくなったら遠慮なく言ってくださいね!」
そう言い残して真央は活動場所であるテニスコートに向かって走って行った。
さて、今日は商店街で買出しの日だったな……早速向かうとしよう。
1時間後
商店街にて--
「ふぅ……買った買った」
俺はスーパーで食品や日常用品など色々と買って、帰宅している。すると、とある光景に目がいった。
「なぁ嬢ちゃん、俺達と今から楽しいことしない?」
「俺達がおごるからよ。一緒に付いて来てくれないか?」
「あら、楽しいこととは?」
人通りの少ない所で女の子が3人のヤンキー集団に絡まれていた。今時こんな馬鹿なことするやつもいるんだな……
「まぁまぁ。それは後でのお楽しみってことで……」
「キャッ!」
女の子が1人のヤンキーに腕を掴まれ、強引に連れていこうとする。
さすがに見て見ぬ振りはできないな……
「おい」
「あぁん?」
俺は女の子を助けようと、ヤンキー達に声をかけた。
「彼女嫌がってるだろ?やめたらどうだ」
「ほうー、今の時代にヒーロー気取りか?」
「ぶっは!マジで!?ちょーウケるんだけど!ギャハハハハ!」
「お前みたいなガキはさっさと帰って、お子様が見るアニメでも見てな」
ヤンキー達は大笑いして、俺をバカにしてくる。まぁ、そうなるだろうな。
「はぁ……いいから、さっさとその子を離せよ」
「ちっ、うるせぇな。てめぇ、俺達に喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇか」
「よほど怪我したいっぽい?」
「じゃあ正義の味方らしく、俺達を倒してみろよ!ギャハハハハ!」
ヤンキー達は拳をゴキゴキ鳴らしながら俺を挑発する。
「……へぇー、いいんだ。じゃあ……」
「あ?」
「骨の1、2本くらい、折れても文句言わねぇよな……?」
と俺はヤンキー達を睨みつける。
「ひっ……」
「おいどうした、かかって来いよ。それなら……俺から行くぞ?」
拳の骨をパキパキっと鳴らす。
「ちっ……いくぞ!」
「お、おう!」
ヤンキー達は何もせずにその場を立ち去った。ヘタレな野郎達だ……
「ふぅ……大丈夫?」
「ええ、ありがとうございます」
「って、あれ?佐原さん!?」
「はい、佐原です。雅人君」
驚いた。さっきはヤンキー達に囲まれていてよく姿は見えなかったが絡まれていたのは佐原さんだったのか。
「なんでこんな所に?」
「ちょっと暇だったから色々と店を回ろうと」
「こんな所で暇潰すなんて……佐原さんに似合うような店なんてここにはないぜ?」
「そうでもありませんよ?私はキラキラした高級感がある所よりこういうちょっと落ち着いた感じの所が好きなので……」
「な、なるほどなぁ……」
財閥のお嬢様なのに、佐原さん自身は意外とこういう所の方が好きなのか?
「お嬢様!探しましたよお嬢様!」
すると執事姿のガタイのいい爺さんが走ってきた。
「困りますお嬢様!勝手に外へ出かけられるなど!もう帰宅時間を30分過ぎています!」
「あら、もうそんな時間?」
「まったく……申しわけない。お嬢様がご迷惑をおかけして」
執事の爺さんは深々と頭を下げる。
「い、いえ。大丈夫ですよ」
「そうですか……では行きますよ。お嬢様」
「ええ。今日はありがとう雅人くん。また明日ね」
そして佐原さんは執事の人と一緒に去っていった。
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翌日--
四時間目の授業が終わり昼休みに突入。俺はバックから弁当を取り出して友人の元へ行こうとすると、
「雅人くん。たまには私と一緒にお昼を過ごしませんか?」
佐原さんから誘われてしまう。
「昨日のお礼も兼ねてあなたのためにお弁当を作ってきたのです。食べてくれませんか?」
と言って、佐原さんは三段に重なった弁当箱を持ってくる。既に自分の分は用意してあるし、どうしようか……
「げ!弁当忘れた!あっ、金もねぇ……昼飯どうしよう……」
どうやら1人の友人が弁当を家に忘れて落ち込んでいる。ちょうどいい。俺の弁当をあいつにあげよう。
「俺の弁当いるか?」
「えっ、いいのか!でもお前は……」
「俺は大丈夫だよ。佐原さんからご馳走になるから。ほら」
弁当をちょっと強引に友人に渡す。
「おぉ……心の友よぉぉ……ありがとな!雅人!」
友人は俺の弁当を持って教室を出て行った。さて、問題は解決したし、これで安心して佐原さんの弁当が食べれるぞ。
「さぁ、行きましょうか」
「えっ?ここで食べないの?」
「いい場所があるのです。ついてきてください」
とりあえず俺は佐原さんについて行くことにし、教室を出る。
向かった先は図書室にあるフリールームだった。ここの学校の図書室は交流を深める目的で作られたフリールームという場所があり、ここで食事をとったり遊んだりなど名前の通り自由に使っていい場所がある。静かな音楽が流れており、とても落ち着ける場所だ。ただ生徒は学年ごとに使える日が分かれており、週に一回しか使えない。今日は生徒達は使えない日のはずだが……
「先生にお願いして、貸切にしてもらいました。安心してゆっくり過ごせますよ」
さすが学年トップの優等生。ほかの生徒達はそんな事を頼んでも許してはもらえないだろう。優等生である佐原さんの頼みだから許可してもらえたのだろう。
「なんかすまねぇな。わざわざ昼飯や場所までとってもらえて」
「いえいえ。あなたが満足してくれれば、私はそれで充分ですよ」
さすがお嬢様。感謝するしかございません。
「お腹がすいているでしょう?さぁ、どうぞ。存分にお食べください」
三段に重なっている弁当箱をテーブルにそれぞれ分けて置いて蓋を開ける。中身は高級感満載のおかずが入っていた。
「おおっ、美味しそうだなぁ」
「ふふっ♪これ全部、私が作ったのですよ?」
「えっ!?マジでか!」
なんということだ。こんな量をひとりで作ったのか。さすが佐原さん。本当にひとりで何でもできるんだなぁと思った。
「これ、全部俺のために?」
「はい♪一生懸命作りました」
昨日ちょっと助けただけでここまでしてくれるとは……
「ありがとな。じゃあ、いただきます」
俺は箸をとって一番の好物、唐揚げを口に入れる。
「……うめぇ」
「……!良かった……」
「すげぇうまいよ!……これも!……あっ、これもうめぇ!」
佐原さんの料理の腕は完全に俺を越していた。どのおかずもよく出来ており、どれも美味しい。バクバクと食べる俺を佐原さんは満足そうに見つめていた。
「佐原さんも食べなよ。こんな量俺1人じゃ食いきれないよ?」
「えぇ。いただきます」
そして3箱あった弁当箱を2人で完食し、その後は昼休みが終わるまで、2人で色々な話をして過ごした。
佐原さんは友達が居なかった。財閥のお嬢様だからだろうか。その高貴な雰囲気からほかの人たちからは近寄り難く、無意識に避けられていた。昼休みはいつもひとりで読書していたのをよく見かけた。でも俺はそんな近寄り難いことなど気にしなかった。
「おっ!その本、佐原さんも読んでるのか」
「……え?」
これが俺と佐原さんの最初の会話だった。その時は席替えで隣同士だったため、交流を深めようと佐原さんに話しかけたのがきっかけだ。話しかけられた佐原さんは驚いた顔をしていたのをよく覚えている。
それ以来、俺と佐原さんは本の話や世間話などをして次第に打ち解けていった。佐原さんも前より笑顔になることが増えて、今では俺にとって大切な友人だ。
(あぁ……雅人くんが喜んでいる……頑張ったかいがありました)
(もっと頑張れば、雅人くんに振り向いてもらえる……もっと私を求めてくれる……)
(……どうしたら、あなたは私の物になるんでしょうか……)
(雅人くんの全てが欲しい……大好きなあなたを独占したい……ずっと2人っきりで幸せに過ごしたい……)
(どうすれば……)
放課後。俺は帰宅しようとするところを佐原さんに止められ、
「家まで送っていきますよ?」
と言われた。さすがにそこまでしてもらうのは悪いので俺は丁重に断った。
「そんな遠慮しなくてもいいのですよ?」
「いや、本当に大丈夫だよ。今日は色々とありがとうな」
そう言って、この場から立ち去ろうとする。
「せーんぱいっ!」
すると背後から声がして、振り返るとそこには真央の姿があった。
「あれ?お前今日部活は?」
「今日は休みです!だから先輩と一緒に帰れますよ!ささ、行きましょう!」
と強引に手を繋いでくる真央。
「わかったから、そんなに慌てるんじゃない」
「えへへ~♪」
「………」
(誰なんでしょう、あの女……そういえば、今朝も一緒に登校していましたね……)
その光景を後ろでまじかに見ていた佐原さんは何を思っていたのかは知る由もない。
------
『ごめんなさい!><今日は私が朝練の当番なので家に来ることができません。本当にごめんなさい(´;ω;`)夜はちゃんと来ますからね!先輩、大好き(*´ω`*)♡』
翌日。朝起きるとケータイに1着の着信メールがあった。それは真央からのメールで今朝は来れないという内容だった。仕方が無い。今日の朝食は食パン2枚でやり過ごそう。
学校へ行くと、周りの生徒達が俺を見てなにやらヒソヒソと話している。まるで汚物を見ているような痛い視線が周りから突き刺さる。俺、何かしたっけな……
「あ、おい!雅人!」
「おう。おはよう……ってどうしたんだよ?」
校舎内に入ると1人の友人が血相を変えてこちらに来る。
「どうしたって!お前あれ本当なのか!?」
「あれってなにが?」
「いいから来い!」
友人は俺の腕を力強くつかんで引っ張りながら階段を登る。2年生の教室がある2階に辿り着くと、掲示板に生徒が集まっていた。
「なっ……!」
掲示板に貼られていたのは大きな1枚の写真。その写真の内容は、セーラー服を着ている女子中学生が目隠しをされており、口には猿轡をかませられ腕を縄で縛られた状態で男に犯されている。
そしてその男の顔は、俺の顔であった。
「な、なんだよこれ!」
俺はその写真を剥がした。よく見ると顔の部分だけ合成されている。当たり前だ。俺はこんな事をした覚えはない。
「見て……あの人よ。まさかあんな趣味があったなんて……」
「マジキモイんですけど……」
「中学生を犯すなんて、変態だな……」
周りからはザワザワと俺を軽蔑するような感じの声が聞こえる。
「違う!俺はこんなことやっていない!本当だ!」
「嘘つかないでよ!だったらこの写真はなんなのよ!?」
俺が否定すると、1人の女子がそう言ってくる。
「合成に決まってるだろ!誰だよ!?こんなイタズラしたやつ!出てこい!ぶっ殺してやる!!」
俺は完全に頭に血が上っていた。冷静さを失い、このどうしようもない怒りを周りにぶつけていた。
「うわ、殺すだって……やっぱり犯罪者だねぇ……」
「絶対あいつが犯人だよ……」
しかし周りからはさらに軽蔑の声が上がり、説得するのがさらに難しくなった。
「さっさと刑務所に行けよ犯罪者!」
「なんだと……」
1人の男子生徒がそう声を上げると、その声の主の胸ぐらをつかむ。
「ひっ……ついに本性を出しやがったな!やっぱりお前が犯人だ!」
「てめぇ……っ!」
そしてそいつを殴ろうと右拳を振りかざそうとすると……
「やめんか」
生徒指導部の先生に右肩を掴まれる。俺はハッと我に返って、掴んでいた相手の胸ぐらを離す。
「柿原。お前、これはどういう事だ」
「違うんです!俺はこんなことしていません!」
「詳しくは指導室で話を聞こうじゃないか。ほら来い」
先生に肩をグイっと力強く寄せられる。後ろをチラッと見ると、集まった生徒達は相変わらず蔑んだ目や軽蔑の目で見られている。
「………」
「あっ……」
するとその集団にいた真央と目が合ってしまう。
「違うんだ……本当に俺じゃない……」
「……っ」
しかし真央は目をそらして走り去っていってしまった。
「はやくしろ!」
「そんな……真央……」
一番信頼していた真央に見捨てられてしまった。考えてみればあんな写真が出た後じゃ関わりたくはないだろう。誰もがそう思う。別におかしいことじゃない。だけど俺は結構悲しくなった。
結局今朝の出来事は俺の無実で終わった。俺は何度も何度も否定したが先生達からはあまり信じてもらえなかったが、写真を詳しく調べると合成だと発覚し、柿原雅人へのたちの悪いイタズラだという事になった。
だが、あんな事が起きた後だ。いつも通りの生活が戻ることなどないだろう。
取り調べが終わったのは2時間目がちょうど終わったところだ。俺は3時間目から授業を受けるため、教室に戻る。
「おっ!来ました!変態犯罪者、柿原君!」
自分のクラスの教室の引き戸を開けるとクラスのやんちゃ者の1人の男子がそう言った。俺が戻ってきたことにより、ヒソヒソと陰口を言う者や、警戒している者もいる。無実が証明されたのはつい先程だ。まだ他のみんなが知る訳がないだろうし、俺の口から無実だと訴えても信じてもらえないだろう。何言われようと我慢することにした。
「あれれ~?無視っすか?やっぱ格が違いますねぇ~」
ケラケラとやんちゃ者の男子集団は笑う。無視だ無視。あんなのは気にする必要は無い。
「……チッ」
自分の机の上にはマジックで書かれた落書き。椅子には画鋲がぎっしりと針を上にして乗せられている。小学生のいじめかよ……と呆れながら椅子の上に乗っている画鋲を回収しようとすると
「あっ!手が滑ったぁ~」
「ッ!」
1人の男子が俺の背中を力強く押す。咄嗟に反応し、俺は上半身を守ろうと片腕を椅子の上に置く形になった。画鋲が何本か片腕に突き刺さる。
「ごめんごめん~、大丈夫かい?ありゃあ血が出ちゃってるよぉ。こりゃ大変だぁ~」
周りの者はケラケラと笑う。……ぶっちゃけ俺1人でこいつら全員再起不能になるまで叩きのめすことはできるが、感情的になったらそれこそあいつらの思うつぼ。下手に反応しないように我慢する。とりあえず腕に刺さっている画鋲を取る。
「……チッ、つまんねぇ……」
「面白くないぞ犯罪者~。今朝みたいに怒らないのかぁ~?ほらほら、胸ぐら掴んでみろよ!ガッと!」
野次馬共の五月蝿い声がするが気にしない。実力は圧倒的にこちらが上なのだから。試しにやんちゃ共を睨みつけて威嚇してみる。
「ひっ……お、おおう!?やる気かぁ!?かかってこいよぉ!?ほらほらぁ!!」
手と足が震えているのが分かる。やはりただのヘタレみたいだ。俺はそいつらを無視して回収した画鋲を元々あった箱に戻す。教室を出て傷口を軽く洗い、濡らした雑巾で落書きを消す作業を行う。
「む?これはこれは……みんな見てくれ!」
メガネ男子が声を上げる。俺は声の主の方を向くと1枚の写真を見せびらかしている。
「てめぇ……なんでそれを……!」
その写真は学ラン姿に、その上から『絶対王者』赤い文字で大きく書かれた白い上着を着ている俺の姿……当時ヤンチャしていた時の写真だった。
中学の頃に両親を失った俺は見事にグレてしまい、喧嘩に明け暮れる日々で片っ端から1人でヤンキー団体をぶちのめし、舎弟を作って団体を作りながら別のヤンキー集団をぶちのめす。遂には番長になってでも先陣を切って数々のヤンキー集団をぶちのめし、さらに舎弟を増やしていった。
「元はお前番長だろ?何がきっかけで更生したのかは知らんが、これが出回れば先生達がだまってないな?」
クソが……俺の過去まで引っ張ってくるとは……そもそもあのメガネ野郎は俺と同じ出身の中学校ではないはず。なんで他校出身のやつがそんな写真持ってるんだ?一体どうやって手に入れた?
「なぁに、僕もそこまでゲスじゃない。この写真1枚で君の行動は制限されるからね。大切に保管しておくよ。ふふふ」
写真をポケットにしまい、ゲスな顔で微笑むメガネ男子。もう俺はこのクラスでの立場がない。味方してくれる奴もいないだろう……
また、1人になってしまった。
「授業だぞ!席につけー!」
授業開始のチャイムが鳴り、生徒達は自分の席に座る。
「授業の前に、今朝のことだがあの写真は合成であることがわかり、柿原は無実だ。誰の仕業かは知らないがこれは悪質なイジメだ。イジメは絶対に許してはならない----」
その後、先生は4時間目の授業が緊急全校集会になることと、これからの事を厳重注意して授業が始まった。無実と知ったやんちゃ者の男子達や例の写真を見せびらかしたメガネ男子は表情に焦りが出ていた。俺がそいつらを睨みつけると、ビクッと怯える。どうやらさっきみたいな事はもう起きる事はないと思った。完全に俺に怯えてしまっているからである。
授業が終わり、生徒達が集会場所である体育館へ移動する。先生に集会が終わるまで指導室で待機していてくれと言われたが体調が優れないことと、精神的なダメージを訴えて早退しても良いかと訪ねた。先生は渋々了承し、俺は学校から自宅へ帰宅した。
------
帰宅後、着替えもせずに自分の部屋のベッドに寝転がった。
(どうして……こうなっちまったんだろうな……)
何も無い天井を見つめて、そう思った。いくら無実が証明されたからって、俺の人間関係は完全に壊れてしまっただろう。また孤独に戻ってしまった。
ふと真央の顔を思い浮かべてしまう。すると何故か色々と昔のことを徐々に思い出していった。
先輩!と笑顔で呼びかけてくれる真央。
ケチですね。とちょっとムスッとした顔で言う真央。
あはははっ!先輩!これ面白いですよ!と爆笑する真央。
そして……
「やめてください……」
「おお?なんだ嬢ちゃん。いいじゃないか俺達と楽しいことしようぜ?」
夜の暗い通路。ある1人の女子中学生が5人組のヤンキー達にからまれていた。
「きゃっ!やめて!離して!」
「へへへへっ」
そしてその長である1人の大男が女子の腕をつかみ、連れていこうとする。
「おい」
すると大男の背後からまた別の男の声がする。
「あぁん?なんだてめ--」
「ふんっ!」
大男の背後にいた学ラン姿の男は右拳で振り向いた大男の顔面を殴る。
「ひぎゃっ!」
「お、親方ぁ!」
ほかの4人が喧嘩の構えに入る。
「こ、こいつ……やっちまえぇぇ!」
…………
「す、すいませんしたぁー!!」
コテンパンにやられたヤンキー達はその場から逃げるように去っていった。
「ふぅ……大丈夫か?」
「はい……ありがとう、ございます」
これは俺が真央と最初に出会ったことである。これを思い出した時には、俺はいつの間にか眠っていたのであった。
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