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四六時中一緒にいるのは、まあ結構楽しい。
せかせかと家事をしている凜を見るのも楽しいし、一緒に料理をすることも増えてきた。
買い物に出掛けるのは俺が一緒に行ける時だけ。
買い物くらいは大丈夫だというけど、いつヒートが来るかわからないし、よくわからないからこそどこかで貰ってきても困る。ひとりで外に出すのはこわかった。
本当なら、ちょっとした遠出くらいしたかったけど、何かあってから後悔したのでは遅い、遠出はまた次の長期休みでも、という俺に、凜はふわっと笑った。次の約束があるのが嬉しいと。
……次は絶対どっか連れてく、絶対。
もう大学も始まってしまう、そうなると凜を置いて出ていく訳で、どうしようか考える俺に、大丈夫だから学校行って下さい、と凜が必死に言うので、行くしかないなあと思う。もうすでに何度か休んだからなあ、気にしているんだろう。
今後のヒートの時なんかに休みを取ると考えると、行けるときはちゃんと講義に出ておかなきゃ行けないとも思う。
でも気になるのはやっぱり気になる訳で。
俺が不在時は絶対に外に出ちゃ駄目、配達は置き配、ご近所さんとか来たら俺が帰ったら伺いますと言うこと、それは来たのが知り合いや姉であっても。過保護ではあるが、そう約束をさせる。
ヒートが来たら、来そうだとわかったら絶対に俺に連絡をすること、遠慮はしないこと、される方が嫌だと伝える。
それから、俺の服を使っても構わないこと。所謂巣作りに。
凜の部屋に置いてある箪笥の中身は正直汚れても構わないものだ、どれだけ使ってくれてもいい。
そのことを伝えた時が、いちばん瞳が輝いた気がする。
……あの日、あのヒートの日、箪笥を開くことが出来なくてそんなに苦しかったんだな、と思い出して、そんな罠に嵌めようとしたことに酷く罪悪感を覚える。
鍵をしたのは凜自身だけど、そうさせたのは俺の態度だ。
大丈夫、巣作りをするオメガには褒めてあげるといいと何かで見た、凜を褒めることはそんなになかった、その時はたくさん褒めてあげようと思ってる、ちゃんと凜が巣作りをしてくれたらの話だけど。
あんなに嫌だと思っていたのに、自分のにおいでそうなるならいいじゃないかと考えがすっかり変わってしまった。琉の言う、巣作りがかわいいというのも、まだそのものを見てはいないけどなんとなくわかる。
俺の服を抱き締めて頬を寄せて寝る凜はかわいかった、それの上位互換ってことだもんな、多分。
少しずつオメガのことを学んでいく、避けていた分、ちゃんと。それは凜の為だけど、俺の為にもなる。
間違った知識で誰かを傷付けないよう、凜のことを理解出来るよう、そして自分を救う為に。
◇◇◇
そんなこんなで大学が始まってしまった。
十月に入ってしまい、いよいよ本格的にやばいかな、病院コースかな、と焦りも強くなる。
出来れば病院は避けたいと言ってるは場合ではない。
月半ばまで様子を見て、それでも来ないようなら病院に行こうと話し合った。
このままでは外出も躊躇うし、……何より凜を番にすることが出来ない。
噛んでいいか、ちゃんと凜に確認した。ヒート中に最後の確認をするのは狡い、嫌だとは言えないだろうから、どうしても素面の時に言質を取っておきたかった。
本当に自分でいいのかと訊く凜に、凜以外を番にする気はないと言うと、視線を泳がせて、でも自分は俺に合わないとまだ言うので、こどもはいらないと再度繰り返しておく。
元々自分のこどもが欲しかった訳ではない。愛せるかわからなかったから。
オメガだったら愛せるか?アルファならちゃんと愛せるのか?その自信なんてなかったし。
兄のところにもう甥姪はいるし、親父は母親のことがあるから俺にそういう話はしないだろう。
凜を連れてきたのは親父だ、そのこともあって口を出させる気はない。
だから俺は凜をひとり愛せたらいい、他のオメガだろうがこどもだろうが、凜さえいればいい。
凜さえいてくれたら。
「玲司さんがどっか行ってって言うまで一緒にいます」
「……どっか行けなんて言わないよ」
「じゃあずっと一緒にいます」
そう泣くように笑う凜に、ああ早くヒートが来ないかな、と前回とは違う意味で思ってしまったのだった。
◇◇◇
「首輪より指輪いるよな」
「気ィ早過ぎじゃね」
「玲司のそのスピード感なんなの、こないだまでうだうだ言ってたくせに」
「……だって凜かわいいし」
「凜ちゃんかわいいって言ったのおれのが先なんだけど!」
「うるせえお前琉がいるだろ」
「それとこれとは話が別ですう~!」
相変わらず咲人は凜のことになると変な張り合い方をしてくる。
少しむっとするけれど、確かに俺より凜を心配してくれてた訳で、まあ感謝はしている、これからも仲良くしてて欲しいし、俺もだけど、凜にだって圧倒的にオメガとしての知識が足りない、教えて貰うことも多いだろう。
一応、と二人に感謝を伝えると、琉は笑い、咲人は変なかおをした。
わかってる、それが咲人の照れ隠しだということは。
相談出来る相手がいることに酷く安心する。
琉も咲人も姉も、ずっと近くに居たのに、心配してくれてたのに、俺がひとり、意地になっていただけだった。
せかせかと家事をしている凜を見るのも楽しいし、一緒に料理をすることも増えてきた。
買い物に出掛けるのは俺が一緒に行ける時だけ。
買い物くらいは大丈夫だというけど、いつヒートが来るかわからないし、よくわからないからこそどこかで貰ってきても困る。ひとりで外に出すのはこわかった。
本当なら、ちょっとした遠出くらいしたかったけど、何かあってから後悔したのでは遅い、遠出はまた次の長期休みでも、という俺に、凜はふわっと笑った。次の約束があるのが嬉しいと。
……次は絶対どっか連れてく、絶対。
もう大学も始まってしまう、そうなると凜を置いて出ていく訳で、どうしようか考える俺に、大丈夫だから学校行って下さい、と凜が必死に言うので、行くしかないなあと思う。もうすでに何度か休んだからなあ、気にしているんだろう。
今後のヒートの時なんかに休みを取ると考えると、行けるときはちゃんと講義に出ておかなきゃ行けないとも思う。
でも気になるのはやっぱり気になる訳で。
俺が不在時は絶対に外に出ちゃ駄目、配達は置き配、ご近所さんとか来たら俺が帰ったら伺いますと言うこと、それは来たのが知り合いや姉であっても。過保護ではあるが、そう約束をさせる。
ヒートが来たら、来そうだとわかったら絶対に俺に連絡をすること、遠慮はしないこと、される方が嫌だと伝える。
それから、俺の服を使っても構わないこと。所謂巣作りに。
凜の部屋に置いてある箪笥の中身は正直汚れても構わないものだ、どれだけ使ってくれてもいい。
そのことを伝えた時が、いちばん瞳が輝いた気がする。
……あの日、あのヒートの日、箪笥を開くことが出来なくてそんなに苦しかったんだな、と思い出して、そんな罠に嵌めようとしたことに酷く罪悪感を覚える。
鍵をしたのは凜自身だけど、そうさせたのは俺の態度だ。
大丈夫、巣作りをするオメガには褒めてあげるといいと何かで見た、凜を褒めることはそんなになかった、その時はたくさん褒めてあげようと思ってる、ちゃんと凜が巣作りをしてくれたらの話だけど。
あんなに嫌だと思っていたのに、自分のにおいでそうなるならいいじゃないかと考えがすっかり変わってしまった。琉の言う、巣作りがかわいいというのも、まだそのものを見てはいないけどなんとなくわかる。
俺の服を抱き締めて頬を寄せて寝る凜はかわいかった、それの上位互換ってことだもんな、多分。
少しずつオメガのことを学んでいく、避けていた分、ちゃんと。それは凜の為だけど、俺の為にもなる。
間違った知識で誰かを傷付けないよう、凜のことを理解出来るよう、そして自分を救う為に。
◇◇◇
そんなこんなで大学が始まってしまった。
十月に入ってしまい、いよいよ本格的にやばいかな、病院コースかな、と焦りも強くなる。
出来れば病院は避けたいと言ってるは場合ではない。
月半ばまで様子を見て、それでも来ないようなら病院に行こうと話し合った。
このままでは外出も躊躇うし、……何より凜を番にすることが出来ない。
噛んでいいか、ちゃんと凜に確認した。ヒート中に最後の確認をするのは狡い、嫌だとは言えないだろうから、どうしても素面の時に言質を取っておきたかった。
本当に自分でいいのかと訊く凜に、凜以外を番にする気はないと言うと、視線を泳がせて、でも自分は俺に合わないとまだ言うので、こどもはいらないと再度繰り返しておく。
元々自分のこどもが欲しかった訳ではない。愛せるかわからなかったから。
オメガだったら愛せるか?アルファならちゃんと愛せるのか?その自信なんてなかったし。
兄のところにもう甥姪はいるし、親父は母親のことがあるから俺にそういう話はしないだろう。
凜を連れてきたのは親父だ、そのこともあって口を出させる気はない。
だから俺は凜をひとり愛せたらいい、他のオメガだろうがこどもだろうが、凜さえいればいい。
凜さえいてくれたら。
「玲司さんがどっか行ってって言うまで一緒にいます」
「……どっか行けなんて言わないよ」
「じゃあずっと一緒にいます」
そう泣くように笑う凜に、ああ早くヒートが来ないかな、と前回とは違う意味で思ってしまったのだった。
◇◇◇
「首輪より指輪いるよな」
「気ィ早過ぎじゃね」
「玲司のそのスピード感なんなの、こないだまでうだうだ言ってたくせに」
「……だって凜かわいいし」
「凜ちゃんかわいいって言ったのおれのが先なんだけど!」
「うるせえお前琉がいるだろ」
「それとこれとは話が別ですう~!」
相変わらず咲人は凜のことになると変な張り合い方をしてくる。
少しむっとするけれど、確かに俺より凜を心配してくれてた訳で、まあ感謝はしている、これからも仲良くしてて欲しいし、俺もだけど、凜にだって圧倒的にオメガとしての知識が足りない、教えて貰うことも多いだろう。
一応、と二人に感謝を伝えると、琉は笑い、咲人は変なかおをした。
わかってる、それが咲人の照れ隠しだということは。
相談出来る相手がいることに酷く安心する。
琉も咲人も姉も、ずっと近くに居たのに、心配してくれてたのに、俺がひとり、意地になっていただけだった。
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