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やばい、寝ていた、今何時……
瞳を開けた瞬間、そんな焦りで外を見ると、まだ薄暗い。
何でカーテン開いてんだ、と思って、それからここが凜の部屋だと気付く。寝惚けてるのか。
時計のない部屋。時計どころか他のものもそんなにないけれど。
少しそのままぼんやりして、いや今夏休みだし今日は何も用事ねえわ、と思い出してもう一度横になる。
ぎしっとベッドが軋んで、あ、凜が起きるかも、と隣に目をやる。
昨夜、凜に続いて自分も達してそれから、甘いピロートークなどはなく、すぐに凜は眠りに落ちた。あれだけ泣いてしまえば体力も使う、寝落ちも致し方なし。
前回と同じで少し迷ったけれど、ヒート中の時のような酷い汚れっぷりではなかったのでこれ幸いと、軽く綺麗にしてやり、そのまま寝かせていた。
俺も別に自室に戻るか考えたけれど、一応初めてこういうことをしておいて別々に寝るのもどうなの、とちょっと悔しくなって、狭いけどまあそれもよしと凜の横に寝ることにしたのだった。
想定外だったのは、ぬいぐるみのいるかが本当に抱き枕状態だったこと。最中は勿論、寝てる間もずっと抱き締めていた。
俺が買い与えたものだ、抱き枕にも丁度いいと思った、だからそれに関してはいいんだ。
不満に思ったのは、それだけだということ。
最中も寝てる間もずっと、ずうっと抱き締めている。
すぐ目の前に俺がいるのに、だ。
ほんの少し手を伸ばせば、あたたかいにんげんがすぐそこにいるのに。
強く握り締めても歯や爪を立てても文句を言うことのないぬいぐるみはそりゃ丁度いいと思うよ、でもやっぱりさあ……
いや、俺が抱き締めたいってのが強いんだけど。
こんなでかいぬいぐるみ抱いてたら無理だ。
寝ている間に取り上げてしまおうかとも思ったのだけど、がっちりホールドしてる上に、うう、と呻かれては罪悪感も沸くというもの。取り上げないでと言われてるようで、そのままにするしかなかった。
凜のかおが見えない。
閉じた紅くなった目許だけ。
かわいいよ、長い睫毛も薄い眉毛も、前髪から覗く狭いおでこもさらさらした細い髪も。
でもさあ、……やっぱりもうちょっとちゃんと見たいものじゃん。
このぬいぐるみの下はどうなってるんだろう、口はちゃんと閉じてんのかな、開いてんのかな、涎出てそう、もしかして噛んでる?頬はまだ紅いのかな、あのこども頃のもちもちが懐かしい、もうちょっとほっぺたぷくぷくに戻らないかなあ。
「ん、んぅ……」
「あ、やべ」
つい前髪を引いてしまい、呻いた凜にその手を引く。起こしたい訳じゃない、ゆっくり寝てほしい。
凜の躰には負担しか掛けてない、休んでもらわなきゃ。
もぞ、と動いたかと思うと、すぐにまた静かになったのでそっと髪を撫でる。さらさらのふわふわ、こどものよう。
すうすうと聞こえてきた寝息に頬が緩む。
俺がぬいぐるみに妬きすぎだな、仕方ないよな、こんなに安心して寝れるなら。
たまにこわい夢を見ると言っていたし、今日はそんなことがなければいい。次からは俺の服なんかじゃなくて、こうやって一緒に寝ても。
……また服がいいとか言わないよな?流石にな?
ほんの少し不安はあったけど、再度瞳を閉じる。
大丈夫、揉めることも多いけど……大体俺がキレてるだけだけど、まあ確実に進んではいる。ちゃんと好意は伝えたし、凜が怯える程俺のことがすきなのもわかった。
後はヒートが来た時に番になるだけ。
それだけ、なんだけど。
◇◇◇
「ヒート来ねえなあ」
前回のヒートが六月半ば、本来ならもう来てもいい筈なんだけど、九月も三分の二過ぎて、それでもまだ凛のヒートは来なかった。
イレギュラーなヒートが来たのは七月だったかな、そこから周期がずれるものなんだろうか。
凜に聞いても今まできっかり三ヶ月毎だったという凜は俺より焦っていた。そうだよな、本人がいちばん不安だよな。
咲人に電話してみたものの、セクハラだかんね、と釘を刺された上で、自身もそんなにずれることがないからわかんない、病院行けば、と言う。
病院ねえ、行ってもいいんだけど、その科のせいか基本的にオメガが多いとはいえアルファも受診や付き添いに来てるから、あまりヒート付近に行きたいところではない。
『結芽は結構ずれるわよ』
「えっ、どれくらい?」
『あの子は元々不順気味なのよね、参考にならないと思うけど』
最後の手段はいつも姉だ。
身内の話は出来るだけ聞きたくないと思いつつも琉と咲人以外はどうしても姉しか思いつかなかった。
ホルモンの関係が大きいみたいね、女性の月経と同じ、と返されて、少し余計なことを聞いてしまった、と心の中で結芽に謝っておく。
『元々そんなにずれない子だったんでしょ、少し様子を見てみたら?買い物くらいあんたが行けばいいし、ネットでも買えるんだから』
「んー……うん、まあそう、夏休みもうちょいで終わっちゃうけど……まあ様子見てみるわ」
お礼を言って電話を切る。
解決はしてないけれど、まあそういうことも多々あるとこのことで、安堵はした。
夏休みも残り少し、どこか連れて行くくらい、とは思っていたけれど、まあ大学生なんて夏休みが終わっても時間はある、その時に遊びに行けばいい、残りは家に引きこもるかあ、まあそれも悪くはない、と思う。
瞳を開けた瞬間、そんな焦りで外を見ると、まだ薄暗い。
何でカーテン開いてんだ、と思って、それからここが凜の部屋だと気付く。寝惚けてるのか。
時計のない部屋。時計どころか他のものもそんなにないけれど。
少しそのままぼんやりして、いや今夏休みだし今日は何も用事ねえわ、と思い出してもう一度横になる。
ぎしっとベッドが軋んで、あ、凜が起きるかも、と隣に目をやる。
昨夜、凜に続いて自分も達してそれから、甘いピロートークなどはなく、すぐに凜は眠りに落ちた。あれだけ泣いてしまえば体力も使う、寝落ちも致し方なし。
前回と同じで少し迷ったけれど、ヒート中の時のような酷い汚れっぷりではなかったのでこれ幸いと、軽く綺麗にしてやり、そのまま寝かせていた。
俺も別に自室に戻るか考えたけれど、一応初めてこういうことをしておいて別々に寝るのもどうなの、とちょっと悔しくなって、狭いけどまあそれもよしと凜の横に寝ることにしたのだった。
想定外だったのは、ぬいぐるみのいるかが本当に抱き枕状態だったこと。最中は勿論、寝てる間もずっと抱き締めていた。
俺が買い与えたものだ、抱き枕にも丁度いいと思った、だからそれに関してはいいんだ。
不満に思ったのは、それだけだということ。
最中も寝てる間もずっと、ずうっと抱き締めている。
すぐ目の前に俺がいるのに、だ。
ほんの少し手を伸ばせば、あたたかいにんげんがすぐそこにいるのに。
強く握り締めても歯や爪を立てても文句を言うことのないぬいぐるみはそりゃ丁度いいと思うよ、でもやっぱりさあ……
いや、俺が抱き締めたいってのが強いんだけど。
こんなでかいぬいぐるみ抱いてたら無理だ。
寝ている間に取り上げてしまおうかとも思ったのだけど、がっちりホールドしてる上に、うう、と呻かれては罪悪感も沸くというもの。取り上げないでと言われてるようで、そのままにするしかなかった。
凜のかおが見えない。
閉じた紅くなった目許だけ。
かわいいよ、長い睫毛も薄い眉毛も、前髪から覗く狭いおでこもさらさらした細い髪も。
でもさあ、……やっぱりもうちょっとちゃんと見たいものじゃん。
このぬいぐるみの下はどうなってるんだろう、口はちゃんと閉じてんのかな、開いてんのかな、涎出てそう、もしかして噛んでる?頬はまだ紅いのかな、あのこども頃のもちもちが懐かしい、もうちょっとほっぺたぷくぷくに戻らないかなあ。
「ん、んぅ……」
「あ、やべ」
つい前髪を引いてしまい、呻いた凜にその手を引く。起こしたい訳じゃない、ゆっくり寝てほしい。
凜の躰には負担しか掛けてない、休んでもらわなきゃ。
もぞ、と動いたかと思うと、すぐにまた静かになったのでそっと髪を撫でる。さらさらのふわふわ、こどものよう。
すうすうと聞こえてきた寝息に頬が緩む。
俺がぬいぐるみに妬きすぎだな、仕方ないよな、こんなに安心して寝れるなら。
たまにこわい夢を見ると言っていたし、今日はそんなことがなければいい。次からは俺の服なんかじゃなくて、こうやって一緒に寝ても。
……また服がいいとか言わないよな?流石にな?
ほんの少し不安はあったけど、再度瞳を閉じる。
大丈夫、揉めることも多いけど……大体俺がキレてるだけだけど、まあ確実に進んではいる。ちゃんと好意は伝えたし、凜が怯える程俺のことがすきなのもわかった。
後はヒートが来た時に番になるだけ。
それだけ、なんだけど。
◇◇◇
「ヒート来ねえなあ」
前回のヒートが六月半ば、本来ならもう来てもいい筈なんだけど、九月も三分の二過ぎて、それでもまだ凛のヒートは来なかった。
イレギュラーなヒートが来たのは七月だったかな、そこから周期がずれるものなんだろうか。
凜に聞いても今まできっかり三ヶ月毎だったという凜は俺より焦っていた。そうだよな、本人がいちばん不安だよな。
咲人に電話してみたものの、セクハラだかんね、と釘を刺された上で、自身もそんなにずれることがないからわかんない、病院行けば、と言う。
病院ねえ、行ってもいいんだけど、その科のせいか基本的にオメガが多いとはいえアルファも受診や付き添いに来てるから、あまりヒート付近に行きたいところではない。
『結芽は結構ずれるわよ』
「えっ、どれくらい?」
『あの子は元々不順気味なのよね、参考にならないと思うけど』
最後の手段はいつも姉だ。
身内の話は出来るだけ聞きたくないと思いつつも琉と咲人以外はどうしても姉しか思いつかなかった。
ホルモンの関係が大きいみたいね、女性の月経と同じ、と返されて、少し余計なことを聞いてしまった、と心の中で結芽に謝っておく。
『元々そんなにずれない子だったんでしょ、少し様子を見てみたら?買い物くらいあんたが行けばいいし、ネットでも買えるんだから』
「んー……うん、まあそう、夏休みもうちょいで終わっちゃうけど……まあ様子見てみるわ」
お礼を言って電話を切る。
解決はしてないけれど、まあそういうことも多々あるとこのことで、安堵はした。
夏休みも残り少し、どこか連れて行くくらい、とは思っていたけれど、まあ大学生なんて夏休みが終わっても時間はある、その時に遊びに行けばいい、残りは家に引きこもるかあ、まあそれも悪くはない、と思う。
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