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この子に我慢をさせてるのは俺だ、俺がちゃんと伝えられなかったから。ずっとずっと耐えて生きてきた子に、更に我慢をさせてしまった。
咲人が何度も言ったのに、信じさせることが出来なかったから。俺が大してかわらなかったから。
だって俺自身が信じられてないのに。俺のことも、凜のことも、オメガもアルファも全て。
駄目になるとしか思ってない、どうせ裏切るんだとしか。
凜をちゃんと、見てなかった、話を聞いてあげられなかった、凜が自分のことばかり考えてこわいと思うように、俺だって自分のことばかりだった。
相手を見ているようで、気にしているようで、自分の保身ばかり。
凜の為じゃない、自分の為。
ずっと、自分のことしか考えてない。
「……っあ」
ぎゅうと凜を引き寄せる。突然のことに頭が回らないのか、凜もびっくりしたような声は出すものの、固まって動けないようだ。
それをいいことに、腕の力を少し強くする。まだヒートには早い。なのにほんの少し、甘いにおいを感じた気がした。
それが凜のにおいなのか、オメガ特有のにおいなのかははっきりわからない。
でもそれでいいと思う。他のオメガのにおいなんて別に知らなくて構わない。
この子のにおいさえ覚えていれば。
「まだヒート、来てないよね」
「ま、まだちょっと、早い……」
「……ヒートが来る前に、抱いていい?」
「だいっ……」
すっと出てしまった言葉にまた驚いたのか、腕の中で突っ張るような仕草をするけれど、凜の力じゃ距離をとることが出来ない。
本当に嫌なら勿論そんなことはしない、出来ない。そういうのは趣味じゃない。
だけど、紅くなった頬が、潤んだ瞳が、本気で駄目な訳ではないと言っている。
凜だって揺れてる。本当に信じていいのかって、不安と期待で、頼りない視線が落ち着かない。
「……かわいい、凜、すきだよ」
「っ、」
「待ってって言ってから結構待たせたよね」
「そ、そん……」
「普通のお付き合いしたいんでしょ?言ってたじゃん、番の前に、恋人になりたいって。だから、次のヒートが来る前にちゃんと、段階を踏みたい」
ヒートが来て、何も考えられなくなる前に。
ちゃんと考えられる内に、自分の気持ちをはっきりと伝えて、フェロモンのせいじゃない、俺の意思だってわかってほしい。
「でも、で、でも、ぼく、玲司さんのにおいで、ヒート、また来ちゃいそう……」
「……それでもいいよ」
「だめ、オメガに、」
「それでもいい、そんなに俺のにおいがすきなんて、それはそれで運命の番じゃん」
「……!」
オメガがきらいだ、オメガになりたくない、そうお互い言いながらも、番なんてどうでもいい、作らなくたっていい、そう思っていても。
凜が他の奴と番になってしまうのは嫌だ。番になるなら俺であってほしい……凜がいい。
「お願い、……次のヒートで噛ませて」
「……っう、」
「俺はもう、凜がどっかに行くの嫌だよ」
「あ……」
「凜は俺のだって言いたい」
「……そんな、しなくたって……ぼく、」
「だめ、だって凜すぐ悩んじゃうでしょ、そんで我慢しちゃうでしょ、そんなの悩まないでいいくらい、俺を凜の物にしたいと思わないの」
「だって、ぼくなんかが……」
「凜がいいよ」
「だって……」
「こどもなんていなくてもいいよ、その分凜といるし、独り占め出来て丁度いいのかも」
「……っ」
腕の中で凜が迷うのがわかる。どの言葉に引っ掛かるかわからないから、思ったことを全て口にしていく。
本当は、だいじなことなんて、ちゃんと瞳を見ながら言いたいけど。離したら逃げてしまいそうだから。
ずっと、番なんて不安なものでしかなかったけれど、俺は凜がこわがってることに安心してしまった。絶対大丈夫だよ、とか盲目的なものでなく、どうにかなるでしょ、なんて楽観的なものでもなく、はっきりと捨てられるのがこわいという。
不安でこわくて悩んでるのは俺だけじゃなかった。
そんなに悩むなら凜は俺を裏切らないんじゃないか、俺は凜を捨てて逃げたりしないんじゃないかって。それだって楽観的なのかもしれないし、ひとは変わるものだけれど、少しだけ、自分で枷を作っているかのようで、そんなの健全ではないのに安心してしまうんだ。
逃げない、逃げられない。
信じたいのに、完全に信じてはない。
それなのに凜を離すのは、離れられるのは嫌だった。
そこまで凜のことを気にさせておいて離れるなんて狡い。
うちに来なければ、俺は凜を思い出さなかったし、オメガから距離を取って生きて行けたのに。
こんなにだいじにしたくて、笑わせたくて、泣かせたくて、愛おしく思う子にさせてから身を引こうとするなんて。
「……返事しないならいいように取っちゃうよ」
「うう」
「ぎゅってして話をして、キスして抱いて、凜のことがすきだって、かわいいってちゃんと伝えるよ、その後でちゃんと、番になろう、ね、凜」
「……っう」
「頑張るよ、俺、もう凜が我慢しなくていいように、安心出来るように、次のヒートまで、信用してもらえるよう」
「次……」
「だから今、オメガじゃない凜をちょうだい」
ぐ、と息を呑む音がした。
それからすぐに、やっぱり無理です、と言う。
咲人が何度も言ったのに、信じさせることが出来なかったから。俺が大してかわらなかったから。
だって俺自身が信じられてないのに。俺のことも、凜のことも、オメガもアルファも全て。
駄目になるとしか思ってない、どうせ裏切るんだとしか。
凜をちゃんと、見てなかった、話を聞いてあげられなかった、凜が自分のことばかり考えてこわいと思うように、俺だって自分のことばかりだった。
相手を見ているようで、気にしているようで、自分の保身ばかり。
凜の為じゃない、自分の為。
ずっと、自分のことしか考えてない。
「……っあ」
ぎゅうと凜を引き寄せる。突然のことに頭が回らないのか、凜もびっくりしたような声は出すものの、固まって動けないようだ。
それをいいことに、腕の力を少し強くする。まだヒートには早い。なのにほんの少し、甘いにおいを感じた気がした。
それが凜のにおいなのか、オメガ特有のにおいなのかははっきりわからない。
でもそれでいいと思う。他のオメガのにおいなんて別に知らなくて構わない。
この子のにおいさえ覚えていれば。
「まだヒート、来てないよね」
「ま、まだちょっと、早い……」
「……ヒートが来る前に、抱いていい?」
「だいっ……」
すっと出てしまった言葉にまた驚いたのか、腕の中で突っ張るような仕草をするけれど、凜の力じゃ距離をとることが出来ない。
本当に嫌なら勿論そんなことはしない、出来ない。そういうのは趣味じゃない。
だけど、紅くなった頬が、潤んだ瞳が、本気で駄目な訳ではないと言っている。
凜だって揺れてる。本当に信じていいのかって、不安と期待で、頼りない視線が落ち着かない。
「……かわいい、凜、すきだよ」
「っ、」
「待ってって言ってから結構待たせたよね」
「そ、そん……」
「普通のお付き合いしたいんでしょ?言ってたじゃん、番の前に、恋人になりたいって。だから、次のヒートが来る前にちゃんと、段階を踏みたい」
ヒートが来て、何も考えられなくなる前に。
ちゃんと考えられる内に、自分の気持ちをはっきりと伝えて、フェロモンのせいじゃない、俺の意思だってわかってほしい。
「でも、で、でも、ぼく、玲司さんのにおいで、ヒート、また来ちゃいそう……」
「……それでもいいよ」
「だめ、オメガに、」
「それでもいい、そんなに俺のにおいがすきなんて、それはそれで運命の番じゃん」
「……!」
オメガがきらいだ、オメガになりたくない、そうお互い言いながらも、番なんてどうでもいい、作らなくたっていい、そう思っていても。
凜が他の奴と番になってしまうのは嫌だ。番になるなら俺であってほしい……凜がいい。
「お願い、……次のヒートで噛ませて」
「……っう、」
「俺はもう、凜がどっかに行くの嫌だよ」
「あ……」
「凜は俺のだって言いたい」
「……そんな、しなくたって……ぼく、」
「だめ、だって凜すぐ悩んじゃうでしょ、そんで我慢しちゃうでしょ、そんなの悩まないでいいくらい、俺を凜の物にしたいと思わないの」
「だって、ぼくなんかが……」
「凜がいいよ」
「だって……」
「こどもなんていなくてもいいよ、その分凜といるし、独り占め出来て丁度いいのかも」
「……っ」
腕の中で凜が迷うのがわかる。どの言葉に引っ掛かるかわからないから、思ったことを全て口にしていく。
本当は、だいじなことなんて、ちゃんと瞳を見ながら言いたいけど。離したら逃げてしまいそうだから。
ずっと、番なんて不安なものでしかなかったけれど、俺は凜がこわがってることに安心してしまった。絶対大丈夫だよ、とか盲目的なものでなく、どうにかなるでしょ、なんて楽観的なものでもなく、はっきりと捨てられるのがこわいという。
不安でこわくて悩んでるのは俺だけじゃなかった。
そんなに悩むなら凜は俺を裏切らないんじゃないか、俺は凜を捨てて逃げたりしないんじゃないかって。それだって楽観的なのかもしれないし、ひとは変わるものだけれど、少しだけ、自分で枷を作っているかのようで、そんなの健全ではないのに安心してしまうんだ。
逃げない、逃げられない。
信じたいのに、完全に信じてはない。
それなのに凜を離すのは、離れられるのは嫌だった。
そこまで凜のことを気にさせておいて離れるなんて狡い。
うちに来なければ、俺は凜を思い出さなかったし、オメガから距離を取って生きて行けたのに。
こんなにだいじにしたくて、笑わせたくて、泣かせたくて、愛おしく思う子にさせてから身を引こうとするなんて。
「……返事しないならいいように取っちゃうよ」
「うう」
「ぎゅってして話をして、キスして抱いて、凜のことがすきだって、かわいいってちゃんと伝えるよ、その後でちゃんと、番になろう、ね、凜」
「……っう」
「頑張るよ、俺、もう凜が我慢しなくていいように、安心出来るように、次のヒートまで、信用してもらえるよう」
「次……」
「だから今、オメガじゃない凜をちょうだい」
ぐ、と息を呑む音がした。
それからすぐに、やっぱり無理です、と言う。
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