【完結】抱き締めてもらうにはどうしたら、

ちかこ

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 ◇◇◇

 またしてもぎこちないまま日々は過ぎて、真夏になってしまった。
 凜はやはり何も無かったように振る舞うし、俺も甘やかし月間は続けながらも核心には触れない、触れられなかった。

 番になってあげたい、なりたい、俺のものにしたい。
 でもその気持ちがいつまで続く?
 俺はあの母の子だ、オメガとアルファ、その違いはあっても、移り気なところ、流されるところ、裏切ってしまうところが似ていたらどうしたらいい?そう考えるとぞっとした。

 愛してるよ、結婚しよう、番になろう、そう約束をして、どれだけのひとが離婚した?番の解除をした?
 納得しての離縁もあるだろう、でもただの契約ではない、オメガには大分負担が大きいと聞く。
 そうなった時に凜は?
 俺は勝手な俺の気持ちで、それだけで、またあの子を泣かすかもしれない、俺が母の立場になるかもしれない。それが凄くこわい。
 勿論俺が捨てられる未来もある。凜は裏切らないと言ってくれた、噛んでもいいと言ってくれた、あの時に噛んでしまえば良かった、いやだめだ、そんな一時の感情で噛んでしまうのは。やはり傷付くのはオメガだ。
 オメガは色々なものを背負い過ぎている、自分に不都合なものばかり。
 だからこそ、それを許すオメガが尊い愛しいものになるのだろうけれど。


 ◇◇◇

 大学生の夏休みは長い。自堕落な生活をする期間だった、去年までは。
 今は凜に合わせて、多少……多少、だけどましになってきたけど。
 夏休み。つまり凜とかおをあわす機会が増えるということ。
 ……別に丸々家にいる訳ではない。社会勉強も兼ねて、たまに親父のところでバイトもしていた。
 継ぐのは兄だけれど、俺だって入社予定ではある。ちょっとした雑務とかおを売るくらいの緩いものではあったけど。

 琉や咲人と会う時は、凜も連れて行った、そうしないと咲人は煩いし、置いていく理由もない。
 それ以外の友人だと、まあ凜を置いて出掛けることになるが、それはそうそうなかった。外でまで付き合う友人はそう多くないから。

 約束通り、晴れた日に水族館も動物園も行ったし、映画館や買い物なんかの定番は一通り行った。旅行こそ行かなかったものの、咲人に強請られて一緒にテーマパークだって。
 その度に凜はとても嬉しそうに笑っていたし、俺もそこそこ満足していた。

 ただ、話をする切っ掛けがなかった。それだけ。
 一緒にいる時間が増えても、俺も凜も話をするのがこわくて、それを避けていただけ。
 核心を突かなければ、このままの穏やかな時間が流れていく。時間が解決してくれるような悩みではない、それでも、俺達はお互い違う意味で臆病だった。
 俺が歩み寄らないといけない、でも、断られてしまった。
 そんな俺に何が出来る?

「もうおれからヒントは出さないよ、アドバイスもね」

 咲人はそう言った。
 これ以上は自分が言っても無駄だし、意味がないからと。
 凜にも何も言わないし、ふたりで解決しろと。
 解決も何も。なにひとつ進んでないどころか、俺としては下がっている気分なんだけど。

 実際その後も何度か咲人たちとは外で会ったり、うちに遊びに来たりしたけれど、そのことで凜に変わりはない。
 嬉しそうではあるけれど、なにか話をしている感じではなかった。
 凜は我慢をする子だ、それだって、凜が抱えきれなくなるまで我慢をしていたのか俺にはわからない。俺には言って欲しいのに、きっと原因が俺だから、凜は言えない。
 自分で自分が嫌になる、なんて面倒臭い男。
 たったひとりを番にする愛情も器も勇気も覚悟も何もないなんて。

 そうやってふたりが逃げて逃げて逃げて、そしてまた凜のヒートがやってくる。
 九月、まだまだエアコンがフル稼働のあっつい季節。
 それを目前にして、凜がもじもじとしながらどうしますか、と訊いてきた。
 この頃にはもう俺だってわかっていた。
 抱いて下さい、噛んで下さいではないということ。

「……凜はどっちが楽?俺がいるのと家を空けた方と」
「……ここは、玲司さんのお家なので……ぼくはどちらでも」

 この、どちらも貴方の言うことを聞きますよという狡いスタンス。
 俺は凜にどうしてほしいか言ってほしいし、凜は俺に冷たくされたら傷付く癖に、甘えることが出来ない。

「……また俺、ホテルでも行っといた方がいい?」
「あ、ぼくが出ていっても……ぼくのヒートだし、」
「それは駄目かな、誰かに襲われたらどうすんの」
「外に出なければいいので……」
「駄目だよ、うちにいて」

 他所であのにおいを撒き散らされても困る。誰かのものになった凜を想像したくもない。

「……ひとりだと食事も碌に摂らないって聞いたけど……凜がって訳じゃないけど」
「……」
「俺がいたらこないだみたいに食事や洗濯とか世話出来るよ」
「そんな、してもらう訳には……」
「出て行った方がいい?」
「……絶対、とは言えないけど、でも、いると……玲司さんのにおい、気になっちゃう……」

 頬を染めて俯く凜、これで誘ってる訳ではないのだから頭が痛くなる。
 だから傍にいて、ではなく、だから出ていってほしい、なのだ。俺がいない方がましだと言われてるのだ。少しどころではなく、へこんでしまう。
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