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またしてもぎこちないまま日々は過ぎて、真夏になってしまった。
凜はやはり何も無かったように振る舞うし、俺も甘やかし月間は続けながらも核心には触れない、触れられなかった。
番になってあげたい、なりたい、俺のものにしたい。
でもその気持ちがいつまで続く?
俺はあの母の子だ、オメガとアルファ、その違いはあっても、移り気なところ、流されるところ、裏切ってしまうところが似ていたらどうしたらいい?そう考えるとぞっとした。
愛してるよ、結婚しよう、番になろう、そう約束をして、どれだけのひとが離婚した?番の解除をした?
納得しての離縁もあるだろう、でもただの契約ではない、オメガには大分負担が大きいと聞く。
そうなった時に凜は?
俺は勝手な俺の気持ちで、それだけで、またあの子を泣かすかもしれない、俺が母の立場になるかもしれない。それが凄くこわい。
勿論俺が捨てられる未来もある。凜は裏切らないと言ってくれた、噛んでもいいと言ってくれた、あの時に噛んでしまえば良かった、いやだめだ、そんな一時の感情で噛んでしまうのは。やはり傷付くのはオメガだ。
オメガは色々なものを背負い過ぎている、自分に不都合なものばかり。
だからこそ、それを許すオメガが尊い愛しいものになるのだろうけれど。
◇◇◇
大学生の夏休みは長い。自堕落な生活をする期間だった、去年までは。
今は凜に合わせて、多少……多少、だけどましになってきたけど。
夏休み。つまり凜とかおをあわす機会が増えるということ。
……別に丸々家にいる訳ではない。社会勉強も兼ねて、たまに親父のところでバイトもしていた。
継ぐのは兄だけれど、俺だって入社予定ではある。ちょっとした雑務とかおを売るくらいの緩いものではあったけど。
琉や咲人と会う時は、凜も連れて行った、そうしないと咲人は煩いし、置いていく理由もない。
それ以外の友人だと、まあ凜を置いて出掛けることになるが、それはそうそうなかった。外でまで付き合う友人はそう多くないから。
約束通り、晴れた日に水族館も動物園も行ったし、映画館や買い物なんかの定番は一通り行った。旅行こそ行かなかったものの、咲人に強請られて一緒にテーマパークだって。
その度に凜はとても嬉しそうに笑っていたし、俺もそこそこ満足していた。
ただ、話をする切っ掛けがなかった。それだけ。
一緒にいる時間が増えても、俺も凜も話をするのがこわくて、それを避けていただけ。
核心を突かなければ、このままの穏やかな時間が流れていく。時間が解決してくれるような悩みではない、それでも、俺達はお互い違う意味で臆病だった。
俺が歩み寄らないといけない、でも、断られてしまった。
そんな俺に何が出来る?
「もうおれからヒントは出さないよ、アドバイスもね」
咲人はそう言った。
これ以上は自分が言っても無駄だし、意味がないからと。
凜にも何も言わないし、ふたりで解決しろと。
解決も何も。なにひとつ進んでないどころか、俺としては下がっている気分なんだけど。
実際その後も何度か咲人たちとは外で会ったり、うちに遊びに来たりしたけれど、そのことで凜に変わりはない。
嬉しそうではあるけれど、なにか話をしている感じではなかった。
凜は我慢をする子だ、それだって、凜が抱えきれなくなるまで我慢をしていたのか俺にはわからない。俺には言って欲しいのに、きっと原因が俺だから、凜は言えない。
自分で自分が嫌になる、なんて面倒臭い男。
たったひとりを番にする愛情も器も勇気も覚悟も何もないなんて。
そうやってふたりが逃げて逃げて逃げて、そしてまた凜のヒートがやってくる。
九月、まだまだエアコンがフル稼働のあっつい季節。
それを目前にして、凜がもじもじとしながらどうしますか、と訊いてきた。
この頃にはもう俺だってわかっていた。
抱いて下さい、噛んで下さいではないということ。
「……凜はどっちが楽?俺がいるのと家を空けた方と」
「……ここは、玲司さんのお家なので……ぼくはどちらでも」
この、どちらも貴方の言うことを聞きますよという狡いスタンス。
俺は凜にどうしてほしいか言ってほしいし、凜は俺に冷たくされたら傷付く癖に、甘えることが出来ない。
「……また俺、ホテルでも行っといた方がいい?」
「あ、ぼくが出ていっても……ぼくのヒートだし、」
「それは駄目かな、誰かに襲われたらどうすんの」
「外に出なければいいので……」
「駄目だよ、うちにいて」
他所であのにおいを撒き散らされても困る。誰かのものになった凜を想像したくもない。
「……ひとりだと食事も碌に摂らないって聞いたけど……凜がって訳じゃないけど」
「……」
「俺がいたらこないだみたいに食事や洗濯とか世話出来るよ」
「そんな、してもらう訳には……」
「出て行った方がいい?」
「……絶対、とは言えないけど、でも、いると……玲司さんのにおい、気になっちゃう……」
頬を染めて俯く凜、これで誘ってる訳ではないのだから頭が痛くなる。
だから傍にいて、ではなく、だから出ていってほしい、なのだ。俺がいない方がましだと言われてるのだ。少しどころではなく、へこんでしまう。
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