48 / 80
3
48
しおりを挟む◇◇◇
またしてもぎこちないまま日々は過ぎて、真夏になってしまった。
凜はやはり何も無かったように振る舞うし、俺も甘やかし月間は続けながらも核心には触れない、触れられなかった。
番になってあげたい、なりたい、俺のものにしたい。
でもその気持ちがいつまで続く?
俺はあの母の子だ、オメガとアルファ、その違いはあっても、移り気なところ、流されるところ、裏切ってしまうところが似ていたらどうしたらいい?そう考えるとぞっとした。
愛してるよ、結婚しよう、番になろう、そう約束をして、どれだけのひとが離婚した?番の解除をした?
納得しての離縁もあるだろう、でもただの契約ではない、オメガには大分負担が大きいと聞く。
そうなった時に凜は?
俺は勝手な俺の気持ちで、それだけで、またあの子を泣かすかもしれない、俺が母の立場になるかもしれない。それが凄くこわい。
勿論俺が捨てられる未来もある。凜は裏切らないと言ってくれた、噛んでもいいと言ってくれた、あの時に噛んでしまえば良かった、いやだめだ、そんな一時の感情で噛んでしまうのは。やはり傷付くのはオメガだ。
オメガは色々なものを背負い過ぎている、自分に不都合なものばかり。
だからこそ、それを許すオメガが尊い愛しいものになるのだろうけれど。
◇◇◇
大学生の夏休みは長い。自堕落な生活をする期間だった、去年までは。
今は凜に合わせて、多少……多少、だけどましになってきたけど。
夏休み。つまり凜とかおをあわす機会が増えるということ。
……別に丸々家にいる訳ではない。社会勉強も兼ねて、たまに親父のところでバイトもしていた。
継ぐのは兄だけれど、俺だって入社予定ではある。ちょっとした雑務とかおを売るくらいの緩いものではあったけど。
琉や咲人と会う時は、凜も連れて行った、そうしないと咲人は煩いし、置いていく理由もない。
それ以外の友人だと、まあ凜を置いて出掛けることになるが、それはそうそうなかった。外でまで付き合う友人はそう多くないから。
約束通り、晴れた日に水族館も動物園も行ったし、映画館や買い物なんかの定番は一通り行った。旅行こそ行かなかったものの、咲人に強請られて一緒にテーマパークだって。
その度に凜はとても嬉しそうに笑っていたし、俺もそこそこ満足していた。
ただ、話をする切っ掛けがなかった。それだけ。
一緒にいる時間が増えても、俺も凜も話をするのがこわくて、それを避けていただけ。
核心を突かなければ、このままの穏やかな時間が流れていく。時間が解決してくれるような悩みではない、それでも、俺達はお互い違う意味で臆病だった。
俺が歩み寄らないといけない、でも、断られてしまった。
そんな俺に何が出来る?
「もうおれからヒントは出さないよ、アドバイスもね」
咲人はそう言った。
これ以上は自分が言っても無駄だし、意味がないからと。
凜にも何も言わないし、ふたりで解決しろと。
解決も何も。なにひとつ進んでないどころか、俺としては下がっている気分なんだけど。
実際その後も何度か咲人たちとは外で会ったり、うちに遊びに来たりしたけれど、そのことで凜に変わりはない。
嬉しそうではあるけれど、なにか話をしている感じではなかった。
凜は我慢をする子だ、それだって、凜が抱えきれなくなるまで我慢をしていたのか俺にはわからない。俺には言って欲しいのに、きっと原因が俺だから、凜は言えない。
自分で自分が嫌になる、なんて面倒臭い男。
たったひとりを番にする愛情も器も勇気も覚悟も何もないなんて。
そうやってふたりが逃げて逃げて逃げて、そしてまた凜のヒートがやってくる。
九月、まだまだエアコンがフル稼働のあっつい季節。
それを目前にして、凜がもじもじとしながらどうしますか、と訊いてきた。
この頃にはもう俺だってわかっていた。
抱いて下さい、噛んで下さいではないということ。
「……凜はどっちが楽?俺がいるのと家を空けた方と」
「……ここは、玲司さんのお家なので……ぼくはどちらでも」
この、どちらも貴方の言うことを聞きますよという狡いスタンス。
俺は凜にどうしてほしいか言ってほしいし、凜は俺に冷たくされたら傷付く癖に、甘えることが出来ない。
「……また俺、ホテルでも行っといた方がいい?」
「あ、ぼくが出ていっても……ぼくのヒートだし、」
「それは駄目かな、誰かに襲われたらどうすんの」
「外に出なければいいので……」
「駄目だよ、うちにいて」
他所であのにおいを撒き散らされても困る。誰かのものになった凜を想像したくもない。
「……ひとりだと食事も碌に摂らないって聞いたけど……凜がって訳じゃないけど」
「……」
「俺がいたらこないだみたいに食事や洗濯とか世話出来るよ」
「そんな、してもらう訳には……」
「出て行った方がいい?」
「……絶対、とは言えないけど、でも、いると……玲司さんのにおい、気になっちゃう……」
頬を染めて俯く凜、これで誘ってる訳ではないのだから頭が痛くなる。
だから傍にいて、ではなく、だから出ていってほしい、なのだ。俺がいない方がましだと言われてるのだ。少しどころではなく、へこんでしまう。
42
お気に入りに追加
1,136
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる