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この場合の正解は何だったんだろう、無言で買ってプレゼントする?でも確認しないでプレゼントして、もし親の形見です、なんてことになってたら地雷もいいとこじゃないか。
でも買いなよ、と促すのも何だかなあと思うし、でもこのぼろぼろのままの財布を使わせるのも……
というかだいじな子に色々買ってあげたいと思うのは割と自然な愛情ではないのだろうか。
「玲司さん?入らないんですか?」
そわそわした凜に声を掛けられてはっとした。
今はそんなことに悩んでる場合じゃないか。凜が玩具を取り上げられた仔犬みたいになっている。
「ごめん、入ろっか」
「大丈夫ですか、具合悪いとか……雨、濡れたし」
「あー、全然そーいうんじゃないから。ほら、ゆっくり回れるよ、行こ」
「あ」
「どした?」
「……手」
凜の腕を引くと、戸惑うように視線がそこに行く。
嫌かと訊くと首を横に振り、そうじゃなくて、と呟く。
……嬉しい?と訊くと、今度は躊躇いがちに、縦に小さく頷く。
つい笑ってしまった。こういうところは昔と変わらない。こどもの頃も手を繋いだり抱っこをされるのがすきだったのを思い出す。
「手ェ繋いでく?」
「え、でも、えっ、いっいいんですか」
「いいよ手ェぐらい、そんなひといっぱいいるでしょ」
「……えっと、じゃあ、いっ、いっかい、離してもらって」
「?」
意味がわからないまま腕を離すと、慌てたように服をぎゅうと掴み、それからそっと手を出してきた。
手汗を拭ったのだ、と気付くと、そんなことで、とは思うんだけど胸がきゅっとした。かわいい。少女漫画か。
少し冷たい凜の手を握ると、ふふ、と笑い声が聞こえた。
視線を下げると、嬉しそうに笑った凜が、玲司さんの手おっきい、と呟く。
……この間と同じことを言うのを止めてほしい、最中のことなんてあの状態の凜は覚えてないだろうけれど、だからこそ本音って感じで愛おしくなる。
誤魔化すように、ほら行くぞ、と少し乱暴な言い方になってしまった。
かわいい、もう、弟分とかじゃなくて、俺はこの子のことをそういう意味でかわいいと思ってしまってる、そう自覚してからは、語彙力なんてものはなく、かわいいなあとすぐに思ってしまうようになった。
だってもう、純粋に単純に、それしか出てこない。
「わ……すごい、あお」
薄暗くて青い空間に、凜はそのまま呟いた。ああもう、こどもみたいな反応、そんなとこすらかわいい。
うわあ広い、あっちに海月がいますよ、これテレビでこないだ見ました、あっ、大きな水槽、これ壊れたら溺れちゃいますね、鮫って他の魚食べちゃわないんでしょうか、すごい、上の方で魚泳いでますよ!……壊れないものなんですねえ、
殆ど客もいないし、ゆっくり回ればいいと思っていた。
だけど凜のテンションは段々と上がっていき、気付けば俺が手を引かれるようにして進んでいた。
凜が喜んでいるならそれでいいのだけれど。
「かわいい」
水槽の中で泳ぐラッコを見て凜が言う。お前の方がかわいいよと馬鹿みたいなことを言う気はないけれど、……いや、こどものように瞳を輝かせる凜はとてもかわいいけど。
「凜は泳げるの」
「……わかんないです」
「わかんない?」
「オメガだろうな、って思ってから、プールとか海とか行ってなくて」
「こどもの時から?」
「こどもの時は……何となくこわくて、それからはもし何か間違いがあったら、そのひとの人生狂わせちゃうんだよなって思ったら、やっぱりそれもこわくて」
「……」
そうなった時に人生狂う、というのはアルファよりオメガの方なのに。
そう考えてしまうのは、凜の性格でもあり、それ以上に世がそうなっているからだ。
オメガを守るようになってきてはいるけれど、それは表向き、まだまだアルファが優位の世界だ。
「……今度プールか海行こうか」
「あ、いや、大丈夫……」
「俺がいたら大丈夫でしょ」
「だ、大丈夫……だけど、だいじょぶじゃない、かも……」
ぎゅう、と繋いだ手に力が入って、俯いた凜は周りが青いのに、それでも紅くなったのがわかる。
ヒートきちゃうもんね、とからかおうとして止めた。こんなとこで出す色気じゃない。今日はそういう日じゃない。
「やっぱりショーはやってないかあ、まあステージ外だし閉まってないだけよかったか」
他の話で逸らし、でも内心、貸切か何かの形で連れていきたいな、なんて考えていた。
俺だってわざわざ誰かに凜の水着姿を見させたいとは思わない。でもそれはそれとして、凜の出来なかった楽しいこと、嬉しいこと、別にやらなくても良かったかなと思っちゃうこと、後からやっておけば良かったと後悔しそうなこと、そういう経験をさせてあげたいとは思う。
全くやったことないよりは、何かしらの経験を。
実際に海やプールに行っても泳げないかもしれない、カナヅチかもしれない。でもそれはそれで泳ぐ練習をしてもゆっくり休んでもいい。美味しいものでも食べて。
そんな普通の楽しみを、今更かもしれないけれど、それでも凜に知ってもらうのは悪いことではない。
「また今度来ようか、今度は晴れた日に」
楽しみなことは、約束は多い方がいい。凜にはもっと喜んでもらいたかった。
でも買いなよ、と促すのも何だかなあと思うし、でもこのぼろぼろのままの財布を使わせるのも……
というかだいじな子に色々買ってあげたいと思うのは割と自然な愛情ではないのだろうか。
「玲司さん?入らないんですか?」
そわそわした凜に声を掛けられてはっとした。
今はそんなことに悩んでる場合じゃないか。凜が玩具を取り上げられた仔犬みたいになっている。
「ごめん、入ろっか」
「大丈夫ですか、具合悪いとか……雨、濡れたし」
「あー、全然そーいうんじゃないから。ほら、ゆっくり回れるよ、行こ」
「あ」
「どした?」
「……手」
凜の腕を引くと、戸惑うように視線がそこに行く。
嫌かと訊くと首を横に振り、そうじゃなくて、と呟く。
……嬉しい?と訊くと、今度は躊躇いがちに、縦に小さく頷く。
つい笑ってしまった。こういうところは昔と変わらない。こどもの頃も手を繋いだり抱っこをされるのがすきだったのを思い出す。
「手ェ繋いでく?」
「え、でも、えっ、いっいいんですか」
「いいよ手ェぐらい、そんなひといっぱいいるでしょ」
「……えっと、じゃあ、いっ、いっかい、離してもらって」
「?」
意味がわからないまま腕を離すと、慌てたように服をぎゅうと掴み、それからそっと手を出してきた。
手汗を拭ったのだ、と気付くと、そんなことで、とは思うんだけど胸がきゅっとした。かわいい。少女漫画か。
少し冷たい凜の手を握ると、ふふ、と笑い声が聞こえた。
視線を下げると、嬉しそうに笑った凜が、玲司さんの手おっきい、と呟く。
……この間と同じことを言うのを止めてほしい、最中のことなんてあの状態の凜は覚えてないだろうけれど、だからこそ本音って感じで愛おしくなる。
誤魔化すように、ほら行くぞ、と少し乱暴な言い方になってしまった。
かわいい、もう、弟分とかじゃなくて、俺はこの子のことをそういう意味でかわいいと思ってしまってる、そう自覚してからは、語彙力なんてものはなく、かわいいなあとすぐに思ってしまうようになった。
だってもう、純粋に単純に、それしか出てこない。
「わ……すごい、あお」
薄暗くて青い空間に、凜はそのまま呟いた。ああもう、こどもみたいな反応、そんなとこすらかわいい。
うわあ広い、あっちに海月がいますよ、これテレビでこないだ見ました、あっ、大きな水槽、これ壊れたら溺れちゃいますね、鮫って他の魚食べちゃわないんでしょうか、すごい、上の方で魚泳いでますよ!……壊れないものなんですねえ、
殆ど客もいないし、ゆっくり回ればいいと思っていた。
だけど凜のテンションは段々と上がっていき、気付けば俺が手を引かれるようにして進んでいた。
凜が喜んでいるならそれでいいのだけれど。
「かわいい」
水槽の中で泳ぐラッコを見て凜が言う。お前の方がかわいいよと馬鹿みたいなことを言う気はないけれど、……いや、こどものように瞳を輝かせる凜はとてもかわいいけど。
「凜は泳げるの」
「……わかんないです」
「わかんない?」
「オメガだろうな、って思ってから、プールとか海とか行ってなくて」
「こどもの時から?」
「こどもの時は……何となくこわくて、それからはもし何か間違いがあったら、そのひとの人生狂わせちゃうんだよなって思ったら、やっぱりそれもこわくて」
「……」
そうなった時に人生狂う、というのはアルファよりオメガの方なのに。
そう考えてしまうのは、凜の性格でもあり、それ以上に世がそうなっているからだ。
オメガを守るようになってきてはいるけれど、それは表向き、まだまだアルファが優位の世界だ。
「……今度プールか海行こうか」
「あ、いや、大丈夫……」
「俺がいたら大丈夫でしょ」
「だ、大丈夫……だけど、だいじょぶじゃない、かも……」
ぎゅう、と繋いだ手に力が入って、俯いた凜は周りが青いのに、それでも紅くなったのがわかる。
ヒートきちゃうもんね、とからかおうとして止めた。こんなとこで出す色気じゃない。今日はそういう日じゃない。
「やっぱりショーはやってないかあ、まあステージ外だし閉まってないだけよかったか」
他の話で逸らし、でも内心、貸切か何かの形で連れていきたいな、なんて考えていた。
俺だってわざわざ誰かに凜の水着姿を見させたいとは思わない。でもそれはそれとして、凜の出来なかった楽しいこと、嬉しいこと、別にやらなくても良かったかなと思っちゃうこと、後からやっておけば良かったと後悔しそうなこと、そういう経験をさせてあげたいとは思う。
全くやったことないよりは、何かしらの経験を。
実際に海やプールに行っても泳げないかもしれない、カナヅチかもしれない。でもそれはそれで泳ぐ練習をしてもゆっくり休んでもいい。美味しいものでも食べて。
そんな普通の楽しみを、今更かもしれないけれど、それでも凜に知ってもらうのは悪いことではない。
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