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抑制剤は誰彼構わず誘うようなフェロモンを抑えると同時に、躰の疼きを多少抑えることも出来るという。
あくまでも多少。自分で経験したことがないからどのレベルかなんてわからないけど。
いちばんは番に処理してもらうこと。
それが出来ないオメガは自分で慰めるしかない訳だけど……
キツそうだったな、あれ。
ぞっとする程くらくらする甘いにおい、オメガ嫌いの俺でも飛びつきたくなるような。
そうやって誰かを誘いながら自分で処理をすることは、本人達からしても酷く惨めだろう。
どうしようも出来ないなら、少しでも凜に合う薬を見つけてあげたい。
「……検査ってこわいでしょうか」
「え」
「あっごめんなさい、こどもみたいなこと言っちゃって……あの、病院とかそんなに……行ったことないから、悪い想像ばっかりしちゃって……」
「俺も咲人も行くから大丈夫、俺も診察してもらう予定」
「……?」
「今はアルファの抑制剤もあるんだって。お互い自衛しろってことかな。一応、持っておいてもいいかなって」
俺が飲むことで発情期のオメガを落ち着かせることは出来ないけれど、俺のせいでそれを引き摺り出されるオメガが出ないならそれに越したことはない。
それにあの時のことを考えると……次に近い場所であの甘ったるいかおりを嗅いで襲わないでいられる自信があるかというと簡単には頷けない。
だから凜だけではなく、俺にも必要なものなのだ。
「咲人さんも?」
「咲人と琉は付き添い、別に来なくたっていいんだけどさ、……凜に会いたいんだって」
「……!」
「嬉しい?」
「嬉しいです……」
「……ふうん」
一度しか会ったことのない咲人に懐くのはまあ……同じオメガだし、相談だってしやすいだろう。あの性格だ、色々な意味で話しやすいと思う。一緒に寝たし、連絡も取り合ってるようだし。
面白くないといえば面白くないけれど、その関係を取り上げようとは思わない。
今までそう近い友人も作れなかっただろう、そう考えると咲人は丁度いい相手だと思う。性格も、立場としても。
でも琉は駄目だ、あいつは駄目だ、咲人に夢中だから大丈夫だろうとは思うけどそういう一途なところを含めてオメガからしたら魅力のある男だろう、だから本当は琉に会わせたくない。
もう会ったけど。あの時と、恐らく咲人は多少なりとも琉のことを惚気けてる筈、それで凜がいいなと惹かれていてもおかしくはない。
甘い整った顔と優しい声、柔らかい物腰、あいつはアルファでなくてもきっとモテた、そういうやつだ。
凜に関しては完全に俺の自業自得なんだけど。
「明日講義あるから、終わったら迎えに戻ってくるから準備してて」
「はい!……何か持ってくのとかってありますか?」
「ないよ、そんなの」
ふ、と笑ってしまう。
ひとによっては馬鹿にしてるのか、と思われたかもしれない。
でも凜は頬を少し紅くして、そのまま俯いた。
番にしてもらおうなんて思ってない、そう言っていたけど。
本音としてはその通りなんだろうか。
反応からして、凜は俺のこと、普通に好意を持ってるんじゃないか、本当は番が欲しいんじゃないか、と勘繰ってしまう。
そりゃあオメガからしたら番がいた方が楽だろう。
ヒート中だけでも違う筈だ。
……俺に、番になってほしい、とか、そういう意味で思ってないのだろうか。
「あの、起きれなくなっちゃうんで、その、もう、えっと、寝ます、ね」
「あ、うん」
「おやすみなさい」
もうちょっとちゃんと話をしたいと思ったけれど、おやすみなさいとはにかんで言う凜がかわいくて、そのままおやすみ、と返してしまった。
ここに来た時、おはようもおやすみもちゃんと凜は口にしていたけれど、いつからかそれはなくなって、たまに、気まずい空気が流れた時に何となく出るくらいのものだった。
多分、俺がそういう、話すなってオーラを出していたから、凜は空気を読んだ形でそうなったんだと思う。
でも今のおやすみはそういうものではなく、寧ろ、そう言えるのが嬉しいといった表情だったものだから……かわいい。
どうしよう、番にする気もないのにかわいくてたまらない。
多分俺と凜の気持ちは少し違っていて擦れ違っているんだろうけど。
ふたつしか歳は離れてないのに、歳の離れた弟のようで、幼いこどものようで、つい猫かわいがりしたくなってしまう。
あの頃よりは大きくなっているというのに。
酷いことをして嫌われて、出ていって欲しいと思っていたのに、もうちょっと傍にいて欲しいなんて。
勝手な奴だと思う。
それはこの数日で散々思い知った。それでもいいと凜が言ってくれたのなら、後はそれを挽回するだけなんだけれど。
◇◇◇
「凜ちゃん!」
久し振り、と車のドアを開けて、大きな声で咲人が凜を呼ぶ。
小走りで寄ってきた凜は助手席と見比べて、そのまま咲人に呼ばれた後部座席に収まった。
今日は案内をするからとのことで助手席には琉が座っている。あの時みたいに助手席に座れと言われると思ってたのかな、と考えると、悪いけれど少し笑ってしまう。反応が素直でかわいいなと。
ナビ役だから琉が助手席なんてのは言い訳で、咲人が凜と並んで座りたいだけなのだ、ミラーに映るふたりが微笑ましい。
あくまでも多少。自分で経験したことがないからどのレベルかなんてわからないけど。
いちばんは番に処理してもらうこと。
それが出来ないオメガは自分で慰めるしかない訳だけど……
キツそうだったな、あれ。
ぞっとする程くらくらする甘いにおい、オメガ嫌いの俺でも飛びつきたくなるような。
そうやって誰かを誘いながら自分で処理をすることは、本人達からしても酷く惨めだろう。
どうしようも出来ないなら、少しでも凜に合う薬を見つけてあげたい。
「……検査ってこわいでしょうか」
「え」
「あっごめんなさい、こどもみたいなこと言っちゃって……あの、病院とかそんなに……行ったことないから、悪い想像ばっかりしちゃって……」
「俺も咲人も行くから大丈夫、俺も診察してもらう予定」
「……?」
「今はアルファの抑制剤もあるんだって。お互い自衛しろってことかな。一応、持っておいてもいいかなって」
俺が飲むことで発情期のオメガを落ち着かせることは出来ないけれど、俺のせいでそれを引き摺り出されるオメガが出ないならそれに越したことはない。
それにあの時のことを考えると……次に近い場所であの甘ったるいかおりを嗅いで襲わないでいられる自信があるかというと簡単には頷けない。
だから凜だけではなく、俺にも必要なものなのだ。
「咲人さんも?」
「咲人と琉は付き添い、別に来なくたっていいんだけどさ、……凜に会いたいんだって」
「……!」
「嬉しい?」
「嬉しいです……」
「……ふうん」
一度しか会ったことのない咲人に懐くのはまあ……同じオメガだし、相談だってしやすいだろう。あの性格だ、色々な意味で話しやすいと思う。一緒に寝たし、連絡も取り合ってるようだし。
面白くないといえば面白くないけれど、その関係を取り上げようとは思わない。
今までそう近い友人も作れなかっただろう、そう考えると咲人は丁度いい相手だと思う。性格も、立場としても。
でも琉は駄目だ、あいつは駄目だ、咲人に夢中だから大丈夫だろうとは思うけどそういう一途なところを含めてオメガからしたら魅力のある男だろう、だから本当は琉に会わせたくない。
もう会ったけど。あの時と、恐らく咲人は多少なりとも琉のことを惚気けてる筈、それで凜がいいなと惹かれていてもおかしくはない。
甘い整った顔と優しい声、柔らかい物腰、あいつはアルファでなくてもきっとモテた、そういうやつだ。
凜に関しては完全に俺の自業自得なんだけど。
「明日講義あるから、終わったら迎えに戻ってくるから準備してて」
「はい!……何か持ってくのとかってありますか?」
「ないよ、そんなの」
ふ、と笑ってしまう。
ひとによっては馬鹿にしてるのか、と思われたかもしれない。
でも凜は頬を少し紅くして、そのまま俯いた。
番にしてもらおうなんて思ってない、そう言っていたけど。
本音としてはその通りなんだろうか。
反応からして、凜は俺のこと、普通に好意を持ってるんじゃないか、本当は番が欲しいんじゃないか、と勘繰ってしまう。
そりゃあオメガからしたら番がいた方が楽だろう。
ヒート中だけでも違う筈だ。
……俺に、番になってほしい、とか、そういう意味で思ってないのだろうか。
「あの、起きれなくなっちゃうんで、その、もう、えっと、寝ます、ね」
「あ、うん」
「おやすみなさい」
もうちょっとちゃんと話をしたいと思ったけれど、おやすみなさいとはにかんで言う凜がかわいくて、そのままおやすみ、と返してしまった。
ここに来た時、おはようもおやすみもちゃんと凜は口にしていたけれど、いつからかそれはなくなって、たまに、気まずい空気が流れた時に何となく出るくらいのものだった。
多分、俺がそういう、話すなってオーラを出していたから、凜は空気を読んだ形でそうなったんだと思う。
でも今のおやすみはそういうものではなく、寧ろ、そう言えるのが嬉しいといった表情だったものだから……かわいい。
どうしよう、番にする気もないのにかわいくてたまらない。
多分俺と凜の気持ちは少し違っていて擦れ違っているんだろうけど。
ふたつしか歳は離れてないのに、歳の離れた弟のようで、幼いこどものようで、つい猫かわいがりしたくなってしまう。
あの頃よりは大きくなっているというのに。
酷いことをして嫌われて、出ていって欲しいと思っていたのに、もうちょっと傍にいて欲しいなんて。
勝手な奴だと思う。
それはこの数日で散々思い知った。それでもいいと凜が言ってくれたのなら、後はそれを挽回するだけなんだけれど。
◇◇◇
「凜ちゃん!」
久し振り、と車のドアを開けて、大きな声で咲人が凜を呼ぶ。
小走りで寄ってきた凜は助手席と見比べて、そのまま咲人に呼ばれた後部座席に収まった。
今日は案内をするからとのことで助手席には琉が座っている。あの時みたいに助手席に座れと言われると思ってたのかな、と考えると、悪いけれど少し笑ってしまう。反応が素直でかわいいなと。
ナビ役だから琉が助手席なんてのは言い訳で、咲人が凜と並んで座りたいだけなのだ、ミラーに映るふたりが微笑ましい。
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