【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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でも、だって初めてだったから

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 そんなこんなでふたり、仲良く暮らしている。
 夢のような生活だった。
 和音は元々頑張ることに抵抗がない子だった。オメガがアルファの振りをしていたのだ、学生時から並大抵の努力の仕方ではない。頑固ともいう。
 本人曰くやさぐれていたらしいが、今は頑張って毎日を過ごしている。
 資格の勉強は勿論、家にいるのだからと、家事も今まで以上にやっていた。発情期来たら動けなくなっちゃうし、出来る時はする、と。俺としては無理をしてほしくはないんだけど。
 千晶くんを家に入れていいかと確認してきた時はわざわざ?と思ったのだけれど、どうやら色々教わってるらしい。
 千晶くんと花音ちゃんに関してはもうすきにしてもらって構わないんだけどな、ここは和音の家でもあるのだし。

 逆にうちの弟妹は軽く出禁にした。和音を構い倒すのが鬱陶しくて。
 別にいいのに、と和音は言うが、俺が嫌なの。
 だってあいつらかわいいかわいいと煩いんだ。そりゃあ和音はかわいいけれど、和音はもう俺のものだし、何より他のアルファに見せるのは家族であれどなんだか嫉妬してしまう。花音ちゃんは仕方ないとわかってる。本能なのだろう。
 なので外で会うのはまあセーフにしておこうかな。

 意外だったのは、律稀が和音に興味を示したこと。
 元々懐っこい奴ではあったけれど、ゆうま先輩のかわいい番、会ってみたいな~と、連絡が来た。
 後からばれてまずいことになる前に紹介しようとは思っていたけれど、律稀が和音に変なことを吹き込むとは思わないけれど。でも乗り気の律稀には怪しいぞ、と思ってしまった。
 結果、その心配は当たってしまった。
 仲良くなってしまったのである。

 和音にとっては千晶くん以外で初めての同い歳のオメガの友人になる。
 おれ小学校の頃からともだち作れなかったから、なんて言う和音からその友人を取り上げることが出来なかった。
 家にいる時もチャットや電話、休みが合えば外出。
 千晶くんも含めて楽しくやってるらしい。……千晶くんいなかったら律稀も出禁にするとこだったぞ。

 和音からは昔からお世話になってるんだと女医を紹介された。
 智子せんせ。親戚みたいなもんなの。……今回のこと、両親には内緒だけど、智子せんせには話しちゃった。
 ごめんね、なんてしおらしく謝るものだから許した。かわいい。
 智子先生はバース性専門の、しかし本人はベータの医者だった。和音の母親の友人。
 ベータだからアルファもオメガも診察出来るわよ、何かあったらいらっしゃい、と名刺を渡された。
 ……大分キツめに注意を受ける覚悟はあったんだけど。
 その拍子抜けしたかおがわかりやすかったんだろうな、「今は」言うことないわよ、と向けられた笑顔が、次はないなと思った。もう泣かせません。

 和音は愛された子だ。
 両親も花音ちゃんも、智子先生にも。
 ただ自分の性に納得いかなくて周りと上手く出来なかっただけ。
 俺はたまたまアルファだっただけで、この性に悩まされるひとはたくさんいる。あれだけ明るい律稀もそうだ。
 その中でもがいてきた和音は強い子だと思う。勿論それは環境に恵まれたからだともわかってる。
 意地っ張りで泣き虫で強くて我儘で、堪えることを知ってる子。
 でもそんな和音だから甘やかしてしまうし、それでいいと思ってる。


 ◆◆◆

「ほんとに大丈夫?休むよ、俺」
「んもー……大丈夫だったら。あんまり休み過ぎ、よくないよ、ヒート休暇ですら嫌がられるんだから」
「明日から休みは申請してるし、今日は誤差じゃん」
「今日の日帰り出張は前から決まってたでしょ、ほら、まだ大丈夫だから」

 ばしん、と背中を叩かれた。
 心配するのは仕方ないと思う。
 一緒に住んでから初めての発情期、本人はまだ大丈夫だというが、かおは紅く火照って体温も高い。
 和音は仕事に執着があるからか、ヒート休暇は当然取ってほしいが、それ以外の休みには割と煩い。
 他のひとの迷惑になるでしょ、有給?それはだいじな時にとっといて。でも明日からのヒート休暇は絶対取ってね。もうひとり、やだからね。
 そんなこと言われたら余計前日から休みたくなるんですけど。

「……すぐ帰って来るから。何か買ってくるものある?」
「んー、準備してるし……ないかなあ」
「プリンは?」
「食べる」
「じゃあ買ってくる」
「お店の?悠真さんのじゃなくて?」
「……玉子と生クリーム買ってくるね」

 やった、と笑うかおがかわいい。
 以前、買いに行く暇があったらすぐに来てほしかった、というようなことを言われたことがある。
 だから少し、迷ったんだけど。正解だったようだ。
 必ず帰ってくると信じてくれてるからかな。

「あと、もいっこお願い、していい?」
「何なに、なんでも聞く」

 もじもじ躊躇うのがかわいくてでれでれしてしまう。
 和音が甘えてくれることが嬉しくて仕方ない。
 あのね、と言いかけて、でもなあ、とまた口を噤む。
 ……このまま遅刻したら出張なくならないかな。そんなことになったら和音が病むか。

「いいよほら、言って」
「……引かない?」
「引かない引かない、今日も和音はかわいい。ほらどうぞ」
「……あのさあ、いつも、……その、悠真さんは抑制剤飲む、でしょ」
「うん?まあ、一応ね」
「狡くない?」
「は」
「だっておれ、抑制剤効かないのに」

 ……ごめんちょっと意味わかんない。
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