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「ともだち……ってか、その、俺も、ええと、取り敢えず和音に紹介したいのがひとりいて」
「誰?悠真さんの親友?」
「や、そんなんじゃなくて……友人……後輩……なんて言っていいのかわかんないけど、でも拗れる前に紹介しときたいってか……」
「?」
「悪い奴じゃない……いや、良い奴なんだけど。絶対普通に紹介したら和音、勘違いするから……ちゃんと、その内時間を取って必ず紹介するよ」
「うん……?おれは紹介するひとなんて家族と親戚くらいしか……あ、さとこせんせ、そう、バース科のね、智子先生っていう……医者で……母さんの友人なんだけど、ずっとお世話になってて……えと、今回の話もしてて」
「知ってんのお……」
「うん……あ、会ってくれる?」
俺めちゃくちゃ怒られそう、なんて言いながらも、いいよ、全然会うよ、挨拶するよ、和音を下さいって言うよ、とおれを抱き締めながら、半ばやけくそのように言う。
絶対に和音の周りのひとに認めてもらうから、と。
おれの何がそんなに気に入ってもらえたかなんてわかんないけど、でも、もうそれが一目惚れでもなんでもよかった。
どんどんすきになる。
知っていく毎に、話していく毎に。
そういうことの積み重ねなんだと思う。
出会ってすぐに運命だってわかるひともいるんだろう。
でもおれは、そうじゃなかった。
どんどん、悠真さんじゃないと駄目になってった。
おれが他人を知らないだけかもしれない。でもそんなのはどうでもいい。
そうなってしまえば、もう悠真さんがおれの運命になってしまったのだ。
唯一の、たったひとりの、運命のひと。
おれにとっては、後にも先にもいない、特別なひと。
「……あとさ、仕事、父さんのとこでしようかなって、思って」
「え、いいの、気にしてたでしょう、何なら俺のとことか、紹介とか」
「いいの、だって結婚したら、苗字も変わるし、オメガなの、ばれちゃうし」
「俺が婿に行ってもいいよ」
「いや継ぐんでしょ、会社。うちはかのんが継ぐし……」
悠真さんが焦ったり気を遣ってくれるのはわかるけれど、流石にそこら辺はどうしようもない、会社関係はたくさんのひとに関わってしまう問題なのだ。冷静になるってもんだ。
おれが、社長の息子が穂高グループの長男に嫁ぐとなれば多少は話が漏れてしまうかもしれない。
そうなってしまえばおれが隠す意味もなくなるし、それなら堂々とオメガとして働いてしまえばいいかなって。
社長の息子としてでかいかおで働くオメガは、もしかしたら他のオメガの社員を少しくらい手助け出来るかもしれない。
おれが大っぴらに休めば、他のひとも休みやすくなるかもしれない。
こうなったら社長の息子という特権を、次期社長のきょうだいという特権をフルに使ってしまえばいい。おれは元来図太いのだ、そうじゃなきゃあんな学生時代に我儘を通しきれなかった。
元々うちはオメガについて寛容な会社であるけど、どこにでも不満を持ってる者はいるもんだ。
アルファもベータもオメガも、花音とも話をして、少しずつ会社を良くしていけたら。
「なんて言っても、結局は父さんのところがいちばん我儘とか通せるからなんだけど」
「……いいと思うよ、使える権力は使えばいいし、だめだったらその時考えよう」
「……まだおれ、発情期、不安定みたいだし。他のとこで働くのはやっぱりこわいのもある……し、でも流石に働かなきゃ」
「別にうちにいてくれてもいいけど、和音がそうしたいなら俺も頑張ってとしか言えないよ、働きたいってずっと……言ってたしね」
「……だからごめん、こども、は、まだ」
「そりゃほしいけど、今はいいかな」
和音がすきに生きてほしいし、それより、と悠真さんの笑い声が耳に響いた。
頬に、目元に唇が落とされる。
「折角和音が俺のことをすきになってくれたんだもん、暫くは俺が和音を独り占めしたい」
そう言う悠真さんの瞳はきらきらしていた。
それこそまるで、こどものように。
思わず、おれも、と言ってしまった。
「おれも、悠真さん、おれだけっ……今は、もう少しくらいは、ふたりでいたい……」
「ん、」
まだまだ話し足りないことがある。
やってないことだって、やりたいことだってたくさんある。
悠真さんと一緒にやりたいのだ。
ひとりしかいない番を、知りたい、もっと。家族を増やすのは、それからだって出来る。
悠真さんの穏やかな声に眠気が引き摺り出される。
それはいやな感覚ではない。
起きた時に夢だったら、傍にいなかったら。
そんな不安はもう不思議となかった。すぐ横の体温が現実だとわかっているからだろうか。
「……指輪も買いに行こう、明日にでも、すぐ」
搦められた指先に、逃がさないと言いたげな執着を感じた。
鬱陶しかった首輪が噛み痕にかわり、見えなかった想いが指輪にかわる。
おれの下らない考えは悠真さんの存在で壊されて、新しい価値観や意識が芽生える。
それは多分、悠真さんも同じで、きっとふたりともいっぱい悩んだし不安になったし、これからだってそんなことは数え切れないくらいあるんだろう。
何かを糧に立ち止まる。
噛み痕だったり、指輪だったり、言葉だったりを確かめて。
それから名前を呼んで、そのかおを見れたらきっと安心する。
そんな小さなことでいい。
それだけでまた前に進める。たったひとりのひとに向かって。
この想いを運命にするのは、世界ではなくて自分たちなのだから。
「誰?悠真さんの親友?」
「や、そんなんじゃなくて……友人……後輩……なんて言っていいのかわかんないけど、でも拗れる前に紹介しときたいってか……」
「?」
「悪い奴じゃない……いや、良い奴なんだけど。絶対普通に紹介したら和音、勘違いするから……ちゃんと、その内時間を取って必ず紹介するよ」
「うん……?おれは紹介するひとなんて家族と親戚くらいしか……あ、さとこせんせ、そう、バース科のね、智子先生っていう……医者で……母さんの友人なんだけど、ずっとお世話になってて……えと、今回の話もしてて」
「知ってんのお……」
「うん……あ、会ってくれる?」
俺めちゃくちゃ怒られそう、なんて言いながらも、いいよ、全然会うよ、挨拶するよ、和音を下さいって言うよ、とおれを抱き締めながら、半ばやけくそのように言う。
絶対に和音の周りのひとに認めてもらうから、と。
おれの何がそんなに気に入ってもらえたかなんてわかんないけど、でも、もうそれが一目惚れでもなんでもよかった。
どんどんすきになる。
知っていく毎に、話していく毎に。
そういうことの積み重ねなんだと思う。
出会ってすぐに運命だってわかるひともいるんだろう。
でもおれは、そうじゃなかった。
どんどん、悠真さんじゃないと駄目になってった。
おれが他人を知らないだけかもしれない。でもそんなのはどうでもいい。
そうなってしまえば、もう悠真さんがおれの運命になってしまったのだ。
唯一の、たったひとりの、運命のひと。
おれにとっては、後にも先にもいない、特別なひと。
「……あとさ、仕事、父さんのとこでしようかなって、思って」
「え、いいの、気にしてたでしょう、何なら俺のとことか、紹介とか」
「いいの、だって結婚したら、苗字も変わるし、オメガなの、ばれちゃうし」
「俺が婿に行ってもいいよ」
「いや継ぐんでしょ、会社。うちはかのんが継ぐし……」
悠真さんが焦ったり気を遣ってくれるのはわかるけれど、流石にそこら辺はどうしようもない、会社関係はたくさんのひとに関わってしまう問題なのだ。冷静になるってもんだ。
おれが、社長の息子が穂高グループの長男に嫁ぐとなれば多少は話が漏れてしまうかもしれない。
そうなってしまえばおれが隠す意味もなくなるし、それなら堂々とオメガとして働いてしまえばいいかなって。
社長の息子としてでかいかおで働くオメガは、もしかしたら他のオメガの社員を少しくらい手助け出来るかもしれない。
おれが大っぴらに休めば、他のひとも休みやすくなるかもしれない。
こうなったら社長の息子という特権を、次期社長のきょうだいという特権をフルに使ってしまえばいい。おれは元来図太いのだ、そうじゃなきゃあんな学生時代に我儘を通しきれなかった。
元々うちはオメガについて寛容な会社であるけど、どこにでも不満を持ってる者はいるもんだ。
アルファもベータもオメガも、花音とも話をして、少しずつ会社を良くしていけたら。
「なんて言っても、結局は父さんのところがいちばん我儘とか通せるからなんだけど」
「……いいと思うよ、使える権力は使えばいいし、だめだったらその時考えよう」
「……まだおれ、発情期、不安定みたいだし。他のとこで働くのはやっぱりこわいのもある……し、でも流石に働かなきゃ」
「別にうちにいてくれてもいいけど、和音がそうしたいなら俺も頑張ってとしか言えないよ、働きたいってずっと……言ってたしね」
「……だからごめん、こども、は、まだ」
「そりゃほしいけど、今はいいかな」
和音がすきに生きてほしいし、それより、と悠真さんの笑い声が耳に響いた。
頬に、目元に唇が落とされる。
「折角和音が俺のことをすきになってくれたんだもん、暫くは俺が和音を独り占めしたい」
そう言う悠真さんの瞳はきらきらしていた。
それこそまるで、こどものように。
思わず、おれも、と言ってしまった。
「おれも、悠真さん、おれだけっ……今は、もう少しくらいは、ふたりでいたい……」
「ん、」
まだまだ話し足りないことがある。
やってないことだって、やりたいことだってたくさんある。
悠真さんと一緒にやりたいのだ。
ひとりしかいない番を、知りたい、もっと。家族を増やすのは、それからだって出来る。
悠真さんの穏やかな声に眠気が引き摺り出される。
それはいやな感覚ではない。
起きた時に夢だったら、傍にいなかったら。
そんな不安はもう不思議となかった。すぐ横の体温が現実だとわかっているからだろうか。
「……指輪も買いに行こう、明日にでも、すぐ」
搦められた指先に、逃がさないと言いたげな執着を感じた。
鬱陶しかった首輪が噛み痕にかわり、見えなかった想いが指輪にかわる。
おれの下らない考えは悠真さんの存在で壊されて、新しい価値観や意識が芽生える。
それは多分、悠真さんも同じで、きっとふたりともいっぱい悩んだし不安になったし、これからだってそんなことは数え切れないくらいあるんだろう。
何かを糧に立ち止まる。
噛み痕だったり、指輪だったり、言葉だったりを確かめて。
それから名前を呼んで、そのかおを見れたらきっと安心する。
そんな小さなことでいい。
それだけでまた前に進める。たったひとりのひとに向かって。
この想いを運命にするのは、世界ではなくて自分たちなのだから。
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