【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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「逃げない、もう、どっかいったりしないからっ……」
「うん」
「悠真さんも、他にその、番、とか」
「作んないよ」

 和音だけ。
 そう言ってまた首元に唇を落とし、項を軽く噛む。
 痕はつかない程度の甘噛みだけれど、その行為だけでまたお腹の奥がきゅう、とした。
 噛んでいいよ、噛んでほしい。
 何回だって噛んでいい。その度におれは悠真さんの番になったって、番なんだって気付く。
 悠真さんから与えられるその痕はおれだけのものだ。

「ッ、ん、あっ、ゆうまさあ、ん……っ」
「かわいい」
「あっ、ゔ!や、ァっ」
「はは、奥、きゅうきゅうする、気持ちいい?」
「きもちいっ……んう、ぅ、あ、ゆっ、ゆうま、さんっ、も、気持ちい……っ?」
「めちゃくちゃ気持ちいーよ、和音ん中。ずっといたいくらい、あったかい」

 ゆるゆるとした抽挿から、お互い快感を得る為の早いものに変わっていく。
 がくがく躰は揺さぶられて、お腹はあつくて、ナカはじんじんする。
 それなのに、痛いとか、激しいとか、そんなものよりもずつと、ただ気持ちよくて、満たされるような、そんな感情の方が強かった。
 悠真さんの声が、言葉が嬉しくて、かわいいなんて言われる度に軽くイっちゃったりなんかして。
 お腹の上はべちょべちょのぐちゃぐちゃで、悠真さんの硬いお腹に擦れたり当たると甘い声が漏れる。

「あ、またっ……んっう、ふか、深いのっ……きちゃ……っ」

 多分もうおれは考えられなくなる。
 前までは理性を失ってしまうのがこわかった、余計なことを口走ってしまいそうで。
 でも今なら、普段言えないことも伝えたっておかしくないんだ。

「あっ、あ、アっう、あ、ゆぅまさっ、んぅ……あ、すきっ、ゆぅ、まさん、っ」
「ん、俺も和音のこと、かわいい、すきだよ、……あーもう、めちゃくちゃかわいい……」
「あう、は、ゆーま、さんっ……あ、あ、あ……ッ」

 潤んだ視界に、同じく潤んだ瞳が映って、悠真さんの大きな手は頬と髪を撫でて、もう片手はおれの手と重なっていた。
 もっと近くにいたくて、口を開けると少し笑って、悠真さんも口を開けて、塞いだ。

「ンっ、んゔ、ぅ、ン──……っ」

 びく、と腰が跳ねて、お腹の中があつくなって、瞳の奥がちかちかする。
 和音、と名前を呼ぶ声に、繰り返すような、すき、というか細い声は多分自分のもの。
 ぎゅう、と悠真さんの指先を握って、それからおれの視界は真っ暗になった。


 ◇◇◇

「……?」

 瞳を開けた筈なのに真っ暗だった。
 いや、真っ暗とは違う、何か薄らと見えるから。
 なんだこれ、とそおっと触れてみると、あったかくて甘いにおいがふわっとした。
 ……悠真さんじゃん。

 一瞬固まって、それから慌てて離れ……られなかった。
 がっちり頭を抱えられていたから。
 でもおれが急に動いたことで、頭上から、ん、と声が聞こえて、一度またぎゅう、と腕の力が強くなって、すぐにだらんと力が抜けた。
 お陰でやっとそこから抜けることが出来た。
 と、同時に、和音、と名前を呼ばれる。
 そちらの方を見上げると、まだ眠そうなかおの悠真さんが、起きた?ともう一度名前を呼んだ。

「お、起きた……」
「ンー……おはよ、何か食べる?お腹空いてない?躰、大丈夫?」
「んぁ……ッ」

 腰に触れられた瞬間、甘ったるい声が出て、慌ててその口を塞いだ。
 悠真さんはそれでやっとぱっちりと覚醒したようで、驚いたようなかおをしたあと、口元を綻ばせて笑った。
 ……今のは絶対えっちなやつじゃなかったのに、躰がまだ、数時間のことを覚えてるようで、触られるとびくん、としてしまう。

「まだヒート中かな……」
「わ、わかん、ない、でも頭は……結構」

 混乱はしてるんだけど、発情期の時のような、もう何も考えられない、すきにして!って感じではない。
 躰だけが置いていかれてしまったような、そんな感覚。

 三時か、とおれの腕時計を見た悠真さんが呟く。
 暗い部屋の中で、それが夜中の三時だとわかる。
 ……悠真さんと千晶くんが来たのは朝だった。何時くらいだろう、普通のひとの出勤時間より少しずれた時間。
 それが九時前後だったとして……十八時間、経ってる。ほぼいちにち。
 腰が重くて、どんだけやってたんだよ、と我ながらヒート中の欲望にぞっとする。

 もう一度、大丈夫、と心配そうに訊かれて頷く。
 ぐう、とお腹が鳴った。

「あー、全然食べてないもんね」
「……悠真さんは」
「俺は食べたけど。和音起きなくて」
「……ごめん」
「何か食べよっか、何がいい?」

 ド深夜も深夜、普通なら躊躇う時間帯だけど、発情期の後は違う。
 食べられるなら食べる、そうじゃなきゃ色々と持たない。

「ラーメン……」
「夜中に食べたくなるやつだ」

 口にしてから、悠真さんの家になさそうだな、と思った。
 別に今なら何でも食べられる気がする、悠真さんの食事の残りでも構わない。
 そう思っていたのに、悠真さんはあるよ、とおれを起こして、そのまま抱き上げた。
 ラーメンならここじゃなくてリビング行こう、と。
 我儘を言うつもりではなかったんだけど、ここは自分の家ではなく悠真さんの家だ、リビングもまた行きたい、と思ってしまって、されるがまま、悠真さんの首に腕を回した。
 その時に見えてしまった、肩から背中にかけての傷痕。
 ……本当にあの爪痕はおれのだったんだ、と思い知らされたおれは視線を逸らすことくらいしか出来なかった。
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