【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

文字の大きさ
上 下
105 / 124
7

105*

しおりを挟む
 ふうふうと息が漏れる。
 少し息苦しいけど、悠真さんの服を汚してしまうよりずっと良い。
 汚さなくたって、綺麗に保てたって、誰も褒めてなんかくれないけど。

「ンっ、ふ、う、ゔ……んう、ンん……っ」

 足りないのはやっぱり足りない。
 けれどそれでも幾らかはましだった。
 悠真さん。
 ぎゅうってしてもらいたいなあ。
 いっぱいキスして、名前、呼んでもらって、お腹、あついのほしい。

「ゔ、う、ん、ふっ……う、ぅぐ、」

 自分の指で届くとこは浅いとこ。そこだってちゃんと気持ちいいけど、もっと気持ちいいとこを知ってるから、足りない。
 悠真さんのがほしい。
 奥、赤ちゃん出来るくらいいっぱい。
 だめだ、そんな理由、そんなのわかってるのに。
 あの時、産まない、なんて言わなければ。こっそり避妊薬なんて飲まなければ。少しくらい変わったりしただろうか。
 ……そんな訳ないか、結局先に番がいるのに変わりはない、どうせおれがまたうじうじ悩むだけだ。
 ひとつの命を巻き込まなかっただけ、避妊薬を飲んでいたおれを褒めてあげなきゃ。


 ◇◇◇

「ぅあ……」

 カーテンを開けっ放しだったせいで、眩しい朝日の中、強制的に起こされた。
 瞳がしぱしぱする。
 躰は特にすっきりとはしてなくて、頭もぼおっとしてるし、まだ熱っぽい。
 やっぱりこれは突発的なヒートじゃなくて、周期の狂った発情期なんだろう。

 まだ先の予定だったから、何の準備もしていない。
 辛うじて寝る前にお茶のペットボトルをベッド脇に置いていたくらい。
 それももう空だ。
 どうしよう、水も、ゼリー飲料のような喉を通りそうなものも用意していない。

 でもどうにか昨晩千晶くんには報告出来たから。
 早いねと言っていたし、多分おれのこの状態もわかってくれている筈。
 多分、きっと世話を焼きに来てくれる。
 何から何まで本当に申し訳ないんだけど。

「ン、ん……」

 悠真さんのシャツ。
 あんまり汚さずに済んだみたい。
 においを吸うだけで、また奥の方がきゅんとする。……だからそこ、おれの指じゃ届かないんだってば。

 ぐに、と唇に触れて、それから指先を咥える。
 ちゅう、と吸うだけで腰がぞくりとした。
 舌で嬲って、それから、上顎。
 キスをした時に悠真さんの舌に擦られると、気持ちよくて。
 そこを、指の腹で擦る。

「んぅ、ふ、ンゔぅ……っう」

 あ、口ん中、気持ちよくて、涎、出ちゃう、だめ、服、汚さないように……
 伸ばした袖で拭って、ついでに溢れた涙も拭った。
 どうしよ、口、さみしいからって、こんな、指でも気持ちよくなっちゃうなんて。
 でも悠真さんの指とは全然違う。
 もっと長くて、大きくて、これが悠真さんの指なら、口の中、もっといっぱいになっちゃう。
 いや、指じゃなくて、キスがいい。
 口の中がいっぱい、悠真さんの舌で埋まって、甘くて、少し苦しいくらいが気持ちよかったり、して。

「ん、ぅま、さん……っう」

 考えたって虚しくなるだけなのに、でもすぐ近くに悠真さんのにおいがするだけで止まらなくなってしまう。
 口の中を自分の指で蹂躙しながら、下半身に触れる。
 寝てしまう前まで弄っていたそこは十分柔らかい。難なく指を呑み込んで、すぐに一度達してしまった。

「んッ……ん、う……ッい、」

 自分の指を噛んでしまったけれど、そこまでの痛みは感じなかった。
 少しなら、痛いのも気持ちいいのかもしれない、ほんの少し、なら。
 その指をがじがじと甘噛みしながら、足を開いて指を動かす。
 少しでも奥に届かせたいんだけどそれは無理な話でもどかしい。

「ん、ん、ッう、ゔ~……!」

 泣いたって、癇癪起こしたってどうにもならないのに、こどもが唸るような声を出してしまう。
 口から指を離してしまうと、ずっと甘えたように名前を呼んでしまう気がした。
 ぎゅう、と指を締め付けて、爪先がシーツを蹴る。
 物足りない刺激でも、ヒート中の躰ならイけるようだ。

 ふう、はあ、と息を整えていると、しんとした部屋に、がちゃんと扉が開くような音が響いた。
 ……千晶くん?
 枕元のスマホは何も通知はなかった。
 いつもなら今から向かうね、とか、何かほしいものある?とか何かしらの連絡があるんだけど。
 同じマンションになったから、そんな報告もなかったのかな、と思いながら布団を被った。
 寝室を開ける時はノックをしてくれるし、発情期が来たとわかってるのだから、おれの状態だって想像もついてるだろうけど……だからといってこの姿を見られて平気な訳ではないし、流石に申し訳ない。

 ぎし、と廊下を歩く音にあれ、と思った。
 ……ふたり分、あるように聞こえる。
 花音?
 普段はこういう時、千晶くんしか来ない。おれに番が出来て、花音のフェロモンも関係ないとなっても、それでも。
 一応、気を遣ってくれていた、花音の強いアルファ性で、弱ったおれが更に体調を崩さないように、と。
 だから珍しいなと思った。
 何か買ってきたものとか運んでくれたとかかな。
 そのまま仕事、行くのかな。

 考えてる間に足音は寝室の前で止まり、いつもの、千晶くんの優しい声がノックと共に掛けられる。
 かずねくん、起きてる?大丈夫?
 そんな、いつもの声と、……甘いにおい。
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

処理中です...