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発情期でもないのにひとりで慰めてしまった日もあったし、ただ泣いてしまった日もあった。
でもキッチンに行ったって、リビングにいたって、悠真さんを探してしまって、やっぱりさみしくて。
引っ越したらベッドでしか思い出さなくなるかなって思ったけど、やっぱり思い出しちゃう。
夜はだめだな。昼だって思い出すけど、やっぱり夜はだめだ。
暗い部屋で、優しい声を待ってしまう。あたたかい体温を探してしまう。
明るくしても、笑顔を探してしまう。大きな手を探ってしまう。
甘いにおいも、口の中に甘ったるく残るものも、何も見つからなくて、悠真さん、と呟いた言葉がただぽつんと残ってしまうような、そんな虚しさだけが置いていかれてしまう。
慣れてしまうのかな、これ。慣れるのかな。
慣れてくれなきゃ困るな。就職とか、そんなこととか考える前に、おれの体調がおかしくなってしまいそう。
悠真さんから貰った腕時計は外せなくなってしまった。
外すのがこわくなった。
共有していたアプリは消した。新しく違うアプリを入れてみたけど、見慣れなくて少し、いやだ。
後おれに残されたのは、クリスマスプレゼントだっていって渡した下心の塊のあの服だけ。
気持ち悪いって思われそうだから誰にも言えないけど、密封出来る袋に詰めた。
本当はそれに包まれて巣作りとかしたかったけど、そんなことをしたら……悠真さんのにおい、すぐなくなっちゃって、もう次から使えなくなっちゃうから。
もうこれしかないんだから、どうしても我慢出来ないって時の為にとっておくことにした。
それはつまり、もう一生、おれの安心出来る場所は作れないってことなんだけど。
元よりたった数枚の衣服で作るようなものではないのかもしれないけど。
……まあもう今後誰ともしなければ妊娠なんてしないし、必要、ないのだろうけど。
昨夜も眠れなくて、その服の入った袋を抱いて寝た。においは当然しないんだけど。
トータルで寝れたのは二時間くらいだと思う。
「かのんちゃんは仕事、呼ばれちゃって」
「うん……」
「……かのんちゃんに言えないこと、あるんでしょう」
「……」
「だからといって僕には話して、なんて言えないけど」
「……っ、」
枕にかおを埋めたおれの頭を優しい手つきで撫でる。
そこには皆、優しく触れる。
花音の女性的な細い指先での撫で方とも、悠真さんの壊れ物を扱うかのような、でもたまに少しだけ強く感じる撫で方とも違って、千晶くんはおれの撫で方はまるで犬や猫にするような撫で方だな、と思う。
おれを落ち着かせようとする撫で方だ。
「ごめんね……」
「いいよお、気持ちが沈んでしまう時ってあるからね、今日はゆっくりしよ、僕が残りの片付け、してもいいし」
「……いい、ここにいてほしい」
千晶くんが花音の番だってちゃんとわかってる。オメガだって。
誰でもよかった訳じゃない。
でも今は、近くにいる千晶くんが嬉しかった。
悠真さんの代わりじゃない、花音の代わりでもない。
ぎゅうと千晶くんの手を掴んだ。あたたかい。
悠真さんじゃないけど。違うけど。わかってるけど。
安心出来る体温が気持ちよかった。
今は花音であってもアルファの近くにいるのが少し、こわくて。そんなこと、今までなかったのに。花音なら、家族なら大丈夫だったのに。
「……うん、いいよ、かずねくんが起きるまでここにいるから、ゆっくり寝ようね」
「……ん、」
ベッドに腰掛けて、おれの目元を優しく撫でる。
丁度良かった、と言ったら失礼かもしれない。
ひとりになりたいのに、ひとりになりたくなかった。
千晶くんはおれにぐいぐいと来ないし、でも寄り添ってくれる。
あたたかくて、でもアルファを感じないことに安心する。
花音のにおいもほんのり混じって、それも少し、すき。花音本人より、柔らかくて……なんというか、今のおれには花音であっても両親であっても少し、アルファはこわかった。
悠真さんが良くて、悠真さんしかいやで、まるで躰が拒絶してるかのようで。
悠真さんのこと、忘れたい。
知らなかった時に戻りたい。
知ってしまったから、きっともう、ずっとほしがってしまう。
そんな自分がいやで、このまま消えてなくなればいいのにと思ってしまう。
オメガになんてなりたくなかった。
あのひとの運命になれないのなら、こんな性、邪魔でしかないのに。
◇◇◇
「ンー……」
「あ、起きた?どう?まだ眠たい?」
起き抜けに柔らかい声が降ってきた。
少し薄暗くなった部屋、電気も点けずに見下ろすのは千晶くんで、少し頭を整理する。
……ああそうだ、多分おれの昨日の態度が気になって……花音の出勤後、わざわざ来てくれたんだった。
それなのにおれはベッドから出ないどころか、寝るから傍にいろと強要してしまった。
「……ごめん」
「いいよお、僕が勝手に来たんだし。ね、お腹空いた?夕飯作ってくよ、何が食べたい?」
ここまで来て、それでもおれの不調の原因を訊いてはこない。
おれが自分で言うまで、話すことがあるまで待ってくれてるんだと思う。
……でも言ったって何も変わらないし。
逃げてきたくせに、さみしいなんて言えないし。
どうやったら忘れられるかなんて、千晶くんもわからないよね。
でもキッチンに行ったって、リビングにいたって、悠真さんを探してしまって、やっぱりさみしくて。
引っ越したらベッドでしか思い出さなくなるかなって思ったけど、やっぱり思い出しちゃう。
夜はだめだな。昼だって思い出すけど、やっぱり夜はだめだ。
暗い部屋で、優しい声を待ってしまう。あたたかい体温を探してしまう。
明るくしても、笑顔を探してしまう。大きな手を探ってしまう。
甘いにおいも、口の中に甘ったるく残るものも、何も見つからなくて、悠真さん、と呟いた言葉がただぽつんと残ってしまうような、そんな虚しさだけが置いていかれてしまう。
慣れてしまうのかな、これ。慣れるのかな。
慣れてくれなきゃ困るな。就職とか、そんなこととか考える前に、おれの体調がおかしくなってしまいそう。
悠真さんから貰った腕時計は外せなくなってしまった。
外すのがこわくなった。
共有していたアプリは消した。新しく違うアプリを入れてみたけど、見慣れなくて少し、いやだ。
後おれに残されたのは、クリスマスプレゼントだっていって渡した下心の塊のあの服だけ。
気持ち悪いって思われそうだから誰にも言えないけど、密封出来る袋に詰めた。
本当はそれに包まれて巣作りとかしたかったけど、そんなことをしたら……悠真さんのにおい、すぐなくなっちゃって、もう次から使えなくなっちゃうから。
もうこれしかないんだから、どうしても我慢出来ないって時の為にとっておくことにした。
それはつまり、もう一生、おれの安心出来る場所は作れないってことなんだけど。
元よりたった数枚の衣服で作るようなものではないのかもしれないけど。
……まあもう今後誰ともしなければ妊娠なんてしないし、必要、ないのだろうけど。
昨夜も眠れなくて、その服の入った袋を抱いて寝た。においは当然しないんだけど。
トータルで寝れたのは二時間くらいだと思う。
「かのんちゃんは仕事、呼ばれちゃって」
「うん……」
「……かのんちゃんに言えないこと、あるんでしょう」
「……」
「だからといって僕には話して、なんて言えないけど」
「……っ、」
枕にかおを埋めたおれの頭を優しい手つきで撫でる。
そこには皆、優しく触れる。
花音の女性的な細い指先での撫で方とも、悠真さんの壊れ物を扱うかのような、でもたまに少しだけ強く感じる撫で方とも違って、千晶くんはおれの撫で方はまるで犬や猫にするような撫で方だな、と思う。
おれを落ち着かせようとする撫で方だ。
「ごめんね……」
「いいよお、気持ちが沈んでしまう時ってあるからね、今日はゆっくりしよ、僕が残りの片付け、してもいいし」
「……いい、ここにいてほしい」
千晶くんが花音の番だってちゃんとわかってる。オメガだって。
誰でもよかった訳じゃない。
でも今は、近くにいる千晶くんが嬉しかった。
悠真さんの代わりじゃない、花音の代わりでもない。
ぎゅうと千晶くんの手を掴んだ。あたたかい。
悠真さんじゃないけど。違うけど。わかってるけど。
安心出来る体温が気持ちよかった。
今は花音であってもアルファの近くにいるのが少し、こわくて。そんなこと、今までなかったのに。花音なら、家族なら大丈夫だったのに。
「……うん、いいよ、かずねくんが起きるまでここにいるから、ゆっくり寝ようね」
「……ん、」
ベッドに腰掛けて、おれの目元を優しく撫でる。
丁度良かった、と言ったら失礼かもしれない。
ひとりになりたいのに、ひとりになりたくなかった。
千晶くんはおれにぐいぐいと来ないし、でも寄り添ってくれる。
あたたかくて、でもアルファを感じないことに安心する。
花音のにおいもほんのり混じって、それも少し、すき。花音本人より、柔らかくて……なんというか、今のおれには花音であっても両親であっても少し、アルファはこわかった。
悠真さんが良くて、悠真さんしかいやで、まるで躰が拒絶してるかのようで。
悠真さんのこと、忘れたい。
知らなかった時に戻りたい。
知ってしまったから、きっともう、ずっとほしがってしまう。
そんな自分がいやで、このまま消えてなくなればいいのにと思ってしまう。
オメガになんてなりたくなかった。
あのひとの運命になれないのなら、こんな性、邪魔でしかないのに。
◇◇◇
「ンー……」
「あ、起きた?どう?まだ眠たい?」
起き抜けに柔らかい声が降ってきた。
少し薄暗くなった部屋、電気も点けずに見下ろすのは千晶くんで、少し頭を整理する。
……ああそうだ、多分おれの昨日の態度が気になって……花音の出勤後、わざわざ来てくれたんだった。
それなのにおれはベッドから出ないどころか、寝るから傍にいろと強要してしまった。
「……ごめん」
「いいよお、僕が勝手に来たんだし。ね、お腹空いた?夕飯作ってくよ、何が食べたい?」
ここまで来て、それでもおれの不調の原因を訊いてはこない。
おれが自分で言うまで、話すことがあるまで待ってくれてるんだと思う。
……でも言ったって何も変わらないし。
逃げてきたくせに、さみしいなんて言えないし。
どうやったら忘れられるかなんて、千晶くんもわからないよね。
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