【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 ただ完全に、そのひとだけが悪いことって、そうそうないんじゃないかなって思う。
 色々な原因やタイミングが重なって、悪いことがおきちゃったり、悪い方にいっちゃうの。
 あの時ああしていればあの悲劇はおこらなかった、誰かが注意してれば、引き止めてれば。
 あの時ちゃんと話していれば性格は捻じ曲がらなかった、叱っていれば、ううん、産まなければ。

 そんな風になんにでもこじつけることだって出来るし、やっぱりそうすることが正しかったという場合だってある。
 今回は?誰が悪い?
 番を増やした悠真さんが悪い。
 それを許した番が悪い。

 でもいちばん悪いのは、番がいることを知って、それから番になることを望んだおれだ。
 ちゃんと断っていれば。
 あの日会わなければ。抑制剤が効いていれば。皆が止める中ばかみたいに乱用していた抑制剤を規定通りにしていれば。ちゃんと自分の性に向き合っていれば。おれがオメガじゃなければ。
 おれが、ちゃんとしてれば、おれはあんなことにならなかったのに。
 誰かをかなしませたり、いやな思いをさせたりしないですんだのに。


 あの日、悠真さんが帰って、数日ぶりにひとりきりになった。
 正直さみしかった。
 でも悠真さんはちゃんと発情期、一緒にいてくれた。
 その間おれは迷惑しかかけてない。
 家事も、おれの面倒も……ベッドの上で腰を振るか寝るかしかしてないおれのことを、ちゃんとみてくれた。
 おれ、本当になんにも出来てない。風呂にひとりで入ることすら出来ない。
 幻滅されなかったかな、発情期の間は碌に風呂も入ってなかったのかよって。
 いや、もうそれは気にしなくてもいいのか。
 ご飯も何回も作ってくれた。あったかいご飯、プリンだっておれが強請ったとおり。

 なのにおれは文句を言った。
 ケーキ屋になんて行かなくていい、早く来い、プリンなんか買ってきても発情期に冷蔵庫まで行ける訳ないだろ、
 そんなかわいげのないことを。賞味期限過ぎたから食べてない、捨てた、なんて。
 折角してやったのにって、見限られたっておかしくない。なのに反省してると、ごめんねと言ってくれた。

 その後だって、食べたくない、コーヒーくさい、ココアがよかった、そんなことばっかり言っちゃうし、悠真さんは色々してくれるのに、疲れてだっているかもしんないのに、おれは、自分が辛いからって早く触ってほしいって、そんなことばっかり。

 悠真さんはいっぱい優しくしてくれた。
 今までのことだって、謝ってくれた。
 本当にずっと優しくて、ご飯を食べさせてくれたり、着替えとか、シーツの交換とか、そんなことまでさせてしまった。
 起きたら綺麗な寝巻きで、シーツで、水を飲まされ、食事を摂らされ、頭を撫で、いっぱい、話もしてくれた。
 嬉しいことしかなかったよ、文句ばっかり言っちゃったけど、でもあの四日間、あんなに嬉しいって思ったこと、なかったかも。

 花音だって家族だって、皆優しくてだいすきだけど、安心するけど、それとはまた違うもの。
 言葉にすると同じに見えてしまうけれど、心がふわふわする感じが全然違う。
 家族じゃないから、だからこそのしあわせというか。
 あったかくて、擽ったくて、ぎゅうってなって、発情期なんて辛くて早く終われって、そんなことしか思ったことなかったのに、なのに、もうちょっとなら続いてもいいと思ってしまうくらい。
 なんでおれ、発情期四日五日しかないんだろう、平均的な、一週間とかあれば、あとふつかは一緒にいれたのに。そう思ってしまうくらい。

 甘えたって、怒られなかった。
 苦笑いしたり、ちょっと意地悪なこと言ったりはしたけど、受け入れてくれた。
 甘ったれたことを言っても受け止めてくれた。嫌がらなかった。

 悠真さんが瞳を細めて笑うのがすきだなと思った。
 胸がぎゅうってなって、なんでそんな、愛しいものを見るような瞳で見てくれるんだろうって。
 もしかしたら、おれのこと、そんなに悪くは思ってないんじゃないかって。それなりにはすきでいてくれるんじゃないかって。
 優しい声も、触り方も、かわいいとか、そういうの、何回も言ってくれるところも、ちゃんとおれの名前、呼んでくれるところも。

 すきになっちゃった。
 本当は、もっと前からそうだったのかもしれないけど。
 気付かなかったらよかったのに。そしたら番の特権だけ甘受出来てたかもしれないのに。
 気付いてしまったら、そのままでいられなかった。

 だっておれが悪い。
 おれが、おれがあのひとの番から、悠真さんの時間を貰ってる。
 その間、番はひとり。
 おれがいやだったことを、辛かったことを、誰かにしてしまう。
 しょうがないじゃん、オメガなんだもん、番なんだもん、許したのはそっちじゃないか、こうなることくらいわかるだろって、そんなの、おれだってわかってた筈じゃないか。
 番になったら、……既に番のいる悠真さんの番になったら、お互いさみしい思いもいやな思いもするって。
 そんなのちゃんと、わかってたじゃんか。

 なのにおれは泣いた。
 風邪なんかより、発情期の方がひとりはやだって。
 優しいひとの罪悪感とか、親切心とかにつけこんだ。
 おれが弱ってたら、優しくしてくれるって。
 その通りになった。優しくしてくれた。
 だからこれ以上はだめだって思った。

 すきになってしまったら、おわり。
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