【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

六

91*

「続き、していい？」
「ンう……あ、まっ、き、きたな、い」
「汚くないったら」

　俺の胸元を押し返す手に力は篭ってない。触れてるくらいの弱々しい力だ。
　頭も、目元も、ナカも、全部とろとろにしておいて、それでも口だけはそう言える元気があるようだ。

「和音のなら全身舐められるよ」
「やだあっ……」
「甘い」
「ん、ふ、ぁう、んゔゔ」
「前だけじゃ足りないでしょ？」
「あッん、う、はいっ……てえ、あっ、」
「……流石、慣らさなくても挿入るね」

　首元を伝う汗すら甘くて、舌を這わせ、吸い付いてしまう。
　紅く残る痕が、背筋をぞく、とさせた。
　本当はもっとその痕を残したいけれど、和音に引かれたい訳ではないから、強く残すのは止めておく。
　かわりに足を開かせ、その間に割入り、ゆっくりと腰を進めていく。
　首を横に振るのは嫌だからではない。
　唇を噛み締めて声を耐えるのは我慢しているからではない。
　指先がぎゅうと俺の指を握り、足はぐっと俺の腰を抱え、細い腰を揺らして、気持ちのいいところを探ってる。
　それはただの本能なんだろうけれど、それでいい。
　突き放されないなら、俺を求めてくれてるなら、それで。

「んあ、う、深いっ……ぃ」
「ん、そうだね、奥の方、入っちゃってる」
「い、いつも、より、奥……」
「和音の躰が慣れちゃったのかな、それともそこ、気持ちいいって知ってるから？」
「あ、あ、これ、これもっ……い、いつも、してん、のぉ……？」
「いつもではないけど……和音の奥、もうちょっと、入れるよ」
「んア……！」

　和音のお腹の上、ここくらいまでかなと指を這わすと、びくん！と躰を跳ねさせる。
　薄い精液を腹に出して、ぴくぴくと震わせながら、やだ、と呟いた。

「えっち。想像しただけでイっちゃった？」
「やあ……」
「ここまで入るとね、和音が普通でいられなくなっちゃうから。ここはたまーに、だけ」
「あ、あ、あう……」
「気持ちよくておかしくなっちゃうんだって」
「うゔ……！」
「……どうしよっか、今日もおかしくなりたい？」
「や、いやら……」

　回らない口でそう否定するけれど、生憎発情期の躰は期待しているようで、瞳も揺れていた。
　いやだと言っても手も足も、和音のナカさえ俺を離さない。
　ごくんと唾を飲み込み、は、は、と荒く短い息を繰り返して、口の端からは涎を垂らしている。
　和音が覚えてなくても、躰が覚えている。

「息、吐いて」
「や、あ、む、むり……」
「大丈夫」
「これっ、以上、はいっ、はいんないっ……」
「入るよ、何回も入ってるもん」
「やっ、あ、そこ、そこもう、奥、奥だもんっ……う、あ、なんでえ……！」

　腰を少しあげさせて、ぐう、と腰を進める。
　無理をさせる気はない。
　でも和音自身、その気になってるようだし、大丈夫、だっていつも、飛ぶくらい気持ちよさそうだし。

「ん、んぅ、ゔ、はっ……あ、う……！」
「苦しい？気持ちくない？」
「あ、っう、あ……！はう、あ、あ、ァん、っうゔ」

　和音の手が泳ぐ。
　どこかを掴みたいけれど、ソファだとシーツもなく、厚い生地では指先が滑るようだ。
　カバーもしてないし、本当にもう、ソファもぐちゃぐちゃ。
　その腕を俺の首元に回させると、ぎゅうと抱き締め、自分の手首や俺のシャツを握り締める。
　もっと強く、掴んだっていいのに。

「は、っん、う、ゆうまさんっ……」
「うん？」
「あっ、あ、おっ、奥うっ……はいっ……」
「苦しい？」
「ゆ、まさ、の、いっ……ぱい、はい、ってゔ……！」

　耳元で、うれしい、と聞こえた気がする。
　え、と和音を剥がして、そのかおを見た時にはもう落ちてしまっていた。
　……くるしい、の聞き間違いかもしれない。

　心臓がばくばくと、間違ったように煩く鳴っていた。


　◆◆◆

　その後は和音の躰を拭き、服を着せて、汚れたソファはもう買い替え決定と見ないふりをして寝室へ運んだ。
　今回は汚さなくて済んだベッドに下ろし、布団を掛けて、なんとなく……寝ているから意味もないのにぽん、と胸を叩いてしまう。
　目元を紅く腫らして寝るかおがあまりにも幼くて、つい。

　起きる気配がないのを確認してから、シャワーを済ませ、キッチンを片付ける。
　プリン、と思ったけれど、俺ももう眠かった。
　欠伸をして、和音の眠るベッドに一緒に入る。
　今までは和音が起きるより先に帰っていたけれど、今回は発情期が終わるまでここにいる。
　昨日だって同じベッドで寝たし、もうあのソファは使えない。
　そうやって自身も眠りについた。

　起きたのは隣で和音がうゔん、と唸ったから。
　こっちに寝返りを打って、もにゃもにゃして、ん、ともう一度唸ったかと思うと……起きなかった。
　和音の手首にしたままの腕時計ではまだ六時前。仕事に行く訳でもなし、まだ寝ててもいいんだけど。
　目の前にある、やっぱり幼いかおがどうしてもかわいくって。

　和音が寝てる姿はもう何回も見た。
　寝落ちするところも、気を失うところも。
　けれどこうやって穏やかに……穏やか、でいいのかな、すうすうこどものように寝ているのを見るのは胸があたたかくなる。
　薄く開いた唇も、垂れた涎も、涙の跡も。
　かわいい。
　その跡を拭おうとして、和音の瞼がまたぎゅう、と力が入ったことで、あ、起きる、と反射的に瞳を閉じてしまった。
　涎を垂らして寝てる和音を見てたなんてばれたら引かれそうで。