【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 ぎゅうぎゅうと抱き締めたからだろうか。
 和音の体温が高くなった気がして、その証拠のように、もぞもぞと膝を動かす和音にしまった、と思った。
 我慢が出来なくなってしまう。

「だめ、えっちする前にこれ食べよう」
「……や、むずむずする、」
「だめ、ね、食べさせたげるから」

 慌てて和音の小さな口にスプーンを運ぶ。
 拒むように閉じていた唇はぐにぐに当てられたスプーンに負けたように薄く開かれて、流し込んだプリンをそのまま飲み込む。
 咀嚼もいらないレベルの柔らかさらしい。
 これなら大丈夫かと安堵して、美味しい?と訊くと、あまいにおいがする、と蕩けた目元で呟いた。

 確かに部屋の中が甘ったるいにおいで充満している。
 でもそれは、こんな小さなプリンのにおいなんかではない。
 多分それは、和音には俺の、俺には和音のにおいを感じ取ってるだけなんだと思う。

 和音のフェロモンはもう俺にしか通用しない。
 だから抑制剤は大して必要ない、元々効かなかったものだ、薬なんて出来れば飲まないに越したことはない。
 対して俺のフェロモンは他のオメガにも効く、故に抑制剤を飲むのは当然だった。
 自分のフェロモンを抑える為、オメガのフェロモンを出来るだけ感じないようにする為。

 本当は、和音に会う時は服用を止めておこうかと思ったんだ。
 俺のフェロモンが和音に通じないのは困る。
 でも先に俺が和音のフェロモンに負けてしまうと、何をするかわからない。
 痛がらせてしまったり、こわがらせてしまうのは嫌だった。
 結局、番になったからかな、それとも和音が特別なのかな、それともこれでも抑えられている方なのか、和音のにおいは甘く感じるし、和音も同様みたいだ。……薬を飲まなければ、もっとすごいのかもしれないけれど。

 次のスプーンを待つようにぱか、と開けられた口に心臓がどくどくと早くなる。
 ……ちゃんと抑制剤を飲んでいて良かった、そうでなければすぐにでも俺はこの子を押し倒していたかもしれない。
 小さなカップはすぐに空になった。
 跳ねる心音を誤魔化すように、もう一個食べる?と訊くと、細い腕が首に回され、頬が触れる。耳元で甘い声が囁く。
 いらない、食べ終わったからもう抱いてほしい。
 ……本当に、ちゃんと抑制剤を飲んでいて良かった。

「早く、さわって……」

 そう誘った和音が、腕を伸ばして、俺の頭を抱く。
 薄い胸元の、白い肌の下で同じように心臓が煩くなっている。
 そこに触れると、あ、と声が漏れた。
 それにいい気になって、和音の下半身に触れる。
 下腹部はぴくぴくして、内腿は震えている。和音のモノはもう先走りどころではなくぐちゃぐちゃだし、後孔だって濡れていた。
 こんな状態じゃあ、そうだよねえ、我慢なんて出来ないよね。

「ん、う」
「昨日シたばかりだからかな、まだ柔らかい」
「ん~……ッ」
「どこ触ってほしい?」
「いいっ、なか、っ、はやく、いれっ、てよお」
「和音が触ってって言ったんだよ」
「いいからあ……!」

 ぐい、と足で俺の腰を引き寄せた。
 少し腰を揺らして、もう一度、早く挿入れて、と泣きそうなかおで強請るのがぞくぞくする。
 この瞬間は、この行為中は和音の瞳には俺しか映らない。
 俺をほしがって強請る姿が、その声がかわいくて健気で愛おしい。
 彼の中での、精一杯の誘い文句なのだ。
 だから俺は、この時間がいちばん満たされるのかもしれない。


 ◆◆◆

 夜の八時。もそもそと布団が動いて、その中から出た頭が、ぎゅっと鼻先に皺を寄せ、コーヒーくさいと文句をつける。
 そんな和音に水を飲ませ、また何か食べなきゃと食べたいものを訊く。
 案の定いらないと返すまだ半分寝てるような子に、あれはこれはと提案すると、箸どころかスプーンすら落としそう、と返ってきた。
 成程、食べさせてあげたらオッケーってことだな。

「それで食べてくれるなら作るよ、待ってて、冷蔵庫、何があったかなあ」

 薄暗い部屋の中、ベッドから立ち上がろうとしたところ、ぎゅう、と裾を掴まれてしまった。
 う、と出た唸り声と、眉間の皺が、ああ躰が痛むんだな、とわかる。

 作ってくるだけだよ、このまま帰ったりしないよと伝えてもその手を離そうとしない。
 うーん、と少し考えて、まあ置いていかれるのが嫌だというなら連れていけばいいか、と判断した。
 食べさせない、という選択肢はない。

「体調悪い時って不安になるひとも多いからね、まあ発情期も似たようなものだし」
「えっ、う、え、落ちっ……」
「落ちないようじっとしてて。そう、はいいーこ」

 急に抱き上げたので驚いたのだろう、足をばたつかせるものだから、こどもに話しかけるような口調になってしまう。
 大人しくなった和音の背中をぽんぽんと撫でると、そのこども扱いが多分気に食わなかったのだろう、唇を尖らせる。
 その仕草が、こどものようでかわいい。
 ついじゃれるようにその唇に自分のものを重ねてしまった。
 驚いたように丸くした瞳もかわいい。

 リビングまで抱えたまま連れていくと、また俺が料理をするところを見ていたいと言う。
 初めてここで料理をした時もそうだった。
 セックス時以外での我儘は珍しい。
 早々に折れて、お尻が冷えないように大きなクッションの上に座らせ、ブランケットでぐるぐる巻きにして、そこにいるのを許した。
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