【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 ◆◆◆

 結局、夕食もご一緒させてもらった。
 俺の作ったものをふたりに食べさせて、おいしい!と、まだたべたい!と、そんなかおを見れるのはしあわせだと思った。
 和音は運転をさせ、動物園に連れて行かせ、芽依の面倒を見させ、買い物、料理までさせて皿洗いまで、と申し訳なさそうにしているけど、そうじゃない。嬉しいんだ。全部。
 芽依はかわいいし、一緒に出掛けたのは楽しかったし、作ったものに喜んでくれるのは嬉しい。
 そのつもりでここに来た訳じゃないけど、今日いちにち、俺はとても楽しかった。

「……帰る?」
「うん、そろそろ」

 少し名残惜しそうに訊く和音がかわいい。明日日曜日だし、泊まっていけば、なんて言わない、きっと言えない。
 俺が悪い、そうさせてるのは俺だ。
 わざとそうやっているのに、俯く和音を見ると胸が痛くなる。

「あ、そうだ、待って」
「?」
「待って、まだ帰んないで、待ってて」

 玄関まで見送りに来てくれたかと思うと、待つように念を押して、奥の部屋に走っていってしまった。
 何だろうか、持って帰ってと言われたかぼちゃは紙袋に入っている、前回来た時に何か忘れ物でもしただろうか、そうぼんやりと言われるがまま玄関で立ち尽くしていた。

 がちゃん、ばたん!と大きな音を立てて、たたた、と紙袋を抱えて走ってくる。
 芽依が寝てるから……この間も顔面からすっ転んだんだから走らないで、とはらはらしながら見守っていると、息を切らしながらはい、とその紙袋を渡された。

「……一応、クリスマスの」

 多分会わないだろうからもう渡しとく、かのんたちのついでだから!と言い訳のように早口で喋ると、これはお礼だから、と俺からは求めなかった。
 迷った末、準備してなかった。
 和音は欲しいものはある程度自分で買える環境下にある。
 いつも汚してしまうベッドマットとか、腕時計の次はアクセサリーだろうとか、そんなことばかり考えて進まなかったのだ。
 ……いつか、絶対。それは。

 恥ずかしそうに俯く耳や首元は紅くなっていて、今すぐにでも抱き締めたくなる。
 つい、帰るの勿体ないな、と零してしまった。
 弾かれるように俺を見上げて、視線がぶつかった事でまたその視線を逸らす。
 ……まるで、我慢してるみたいだ、と思った。

「芽依ちゃん、かわいかったね」
「え、あ、うん……かわいいよ」
「うん」
「……悠真さん、こどもすきなの?芽依の相手してくれてありがとね、芽依、ふたりとも母親しかいないからさ、肩車、高いの嬉しかったと思う」
「……」

 こども。
 そうだね、こどもは皆かわいいと思う。
 芽依も素直で甘えたがりでかわいかった。少し我儘なところさえ。
 でも違う。
 今俺が話したいのは、芽依のことじゃない。

 和音の薄い腹を見てしまう。
 初めて躰を重ねたのは夏だった。
 発情期のオメガは妊娠しやすい。
 その時期に何度も抱いた、何度もナカに出した。
 妊娠、しやすい筈なんだけど。

「……オメガって妊娠しやすいんでしょ?和音はまだそんな感じ、ない?……結構、ナカ……」
「おれ、妊娠しないよ、避妊薬飲んでるし」

 がん、と頭をぶん殴られたかと思った。
 抑制剤を飲んでないのは当然知っていた。
 オメガのフェロモンは番が出来ると番にしか効かなくなる。
 元々抑制剤が効かなかった和音は飲む必要もなかったけれど、それでも飲み続け、俺と番になって、漸く飲むことを止めた。
 冷静になればわかることだった。
 フェロモンを抑える為の抑制剤は飲まなくても、避妊薬は飲んでいた。妊娠を防ぐ為に。
 当然で当たり前で普通の回答だった。
 それでも受け入れたくなかった。
 だってそんなの、お前の子は産まない、と言われてるようで。

「……でも百パーじゃないでしょ」
「産まないよ、産んだって地獄じゃん」

 少し食い気味で被さるように言われた言葉は、そうだ、その通りだと納得したけれど、……受け入れることは出来なかった。
 そうか、和音は俺との子、産みたくないんだなあ……

 今日はとても楽しかった。
 クリスマスプレゼントを貰えるとも思ってなかった。
 結構いい感じなのでは、なんて思った。
 当初の予定の一年なんて掛けなくても、和音は俺に好意を向けてくれるかもしれない、そう思った。
 自業自得、俺がそうさせた、そう思わせた。
 和音を責めることは出来ない。
 俺が対応を間違ったのだ、地獄だと思わせてしまう程に。


 ◆◆◆

 二月の頭。
 前回の時のように気軽に電話は出来なくなっていた。
 たまに、思い出したようにメッセージを送るくらい。
 ……どう和音と関わっていいかがわからなくなってしまった。
 地獄とまで言われて、それでも俺は彼のことを諦めた訳ではない。
 でも、和音が本当にそう思っているのなら、そんなに辛いのなら、離してあげた方がいいのかもしれない。

 嫌だ、無理、離せる訳がない、彼を解放したってもう番契約は済んでいる、辛いのは和音の方だ。
 離さない方が、幾らかはましな筈だ。
 違う、ましとか、そんなんじゃなくて。

 ちゃんと、愛して愛されて、求めて求められて、普通の……
 しあわせな番になりたかっただけなのに。
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