【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 その後は片付け、和音の様子を見に行って、暫くベッド脇で見守っていた。
 プリンを買いに行くよりここにいてほしいというのはそういうことだと思ったから。
 さみしいのだ。
 ……わかっててそうしてるんだよ。
 ごめんね。
 でも嬉しかった、俺がしてることは正しくはないだろう、計画としては、上手くいってるようだが。
 もうちょっと。
 和音が辛いのはわかった。だから次は優しくしてあげる。
 甘やかして、俺じゃないと駄目だなって、そう、最後の駄目押しをするんだ。
 和音をぐらぐら不安定にさせて、それから抱き締める。
 もうちょっとだ。もっと、ちゃんと確証を得るまで。

 夕方になる頃にシーツを取り入れ、畳んでクローゼットに片付けておく。
 冷やしておいた味見用のプリンを食べてみて、それなりのレシピだな、と作り手の腕を棚に上げて上からの感想を声にした。
 まあ初めてならこんなものだ、次はもっと本格的なものを作ってみせる。
 手持ち無沙汰で、また冷蔵庫を覗いて何か作れるものはないかと確認してみたり、大して汚れてもない窓を拭いてみたり、掃除機……は和音が起きてしまう、除菌シートで床を拭いてみたり。

 和音が起きる前には寝室に戻って、そのまま目覚めを待とうと思ったんだけど。
 掃除に夢中にでもなってたのかな、気がついたらもう二十時だと確認していると、廊下の方でごん、とぶつかったような、何かを落としたような音がした。
 慌てて廊下に出ると、そこには額と鼻先を紅くした和音がしゃがみ込んでいる。
 ……どうやら転んでしまったらしい。
 家の中で転ぶなんて。こどものようだ。まだ頭、回ってないのかな。
 つい笑いながらも和音を起こし、本人の希望のままに抱き上げてソファまで連れていった。

「何食べる?うどん、雑炊、リゾット、スープ……あ、プリンは後でね」
「え、え、プリン?えっ、う、うどん……?」

 まだ寝惚けているのかな、和音を見ると言ったのに、和音だってここにいてほしいなんて言ったくせに、俺がいることにびっくりしたように瞳を丸くしている。
 そのかおがかわいかったものだから、体温計なんぞ使わずにわざと額をくっつけて、ん、微熱かな、と言ってみる。
 ぶわ、と熱くなったのは熱のせいではない、多分。予想通りの反応がまたかわいい。
 大人しくしてて、と、和音をソファに残して、千晶くんに教わった通りにぐずぐずの柔らかいうどんを作りにいく。
 出汁は強め、醤油は薄め、ふわふわの溶き卵と冷蔵庫の余り野菜と小分けにして冷凍された鶏肉のうどん。

 かずねくんとかのんちゃん、麺類を啜るのが下手……苦手みたいで。
 風邪の時はこのうどん作るんですけど、短く切ってあげた方が食べやすいみたいなんです、

 そう千晶くんに教わったのだ。
 俺の知らない和音。それは少しだけ、良い気はしない。
 でも誰かに聞かないといつまでも知らないこともある。
 だからこれは、今日聞けて良かった情報だ。
 でもこれからは、

「次からは俺を呼んでね」
「……へ」
「千晶くんじゃなくて、俺」
「な……なんで?」
「番でしょーが」
「……?」
「そういう時は普通先に番を頼るもんなんだよ」

 どの口が言う、って自分でも思うよ。
 あんな状態で俺を頼れる程和音が馬鹿じゃないこともわかってる。
 花音や、その番のオメガを頼ることだって間違いじゃない。
 でもそう思うのは理屈じゃない。
 駄目だよ、和音は俺を頼らなきゃ駄目。

 返事は、と無理矢理頷かせ、プリンあるよ、とそちらに切り替えさせる。
 和音はもぞもぞと、居心地悪そうに、でも少し擽ったそうに、食べる、と答えた。

「どうぞ、お口にあえばいいけど」
「あ……?」
「初めて作ったから。さっき味はみたけど」

 じっと見る和音に、簡易的なやつだけど、と保険をかけ、マグカップとスプーンを渡すと、一度唇をきゅっと結んで、それからすごい、作ったの、コンビニでも買えるのにわざわざ?と声を跳ねさせた。

「和音がここにいてほしいっていうから。そんなかわいいこと言われたら、コンビニだっていけないよ」
「……!」

 じわ、と首元まで紅くして、スプーンを口に運び、おいしい、と小さく呟くように言う。
 初めてお菓子を作ったからと言い訳をする俺に、また作ってくれる?と言った和音の頬はへにゃ、と緩んでいた。
 その口元についたプリンを拭う。
 こんな簡単なものでそんなに喜んでくれるとは思わなかった。そんな溶けたように笑ってくれるとは思わなかった。
 胸がぎゅう、となったまま、それを食べたら薬飲んで寝ようね、と言うと、こどものようにうん、と頷く。
 ……かわいい。
 かわいくてたまんないな。

 薬を飲ませて、ベッドまで運び、おやすみと声を掛ける。
 多分無意識なんだろうな、帰っちゃうの、とまたさみしそうに呟く声に、頬を撫で、朝までいるよ、と返した。
 ほっとしたような、でも信用してないような視線に笑ってみせる。
 きっと明日にはもう熱も下がってるだろう。
 俺は御役御免になる。
 でも今晩は俺も、ちゃんと和音の傍にいたい。
 そう思ったのだ。
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