【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 それは流石に小細工どころの話ではないだろう、と思った。
 ……でもこどもが出来れば、諦めて俺と結婚するしかないのでは?一緒に過ごしていけば、情も湧くのでは?こどもはかわいいに決まっているし、家族になってしまえば……

「……ね、和音、ナカいっぱい出したら赤ちゃん出来ちゃうよ、ほしい?和音は、俺の子」
「え、あ……」

 瞳がとろんとしている。
 完全にトんでる、この状態で訊いても無駄だ、覚えてもないだろう。
 そうわかってるのに訊いてしまった。
 ……大丈夫、後まで引き摺らない。
 今、この時だけでいいから、口だけでいいから、ほしいと言われたかった。

「赤ちゃん、いらない?」
「あかちゃん……」
「そう、俺と和音の子」
「あ、あ……う、い、いいの」
「なにが?」
「……お、おれ」
「うん?」
「……ッ!」

 きっとそんな質問をしながらも腰を止めなかったのが悪いんだと思う。
 びく、と震えた和音から出たのは精液ではなかった。

「ンっ、う、あ、ッあ、や、あ!」
「……え、あ、やば、潮って癖つくんだっけ」

 突く度にぷしゃぷしゃと出るものだから、面白くて……エロいな、と思ってしまった。
 今更かもしれないけど、これ以上汚さない為に慌ててシャツも脱ぐ。
 その、シャツを脱ぐ為に一旦和音の腕から離れたのだけど、すぐにまた腕を伸ばした和音に囚われた。
 ……気を飛ばした和音はいつもより甘えん坊で欲望に素直でかわいい。普段だってかわいいけれど、……これが隠してる和音なのだと思うと、愛しさが募る。

「ごめ、んなさ……」
「ん?」
「き、きもちよく、て、もらっ……もらし、たあ……」
「あー、違う違う、これはねえ、……あー、ええっと、気持ちいいと出ちゃうんだよ、ね、気持ち良かったんだよね?」
「ん、う、う、きもちよか、ったあ……もっとほし……」

 潮を吹いたなんて言っても今の和音にはわからないだろう。
 かわいい思い出として俺の中に仕舞っておこう。
 ……そんなことに気を取られて、俺がほしい言葉を引き出すことを忘れてしまっていた。


 ◆◆◆

「発情期来そう?結構落ち着いてるみたいだけど」

 そう電話をしたのは十二月に入ってからだった。
 首輪から腕時計に変えてから、ちゃんと上手く連携出来てるのかが気になって。
 というのは建前で、我慢が出来なかったからだ。
 相変わらず和音からの連絡は来ない。俺からそろそろ発情期だねって連絡をするしかなくて、そうなると折角だし、メッセージじゃなくて、声が聞きたかった。
 一ヶ月半から二ヶ月、声も聞けないなんておかしくないか、いや俺が勝手にそうしてるんだが。
 まだもうちょっとかかるかもしれない、後数日くらい待った方が、そう思ったけれど、ええいそこまで気を遣わなくていいだろう、と早目に電話をしてみたんだけど。

 案の定というか、ヒート中ではない電話先の和音は落ち着いていた。
 あ、でも居酒屋連れてってあげる、にはちょっと声が跳ねたかな。箱入り息子。
 そんなとこに行きたいだなんてかわいいものじゃないか。

 十二月。仕事も忙しいが、プライベートは浮かれるひとが多くなる時期だ。
 街中もクリスマス仕様になり、色々な建物がライトアップされ、店に入ればクリスマスソングが流れる。
 それが過ぎれば一気に年末年始、正月の準備や連休の準備にばたばたするのだ。
 ……クリスマス、正月、どうしようかな。
 小細工を続けず、クリスマスくらいはと誘うか。でもそれは……いや、でも……
 なんて多分俺の頭も大分浮かれていたんだと思う。
 年末の仕事の忙しさ、忘年会と称して増える飲み会、和音のこと。そんなことばかり考えていて、アプリの反応がよくないことに気付かなかった。

 その日も忘年会という名の接待だった。
 と言っても殆ど会話をしてるのは父であり、俺は酒を勧め、自分もぐいぐい呷り、いけるクチだねえははは、と盛り上げるだけの若造のポジションだ。顔を売るだけの、形程度のもの。
 その最中に和音からの着信があった。
 御手洗に、と席を立った時にやっと気付いて、……まさか和音から電話あるなんて思わなかったから、何かあったのかと慌てて掛け直した。

 電話に出て直ぐに、ゆーまさん、と蕩けたような声がして、あ、ヒート中か、と気付いた。
 いやでも待って、アプリの通知来てないぞ、不具合か、時計をしてないか……いや今そんなこと言ったって仕方ないけど。
 時間ももう遅い、でもあの感じだとまだ会は続くだろう。
 どうせいちにちしか会わないのなら……明日でもいいかと訊くと、遅くなってもいい、明日より早い方がいい、と泣きそうな、でも、強い声で返ってきた。

『とまっ、泊まらなくても、い、から、ちょっとでいいから、触って、ほしい……』

 そんなことを言われてしまったら。

『あ、会いに来てほしい……』

 ……そこまで言わせてしまったなのなら。

「わかった、行くね」

 そう答えるしかないでしょうが。

『がっ、がんばる、から……待ってる、から、ぜったい、きてね』

 駄目押しのような、甘えたような鼻声だった。
 嬉しかった。
 和音からそう言ってもらえたことが。
 だってそうやって俺を求めるようになる和音をずっと、待ってたんだ。
 ほんの少し、いや、かなり。満たされたような気分だった。
 今すぐ走って行きたいくらいに。
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