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幾つかショップのホームページを確認して、中々良さそうなデザインのものを見つけてカートに入れる。
少しゴツめではあるけれど、和音の好みには合うんじゃないだろうか。
靴棚にはずらりとスニーカーが並んでいた、きっとそのスニーカーにも合う。
……スーツにはちょっと合わないけれど、まあ和音の希望通り、就職が決まった時はその時だ。
◆◆◆
悩んだプレゼントが届いたと和音からお怒りの電話があってから更に一週間後、共有したアプリから近々発情期だという通知が届いた。
ちゃんと腕時計の設定は出来たようだ。
それにしても本当に発情期の周期が短い子だなあ、と思う。早い時はひと月半と言っていた、今回もそれに近い。
そのお陰か、通常一週間程続く期間が和音は四、五日程だという。それでもあまりの周期の短さを考えると割に合わないだろう。
もうそろそろ発情期だね、と電話をすると、既にもう躰があついという。
躰の熱は発情期間近の証拠。出来るだけ直ぐに行くから楽にしててと電話を切る。
……そしてこういう時程直ぐに会社を抜けられない状態だったりするものだ。
どうにかこうにか退社を済ませ、一度自分の部屋に戻って着替えだけ紙袋に詰める。
本当はそのまま和音のところに行こうと思ったのだけど、スーツを汚すと面倒だな、というのと、まあ着替えは必要だよなと冷静な部分があった。
クローゼットに並んだ服を見て、巣作り、と考えてしまった。
俺の服で巣作りをする和音はそりゃあ見たい。
さぞかわいいことだろう。そこにいるだけでかわいいんだから。
でも与え過ぎるとそれで満足されてしまう。まだ早い。……まだ。
服ではなく、俺をほしがってもらうのが先だ。
和音の中で、俺が運命になるまで、俺だけを望むまで、満足させたらいけない。
……とは思っていたけれど。
そんな強がり、まだいるのだろうか、とも思う。
いや、これは発情期だから。ヒート中で苦しいから。
俺が来るのを知ってて、だからそれしか頭にないだけ。
まだ期待するな、勝手に良いようにとるな。
そう扉の前で、何度も深呼吸した。
和音の家は玄関を開けると既に甘いにおいが漂っていて、寝室の前に立つと、軋むベッドの音と、和音の声が漏れている。
ゆうまさん、ゆうまさん、ゆーまさん、涙声混じりで何度も俺の名前を呼ぶものだから堪らなかった。勘違いもしてしまいそうになるってものだ。
そんな自分に調子に乗らないよう、もうひとつだけ深呼吸をしてから寝室の扉を開く。
玄関とは比べ物にならないくらい、甘ったるいにおいが充満していた。
前回と同じように着替えを求められ、シャツだけあげると言う俺に、やだ、もっと、と涙を溜めた瞳で懇願されると揺れてしまう。
……駄目だったら。そう決めたじゃないか。俺が勝手に、だけれど。
全身を紅く火照らせた和音を見て、律稀の言っていたことを思い出す。
──どこもかしこも触り過ぎて痛くなるし、
その言葉通り、性感帯……特に胸元と下半身は触り過ぎて腫れていた。
案の定、まあ触るどころかまじまじと見る俺の息が掛かるだけで辛いと言う和音に、悪いけれど……興奮してしまった。
薬を塗ってやり、プレゼントした玩具を使いなよと軽口を叩く俺に、捨てた、と返される。
……辛いのは和音なのに。そう仕向けてるのは自分なのに。
何故かほっとしてしまった。
馬鹿だろう、和音のナカに入ってほしくないと、自分で贈った玩具にまで嫉妬するのは。
そうか、うん……使いたくないかあ。
「俺が帰ったらどうするの?ここも……こっちも、ほら、暫く痛いよ、きっと」
「……帰るの?」
頼りない瞳が揺れる。罪悪感で胸がぎゅっとした。
帰らない、和音の傍にいる、って言っちゃいたい、そうしてしまいたい。
でも駄目だ、和音から「帰らないで」と言えるまで、俺から折れたら駄目。
「さみしい?」
「……っく、ないっ」
「……そっかあ、さみしくないのかあ、それは俺がさみしいな」
きゅっと唇を噛んで、それから少し、かおを背けて、早くナカ挿入れてよ、と強がる和音に、まだだ、と思った。
まだ冷静になる時がある。
だから、まだ駄目。
まだ和音は堕ちてない。
「んっうう、う、あ、……ッく」
何度目かの和音の絶頂、同時に俺もナカに出してしまった。
和音はまだ理性が残っているのか残っていないのか、がっしりと足で俺の腰をホールドして、耳元で甘い声を出し続けている。
……トんだかな。
飛んでしまったら和音はもっと貪欲になる。
抽挿を繰り返すと、あ、あ、と声を漏らしながら、何度も気持ちいい、と口にする。
和音がしがみついてるものだから、腹の間で和音のものが擦れてるんだけど……痛くないかな、と変な心配もしてしまう。
だって痛いのはかわいそうだなと思って。
お前が言うなって感じではあるけど。
「あ、ッう、ん、あっ、やあ、っあつい……っ」
「ん、一旦抜く?」
「やらあ……!」
「あついんでしょ、ごめんね、ナカ出しちゃったからかな」
「やっ、あ、きもちい、きもちいぃ、からあ……!」
「ナカあついの気持ちいい?」
うんうんと頷く和音に心臓が早くなる。
ナカに出されんの、気持ちいいかあ。
それならもっとナカに出したい、けど。
でもその先にあるのは妊娠の心配だ、と変なことに気付いてしまった。
……そうだ、妊娠してしまえば、和音は俺から逃げられないのでは?
少しゴツめではあるけれど、和音の好みには合うんじゃないだろうか。
靴棚にはずらりとスニーカーが並んでいた、きっとそのスニーカーにも合う。
……スーツにはちょっと合わないけれど、まあ和音の希望通り、就職が決まった時はその時だ。
◆◆◆
悩んだプレゼントが届いたと和音からお怒りの電話があってから更に一週間後、共有したアプリから近々発情期だという通知が届いた。
ちゃんと腕時計の設定は出来たようだ。
それにしても本当に発情期の周期が短い子だなあ、と思う。早い時はひと月半と言っていた、今回もそれに近い。
そのお陰か、通常一週間程続く期間が和音は四、五日程だという。それでもあまりの周期の短さを考えると割に合わないだろう。
もうそろそろ発情期だね、と電話をすると、既にもう躰があついという。
躰の熱は発情期間近の証拠。出来るだけ直ぐに行くから楽にしててと電話を切る。
……そしてこういう時程直ぐに会社を抜けられない状態だったりするものだ。
どうにかこうにか退社を済ませ、一度自分の部屋に戻って着替えだけ紙袋に詰める。
本当はそのまま和音のところに行こうと思ったのだけど、スーツを汚すと面倒だな、というのと、まあ着替えは必要だよなと冷静な部分があった。
クローゼットに並んだ服を見て、巣作り、と考えてしまった。
俺の服で巣作りをする和音はそりゃあ見たい。
さぞかわいいことだろう。そこにいるだけでかわいいんだから。
でも与え過ぎるとそれで満足されてしまう。まだ早い。……まだ。
服ではなく、俺をほしがってもらうのが先だ。
和音の中で、俺が運命になるまで、俺だけを望むまで、満足させたらいけない。
……とは思っていたけれど。
そんな強がり、まだいるのだろうか、とも思う。
いや、これは発情期だから。ヒート中で苦しいから。
俺が来るのを知ってて、だからそれしか頭にないだけ。
まだ期待するな、勝手に良いようにとるな。
そう扉の前で、何度も深呼吸した。
和音の家は玄関を開けると既に甘いにおいが漂っていて、寝室の前に立つと、軋むベッドの音と、和音の声が漏れている。
ゆうまさん、ゆうまさん、ゆーまさん、涙声混じりで何度も俺の名前を呼ぶものだから堪らなかった。勘違いもしてしまいそうになるってものだ。
そんな自分に調子に乗らないよう、もうひとつだけ深呼吸をしてから寝室の扉を開く。
玄関とは比べ物にならないくらい、甘ったるいにおいが充満していた。
前回と同じように着替えを求められ、シャツだけあげると言う俺に、やだ、もっと、と涙を溜めた瞳で懇願されると揺れてしまう。
……駄目だったら。そう決めたじゃないか。俺が勝手に、だけれど。
全身を紅く火照らせた和音を見て、律稀の言っていたことを思い出す。
──どこもかしこも触り過ぎて痛くなるし、
その言葉通り、性感帯……特に胸元と下半身は触り過ぎて腫れていた。
案の定、まあ触るどころかまじまじと見る俺の息が掛かるだけで辛いと言う和音に、悪いけれど……興奮してしまった。
薬を塗ってやり、プレゼントした玩具を使いなよと軽口を叩く俺に、捨てた、と返される。
……辛いのは和音なのに。そう仕向けてるのは自分なのに。
何故かほっとしてしまった。
馬鹿だろう、和音のナカに入ってほしくないと、自分で贈った玩具にまで嫉妬するのは。
そうか、うん……使いたくないかあ。
「俺が帰ったらどうするの?ここも……こっちも、ほら、暫く痛いよ、きっと」
「……帰るの?」
頼りない瞳が揺れる。罪悪感で胸がぎゅっとした。
帰らない、和音の傍にいる、って言っちゃいたい、そうしてしまいたい。
でも駄目だ、和音から「帰らないで」と言えるまで、俺から折れたら駄目。
「さみしい?」
「……っく、ないっ」
「……そっかあ、さみしくないのかあ、それは俺がさみしいな」
きゅっと唇を噛んで、それから少し、かおを背けて、早くナカ挿入れてよ、と強がる和音に、まだだ、と思った。
まだ冷静になる時がある。
だから、まだ駄目。
まだ和音は堕ちてない。
「んっうう、う、あ、……ッく」
何度目かの和音の絶頂、同時に俺もナカに出してしまった。
和音はまだ理性が残っているのか残っていないのか、がっしりと足で俺の腰をホールドして、耳元で甘い声を出し続けている。
……トんだかな。
飛んでしまったら和音はもっと貪欲になる。
抽挿を繰り返すと、あ、あ、と声を漏らしながら、何度も気持ちいい、と口にする。
和音がしがみついてるものだから、腹の間で和音のものが擦れてるんだけど……痛くないかな、と変な心配もしてしまう。
だって痛いのはかわいそうだなと思って。
お前が言うなって感じではあるけど。
「あ、ッう、ん、あっ、やあ、っあつい……っ」
「ん、一旦抜く?」
「やらあ……!」
「あついんでしょ、ごめんね、ナカ出しちゃったからかな」
「やっ、あ、きもちい、きもちいぃ、からあ……!」
「ナカあついの気持ちいい?」
うんうんと頷く和音に心臓が早くなる。
ナカに出されんの、気持ちいいかあ。
それならもっとナカに出したい、けど。
でもその先にあるのは妊娠の心配だ、と変なことに気付いてしまった。
……そうだ、妊娠してしまえば、和音は俺から逃げられないのでは?
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