【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

文字の大きさ
上 下
76 / 124

76

しおりを挟む
 律稀のオメガ性は大分弱い。
 発情期も一応三ヶ月に一度来るが、大体が一週間程度続く中、律稀は三日程で終わるらしい。
 ヒート中のオメガは、ベータにすらわかる程のフェロモンを出すが、律稀はそれも弱く、ベータにはわからないという。
 想い人がベータだという律稀は、せめて発情期くらい強くなれば誘惑も出来るんだけど、と強がっていたこともある。
 その律稀でも辛い程の発情期。

「お前普段発情期はどうしてんの」
「は」
「俺、発情期のオメガ相手にしたことなかったし、そんなの他のオメガに訊けないじゃん」
「なんで僕にはそんなデリカシーないこと訊けんの……」
「いやお前が今までそういう話結構自分で口にしてきただろ」
「……ただの下ネタ体験談と自分の発情期の話訊かれんのはちがうでしょ」

 珍しく頬を紅潮させる律稀が、周りをちらちらと気にした。これ、こんなとこでする話じゃなくない、と。
 でもカラオケや車の中みたいな密室でオメガとアルファがふたりきりはもっとまずいだろう、小声なら誰も聞いちゃいない。

「……つ、番いないし」
「うん」
「……発情期に適当な奴とすんのこわいし……噛まれたりとか、妊娠、とか……」
「うん」
「ひ、ひとりでするしか、ないじゃん……?」
「うん」
「何言わせんの~……」

 和音の発情期は、番になってしまった俺が近くにいるからああなってしまうのか、それともひとりであっても変わらないのか。

「知らないよお、番いたことなんかないんだから。でも僕ですらめちゃくちゃひとりですんの、辛いんだよ、わかる?どんだけイっても終わんないの。普段なら二回も抜かないくらいでしょ、発情期はずーっと躰がおかしいの、どこもかしこも触り過ぎて痛くなるし、ナカはあついし、でも指じゃ届かないし」

 また周りを確認して、その子、処女だった?なんて訊いてくる。
 恥ずかしがりながらも、自分の知り得る情報を、俺じゃない、和音の為に教えようとしている律稀が、……本当に良い子だと思う。

「うん、初めてだった」
「じゃあその、今まではずっと……手……指だけ、だったと思うのね」
「うん?」
「それがナカをいっぱいにされる気持ち良さを知っちゃった訳でしょ、足りないの、指じゃ」
「え」
「……届かないの、奥まで。気持ち良いとこにはまあ届くよ、でも奥までほしくなっちゃうの、オメガってそうなんだよ、すきなひとのもの、お腹までほしいの、本能なんだよ」
「……」
「ましてや初日、ちゃんと抱かれてる訳でしょ、翌日にはそのあとがぽっかり残ってんだよ、指で間に合う訳ないでしょ、いちにち抱かれたからって発情期が治まる訳じゃないんだから。めちゃくちゃ苦しかったと思うよ、却って抱かれない方がましだったって思うくらい」
「……後悔、するかな」
「僕ならする」

 きっぱりと言い切った律稀に、そんなに辛いのか、かわいそうだったな、と申し訳ない気持ちと、じゃあ少しは俺を独占したいっていう気持ちが芽生えたりしたかな、なんていう狡い気持ちが湧く。
 先日のメッセージは、既読にはなっていたが返信はなかった。
 残りの発情期、俺を想って、傍にいてほしいって、自分を慰め続けたんだろうか。
 憎んだだろうか、他の奴を頼ったりしてないだろうか。
 いや、番の出来たオメガは本能的に生理的に、他の奴との行為は出来なくなると聞いたけれど。

「で、律稀は指で我慢してるの?」
「いやまじデリカシー……何処に捨ててきたのさ」
「俺と律稀の仲じゃん」
「うちの会社の為ですよ」
「うん」
「……処女じゃなかったら指じゃ足んないって言ったでしょ」

 さっきよりも、もう耳まで紅くした律稀はミックスジュースのストローを弄りながら、消えるような声で、おもちゃとか……と呟いた。
 成程、それなら指より満足出来て、誰にも頼らずに済む。

「こんな喫茶店で自慰行為の話させられるとかどんな罰ゲームだよお……」
「ごめん、気になってたからさあ……奢るし、ここ」
「あったり前じゃん……うう、ケーキもいっこ食べたい、ゆうま先輩食べちゃったし」
「いやお前が勝手に口に突っ込んだんじゃん」

 すみません、このいちごとマスカットのケーキ下さい、と頬を紅くしたまま即注文する律稀に、店員さんは少し笑っていた。
 本当に律稀が素直で良い子で甘えん坊で助かる。
 俺にはわからない、誰にも訊けない、そんな相談相手にぴったりだった。
 その分見返りも必要だけれど、この子の場合はいやらしさがない。
 お陰で俺の小狡い計画に巻き込んでいるというのに、そこに関して罪悪感はなかった。


 家に帰って、早速玩具を検索してみた。自分で買ったことはなかったが、色んなものがあるようだ。
 ……流石に律稀にどれ使ってるの、なんてセクハラ親父のようなことまでは訊けなかったからな、レビューを見て口コミを参考に決めた。
 反応が良ければまた他のを考えよう。

 ついでに首輪。あれももう古くなっていたし、アプリと連携しているとはいえ、番持ちが使うものではないだろう。
 首輪で噛み痕が隠れてしまうのも残念だ。周りにも見せつけたいし、何より和音にその痕を意識してもらいたい。
 今は番持ちは腕時計で管理するのが主流だと聞いた、アプリと連携も出来て、指輪のように牽制にもなる。
 ……それが目当てで贈るのは駄目だろうか。
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...