【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 ◇◇◇

 知りたくない事実を知った翌日。
 発情期三日目。
 おれは初めて悠真さんの寝顔を見た。

 ……え、ちっか、え、いや、近い、かお、かお、いやかお良、うわ、寝てても整ってる、ううう、くそ、かっこいーな……

 うちに置いてるのは、ひとりで寝るには大きなダブルベッドだった。
 数ヶ月に数日ベッドの上から降りられない生活だとわかっているから、大きなものにしたんだけど。
 シングルにしなくてよかったかもしれない、と初めて思った。
 シングルだったら悠真さんは遠慮して一緒に寝てくれなかったかもしれない。
 ……てか一緒に寝てくれるんだ、今までも帰る前まではそうだったのかな、初めての時は……いたな、起きてたけど。
 次からは起きたらもういなくて。

 うわあ、寝てる。当たり前だけど。悠真さんが寝てる。
 そっと見た時計はまだ六時。
 仕事に行くならもうそろそろ起きないといけない時間だと思うけど。一旦家にも帰らないといけないだろうし、大慌てだろうな。
 今日は仕事に行きますか?
 一緒にいてくれますか?
 明日は?
 返答がこわくて訊けない。

 寝顔は少しだけ幼い気がする。かわいい。不思議、格好良いのにかわいい。
 寝てる時も甘いにおいするんだな、おれもだったのかな。
 無意識にフェロモン出てる?ふわふわする。うう、いいにおい。
 もうちょっと近付いてもいいかな、それはだめな距離かな。
 ちょっとだけ。
 ちょっと。
 だっていいにおいするから。だから。
 もうちょっとだけ、そのにおいと体温を感じたいと思った。

 でも動いたら起きちゃうかも。起きたら帰っちゃうかも。
 おれが起こさなければ、もう昼過ぎとかになっちゃえば、寝坊したって、もういいやって、仕事も行かずここにいてくれるかもしれない。
 でも仕事をそんな風に扱うのもだめだとわかる。仕事はだいじだ、とても。
 悠真さんの立場でクビにはならないだろうけれど、周りの信用や自分で抱えた仕事もある訳で、おれひとりの我儘を通していいものではない。
 どうしよう、じゃあ起こしてあげるべき?でも気持ち良さそうに寝てるのに。仕事じゃなかったら起こすのかわいそう。
 でもわざと起こさなかったって思われたら。
 いやいやそれならアラームセットしてるでしょ。
 でもでもでも。

「ふは」
「……!起きっ……」
「なに百面相してんの、かわいー」
「……」
「おはよ」

 笑い声がして、そちらの方を見上げると、悠真さんはまだ少し眠そうではあったけれど、そのままおれに手を伸ばしてきた。
 前髪を撫で、頬を軽く摘む。
 ……そんなに変なかお、してたのかな。
 くあ、と大きく欠伸をして、何時、と訊いてきたから六時、と答えると、まだ早いね、と返される。
 うん、おれはそう思うけど悠真さんは?大丈夫?
 口には出せないまま、じいと見つめていると、体調は大丈夫?と逆に問われてしまった。

「……躰、怠い」
「まあそっか、治るどころかまたヤってんだもんな、悪化しかしないか」
「……でもおなか、」

 お腹の奥は満たされてる感じがする、と言いかけて、さすがにそれを口にするのは……と押し黙った。
 言葉途中で黙ってしまったおれに、悠真さんは心配そうに声をかける。
 お腹痛い?お腹空いた?お腹、どうかする?
 ……痛くもないし、まだ空いてもない。寧ろお腹はいっぱいっていうか。
 悠真さんの、まだ入ってる気がする。

「……お風呂入りたいかも……」

 避妊薬を飲んでるとはいえ、ナカに残しておくのもどうかと……いや、妊娠云々を置いておいても流石に……
 悠真さんは多分おれが気を失ったり寝たりしてる間にシャワーのひとつも浴びてるんだと思う。
 おれも綺麗にはされてるけど、多分シャワーまではしてないだろう。
 幾ら細くて軽いと言われても成人男性である、気を失った奴をひとりでお風呂に入れるのは大分難しいと思う。

「お風呂?シャワーかな?」
「どっちでもいいけど……」
「でも動けないんでしょ?」
「う」
「一緒に入る?」
「は、」

 動けないでしょ、入れてあげるよ、そう言って悠真さんは布団を剥いだ。
 ちょっと待って待って、うんって言ってない。
 いや仕事も行かないの、そんなに休み取って大丈夫なの、あんなこと言ってしまったけど、ちゃんとそこら辺、常識はあるつもり、だけど。
 ……いいのかな、甘えても。


 とはいえふたりでシャワータイム、なんて言うにはまだ早過ぎる、七時にもなってない。明る過ぎる、恥ずかし過ぎる!
 風呂場まで連れて来られ、服を脱がされ、まるで人形のように椅子に置かれて、当然のように悠真さんまで入ってくる。
 一緒に入る、入れてあげるとは言ったけど!もう全裸も見られたことあるどころか、おれが寝こけてる間に綺麗にしてくれた時にもう色々見られちゃってんだろうけど!
 それでもこの明るさは恥ずかしい。
 電気の明るさではなくて、太陽の明るさ。
 健全なひとたちは朝の身支度を整えて、きりりと外に出て行く時間。
 そんな時間に昨夜の情事の後を流す為に、そしてこれからまだ続くヒートを宥めてもらう為に綺麗にする。

 仕方ないとはいえ、自堕落で溺れたような、そんな情けない気持ちになってしまう。
 ……情けないことに躰は喜んでしまっているのだけれど。
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