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でも実際に質問となるとぱっと出てこない。
無難なところは訊いてしまった、後は何か切欠がないと、聞きづらいな。
「……和音は両親と仲良いんだっけ?」
「え、あ、うん」
黙ってしまったからかな、逆に悠真さんに訊かれてしまった。
それに安心したからか、両親はアルファで、でもおれのことやオメガを軽視しなくて、父方の叔父叔母もアルファで、でもそっちの番はオメガで、芽依の母親は……なんてどんどん話を勝手に口がしてしまう。
そこまで訊かれてないっていうのに。
「千晶くんにはびっくりしたなあ、家に来たら知らない男がいるんだもん、しかも和音は寝込んでるし」
「千晶くんはいつも面倒見てくれるだけだから……お礼しなきゃとは思うんだけど」
「そうだね、俺の番をいつもありがとうって」
「なんで悠真さんが」
「だって和音は俺の番じゃない、面倒見るのは俺の筈でしょ」
「……そう、だけど……え、そうなの?」
悠真さんがそう千晶くんに挨拶することを考えると擽ったくなる。
それと同時に少しもやもやしたものも。だって悠真さん、……おれのこと、そんなに面倒見れないでしょ。
それともだから、千晶くんにこれからも面倒見てねってお願いするってこと?
いや、もう本当にわかってる。わかってんの。
おれがそう望んだことなんだから悠真さんは悪くない。寧ろこうやって発情期に一緒にいてくれる期間が増えただけでありがたいことなんだって。
発情期以外も気にしてくれてるんだって。
ただそう理解してるのと、羨んでしまうのは別でしょ、だめだってわかってても、いいなって思ってしまうのは止められないでしょ、口にしないだけ偉いでしょ。
「千晶くんコーヒーすきだよ」
「花音ちゃんは?」
「飲まない」
「じゃあ違うの贈ろう、ふたりがすきなやつ」
「……うん」
悠真さんのかおが近い。
気が付いたらまた甘いにおいが辺りに充満していて、ああ、悠真さんのにおいだ、と瞳を閉じた。
まず指先が唇に触れて、それから柔らかいものが重なる。
差し込まれた舌が甘い。もうリゾットの味は残ってなかった。デザートなんかよりもっと甘い、甘くて、蕩けるような、痺れるような、そんなキスだった。
「……寝室まで我慢出来る?」
「う、……は、ぁ、ンぅ、わか、ん、ない……」
「出来なさそ」
名残惜しそうにおれの唇を少し舐めて、もう一度、重なるだけのキス。
いや、名残惜しいのは俺の方。
悠真さんの胸元を掴んで、自分からもう一度、唇を噛んだ。
驚いたように少し開いた唇に舌を捩じ込み、悠真さんの舌を更に噛む。
ちゅう、と吸って離れる。噛み癖があるなあと苦笑した悠真さんに、あんたの真似だよ、と思う。
あんたしか、悠真さんしか知らないんだから。おれのこういう行為は、大体悠真さんの真似事になってしまうんだよ。
「……ソファぐちゃぐちゃにしちゃうかも」
「ん……」
「そしたら新しいの買ったげる。今度一緒に見に行こうよ」
おれをソファに倒しながら悠真さんは少し跳ねるような声でそう言った。
ベッドまで行かず、もうソファを汚す気しかないような。
主に汚してしまうのはおれなんだけど。
……でも家具を買いに行くなんて、家族みたい。
そう考えてしまうと、汚れなんてどうでもよくて、寧ろ汚してしまいたくて、震える唇で、うん、と頷いた。
「……ッ、ん、」
布の上から胸元に触れる手は足りない、と思った。
ぐにぐに押し潰される程硬くなったそこはもう期待しているのに、思っていた快感と違って、不満そうに声を上げてしまう。
今まで直接しか触られたことなかったから。もどかしい。
「脱ぐ……」
「脱いでくれるの?」
「だって、それじゃ……」
「見ててあげる、ちゃんと脱げるかな」
「……脱げるし」
指先が震えてる、と先程までスプーンをおれの口元に運んでいたその手はソファにつかれて、覆い被さるように悠真さんはおれを見下ろしていた。
楽しそうな、でも艶のあるかおだった。
悠真さんも興奮しているのだとしたら、それが例えフェロモンのせいだとしても、良かった、とは思うけど。
それはそれとして、いじわるだ、とも思う。
やはり震える指先では釦が上手く外せない。失敗して失敗して、それから漸く小さな釦をひとつ、と外していく。
焦ってしまう。時間はいっぱいあるのに。早く触ってほしくて。
なんでこんなパジャマを着せたんだ、スウェットとかなら、すぐに脱げたのに。着せてくれたのに文句言うのもおかしいけど。
「ふ、は、はず、外せた、ぼたん、外せた、ゆうまさん」
「うん、見てたよ、よく出来ました、で?」
「……で?」
「俺にどうしてほしいの?」
……どうしてほしいって。なんで、そんなの、なんで、触ってほしいに、触ってほしいからに、決まって……
「な、舐めて……」
「かわいー……」
欲望に負けてしまった。
突きつけるように背が反って、悠真さんに近くなる。
悠真さんはやはり楽しそうに笑って、おれの胸元にかおを埋めた。
「ひ、う、っン……っあ、あ!」
ぬる、としたあつい舌が、気持ちいい。
噛んで、吸って、空いた方も指先で捏ねられて、甘ったるい声が響く。
もうそこは立派な性感帯だった。
無難なところは訊いてしまった、後は何か切欠がないと、聞きづらいな。
「……和音は両親と仲良いんだっけ?」
「え、あ、うん」
黙ってしまったからかな、逆に悠真さんに訊かれてしまった。
それに安心したからか、両親はアルファで、でもおれのことやオメガを軽視しなくて、父方の叔父叔母もアルファで、でもそっちの番はオメガで、芽依の母親は……なんてどんどん話を勝手に口がしてしまう。
そこまで訊かれてないっていうのに。
「千晶くんにはびっくりしたなあ、家に来たら知らない男がいるんだもん、しかも和音は寝込んでるし」
「千晶くんはいつも面倒見てくれるだけだから……お礼しなきゃとは思うんだけど」
「そうだね、俺の番をいつもありがとうって」
「なんで悠真さんが」
「だって和音は俺の番じゃない、面倒見るのは俺の筈でしょ」
「……そう、だけど……え、そうなの?」
悠真さんがそう千晶くんに挨拶することを考えると擽ったくなる。
それと同時に少しもやもやしたものも。だって悠真さん、……おれのこと、そんなに面倒見れないでしょ。
それともだから、千晶くんにこれからも面倒見てねってお願いするってこと?
いや、もう本当にわかってる。わかってんの。
おれがそう望んだことなんだから悠真さんは悪くない。寧ろこうやって発情期に一緒にいてくれる期間が増えただけでありがたいことなんだって。
発情期以外も気にしてくれてるんだって。
ただそう理解してるのと、羨んでしまうのは別でしょ、だめだってわかってても、いいなって思ってしまうのは止められないでしょ、口にしないだけ偉いでしょ。
「千晶くんコーヒーすきだよ」
「花音ちゃんは?」
「飲まない」
「じゃあ違うの贈ろう、ふたりがすきなやつ」
「……うん」
悠真さんのかおが近い。
気が付いたらまた甘いにおいが辺りに充満していて、ああ、悠真さんのにおいだ、と瞳を閉じた。
まず指先が唇に触れて、それから柔らかいものが重なる。
差し込まれた舌が甘い。もうリゾットの味は残ってなかった。デザートなんかよりもっと甘い、甘くて、蕩けるような、痺れるような、そんなキスだった。
「……寝室まで我慢出来る?」
「う、……は、ぁ、ンぅ、わか、ん、ない……」
「出来なさそ」
名残惜しそうにおれの唇を少し舐めて、もう一度、重なるだけのキス。
いや、名残惜しいのは俺の方。
悠真さんの胸元を掴んで、自分からもう一度、唇を噛んだ。
驚いたように少し開いた唇に舌を捩じ込み、悠真さんの舌を更に噛む。
ちゅう、と吸って離れる。噛み癖があるなあと苦笑した悠真さんに、あんたの真似だよ、と思う。
あんたしか、悠真さんしか知らないんだから。おれのこういう行為は、大体悠真さんの真似事になってしまうんだよ。
「……ソファぐちゃぐちゃにしちゃうかも」
「ん……」
「そしたら新しいの買ったげる。今度一緒に見に行こうよ」
おれをソファに倒しながら悠真さんは少し跳ねるような声でそう言った。
ベッドまで行かず、もうソファを汚す気しかないような。
主に汚してしまうのはおれなんだけど。
……でも家具を買いに行くなんて、家族みたい。
そう考えてしまうと、汚れなんてどうでもよくて、寧ろ汚してしまいたくて、震える唇で、うん、と頷いた。
「……ッ、ん、」
布の上から胸元に触れる手は足りない、と思った。
ぐにぐに押し潰される程硬くなったそこはもう期待しているのに、思っていた快感と違って、不満そうに声を上げてしまう。
今まで直接しか触られたことなかったから。もどかしい。
「脱ぐ……」
「脱いでくれるの?」
「だって、それじゃ……」
「見ててあげる、ちゃんと脱げるかな」
「……脱げるし」
指先が震えてる、と先程までスプーンをおれの口元に運んでいたその手はソファにつかれて、覆い被さるように悠真さんはおれを見下ろしていた。
楽しそうな、でも艶のあるかおだった。
悠真さんも興奮しているのだとしたら、それが例えフェロモンのせいだとしても、良かった、とは思うけど。
それはそれとして、いじわるだ、とも思う。
やはり震える指先では釦が上手く外せない。失敗して失敗して、それから漸く小さな釦をひとつ、と外していく。
焦ってしまう。時間はいっぱいあるのに。早く触ってほしくて。
なんでこんなパジャマを着せたんだ、スウェットとかなら、すぐに脱げたのに。着せてくれたのに文句言うのもおかしいけど。
「ふ、は、はず、外せた、ぼたん、外せた、ゆうまさん」
「うん、見てたよ、よく出来ました、で?」
「……で?」
「俺にどうしてほしいの?」
……どうしてほしいって。なんで、そんなの、なんで、触ってほしいに、触ってほしいからに、決まって……
「な、舐めて……」
「かわいー……」
欲望に負けてしまった。
突きつけるように背が反って、悠真さんに近くなる。
悠真さんはやはり楽しそうに笑って、おれの胸元にかおを埋めた。
「ひ、う、っン……っあ、あ!」
ぬる、としたあつい舌が、気持ちいい。
噛んで、吸って、空いた方も指先で捏ねられて、甘ったるい声が響く。
もうそこは立派な性感帯だった。
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