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数分も待たない内に、カップとスプーンを持った悠真さんが戻ってきた。
手渡されるかと思い、すっと出した手はスルーされ、そのままベッドに上がられる。
なに、くれるんじゃなかったの。そう少しむっとしてしまった。唇を尖らせたおれに、悠真さんは膝を叩き、こっちにおいで、と言った。
「……動けない」
「ああ、ごめん、躰痛い?」
「腰が怠い……躰もめちゃくちゃいたい」
文句を垂れると、笑いながら悠真さんがおれの腰を引く。すっぽりと腕の中に収まると、……それはそれでむず痒くて恥ずかしくて、甘えたことを言ってしまったことに後悔した。
おれにこんな甘え方はまだ早い。
「なに、これ……」
「食べさせてあげようと思って」
「えー……」
「嫌?」
「……いや、とは言ってない……けど」
「小さいスプーンだと零しちゃうかなって。ほら、手も震えてるでしょ」
「誰のせいで……」
いやおれのせいなんですけど。別に腕を拘束されたとかじゃないんだから、ひとのせいなんかじゃないんですけど。
でも理性があるんだもん、強がりを言ってしまう。
可愛げのないことを返してしまう。
「俺のせいだよ、無理させてごめんね」
「へっ……」
素直に……素直でいいのかな、これ。
どちらかというと、折れてくれてるだけのような。
でも言い返すことが出来ない。上手い返しがわからない。
「でも和音も煽るからさ」
「煽っ、てない!」
「いやあ、もっともっと、ってお強請りがかわいくて」
「言ってない!」
「言いましたあ」
「ゆってない!」
そんな小学生みたいな言い合いをしていると、悠真さんの穏やかな笑い声が聞こえて、かおを上げてしまった。
視線が合う。
細めた瞳が、柔らかくおれを見ていることに、なんだか堪らなくなって……また視線を伏せてしまった。
嬉しいけど、慣れてない。
そんな優しいかおでおれを見るひとなんて、家族以外には……まあ千晶くんと智子先生がいるか。
でもそれ以外にはそんなかお、される予定なんかなかったんだよ、おれは。
「ン……」
「……また触ってほしくなっちゃうね?」
「ら、って、発情期、らし……」
「うん、仕方ないよね、でもずうっとそうしてる訳にもいかないから、これ、食べよ?」
ね、とプリンを目の前で軽く振る。
あれ、と思った。
マグカップじゃない。手作りのじゃなくて、お店のプリンだった。
……悠真さんの作ったやつかと思ったのに。
また、むうとしてしまった。
味でいえば当然素人の悠真さんが作ったものよりお店のものの方が美味しい。
けれど期待しちゃってたの、悠真さんがまた作るって言うから。嬉しかったんだもん、また食べたいって思ってたんだもん。
そりゃ期待した分がっかりしちゃうでしょ。
それに、そのプリンは見覚えがある。以前冷蔵庫に入っていた。ケーキ屋さんのプリンだ。
並ぶ店としてそこそこ有名なお店に、さっきまで並んでた訳ではないだろう。
つまり昨日既に買ってきていたということ。
正直、そんなものに並ぶより、一分一秒でも早くうちに来いよ、と思ってしまう。発情期が始まってたんだよこちとら。
そういうとこ、気が利かないんじゃないの。
普段はこうやって色々してくれるのに、わざとわからない振りでもしてんの?ってくらい、なんでそんなことすんの?ってことをする。
なんでわかんないの、おれ、ずっとまだかなって待ってたのに。
「あれ、このプリン美味しくなかった?口に合わなかった?」
前買ってきたと覚えてるからだろう、そう少し慌てる悠真さんに、知らない、と言ってしまった。
単純に、プリンがすきだというおれへの、美味しいものを買っていこうという好意か、それを忘れていたとしても食べやすいだろうとプリンを選んだだけだ、きっと。
それ以外の意図なんてきっとない。
けれど一度口を開いてしまうと、一言だけでは止まらないのだ。
「食べて、ない」
「……あ、食べる気にならなかった?ごめんね、プリンならって」
「れいぞーこまで!行けない!」
「えっ」
「動けないの!わかるでしょ、ベッドからおっ、降りれないの、頑張ってトイレに行くのがやっと、なの、食べられる気がしないのに……れいぞーこになんていかない、発情期終わったらっ、しょーみきげん、切れてんのっ」
これこそ小学生の癇癪のようだ。
言うつもりなかったのに。誤魔化すのがおとなだと思ってたのに。
なんだか当然のように言う悠真さんに言わなきゃと思っちゃったんだよ。
とはいっても褒められた話ではない、わかってるので、だから捨てたし、という続く言葉はか細くなってしまった。
「た、食べらんない、よ、れいぞーこに入ってたって、いけない、し、ケーキとか、いらない、から、そんな寄り道、する暇あるなら早く……来てほしかった、し、らっ、だっ、て、発情期、だから、悠真さん、来て、くれるのにっ」
そんなこと文句を言ったって不快にしかさせないのに。
なのに言ってしまった。
次から買ってこないでいい、という訳じゃない。
ただおれに、その時間をもうちょっと使ってくれたらいいのに、という我儘な思いをわかってもらいたかっただけだ。
手渡されるかと思い、すっと出した手はスルーされ、そのままベッドに上がられる。
なに、くれるんじゃなかったの。そう少しむっとしてしまった。唇を尖らせたおれに、悠真さんは膝を叩き、こっちにおいで、と言った。
「……動けない」
「ああ、ごめん、躰痛い?」
「腰が怠い……躰もめちゃくちゃいたい」
文句を垂れると、笑いながら悠真さんがおれの腰を引く。すっぽりと腕の中に収まると、……それはそれでむず痒くて恥ずかしくて、甘えたことを言ってしまったことに後悔した。
おれにこんな甘え方はまだ早い。
「なに、これ……」
「食べさせてあげようと思って」
「えー……」
「嫌?」
「……いや、とは言ってない……けど」
「小さいスプーンだと零しちゃうかなって。ほら、手も震えてるでしょ」
「誰のせいで……」
いやおれのせいなんですけど。別に腕を拘束されたとかじゃないんだから、ひとのせいなんかじゃないんですけど。
でも理性があるんだもん、強がりを言ってしまう。
可愛げのないことを返してしまう。
「俺のせいだよ、無理させてごめんね」
「へっ……」
素直に……素直でいいのかな、これ。
どちらかというと、折れてくれてるだけのような。
でも言い返すことが出来ない。上手い返しがわからない。
「でも和音も煽るからさ」
「煽っ、てない!」
「いやあ、もっともっと、ってお強請りがかわいくて」
「言ってない!」
「言いましたあ」
「ゆってない!」
そんな小学生みたいな言い合いをしていると、悠真さんの穏やかな笑い声が聞こえて、かおを上げてしまった。
視線が合う。
細めた瞳が、柔らかくおれを見ていることに、なんだか堪らなくなって……また視線を伏せてしまった。
嬉しいけど、慣れてない。
そんな優しいかおでおれを見るひとなんて、家族以外には……まあ千晶くんと智子先生がいるか。
でもそれ以外にはそんなかお、される予定なんかなかったんだよ、おれは。
「ン……」
「……また触ってほしくなっちゃうね?」
「ら、って、発情期、らし……」
「うん、仕方ないよね、でもずうっとそうしてる訳にもいかないから、これ、食べよ?」
ね、とプリンを目の前で軽く振る。
あれ、と思った。
マグカップじゃない。手作りのじゃなくて、お店のプリンだった。
……悠真さんの作ったやつかと思ったのに。
また、むうとしてしまった。
味でいえば当然素人の悠真さんが作ったものよりお店のものの方が美味しい。
けれど期待しちゃってたの、悠真さんがまた作るって言うから。嬉しかったんだもん、また食べたいって思ってたんだもん。
そりゃ期待した分がっかりしちゃうでしょ。
それに、そのプリンは見覚えがある。以前冷蔵庫に入っていた。ケーキ屋さんのプリンだ。
並ぶ店としてそこそこ有名なお店に、さっきまで並んでた訳ではないだろう。
つまり昨日既に買ってきていたということ。
正直、そんなものに並ぶより、一分一秒でも早くうちに来いよ、と思ってしまう。発情期が始まってたんだよこちとら。
そういうとこ、気が利かないんじゃないの。
普段はこうやって色々してくれるのに、わざとわからない振りでもしてんの?ってくらい、なんでそんなことすんの?ってことをする。
なんでわかんないの、おれ、ずっとまだかなって待ってたのに。
「あれ、このプリン美味しくなかった?口に合わなかった?」
前買ってきたと覚えてるからだろう、そう少し慌てる悠真さんに、知らない、と言ってしまった。
単純に、プリンがすきだというおれへの、美味しいものを買っていこうという好意か、それを忘れていたとしても食べやすいだろうとプリンを選んだだけだ、きっと。
それ以外の意図なんてきっとない。
けれど一度口を開いてしまうと、一言だけでは止まらないのだ。
「食べて、ない」
「……あ、食べる気にならなかった?ごめんね、プリンならって」
「れいぞーこまで!行けない!」
「えっ」
「動けないの!わかるでしょ、ベッドからおっ、降りれないの、頑張ってトイレに行くのがやっと、なの、食べられる気がしないのに……れいぞーこになんていかない、発情期終わったらっ、しょーみきげん、切れてんのっ」
これこそ小学生の癇癪のようだ。
言うつもりなかったのに。誤魔化すのがおとなだと思ってたのに。
なんだか当然のように言う悠真さんに言わなきゃと思っちゃったんだよ。
とはいっても褒められた話ではない、わかってるので、だから捨てたし、という続く言葉はか細くなってしまった。
「た、食べらんない、よ、れいぞーこに入ってたって、いけない、し、ケーキとか、いらない、から、そんな寄り道、する暇あるなら早く……来てほしかった、し、らっ、だっ、て、発情期、だから、悠真さん、来て、くれるのにっ」
そんなこと文句を言ったって不快にしかさせないのに。
なのに言ってしまった。
次から買ってこないでいい、という訳じゃない。
ただおれに、その時間をもうちょっと使ってくれたらいいのに、という我儘な思いをわかってもらいたかっただけだ。
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