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二月の頭。
今や悠真さんとはメッセージでのやり取りが殆どとなってしまっていた。
そんな悠真さんから電話があったのは、やっぱり発情期が来る前に、漸く、だった。
もう発情期来そうだね、大丈夫?体調崩してない?準備はしてる?明日になりそう?そっか、じゃあ明日行くね、何か欲しいものある?
そう訊く悠真さんの声は以前とかわらなくて、おれの失言は大して気にされなかったのか、やはり仕事が忙しくてメッセージばかりになっていたのか、と少しだけ安堵した。
こどもを産む気はないけれど、抱いてもらえないのは困る。
それに、風邪の時に言っていたのを忘れてない。次から気をつけるって言った。
それがどういうことなのかはちゃんと聞いてない、丸々は無理でも一日だけじゃなく、もっといてくれるのかとか。
それに期待してる。
あの数日続く辛さが半分でもましになったら。
あの永遠に続くように感じる苦しさが少しでもましになったら。
発情期前の、またあれが来るのかあという重くなる空気の中、それだけが救いだった。
◇◇◇
明日行くね、とは言ったけれど、何時とは言ってない。
いつも通り、夜……仕事が終わってからだとは思うけれど。
その夜、が何時になるのか。
夕飯、食べてくるかな。うちに来ても何もないもんな。
そうだよな、落ち着かないもんな、だっておれ、発情期だし。きっと悠真さんにしかわからないフェロモンが出てると思う。
不思議だな、悠真さんは色々なひとに通じるのに、おれのものは悠真さんにしか効かないなんて。そりゃあそう願って番になったんだけれど。
「ん、ふ……」
だめだ、考えると躰があつくなってきた。
熱を持ち始めると加速する。本格的にヒートが来る。
風呂に入ったばかりの綺麗な躰。洗濯したシーツに替えたベッド、花音の買ってきた新しいパジャマ。全て汚す為のものだ。
あ、またパジャマ着ちゃった、スウェットとかでよかったのに、つい。こどもっぽいと揶揄われないといいけど。
「っふ、ゔ、んん、ッ」
声が漏れる。少し触れるだけでもうこれだ。
指先で突いて、手のひらで包み込んで、ゆっくりと動かすともう腰が溶けてしまいそうだった。
自分でだって、それくらい気持ちいい。でもこれを、番がしてくれるともっともっと気持ちがいい。
同じことなのに、もっと。
そう考えるだけで、脳内から違う物質でも出てるのかな、背中がぞくぞくする。
悠真さん、と声に出して呼んでみたり、悠真さんの大きな手や低い声、触れた体温や息遣い、腹のナカにいっぱいになった時を思い出すと奥の方がきゅんきゅんする。
早く触れてほしい。
頭が馬鹿になってしまいそう。
「……ッう、あ……!」
あー……また、脱がないでイっちゃった、触るなら先に脱げばいいのに、どうしても先に指の方が動いちゃって。
ん、あ、ぬるぬるして触ると気持ちいい、あ、だめだ、脱げない、手、離せない。
「んう、ぅ、は、ぁう、ンっ……ん」
ナカももうほしい。違う、慣らさなきゃ。
おれの指より悠真さんのはもっと大きい。すぐに挿入れてもらえるよう、自分で慣らしておかなきゃ。そしたらすぐにいっぱいにしてもらえる。
既に濡れてしまってるそこは躊躇いもなく自身の指を呑み込んで、待っていたように締め付ける。
きちんと爪も切って、冬の間にがさがさにならないようにと毎日ハンドクリームも塗って、引っかからないように、ナカを傷つけないようにしてきた。
自分でやっておきながら嫌になる。
オメガになってしまう為の準備を自分でするなんて。
でもそうしなきゃきついのは自分で、苦しいのも自分で、そうしたらちゃんと気持ちよくなれるのも自分。
「んっ……ゆうまさん……あ……ッ」
あ、またきゅうってした。自分の指でも締め付けると気持ちがよくて、息が荒くなる。
ナカを慣らす為の行為で快感を得てしまう。
まだかな、悠真さん、後どれくらいかかるかな。
ちゃんと待つけど、早く来いなんて我儘言わないけど、さみしい。
悠真さんのにおいがするものが欲しい。
いつになったらちゃんと巣を作ることが出来るんだろう。
悠真さんがいる時は……悠真さんがいるからこんな気持ちにはならない。
けどこうやっていない時は不安がいっぱいで、来なかったらどうしようとか、番を解除されたらどうしようとか、どんどん悪いことばっかり考えちゃって。
こどもなんてほしくないのに、地獄だってわかってるのに、赤ちゃんほしいだなんて思ってしまって。
それが本能なんだから仕方ないけど、そう考えてしまう自分にまた落ち込んでしまう。
こどもはおれの都合の良い道具でも玩具でもないのに。
褒められたい、満たされたい、安心したい。
全部は悠真さんからは貰えないものかもしれない。
貰えてもおれは満足出来ない。言葉だけだと知ってしまってるから。
最初は発情期に抱いて貰えるだけでいいと思っていた。
浅はかな知識で、それでコントロール出来ると思っていたから。
いざ番になってみると、自分のあの判断が如何に愚かだったかよくわかる。
中途半端に抱かれた躰は快感を知ってしまって自分では満足出来なくなった。
優しくされてもそれがその場限りのものだと知るとさみしくなった。
声を聞くと会いたくなる。触れてほしくなる。思い出すと虚しくなる。
今となっては番をやめたいなんて、思ってしまうくらいに。
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