【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 ◇◇◇

「あっ、いいのに、食器くらいおれが」

 芽依を寝かしつけて、リビングに戻ると悠真さんが皿を洗っていた。
 動物園まで運転をさせ、芽依の面倒をみさせ、夕飯を作らせてからの食器洗いまで。
 流石に焦ってシンクまで走り寄ると、それはいいから袖捲ってくれない、落ちてきちゃって濡れそう、と顎で示される。
 水を止めればいいのに、と思いながらもその通り捲ってやると、ありがと、と頭に唇を落とされた。

「えっ」
「丁度良い位置にあったから」

 そんな訳あるか。
 丁度良かったとしても、そんなこと普通しない……という言葉を呑み込んだ。別に嫌ではなかったから。

「……でもごはん、作ってくれたし、皿洗いくらいおれが……出来るし、それくらい」
「もう終わるよ」
「……ごめん、ありがとう」
「んーん、芽依ちゃん大丈夫?寝た?」
「うん、夕方寝ちゃったからどうかなって思ったけど、お腹いっぱいになったからかな、ぐっすり寝てる」

 結局帰りにスーパーに寄り、和音は寝てる芽依ちゃんを見てて、と悠真さんは自分だけ買い物に走って行った。
 家に着いてからも、先に芽依と風呂に行かせられ、上がった頃には後は焼くだけだよという状況。
 千晶くん並の至れり尽くせりに、ときめくより先にすごいという気持ちと罪悪感が湧いてくる。本来なら俺がしないといけないことだ。

 夕飯は何気なく言ったグラタン。
 鶏肉とじゃがいもとさつまいもの入った甘いグラタンで、芽依はおいしいおいしいと喜んで完食した。
 本当ならかぼちゃも入れる予定だったのだが、芽依がかぼちゃいやっと頬を膨らませたものだから悠真さんは苦笑して諦めたのだった。

「かぼちゃどうしよっか」
「持って帰っていいよ、おれかぼちゃなんて料理使わないし」
「嫌い?」
「嫌いとかじゃないけど……なくていいっていうか」
「かぼちゃプリンとかどう」
「ふつーのプリンがいい」
「そっか、そうだよね、まあ今日は牛乳使い切っちゃったし作れないけど」

 芽依はまだ後数日いる訳で、その間かぼちゃは使わないだろう。
 千晶くんに持たせてもいいんだけど、好き嫌いしちゃ駄目だよ~って調理されて帰ってくる気がする。芽依に食べさせるのはおれな訳で、それを考えるとちょっと遠慮したい。

「……帰る?」
「うん、そろそろ」

 食器を洗い終わって、手を拭いて、終わり。
 まだ夜の九時だ、遅過ぎる時間ではない。
 お茶くらい、とか、ちょっと話、ふたりでしたいなとか、そうは思うのだけれど、今日はおれたちに十分時間を使わせてしまった。
 悠真さんだって家に帰ってすることもあるだろうし、ゆっくり休みたいだろう。気軽に誘えなかった。

 玄関まで悠真さんを送りながら、ふたりとも話を切り出せない。こういう時、どういう会話をするんだろう。
 いつもおれが寝ている間にいなくなってたからわかんない。
 花音や千晶くんならまたね、って手を振って終わりなんだけど、悠真さんにもそれでいいのかな。

「あ、そうだ、待って」
「?」
「待って、まだ帰んないで、待ってて」

 思い出して、靴まで履いた悠真さんを玄関に待たせ、クローゼットまで走った。
 急いで紙袋を抱えて戻り、ちゃんとまだそこに立っている悠真さんに少し息を吐く。

「これ……」
「なあに、これ」
「……一応、クリスマスの」
「クリスマス?」
「うん、多分、その、……会わないだろうと思うから、今渡しとこっかなって」
「え、俺」
「いいの、かのんたちの買いに行ったついでだから!こういうの、似合うかなって思っただけだし、その、クリスマスに間に合わなくても渡そうとは思ってたけど、なんか、うん、今日丁度よかった、かも」

 中身は洋服だった。店員さんに色々聞いて、悠真さんに似合いそうなものを探した。
 花音たちへの贈り物より悩んでしまったのは、普段私服を見慣れないからだ、きっと。
 男性が服を贈るのは、その服を脱がせたいからだと聞いたことがある。
 そう、おれが服を贈るのは、そんな下心しかない。

「……ありがと、家でゆっくり開けるよ」
「うん」
「和音にも」
「あっいい、それ、いつものお礼だから!」
「お礼?」
「ん、いつも色々してくれるから……えっと、ほら、これも貰ったし」

 これ、と腕時計を見せる。玩具のことは記憶から捨てといてやろう。
 悠真さんは少し笑って、じゃあそれ、普段からちゃんと着けててよね、と言った。
 良かった、渡せないかも、日和ってしまうかもと思ってたから、渡せる空気で良かった。

「……帰るの勿体ないな」

 そう呟いた悠真さんにどきっとした。
 悠真さんがそれ言っちゃうの、こっちは我慢してるのに。
 冗談ですら、泊まっていきなよなんておれは言えないのに。

「芽依ちゃん、かわいかったね」
「え、あ、うん……かわいいよ」
「うん」
「……悠真さん、こどもすきなの?芽依の相手してくれてありがとね、芽依、ふたりとも母親しかいないからさ、肩車、高いの嬉しかったと思う」
「……」

 あ、違うな、って思った。これは芽依の話じゃないなって。
 だって悠真さんの視線がおれの腹にあったから。

「……オメガって妊娠しやすいんでしょ?和音はまだそんな感じ、ない?……結構、ナカ……」
「おれ、妊娠しないよ、避妊薬飲んでるし」
「……でも百パーじゃないでしょ」
「産まないよ、産んだって地獄じゃん」

 遮るように言ってしまったそれは昔から思ってたことで、別に悠真さんへの当て擦りなんかじゃなかった。
 でもいつも後で後悔をする。
 もっと他に言いようがあったんじゃないかって。

 それが事実だったとしても。
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