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なんでゆーまさん?
そんな間の抜けたような声が出た。
千晶くんは?さっきの音は千晶くんが帰った音?
あれ、なんで悠真さん?え、あれ、これ、夢かな。だって発情期、じゃないのに。
「あ、わ、忘れ物、した……?」
掠れた声で訊くと、時計、と悠真さんは言い、ベッドに腰掛けた。
時計の忘れ物、あったっけ、千晶くん、何も言わなかったような……
そう考えるおれに、悠真さんはちょいちょいと腕を指す。
「腕時計、してあげたでしょ、何でまた取ってんの」
「へあ……」
「電話も出ないし」
「え、え……?」
確かに腕時計はちゃんとしてね、と巻かれた記憶はある。
でもなんでだっけ……ええと、あ、そう、まだその、火傷の痕が触れるとちょっと痒くて、それが不快だったのと、少しごつめの腕時計は時折シーツに引っかかるもので、どうにもひとりで慰めてる時にはそれがもどかしくて外してしまったのだ。
またちゃんと、発情期前には忘れなければいいと思って。
電話は単純に気付かなかった。多分、ぼおっとしたまま着信音だけ消してしまったんだと思う、よく寝ぼけたりぼんやりしたまま何かしちゃうから。
「ごめん……?」
「謝らなくてもいいけど。心配、するでしょ」
「心配……するの?」
「するよ、つけた筈の時計の反応もなければ電話も出ないんだもん、何かあったかなって思っちゃうでしょ」
「……仕事は?」
「有給取ったよ、流石に」
「えー……」
おれの為に?有給を取って?わざわざ確認しにきたって?
ほんの少し、嬉しいと思った。
それと同時に、それを発情期の時にしてほしかった、とも。
「……千晶くんは?」
「ちあきくん?ああ、さっきのひと?誰あれ、お手伝いさん?オメガだったみたいだけど」
「お手伝いさん、じゃない、番、かのん、の番」
「花音ちゃんの?」
「ん、風邪、ひいたみたいで、面倒、みに、きてくれ、た……」
「花音ちゃんはわかるけど……俺を呼べばいいでしょ」
そんなことを言う悠真さんにびっくりしてしまった。
仕事でしょ、来ないでしょ、発情期ですら休んでくれないのに。
その驚いたかおは、言葉にしなくても伝わったらしい。
「休むよ、……番なんだし。体調悪い時くらい」
「ただの風邪だよ」
「でも辛いでしょ」
辛くないよ、寝てれば治るよ、この程度の風邪なんて。
今回は発情期と重なったから動けなくて千晶くんに頼ってしまったけど、普段なら花音にすら頼らない、それくらいの風邪だよ。
こんな風邪なんかより、よっぽど……
「……来なくていいよ、か、帰っても」
「和音?」
「帰っ……帰って、仕事、行って……」
「どうしたの、熱、上がった?」
「い、いなくていい、こんな、こんくらいの、ただの風邪」
「でも熱あるんでしょ、苦しく……」
「発情期の方がつらい……!」
「え」
声を荒げたおれに、悠真さんの瞳が丸くなる。
あ、こんなこと、言わなくていいのに。
大丈夫だよ、もう薬飲んだし明日には治るから帰っていいよ、仕事に戻ってもいいよって言いたいだけなのに。
止められなかった。
「こんな風邪、寝てれば治る、熱、高くない、は、はつ、発情期の方が、ひとり、いやなのにっ……」
こんな風邪で有給使うなら発情期に使ってよ。
これくらい我慢出来る。
いてくれたら嬉しい。でも、もっと……いてほしい時にいないくせに。
帰っちゃうくせに。番のところに戻っちゃうくせに。おれだって番、なのに。
「今日は帰って、ほしいっ……」
帰って、またその分他で使ってほしい、次の、発情期とか……
起きた時に、また、一緒にいてほしい。
その方が嬉しい。
そう言えたらいいのに。
「今はいらない……」
そんな言い方したって伝わらないのに。
素直になっても困らせるだけ。どちらにせよ良い結果にはならないと思うけど。
回らない頭で考えられるのは、早く帰って、その分の有給を他につかってほしい、それだけだった。
……その有給も、どうせおれ以外に使われるのかもしれないけど。
「……いるよ」
「へ」
「俺が和音をみてたいから、いる」
「……なんで」
「ごめんね、発情期、熱より辛いか。今度から、気をつける」
「え、え……?」
「ご飯、食べられるんだってね、夕飯作るよ、何がいい?」
何を言ってるのかがわからなかった。
素直に頭に入ってこなかった。
どういう意味だろう。
いる?ここに?おれ、文句言ったのに?帰れなんて、かわいげないこと言ったのに?上手く言えなかったのに?
今度から気をつける?どういうこと?発情期、もっと一緒にいてくれるの?大丈夫なの?仕事は?番は?
ごはん?
え?どういうこと?
発情期じゃない時に悠真さんと会って話が出来るなんて初めてだった。あのヒートになってしまった時以来、が正しいのかな。
もっとちゃんと話がしたい。どういうことかちゃんと聞きたい。
なのに、また、瞼が重い。
まだ体力が戻らないからか、薬のせいか、酷く眠い。
寝たくない。折角悠真さん、が、いる、のに。
「……プリン食べたい、けど」
「けど?」
「いるなら……ごはんより、ここにいて、ほしい……」
そんな甘ったれたことを口にしてしまったのは薬で朦朧としてるからだ、風邪だからだ、眠いからだ。きっと。
体調を崩してるひとの前では皆、優しくしてくれるのを知ってるから。
だから。
そんな間の抜けたような声が出た。
千晶くんは?さっきの音は千晶くんが帰った音?
あれ、なんで悠真さん?え、あれ、これ、夢かな。だって発情期、じゃないのに。
「あ、わ、忘れ物、した……?」
掠れた声で訊くと、時計、と悠真さんは言い、ベッドに腰掛けた。
時計の忘れ物、あったっけ、千晶くん、何も言わなかったような……
そう考えるおれに、悠真さんはちょいちょいと腕を指す。
「腕時計、してあげたでしょ、何でまた取ってんの」
「へあ……」
「電話も出ないし」
「え、え……?」
確かに腕時計はちゃんとしてね、と巻かれた記憶はある。
でもなんでだっけ……ええと、あ、そう、まだその、火傷の痕が触れるとちょっと痒くて、それが不快だったのと、少しごつめの腕時計は時折シーツに引っかかるもので、どうにもひとりで慰めてる時にはそれがもどかしくて外してしまったのだ。
またちゃんと、発情期前には忘れなければいいと思って。
電話は単純に気付かなかった。多分、ぼおっとしたまま着信音だけ消してしまったんだと思う、よく寝ぼけたりぼんやりしたまま何かしちゃうから。
「ごめん……?」
「謝らなくてもいいけど。心配、するでしょ」
「心配……するの?」
「するよ、つけた筈の時計の反応もなければ電話も出ないんだもん、何かあったかなって思っちゃうでしょ」
「……仕事は?」
「有給取ったよ、流石に」
「えー……」
おれの為に?有給を取って?わざわざ確認しにきたって?
ほんの少し、嬉しいと思った。
それと同時に、それを発情期の時にしてほしかった、とも。
「……千晶くんは?」
「ちあきくん?ああ、さっきのひと?誰あれ、お手伝いさん?オメガだったみたいだけど」
「お手伝いさん、じゃない、番、かのん、の番」
「花音ちゃんの?」
「ん、風邪、ひいたみたいで、面倒、みに、きてくれ、た……」
「花音ちゃんはわかるけど……俺を呼べばいいでしょ」
そんなことを言う悠真さんにびっくりしてしまった。
仕事でしょ、来ないでしょ、発情期ですら休んでくれないのに。
その驚いたかおは、言葉にしなくても伝わったらしい。
「休むよ、……番なんだし。体調悪い時くらい」
「ただの風邪だよ」
「でも辛いでしょ」
辛くないよ、寝てれば治るよ、この程度の風邪なんて。
今回は発情期と重なったから動けなくて千晶くんに頼ってしまったけど、普段なら花音にすら頼らない、それくらいの風邪だよ。
こんな風邪なんかより、よっぽど……
「……来なくていいよ、か、帰っても」
「和音?」
「帰っ……帰って、仕事、行って……」
「どうしたの、熱、上がった?」
「い、いなくていい、こんな、こんくらいの、ただの風邪」
「でも熱あるんでしょ、苦しく……」
「発情期の方がつらい……!」
「え」
声を荒げたおれに、悠真さんの瞳が丸くなる。
あ、こんなこと、言わなくていいのに。
大丈夫だよ、もう薬飲んだし明日には治るから帰っていいよ、仕事に戻ってもいいよって言いたいだけなのに。
止められなかった。
「こんな風邪、寝てれば治る、熱、高くない、は、はつ、発情期の方が、ひとり、いやなのにっ……」
こんな風邪で有給使うなら発情期に使ってよ。
これくらい我慢出来る。
いてくれたら嬉しい。でも、もっと……いてほしい時にいないくせに。
帰っちゃうくせに。番のところに戻っちゃうくせに。おれだって番、なのに。
「今日は帰って、ほしいっ……」
帰って、またその分他で使ってほしい、次の、発情期とか……
起きた時に、また、一緒にいてほしい。
その方が嬉しい。
そう言えたらいいのに。
「今はいらない……」
そんな言い方したって伝わらないのに。
素直になっても困らせるだけ。どちらにせよ良い結果にはならないと思うけど。
回らない頭で考えられるのは、早く帰って、その分の有給を他につかってほしい、それだけだった。
……その有給も、どうせおれ以外に使われるのかもしれないけど。
「……いるよ」
「へ」
「俺が和音をみてたいから、いる」
「……なんで」
「ごめんね、発情期、熱より辛いか。今度から、気をつける」
「え、え……?」
「ご飯、食べられるんだってね、夕飯作るよ、何がいい?」
何を言ってるのかがわからなかった。
素直に頭に入ってこなかった。
どういう意味だろう。
いる?ここに?おれ、文句言ったのに?帰れなんて、かわいげないこと言ったのに?上手く言えなかったのに?
今度から気をつける?どういうこと?発情期、もっと一緒にいてくれるの?大丈夫なの?仕事は?番は?
ごはん?
え?どういうこと?
発情期じゃない時に悠真さんと会って話が出来るなんて初めてだった。あのヒートになってしまった時以来、が正しいのかな。
もっとちゃんと話がしたい。どういうことかちゃんと聞きたい。
なのに、また、瞼が重い。
まだ体力が戻らないからか、薬のせいか、酷く眠い。
寝たくない。折角悠真さん、が、いる、のに。
「……プリン食べたい、けど」
「けど?」
「いるなら……ごはんより、ここにいて、ほしい……」
そんな甘ったれたことを口にしてしまったのは薬で朦朧としてるからだ、風邪だからだ、眠いからだ。きっと。
体調を崩してるひとの前では皆、優しくしてくれるのを知ってるから。
だから。
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