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油断した。
もうそろそろ発情期だから腕時計も忘れずに毎日着けたままにしよう、と思っていたのに。
先日夕食の調理中、単純な料理しか出来ないおれが、ただ肉を焼くだけだというのに盛大に油を跳ねさせてしまい、腕をほんの少し、火傷ともいえないレベルの火傷をした。
それが丁度時計のベルト部分に当たるところで、当たると痛いというか痒いものだから暫く時計を外していた。
今考えれば、発情期が近いのがわかっているのだから多少邪魔になっても左腕から右腕に暫く付け替えればよかっただけの話なのに。
そんなことも思いつかず、時計を外してる間に発情期を迎えてしまうという間抜けなことをしてしまった。
一応、発情期付近ということで悠真さんと短い電話はしていたけれど、肝心の夕方からのヒートに気付くことが出来なかった。
頭が痛くて昼寝をしてて、起きたら全身あつくなっていたというざま。
「ゔー……」
完全に油断していた。
もうそろそろくるのもわかっていたのに。
やっぱりアプリの通知って、心構えとして必要だったんだな……
唸りながらどうにかスマホを手にして、画面をじっと見る。
悠真さん、この時間なら仕事、終わってるだろうか。
もう家に帰っちゃっただろうか。
来てくれるだろうか。
どれだけ悩んだって悠真さんに気付いて貰える訳ではない、おれの落ち度なんだから向こうにはわからない。
自分で連絡するしかない、んだけど。
やっぱり言い辛いな、発情期来たから来て、なんて。あまりにも自分勝手なようで。
どうしよう。
文句の電話ならすぐに出来たのに。我儘を伝えるのは躊躇ってしまう。
……我儘なのかな、これ。番なら、当然のことなんじゃないのかな。普通なら。
いや、おれたち、普通じゃないけど。
けど。
花音と千晶くんを思い出す。付き合って暫くの頃だ。
千晶くんは花音のちょっとした我儘を叶えるのがすきだと言っていた。花音の喜ぶかおが見たいからと。
花音は千晶くんが最初、上手く要望を言わないことに悩んでいた。わたしじゃまだ頼りないかな、信用されてないかな、なんて。
その内千晶くんは花音の我儘を咎めたり、甘え方が上手くなってきたと花音は喜んでいたし、千晶くんも漸く本音を言えるようになったと穏やかな表情で話していた。
そうやって悩んで会話して、少しずつ近付いていくんだって。付き合いって、ひとと関わるのはそういう、思いやりだとか以外に、ちゃんと話をしないとだめなんだって。
おれは?
初めて話をした時の方が口に出せていた気がする。
悠真さんと会う度に不安になっていく。臆病になっていく。
どうしていいかがわかんなくなって、思わずしてしまったことに後悔して。
いつも悠真さんへの不満しか残らない。
会えてよかったなって、そんなことより、酷い、苦しい、さみしい、どうせおれなんてって、そんなことばっかり。
それでも会いたい、触ってもらいたいと思うのはオメガだから仕方ないことで。
オメガの自分がいやなくせに、オメガの自分だから許されると考えてしまう。
いいかな、電話しても。
会いたいって言ってもいいよね?
別に我儘じゃないよね?番だからいいよね?だってもう苦しいし、悠真さんも連絡してねって言ってたよね?言ってたっけ?覚えてない、こないだ電話した時、どうだったっけ。
「……ッゔ、あ、あっ、ん、んう」
はやく、でんわ、しなきゃ、どんどんあつくなってって、頭、ぼおっとしちゃう。考えられなくなる。動けなくなる。
わかってんのに。だって苦しいから触んなきゃ、だからでんわ、できない、なんてそんな言い訳を作ってしまう。
悠真さん、悠真さん、悠真さん、苦しい。気付いてくれないかな、悠真さん、会いたい。
悠真さん、悠真さんの手がいいな、指だって長くて、自分じゃ届かないとこも気持ちよくて、それから……
「ンっう、あっ……」
びく、と躰が跳ねる。気持ちいい。足りない。やっぱり悠真さんの指が……ううん、どうせなら悠真さんのがいいな、お腹までぎゅうぎゅういっぱいにしてほしい。
それから、動いて、奥、奥の方、とんとんしてほしい。ぎゅうって押し付けて、そんなとこまで悠真さんでいっぱいになっちゃうんだ、って思っちゃうとこまで。
だめ。そんなとこに出されたら赤ちゃん出来ちゃう。困る。欲しいな、だめだ、だめ。気持ちいいだけでそんなこと思っちゃだめ、違う、やだ、悠真さんのが欲しい。
おれだって、おれだって、番だもん、オメガだもん、出来る筈、なのに。でも出来ちゃったら、だめなんだ。
「あっ、また、イっ……ぅ、ゔ……ッあ!」
発情期のオメガはそりゃあ信じられないくらい躰があつくなって、信じられないくらい何回何十回だって達するけれど、精力が増えても体力まで増える訳ではない。
達する度に息が荒くなって、疲労もたまって、瞼も重くなる。
あつい躰を慰めるか寝てしまうかの二択。
苦しいくらいの気持ちよさ、寝てやり過ごす時間。
番に触れてもらえないなら、寝てしまった方が楽なのに、この躰の熱のせいで、自分の意思で眠ることは難しい。
だから何度か自分で体力を削ぎ、早く気を失ってしまうことがいちばん手っ取り早いのだ。
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