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「ご機嫌ねえ」
「えっそうかな」
おれの前にお茶を置いて、花音が呆れたような、それでいて少し嬉しそうな、そんな苦笑いの表情で言う。
まあくっらいかおされるよりいいけど、なんて軽い嫌味もつけながら。
そんなにかおに出てる?おれ。
「年末年始の空気ってなんか浮かれちゃうよねえ」
今度は片付けから戻って来た千晶くんがどうぞ、とアイスを置く。
花音の家に来ると至れり尽くせりだ、おれんちでだって家事をしてくれるのは千晶くんなんだけど。
今日は花音に呼ばれて鍋を頂きに来た。
良いお肉を貰ったからすき焼きにしよ、と千晶くんの作った料理と共に並べられて、もーこれ以上入らない!とお腹いっぱいになったとこ。
デザートは別腹だ。
「炬燵いいなあ、おれも買おうかな」
「かずねが炬燵なんて買ったら炬燵から出てこなくなるじゃない」
「どうせ引き籠もりですし……」
「だめよ、廃人になっちゃう。炬燵入りたいならうち来なさい」
「そんなあ、新婚家庭にそんな頻繁には来れないよ」
「新婚……」
「いやそんな頻繁に来るつもりなの」
「炬燵さいこー……」
ふにゃふにゃ照れたように笑う千晶くんがかわいい。
そんな千晶くんに口元を綻ばせながらおれに悪態を吐く花音も、どうせおれのことが気になっているのがわかる、頻繁に呼びつけるのは花音なのだ。
来てもいいけど、連絡はしてよね、なんて最終的には言っちゃうし。
花音も千晶くんも綺麗ずきなのもあって、花音の家はとても綺麗だ。
飾られたツリーや、頻繁に変わる玄関の花、花音の趣味ではないかわいらしい写真立て。
花音の家からふたりの家に少しずつ変わっていく。
こうやって家に遊びに来れば、基本的に千晶くんがもてなしてくれる。
元々おれには甘い花音は、それを手伝ったりしながらおれの話し相手をしたりするんだけど、それでも時折千晶くんに見せる柔らかい表情や、今までにあまり見なかった行動をする度に、ふたりが番になったことを実感する。
いいなあ、と思う。
ほんの少しくらい、片割れが取られてしまったことへの嫉妬はある。
けれどそれ以上に片割れが愛されているのがわかることが嬉しい。
花音がしあわせそうに笑っているのが嬉しい。
そんなことを何回だって感じ取れるこの家がすきだった。
「そうだ、クリスマス」
「クリスマス?」
花音から飛び出たワードにどきりとした。番と過ごすか確認されるのだろうか。
そう思ったけれど、そうではなかった。
従姉妹たちへのクリスマスプレゼントの相談。今年は何にしよっか。お人形さんなんてどう?お姉ちゃんからはお洋服が欲しいってリクエスト貰ってるんだけど、と話す花音に相槌を返す。
「それでいい?」
「ん、いいと思う」
「送っとくわね」
「ごめん、お願い」
たまに面倒をみてくれた叔母の家の子はもう高校受験の長女と、歳の離れた末っ子がいる。
どちらも懐くさまはかわいらしいもので、おれも花音も叔母がしてくれたようにプレゼントを考えるのも楽しみのひとつだった。
ふと、ふたりにこどもはどうするのかと訊いてみた。
「こども?」
「かのんも千晶くんもこどもすきでしょ」
「うーん、今のところ式が終わってから考えようとは思ってたけど」
「へえ、どっちが産むの」
オメガである千晶くんも、女性の花音も、どちらも妊娠が可能である。
気になってはいたけど、婚約前にはなかなか訊けなかったからついでとばかりに訊いてみた。
「それもねえ、悩むのよねえ」
「悩むんだ」
「正直子育て向いてるのは千晶くんだと思うのよ、想像したらかわいいでしょ、赤ちゃん抱いてる千晶くん」
「はあ」
「家事をするのも千晶くんが得意だからおうちにいて貰いたいけど、でも妊娠中や子育て中はゆっくりして貰いたいでしょ、わたしがちゃんと離乳食とか作れるのかなって心配もあるし、妊娠出産の辛い思いをさせるのもなあって」
「過保護だよ、それくらい出来るし、かのんちゃんが仕事休む方が皆大変でしょう、それとは別に、赤ちゃん抱いてるかのんちゃんもかわいいけど」
「妊娠しやすいのは千晶くんだし」
「でも急いでる訳じゃないからね、授かりものだし、暫くふたりでいるのも嬉しいかな」
「聞いた?わたしの千晶くんがかわいい」
「あー、かわいいかわいい」
まあなるようになるわよ、なんてまた頬を緩ませて花音が惚気ける。
凄いな、なんとなくの質問だったけれど、一応ちゃんと考えてるものなんだな。そうだよな、ちゃんと仕事もして、パートナーも見つけて、しっかり生活して、将来だって考えてるんだよな。
おれのしてることがまるでこどもの我儘みたいだ。その通りなんだけど。
ふたりが仲良くて嬉しい。しあわせで嬉しい。
それは間違いなくおれの本音で、これからもしあわせでいて欲しいと願うのも本音。
ただ、片割れの花音がしっかりしあわせに進むのを見る度に、自分の将来が不安になる。
仕事も家事も上手く出来ない自分。
誰かと過ごすことを諦めて、でも結局ひとりでいられなくて、なのにちゃんと考えないからこんなことになって。
おれ、自分で思っていたよりもずっと、この先耐え難いことが待っているんじゃないだろうか。
……悠真さんに、彼の番に、こどもが出来たら、どうしよう。
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