【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 くちさみしい?お腹空いた?と少し揶揄うような声に頷いた。
 それでもいいから早くちょうだい、そう伝えるかわりにぱか、と口を開くと、今度は雛みたいだと残して、出した舌先を甘く噛んだ。
 じん、と痺れたような感覚。
 噛んだ舌先を突いて、吸って、裏筋まで絡めて、もう一度吸う。
 気持ちいい。
 口の中が気持ちいいのに、下半身までじんじんして、つい膝をもじもじさせてしまう。
 触らないでも達してしまいそう。

「……っンゔ!」
「ッ」

 悠真さんの指が胸元に触れた瞬間、痛みで舌を噛んでしまった。
 口の中がいっぱいだったお陰で、そんなに強くは噛めてなかったと思うのだけど、慌ててその舌を吸った。
 血の味はしない、良かった、怪我をさせてはいない。
 安堵してそのままキスをし続けようとしたおれを剥がして、痛いの、と悠真さんは訊いた。

「い、いたいの、は、ゆーまさん、で」
「俺?なんで」
「噛んじゃった……」
「ああ、それは大丈夫、だけど。今、和音の方が」
「んっ」
「……真っ赤」

 胸元を見て、自分でしたの、なんて訊く。
 当たり前でしょ、他に誰とも出来ないよ。
 まじまじとそこを見るものだから恥ずかしくなる。女性のような十分な大きさも柔らかさも何もない、なんなら少し骨が浮いた貧相な躰なんだから、そんなに見ないでほしい。
 かおが近いから、掛かる息が擽ったい。
 今はそんな僅かな刺激すらぴりぴりとした痛みも感じる。

「ちょっと待ってて」
「んえ」

 立ち上がった悠真さんの裾を思わず掴んでしまった。
 悠真さんは驚いたかおをして、それからそっとそのおれの手を裾から離すと、頬を撫でて微笑んだ。

「……待てる?」
「や、待てない……」

 心臓がどき、とした。
 優しく訊くから、つい甘ったれた声を出してしまう。
 何を待つの、待つのやだ、もういっぱい待ったじゃん、早くナカ、挿入れてほしい。

「薬取ってくるだけだから」
「なんのくすり……」
「塗り薬。痛いんでしょ、ここ」
「……っう!」
「すーぐ戻ってくるから。ね」
「あ、あとででいい」
「良い子だからちょっと待っとこうね」
「あっ」

 さらりと頭を撫でて、悠真さんは寝室を出て行った。
 ……薬の置いてる場所、何で知ってるんだ?
 そういえば項を噛まれた時、ガーゼが貼られていたっけ、覚えてないけど、自分で場所を教えたのかな。
 項のように別に血も出てないし、薬、いるかな。痛いのは痛いんだけど、今はそれより、本当に早く欲しいんだけどな……

「お待たせ、これ使っていいよね?」

 戻ってきた悠真さんはおれの答えを待たずに、手にした軟膏の蓋を外して指に取る。
 ベッドに腰掛けると、それを胸に塗った。
 少しの痛みとぬるっとした感触の気持ち悪さに、びく、と肩が揺れる。
 少し我慢してね、と塗り込む悠真さんは心配というより楽しそうで、ああ、やられたなとぼんやり思った。

「気持ちよかった?ここ」
「きもちく、ないっ……」
「気持ちくなかったのにこんなになるまで触っちゃったの?かわいそうだなあ」
「……っ」
「皮膚が薄いとこなんだから優しく触ってあげなきゃ。今日はもうここは終わり。今度力加減教えてあげるね」
「ゔ、あっ」
「痛かったねえ、えらいえらい」
「あ……」

 こどものように扱い、また頭を撫でたかと思うと、おれの肩を押し、ベッドに倒す。
 見上げるおれに、次はご褒美だ、と下腹部を撫でた。
 ご褒美。
 その言葉と声に、撫でられたとこがきゅんとした。

「じゅ、じゅんび、いらない……」
「ん、和音が準備してくれたもんね?」
「う、ん……」
「足、自分で開ける?」

 羞恥心はまだ残っている。
 けれどもう散々待っていたおれは抗えずに、素直にその足を開き、かわりにかおを背ける。
 もうぐしょぐしょだ、と笑った悠真さんに耳があつくなった。
 つん、とおれの下半身を突くと、こっちも力任せにやったね、流石にこっちの加減はわかるだろうに、と苦笑する。

「プレゼントしたのはどうしたの、あれ使いなよ」
「……捨てた」
「まじで捨てたんだ」

 あれ口コミ良かったのを送ったんだけど、と先日の玩具の話を持ち出される。
 煩い。どうせ本命の番にはああいうの、使わないくせに。
 優しく優しく触れるんだろうなって、そういうの、もうわかっちゃってんのに。

「まあ正直な話、ああいうのがなきゃ足りないでしょ?和音、ナカすきだもんね?」
「……!」
「俺がいない時困るでしょ?他のひととはもう出来ないもんねえ」

 もや、とした。
 わかってるくせに。
 そうわかってて、おれのことひとりにするくせに。

「また買ってあげようか」

 首を横に振る。いらない。

「俺が帰ったらどうするの?ここも……こっちも、ほら、暫く痛いよ、きっと」
「……帰るの?」

 また?
 おれを置いて?
 前回は本命と発情期被ったんでしょ、今回は被ってないでしょ?
 なんで?
 なんで帰っちゃうの?

「帰るよ、家で待ってるからね」

 そうだね、本命の番が。

 なんばんめかのおれは発情期であっても本命より優先されることはない。

「さみしい?」
「……っく、ないっ」

 さみしくない、
 そう強がる以外に、この道を自分で選んだおれに言えることはなかった。
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