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智子先生に話すかどうか迷っている。番が出来たと。
医者として話すべきではあるのはわかるんだ、というかばれるに決まってるし。
でもおれはまだ花音と千晶くんにしか番のことは伝えていない。
花音は恐らく両親にも話してないだろう、だいじなことだ、おれが自分ですべきだと考えている筈だ。
通常番になることで行き着く先はまあそう、結婚である。
一生物の契約なのだから、そうなるだろう。
というかそうでなければオメガ側は困る。
番にするけど結婚はしないだなんて、ただの愛人契約のようなものだから。生活の保証が必要だ。
責任を持つのがアルファなのだ。そうあるべきなのだ。
とはいえおれたちは特殊な番、結婚の約束どころか、悠真さんは既にもうしているかもしれない、してなくたってだいじな番とその内するだろう。
そんなことを話せる訳がない。
智子先生はおれの主治医であると共に母親の友人なのだ、守秘義務があるといえど流石に両親にばれてしまう案件だ。
うちの両親はよっぽどでなければ相手に文句を言うタイプではないと思う。
でも流石にこれは文句を言うレベルだろう。
お宅のだいじな息子さんと番になりました、でもだいじな番が既にいるので息子さんと結婚する気はありません、なんて親からしたらたまったものではない。
それを息子が望んでいるとわかっていても、それでも我が子が愛人のような立場に置かれるのを知ってどうぞどうぞとなんて言えやしないだろう。
でももうおれは番になってしまった。今更それはどうしようも出来ない。
病院をかえるべきか。それとも腹を括るべきか。何かいい言い訳はないか。
そんなことを悩んでいても診察の日はやってくる。何も言い訳なんて思いつくことが出来ないまま。
◇◇◇
「……頭を上げなさい」
そう言った智子先生は自分が頭を抱えていた。
あんたはもう、と言いかけた言葉を呑み込み、それから眉を下げ、私があんなことを言ったからかしら、と呟く。
結局正直に……いや、全てを話すことは勿論出来なかった。
相手に番がいるということは伏せ、ちゃんと身元も確認取れた相手と、契約として番になった、結婚はしない、出来ればまだ両親には伏せておいてほしい、と頭を下げたのだ。
智子先生は何だかんだおれに甘い。きっと暫くは、少なくとも何かトラブルが起きるまではこれで両親には内緒にしていてくれるだろう。
「コントロールの為の番なんて言うから……それはそうなのよ、でもね、その為だけじゃなくて、貴方が辛い思いをするならそれは、」
「元からおれ、結婚願望なかったし」
「和音」
「丁度いいから助かったの、そういう相手、なかなか探せないでしょ」
アルファとしてならオメガを一生だいじにすると決めていた。でもおれがアルファではないと、オメガだとわかってからの結婚願望は本当になくなってしまっていた。
別におれは不幸なんかではない。
おれが選んだのだ、ひとりで生きていく道を。
ただたまに、発情期とかのメンタルが弱ってる時にうじうじ考えちゃうだけ。
「……見せて」
智子先生は項の痕を確認すると、はあと溜息を吐き、丁寧に二度も噛んじゃって、と苦笑した。
そうね、立派に番契約済んじゃってるわね……体調はどう、抑制剤はもう出さなくていいわね、
最後におれの膝をぺしんと叩くと、あんたはほんと、突拍子もないことをするんだから、とパソコンに向き直る。
多分智子先生も動揺しているのだと思う。両親に伝えるべきか、医者として患者に寄り添うか、知人としておれに説教するべきか。
おれはそんな智子先生の弱みにつけこむように、智子先生にしか相談出来ないんだからねと甘える。
そうして共犯者を作っていく。
「周期って三ヶ月になるかなあ」
「周期?」
「うん、おれの発情期、一ヶ月半から二ヶ月でしょ、周りにフェロモン撒く心配はなくなったとはいえ、発情期は来る訳で、仕事は休まないといけないでしょ、出来る状態じゃないでしょ、でも周期短いとまた……」
クビになってしまう。
だからどうにか三ヶ月周期になってほしいんだけど。無理かな。
「周期はあくまでも目安だから。基本は三ヶ月だけど早くなるひとも長くなるひともいる。和音の場合は体質より薬の乱用のせいだからねえ……三ヶ月に戻ることは出来るかもしれないけど、絶対とは言えないわ、こればっかりは薬にも頼れないし、様子を見るしかないわねえ」
「……まだ仕事難しいかな?」
「お父様のとこにいけばいいでしょう、花音もいるし」
「やだ」
「ほんと頑なな子。なんとも言えないわよ、勝手なことは。でもそうね、私も和音がまたクビになったなんて泣くのは見たくないし」
「泣いてない!」
「暫く様子を見なさいな、体質やホルモンバランスもあるけど、精神的な面も関係するのよ、ゆっくり……そうね、番相手と話をしなさい、不安なことがあるとそれに引き摺られるものよ」
「不安なんて……」
……不安なことしかない。
でもそう認めるのはやっぱりこわい。
考えれば考える程、おれはやらかしたな、これ、と番になったことを後悔することの方が多いんだ。
医者として話すべきではあるのはわかるんだ、というかばれるに決まってるし。
でもおれはまだ花音と千晶くんにしか番のことは伝えていない。
花音は恐らく両親にも話してないだろう、だいじなことだ、おれが自分ですべきだと考えている筈だ。
通常番になることで行き着く先はまあそう、結婚である。
一生物の契約なのだから、そうなるだろう。
というかそうでなければオメガ側は困る。
番にするけど結婚はしないだなんて、ただの愛人契約のようなものだから。生活の保証が必要だ。
責任を持つのがアルファなのだ。そうあるべきなのだ。
とはいえおれたちは特殊な番、結婚の約束どころか、悠真さんは既にもうしているかもしれない、してなくたってだいじな番とその内するだろう。
そんなことを話せる訳がない。
智子先生はおれの主治医であると共に母親の友人なのだ、守秘義務があるといえど流石に両親にばれてしまう案件だ。
うちの両親はよっぽどでなければ相手に文句を言うタイプではないと思う。
でも流石にこれは文句を言うレベルだろう。
お宅のだいじな息子さんと番になりました、でもだいじな番が既にいるので息子さんと結婚する気はありません、なんて親からしたらたまったものではない。
それを息子が望んでいるとわかっていても、それでも我が子が愛人のような立場に置かれるのを知ってどうぞどうぞとなんて言えやしないだろう。
でももうおれは番になってしまった。今更それはどうしようも出来ない。
病院をかえるべきか。それとも腹を括るべきか。何かいい言い訳はないか。
そんなことを悩んでいても診察の日はやってくる。何も言い訳なんて思いつくことが出来ないまま。
◇◇◇
「……頭を上げなさい」
そう言った智子先生は自分が頭を抱えていた。
あんたはもう、と言いかけた言葉を呑み込み、それから眉を下げ、私があんなことを言ったからかしら、と呟く。
結局正直に……いや、全てを話すことは勿論出来なかった。
相手に番がいるということは伏せ、ちゃんと身元も確認取れた相手と、契約として番になった、結婚はしない、出来ればまだ両親には伏せておいてほしい、と頭を下げたのだ。
智子先生は何だかんだおれに甘い。きっと暫くは、少なくとも何かトラブルが起きるまではこれで両親には内緒にしていてくれるだろう。
「コントロールの為の番なんて言うから……それはそうなのよ、でもね、その為だけじゃなくて、貴方が辛い思いをするならそれは、」
「元からおれ、結婚願望なかったし」
「和音」
「丁度いいから助かったの、そういう相手、なかなか探せないでしょ」
アルファとしてならオメガを一生だいじにすると決めていた。でもおれがアルファではないと、オメガだとわかってからの結婚願望は本当になくなってしまっていた。
別におれは不幸なんかではない。
おれが選んだのだ、ひとりで生きていく道を。
ただたまに、発情期とかのメンタルが弱ってる時にうじうじ考えちゃうだけ。
「……見せて」
智子先生は項の痕を確認すると、はあと溜息を吐き、丁寧に二度も噛んじゃって、と苦笑した。
そうね、立派に番契約済んじゃってるわね……体調はどう、抑制剤はもう出さなくていいわね、
最後におれの膝をぺしんと叩くと、あんたはほんと、突拍子もないことをするんだから、とパソコンに向き直る。
多分智子先生も動揺しているのだと思う。両親に伝えるべきか、医者として患者に寄り添うか、知人としておれに説教するべきか。
おれはそんな智子先生の弱みにつけこむように、智子先生にしか相談出来ないんだからねと甘える。
そうして共犯者を作っていく。
「周期って三ヶ月になるかなあ」
「周期?」
「うん、おれの発情期、一ヶ月半から二ヶ月でしょ、周りにフェロモン撒く心配はなくなったとはいえ、発情期は来る訳で、仕事は休まないといけないでしょ、出来る状態じゃないでしょ、でも周期短いとまた……」
クビになってしまう。
だからどうにか三ヶ月周期になってほしいんだけど。無理かな。
「周期はあくまでも目安だから。基本は三ヶ月だけど早くなるひとも長くなるひともいる。和音の場合は体質より薬の乱用のせいだからねえ……三ヶ月に戻ることは出来るかもしれないけど、絶対とは言えないわ、こればっかりは薬にも頼れないし、様子を見るしかないわねえ」
「……まだ仕事難しいかな?」
「お父様のとこにいけばいいでしょう、花音もいるし」
「やだ」
「ほんと頑なな子。なんとも言えないわよ、勝手なことは。でもそうね、私も和音がまたクビになったなんて泣くのは見たくないし」
「泣いてない!」
「暫く様子を見なさいな、体質やホルモンバランスもあるけど、精神的な面も関係するのよ、ゆっくり……そうね、番相手と話をしなさい、不安なことがあるとそれに引き摺られるものよ」
「不安なんて……」
……不安なことしかない。
でもそう認めるのはやっぱりこわい。
考えれば考える程、おれはやらかしたな、これ、と番になったことを後悔することの方が多いんだ。
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