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しおりを挟む◇◇◇
「んえ……」
カーテンから透ける朝日に目が覚めて、でも眩しさにすぐ瞳を閉じて、指先だけで悠真さんを探した。
すぐ近くに誰かがいる気配はなくて、ちゃんと探す為に眩しいけれど薄く瞳を開く。
……いない。
ぼおっとしていた頭が一気に冴えてしまった。
昨晩は多分また気を失うまで行為をしていたんだと思う。最後の記憶があやふやだ。
躰は重くて、まだ熱を持っている。
それどころか発情期の躰は少し身動ぎするだけでまた興奮状態になってしまう。
悠真さんどこかな、トイレかな、シャワーかな、ご飯でも食べてんのかな、……触ってほしいなあ。
「ン……」
喉が渇いてる、でもすぐそこのペットボトルを取ることすら億劫で、そのくせ下着の中に手を入れることはすぐに出来る。
……あれ、おれ、全裸だった筈では。
また花音の買ってきた、柄物のパジャマを着ている。下着は昨晩のものと違った。
よく見ると、シーツも、枕カバーでさえも新しいものに交換されている。どうせまだまだ汚れるというのに、わざわざ。
すん、と鼻を鳴らすと、悠真さんの、においがした。
本人もいないし、シーツも綺麗にされてるのに何で、と、かおを横にすると、そこには悠真さんが寝巻き代わりに使っていたTシャツが脱ぎ捨てられていた。というのも違うか、綺麗に畳まれておいてある。
「ゆーまさんの……」
悠真さんのにおい。
おれが着たまましろとお願いしたお陰か、柔軟剤に混じってばっちり悠真さんのにおいが強く残っている。
「んっ……いーにおい……」
ほんのり残った柔軟剤とボディソープのにおい。それとは別の、悠真さんのにおい。
なんのにおいだよと言われたら表現出来ないけれど、安心するにおい。
それは番にしかわからないものかもしれない。他のひとになんてわからなくていい。
そのにおいに包まれると、安心して、でもどきどきして、お腹が寂しくなって、でもやっぱりそれじゃないとだめだってなっちゃう。
智子先生、そんなことまで教えてくれなかった。
学校の授業だって。
知らなかった。
知ってたらもっと慎重になってた。
番になるって、こんなに特別なことだったんだって。
「はっ、あ、う……あ、出っ……んう!」
普段より簡単に、あっさり達する躰。でも昨晩の熱が忘れられない。
悠真さんまだかな、早くナカ、挿入てほしい。奥まで。
あ、またお腹の奥がきゅうっとなった。
……もう十分柔らかいと思うけど、少し慣らしておこうかな、そしたらすぐに挿入れてもらえるよね。
そろ、と後孔に手を伸ばす。十分に濡れてるとはわかってはいたけれど、少し指を進めれば、昨晩の悠真さんの体液が残されていることに気付く。
あー……やばい、ぬるぬるして気持ちい、かも……
「んう……う、は、んん……あ、ンっ……う、う」
とろ、とまた下着を汚したことはわかるけれど、その下着を脱ぐことすら出来ない。
自分の指がもたらす快感を追うことに必死だった。
悠真さん、悠真さん、まだかな、早く触ってほしい。
自分の指じゃもう物足りない。
悠真さんの長い指がいい。悠真さんのあついのがいい。
Tシャツだっていいにおいだけど、悠真さんのじっとりした肌に抱かれた時がいちばん安心する。
番だもん、仕方ないよね、安心するのは、間違ってないよね。
ね、おかしくなんて、ないよね?おれ、間違ってないよね?
いいんだよね、安心したって。
ねえ、悠真さん、おれ、正解がわかんない。
間違っていることが前提の正解。
それを誰が教えてくれるのかわからなかった。
だって悠真さんはいない。
◇◇◇
けほ、と自分の咳でまた瞳を開けた。
暫くぼおっとして、流石に夏場に水分を摂らないのはまずい、と重い躰をどうにか動かしてペットボトルを取り、口に流し込む。
体力だってもう既にない。ペットボトルは重く、少し震えた手では零してしまい、タオルで拭き、ついでに口元も拭う。
キャップをして、枕の横に転がして、ふう、と息を吐いた。
悠真さんはいない。
窓の外からしてもう夕方だろう。
未だにここに戻ってこないということはシャワーでも食事中でもなくて、帰ったということなのだろう。
発情期は通常一週間程度続く。それを知らない訳はない。
おれは乱れた周期のせいか少し短いけれど、それでも四、五日は続く。それも伝えた筈だけど。
先日のヒートはアルファのフェロモンにあてられた突発的なものだったからひと晩で済んだけれど、今回のは通常の発情期で、ひと晩ではどうにもならない。
昨晩あんなに達したというのに、それでも触れてほしいという欲は止まらない。
今だって、今すぐにでも悠真さんがほしい。
「……仕事かなあ」
普通は番が発情期なんでって休暇取るでしょ、と思うけれど、でもそれは本命用なのかもしれない。
複数人番がいるとして、全員の人数分の休暇なんて取れやしない、幾ら父親の会社とはいえ流石に周りが許さないだろう。三ヶ月に一週間の休暇すら厭う社員も多い。
そういえば昨日も仕事が終わってから買い物をしてうちに来た。
明日か明後日辺りに発情期来そう、といえば間をとって夜来ることはおかしくない。
でも、気付いてしまえば、そうか、本命ではないおれの為に取れる休暇ではないよな、とわかってしまう。
……なら、じゃあ、今晩は来てくれる?
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