【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

文字の大きさ
上 下
22 / 124
2

22*

しおりを挟む


 ◇◇◇

「んえ……」

 カーテンから透ける朝日に目が覚めて、でも眩しさにすぐ瞳を閉じて、指先だけで悠真さんを探した。
 すぐ近くに誰かがいる気配はなくて、ちゃんと探す為に眩しいけれど薄く瞳を開く。
 ……いない。
 ぼおっとしていた頭が一気に冴えてしまった。

 昨晩は多分また気を失うまで行為をしていたんだと思う。最後の記憶があやふやだ。
 躰は重くて、まだ熱を持っている。
 それどころか発情期の躰は少し身動ぎするだけでまた興奮状態になってしまう。
 悠真さんどこかな、トイレかな、シャワーかな、ご飯でも食べてんのかな、……触ってほしいなあ。

「ン……」

 喉が渇いてる、でもすぐそこのペットボトルを取ることすら億劫で、そのくせ下着の中に手を入れることはすぐに出来る。
 ……あれ、おれ、全裸だった筈では。
 また花音の買ってきた、柄物のパジャマを着ている。下着は昨晩のものと違った。
 よく見ると、シーツも、枕カバーでさえも新しいものに交換されている。どうせまだまだ汚れるというのに、わざわざ。
 すん、と鼻を鳴らすと、悠真さんの、においがした。
 本人もいないし、シーツも綺麗にされてるのに何で、と、かおを横にすると、そこには悠真さんが寝巻き代わりに使っていたTシャツが脱ぎ捨てられていた。というのも違うか、綺麗に畳まれておいてある。

「ゆーまさんの……」

 悠真さんのにおい。
 おれが着たまましろとお願いしたお陰か、柔軟剤に混じってばっちり悠真さんのにおいが強く残っている。

「んっ……いーにおい……」

 ほんのり残った柔軟剤とボディソープのにおい。それとは別の、悠真さんのにおい。
 なんのにおいだよと言われたら表現出来ないけれど、安心するにおい。
 それは番にしかわからないものかもしれない。他のひとになんてわからなくていい。
 そのにおいに包まれると、安心して、でもどきどきして、お腹が寂しくなって、でもやっぱりそれじゃないとだめだってなっちゃう。

 智子先生、そんなことまで教えてくれなかった。
 学校の授業だって。
 知らなかった。
 知ってたらもっと慎重になってた。
 番になるって、こんなに特別なことだったんだって。

「はっ、あ、う……あ、出っ……んう!」

 普段より簡単に、あっさり達する躰。でも昨晩の熱が忘れられない。
 悠真さんまだかな、早くナカ、挿入てほしい。奥まで。
 あ、またお腹の奥がきゅうっとなった。
 ……もう十分柔らかいと思うけど、少し慣らしておこうかな、そしたらすぐに挿入れてもらえるよね。
 そろ、と後孔に手を伸ばす。十分に濡れてるとはわかってはいたけれど、少し指を進めれば、昨晩の悠真さんの体液が残されていることに気付く。
 あー……やばい、ぬるぬるして気持ちい、かも……

「んう……う、は、んん……あ、ンっ……う、う」

 とろ、とまた下着を汚したことはわかるけれど、その下着を脱ぐことすら出来ない。
 自分の指がもたらす快感を追うことに必死だった。
 悠真さん、悠真さん、まだかな、早く触ってほしい。
 自分の指じゃもう物足りない。
 悠真さんの長い指がいい。悠真さんのあついのがいい。
 Tシャツだっていいにおいだけど、悠真さんのじっとりした肌に抱かれた時がいちばん安心する。
 番だもん、仕方ないよね、安心するのは、間違ってないよね。
 ね、おかしくなんて、ないよね?おれ、間違ってないよね?
 いいんだよね、安心したって。
 ねえ、悠真さん、おれ、正解がわかんない。
 間違っていることが前提の正解。
 それを誰が教えてくれるのかわからなかった。
 だって悠真さんはいない。


 ◇◇◇

 けほ、と自分の咳でまた瞳を開けた。
 暫くぼおっとして、流石に夏場に水分を摂らないのはまずい、と重い躰をどうにか動かしてペットボトルを取り、口に流し込む。
 体力だってもう既にない。ペットボトルは重く、少し震えた手では零してしまい、タオルで拭き、ついでに口元も拭う。
 キャップをして、枕の横に転がして、ふう、と息を吐いた。
 悠真さんはいない。
 窓の外からしてもう夕方だろう。
 未だにここに戻ってこないということはシャワーでも食事中でもなくて、帰ったということなのだろう。

 発情期は通常一週間程度続く。それを知らない訳はない。
 おれは乱れた周期のせいか少し短いけれど、それでも四、五日は続く。それも伝えた筈だけど。
 先日のヒートはアルファのフェロモンにあてられた突発的なものだったからひと晩で済んだけれど、今回のは通常の発情期で、ひと晩ではどうにもならない。
 昨晩あんなに達したというのに、それでも触れてほしいという欲は止まらない。
 今だって、今すぐにでも悠真さんがほしい。

「……仕事かなあ」

 普通は番が発情期なんでって休暇取るでしょ、と思うけれど、でもそれは本命用なのかもしれない。
 複数人番がいるとして、全員の人数分の休暇なんて取れやしない、幾ら父親の会社とはいえ流石に周りが許さないだろう。三ヶ月に一週間の休暇すら厭う社員も多い。
 そういえば昨日も仕事が終わってから買い物をしてうちに来た。
 明日か明後日辺りに発情期来そう、といえば間をとって夜来ることはおかしくない。
 でも、気付いてしまえば、そうか、本命ではないおれの為に取れる休暇ではないよな、とわかってしまう。
 ……なら、じゃあ、今晩は来てくれる?
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...