【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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「和音」
「っ、ん、ん……?」
「ここ、もっかい噛んでいい?」
「んえ……」

 ここ、と指されたのは項だった。
 そこは前回噛まれて、もう既に痕になっている。
 また噛んでどうなるというのか。

「なんで……?」
「……こないだのは、発情期じゃなかったでしょ、急に……多分俺の……その、アルファに反応したヒートだったでしょ、ちゃんと、番になれてるかわかんないじゃん」

 なってるよ、それは。
 ちゃんとわかるよ、おれは。
 違うもん、噛まれた時も、噛まれた後も、今も。
 もう悠真さんじゃないとだめになってしまったんだって、わかるもん。
 でも心配なの?そんなかおをするなんて。
 そんな、眉を寄せたような、心配そうな、不安そうなかお。

「念の為……」
「……だいじょぶだよ、たぶん、ちゃんと、」
「俺、執着強いの。自分のものだってはっきりしておきたい」

 それはアルファの特性なのだろうか。確かに花音もそういうとこあるけど。
 でもまあ、そんなので納得するのであれば……
 痛いのは何度も経験したいものではないけど、前回は痛みより違う感覚の方が強かったし、おれに付き合ってもらってるのだから、それくらいは、別に。

「……いーよ、はい」

 先程のように首を傾けて項を晒す。そこに掛かる髪は悠真さんが払った。
 息が掛かる。前回よりなんだか緊張してしまう、あの時はひたすら噛んで、とだけ念じていたから。
 唇が触れて、びく、と肩が震える。ちゅう、と吸われて、あ、と声が漏れた。
 甘噛みをされて、ん、と息を呑む。少し強く歯を立てられて、来る、と背中がぞくりとした。

「ッう……!」

 今回は確実な痛みを感じた。ぎゅうとシーツを掴んだ手の上から悠真さんの大きな手が重ねられる。
 また血が出たのだろう、暫く悠真さんがそこを何度も舐めていたから。そんな、動物みたいなことしなくたって、すぐそこにティッシュが箱ごと転がっているのに。

「あ、っ、も、そこ、ばっかりっ……」

 噛むのは許したけれど、そんなに長時間ぺろぺろちゅうちゅう舐めて吸っていいなんて言ってない。生殺しだ。決定打がなくて、感覚だけが残される。
 もっと違うとこ触って。気持ちよくして。そこだけじゃ足んない。
 つい足をもじもじさせてしまう。そんなことでは気持ちよくなんてなれないけれど。

「も、い、でしょ、番っ……なれた、でしょっ……」
「うん、ごめんね、二回も噛んで。痛かったね」
「……い、いたか……痛く、は、ないけど……」
「……シーツ、血が付いたらごめん」

 痛くはない、だなんて嘘を吐いて、誤魔化して。
 痛かった、と言えばこのひとは優しくしてくれる。そうわかってるのに、万が一のことがこわくて言えなかった。
 こんなに臆病じゃなかった筈なのにな。
 知らない間に流れていたらしい涙を拭われて、頬にキスをされて、じいと瞳を見つめると、唇にもひとつキスを落とされる。
 それからふと笑った悠真さんは、和音、と名前を呼ぶ。
 なあに、と返事をする前に、再度抽挿が始まった。

 両足を抱えるように高く上げられて、下腹部に力が入る。
 声がだらしなく押し出されて、それに混じるようにぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃと水音が響き、肉の弾く音がする。
 普段なら聞くに耐えないけれど、今は違う。
 そんな恥ずかしい音すら盛り上げる為のもののよう。

「んあ……ッ」

 前回は下しか脱がなかったから、そこに触れられることを考えていなかった。
 今回は全裸な訳で、悠真さんもすぐ触れられる距離な訳で。
 つん、と胸の突起を突かれて、周りをふにふに確かめるように触られて、押し潰される。
 ここ、気持ちいい?と訊かれて、わかんない、と返してしまった。

「そう?声は気持ち良さそうなんだけど。勃ってるし」
「んッゔ、やぁ、やっ、さわっ、たことっ……な、いっ」
「そっかあ、じゃあ今日からここも和音の気持ち良くなるとこだ」
「んうう……!」

 触れる舌があつい。生き物のように動いて、ねとねと、ぬるぬるとした感触が気持ち悪い筈なのに、舌先でつんつん突かれたり、舌で転がされたり、吸われたりすると腰がびくびく揺れて甘い声を出してしまう。
 項の時とはまた違うけれど、やっぱり決定打が足りない。

「んや、やだ、動いてえ……」
「まだここだけじゃイけないか」

 そうだよなあ、まだそんなに経験ないもんな、とかおを上げた悠真さんは笑った。楽しそうに。
 そんなに、どころか、まだ二回目なんですけど。あんまりすごいことしないで、おれ、ついてけなくなっちゃうから。
 ……これが普通かどうかすらわかんないんだから。
 でもそんなことより、早く、ナカの方どうにかして。動き、止まっちゃってるから、その、いいとこだったのに。

「イきたいよお……」
「……ごめん、焦らしてるみたいになっちゃったな」
「あッん……!う、あ、っあ、あ……っ」

 シーツを掴む手が、それだけじゃ足りなくて、横にあった枕を引っ掴み、抱き締める。それを噛むおれの口元から枕を出し、だから声抑えないで、と耳元で低い声がして、奥がきゅうっとなってしまった。
 あ、だめ、気持ちいいのきちゃう、深いの、来る。

「っあ、う、あァ……っん、あ──……」

 悠真さんから搾り取るようにナカが痙攣するのがわかる。
 気持ちいい、もっと、もっと、もっと。
 悠真さん、もっと。
 そう言うと、悠真さんの口が歪んだように見えた。
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