【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 ◇◇◇

 夕食を済ませて、片付けて、風呂に入って、ぼんやりテレビを観ながら雑談をして。
 ソファに沈むおれにくっつくように悠真さんが座るものだから、段々と躰が熱を持ってきた。
 予測通り、今晩から発情期が訪れそうだ。なんならもう来てる気もする。でもそれは悠真さんのせいでもあると思う。
 風呂に入る前も、入った後も、どっちもいいにおいがするんだから。

「……ッ、ん、」
「辛くなってきた?寝室行こうか」
「ん、ん……」
「抱っこしようか」
「歩け、る」

 いよいよ頭もふらふらしてきた。
 ソファから立ち上がるおれの手を取って、悠真さんがテレビの電源を消す。
 転ばないようにゆっくりゆっくり歩き、寝室の扉を開けて、明かりを点けると、悠真さんが少し笑った。
 何、と見上げると、準備万端だね、と言う。
 当たり前だろ、何年ひとりで発情期を乗り越えて来たと思ってんだ、必要なものは全てベッド周りに置いておくのがいちばんだと身をもって知っているのだ。

「お水温くならない?冷たいの飲みたくなんないの、小さい冷蔵庫とか」
「お腹痛くなったら困る、し……エアコンある、し、温いくらいが、丁度、いい……」
「意識高い女子みたいな」

 置かれたペットボトルやタオルを避けるように歩き、おれを抱えてベッドに乗せ、笑いを噛み殺すようにして、軽く唇を重ねた。
 それは、今からするよ、という合図のようで、おれは下らない反論はせず、瞳を閉じる。

「……ん、ふ、っう、ん、ンん」

 舌先で唇をつつかれ、それに応えるように薄く開くとあつい舌がぬるりと押し込まれた。
 ものを食べる時には何も感じないそこは、悠真さんの舌に翻弄されるまま快楽を貪る。
 気持ちいい。口ん中ってこんなに気持ちよくなっちゃう場所なの、それともオメガだから?アルファが、番が相手だから?なんでもないとこでも気持ちよくなっちゃうの?
 わかんない、おれはオメガだから。普通じゃないから。初めてだから。

「んっゔ、ぅ、んんん!」

 ぢゅう、と音を立てるように舌先を吸われて、頭の中が真っ白になってしまう。
 舌先が痺れたようになってる、あ、気持ちい、気持ちいい。

「は、ぁう、ふ、っう……」
「ひとつき空いたらキスの仕方忘れちゃった?」
「いっ、は、う、一ヶ月、半、だし……」
「周期は今回は二ヶ月空いたってことになるのかな、あの日は突発的なものだったもんね」

 悠真さんの指先が項を撫でる。
 そこには前回噛んでもらった痕が残っている。指先で、その痕を確かめるようにゆっくりなぞるものだから堪らない。
 背中がぞくぞくして、息が荒くなって漏れてしまう。
 見せて、と首を横に捻られ、まじまじとそこを見て、痛い?と訊いてくる。
 痛みはない。ただ、自分もそこを触れて何度も確認した。
 鏡では碌に見や出来ないから。
 でもその時は、じわじわしたものが胸に広がりはせよ、今のような熱はなかった。
 触れられるところが、悠真さんの息のかかるところが、甘く疼くような、そんなものはなかった。

「ッん……」
「首筋気持ちいい?かわい」
「ンあ……っあ、舐めっ……」
「痛くないって言われてもこんなにくっきり残ると痛そうに見えちゃうんだよなあ」
「あっ、あ、あ、ん、う、」
「痛そうなのは嫌なんだけど……でもここは別、痕を見るとなんか……」
「んっ、う!」

 舐められるところまではどうにか我慢出来た。
 でもそこを吸われることはどうにも我慢出来なくて、躰がびくんと跳ねてしまった。
 くすりと笑われた気がする。笑うな、まだイってない、こんなんじゃイってない。
 ……でもやばいのは事実だ。
 自分で下半身に手を伸ばすと、待って、とその手を止められた。
 なんで。やだ。脱ぎたい。達してなくてもこの弱い躰はもう下着を汚してしまっているのは感触でわかっているのだ。

「ぬ、脱ぐ……」
「うん、いいよ、でも俺が脱がせたい」
「なん、で、そんな、」
「脱がせるのもセックスの内じゃん」
「ふあ……」

 この間は噛むことが、番になることが目的だったから。今日は発情期終わらす為にいっぱい気持ちよくなろうね、
 そう耳元で囁くものだから、おれはまた情けない声を上げてしまった。

「今日は脱がせていいんだよね?」
「……ん、」
「パジャマもかわいいんだけどね」
「これ、かのんが買ってきた……」
「……パジャマの柄がって訳じゃないんだけど」

 またくすくすと笑われてしまい、普通にTシャツにしておけば良かった、なんて思ってしまう。
 そんな、かわいいと思われたくて柄物のパジャマを選んだんじゃなくて……ただいちばん上にあったものを適当に掴んだだけなんだけど。これ着心地が良くてよく着ていたから。
 くそ、もうこれ、悠真さんの前ではもう着ない。

 丁寧にひとつずつ釦を外し、袖を脱がせ、前回のようにベッドの下に投げると、慣れたように首筋や肩口に唇を落としながらズボンと下着も剥ぎ取り、同じように投げ捨てた。
 ひとりだけ全裸にされてしまったことが恥ずかしくて、でも悠真さんまで脱がれるとどうしていいかわからなくなってしまうから何も言えなかった。
 悠真さんの視線があつい。
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