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おれの盛り方が足りなかったかな、もっと甘ったるいエピソードでも拵えればよかったかな……
怪しいわ、と正しいけどなかなか酷いことを言う花音を止めるのは、隣に座る花音の番候補の千晶くんだ。
同い年で柔らかい、高校生の時に花音がオメガとは、と目指してた穏やかな性格そのものの、大型犬のような、そんな優しいオメガ。
ひたすら優しい千晶くんには花音も弱い。なんだか我を通しきれないらしい。仔犬のようで、という花音に、おれには大型犬に見えるんだけどと言うと首を傾げられた。
確かに仔犬も大型犬もどっちもかわいらしいと思うけどさあ。
まあそれくらい花音にはかわいく見える、だいじな相手ということ。
まだ早いとは花音は言うけれど、おれとしては早く千晶くんを番にするべきだと思う。
それは単純に千晶くんが逃がしたくない程とても良い相手だと思うのと、同じオメガとして、近くにアルファが居て何年も番にしてもらえないというのは辛いというのが……まあ一応、わかるから。
おれのせいで千晶くんがそんな思いをしてるのは悪いと思うし、何より花音は千晶くんをだいじにしている。その内結婚したいとも。
そんな相手を、おれが原因でまだ番わないというのはおれだって色んな意味でいやだ。しかもおれは出会ってひと晩で番になってしまった。これは伏せておくけど。
「式とかは時間掛かるけどさ、ほら、番は……ヒート待たなきゃだけど、でもほら、早くした方が良くない?千晶くんも大変でしょ」
「いやあ、かずねくんと比べたら」
「そうよ、千晶くんとは今晩ちゃんと話するけど!番にしますけども!いいよね、千晶くん!でもそれはそれ、ちゃあんと調べますからね、お姉ちゃんは!その、えっと、名前!フルネーム!」
「穂高悠真先輩です……」
いやあ、ほら、ねえ。おれだって騙されてんじゃないかとも思ったけど。騙したところで良いこと別になくない?と思って。
騙すならおれにとって都合いいような契約じゃなくて、お前がいちばんだよ、とか運命の番だよ、なんて甘くてくさいこと言わないかなって。そっちの方が騙せそうじゃないかって。騙されねーけどな!
ていうか花音たちにはそんな契約とか言えないけど。
隣の千晶くんを盗み見ると、照れちゃってるのがわかって……かわいい。ごめんねえ、待たせてしまって。花音を宜しくお願いします。
「……かずねがしあわせならわたしだってそんな……詮索する気はないけど。でもわかるまではその……口、挟むからね、わたし、お姉ちゃんだもん」
「……うん」
わかるよ、おれだって千晶くんが千晶くんじゃなかったら心配してたかもしれない。
千晶くんがおれのだいじな片割れを任せられるようなひとで良かった。
お願いね、おれも花音を騙せるくらい、しあわせに見せられるよう頑張るから。
◇◇◇
『もうそろそろ発情期来そう?』
そんな悠真さんからのメッセージに、本当に発情期付近まで連絡ないとは思わなかった、と考えてしまう。
別に連絡がほしかった訳じゃない。寧ろ面倒がなくて有難いまである。
でもあんなにぐいぐい来るんだもん、無駄に関係ない連絡してきそうだなって覚悟はしてたんだ。
前回の発情期から二ヶ月、急なヒートが起こってから一ヶ月半。おれの不安定な周期からしてもいつも通りの周期だ。
共用されたアプリがあるし、嘘を吐いても仕方ないので、明日か明後日辺りに来そう、と素直に返信をすると、じゃあ明日行くよ、とすぐに返ってきた。
別にそんなに急がなくても。発情期来たらでいいのに。そう送ると次は電話が掛かってきた。うわ、面倒くさい。
もしもし、と仕方なく出たおれに、久し振りの低い、何故か落ち着くような声がダイレクトに耳に飛び込んで来る。
『行くよ、明日。合鍵まだ貰ってないし、早い方がいいでしょ』
「……来てもまだ発情期来なかったら暇ですよ」
『いいじゃん、そん時は夕飯でも一緒に食べよ』
「外、出れないですよ、おれ」
『デリバリーか、そうだな、作ればいいじゃん』
「……ひとさまに出せるような料理、出来ないです」
ちょっと盛った。正直料理は苦手。
ひとりだと作らないし、レンジ調理とかラーメンとか、ちょっと焼いたり煮たりくらいしかしない。
栄養面はたまに花音と千晶くんが来てくれるし。
そんなことを隠しながら呟くおれに、電話口ではは、と笑いながら、俺が作ってもいいよ、と悠真さんが言う。
アルファさまはお料理まで完璧ってか。いや花音もおれ程ではないがあんまり上手くないからいつも千晶くん作なんだけど。
『何か苦手なものある?』
「……酸っぱいの」
『酸っぱいの?酢の物とか?』
「ん」
『おっけ、まろやかなの作るね』
「まろやかて」
ちょっと笑ってしまった。酸っぱいの避けるね、とかじゃなくて、その冗談めかした言い方がなんだか少し、かわいくて。
花音のような華奢な女の子でも、千晶くんのような犬みたいな性格でもないのに、かわいいと思っちゃうなんて。
『大丈夫?寝れる?まだ苦しくない?』
「まだ大丈夫ですよ」
『このアプリって結構信用出来る?』
「んー、そこそこじゃないかな、ちょっと今もう熱っぽいし」
『ほんとに発情期来そうだね、早く寝な』
「電話してきたのそっちでしょ」
『そうだけど。まあまだ元気そうだね、何かあったら連絡して』
おやすみ、また明日、と言う声はやっぱり落ち着く。
落ち着くのに、お腹の奥がきゅう、となってしまう。
電話を切ってから、オメガって面倒臭い、そうまた思って瞼を閉じた。
怪しいわ、と正しいけどなかなか酷いことを言う花音を止めるのは、隣に座る花音の番候補の千晶くんだ。
同い年で柔らかい、高校生の時に花音がオメガとは、と目指してた穏やかな性格そのものの、大型犬のような、そんな優しいオメガ。
ひたすら優しい千晶くんには花音も弱い。なんだか我を通しきれないらしい。仔犬のようで、という花音に、おれには大型犬に見えるんだけどと言うと首を傾げられた。
確かに仔犬も大型犬もどっちもかわいらしいと思うけどさあ。
まあそれくらい花音にはかわいく見える、だいじな相手ということ。
まだ早いとは花音は言うけれど、おれとしては早く千晶くんを番にするべきだと思う。
それは単純に千晶くんが逃がしたくない程とても良い相手だと思うのと、同じオメガとして、近くにアルファが居て何年も番にしてもらえないというのは辛いというのが……まあ一応、わかるから。
おれのせいで千晶くんがそんな思いをしてるのは悪いと思うし、何より花音は千晶くんをだいじにしている。その内結婚したいとも。
そんな相手を、おれが原因でまだ番わないというのはおれだって色んな意味でいやだ。しかもおれは出会ってひと晩で番になってしまった。これは伏せておくけど。
「式とかは時間掛かるけどさ、ほら、番は……ヒート待たなきゃだけど、でもほら、早くした方が良くない?千晶くんも大変でしょ」
「いやあ、かずねくんと比べたら」
「そうよ、千晶くんとは今晩ちゃんと話するけど!番にしますけども!いいよね、千晶くん!でもそれはそれ、ちゃあんと調べますからね、お姉ちゃんは!その、えっと、名前!フルネーム!」
「穂高悠真先輩です……」
いやあ、ほら、ねえ。おれだって騙されてんじゃないかとも思ったけど。騙したところで良いこと別になくない?と思って。
騙すならおれにとって都合いいような契約じゃなくて、お前がいちばんだよ、とか運命の番だよ、なんて甘くてくさいこと言わないかなって。そっちの方が騙せそうじゃないかって。騙されねーけどな!
ていうか花音たちにはそんな契約とか言えないけど。
隣の千晶くんを盗み見ると、照れちゃってるのがわかって……かわいい。ごめんねえ、待たせてしまって。花音を宜しくお願いします。
「……かずねがしあわせならわたしだってそんな……詮索する気はないけど。でもわかるまではその……口、挟むからね、わたし、お姉ちゃんだもん」
「……うん」
わかるよ、おれだって千晶くんが千晶くんじゃなかったら心配してたかもしれない。
千晶くんがおれのだいじな片割れを任せられるようなひとで良かった。
お願いね、おれも花音を騙せるくらい、しあわせに見せられるよう頑張るから。
◇◇◇
『もうそろそろ発情期来そう?』
そんな悠真さんからのメッセージに、本当に発情期付近まで連絡ないとは思わなかった、と考えてしまう。
別に連絡がほしかった訳じゃない。寧ろ面倒がなくて有難いまである。
でもあんなにぐいぐい来るんだもん、無駄に関係ない連絡してきそうだなって覚悟はしてたんだ。
前回の発情期から二ヶ月、急なヒートが起こってから一ヶ月半。おれの不安定な周期からしてもいつも通りの周期だ。
共用されたアプリがあるし、嘘を吐いても仕方ないので、明日か明後日辺りに来そう、と素直に返信をすると、じゃあ明日行くよ、とすぐに返ってきた。
別にそんなに急がなくても。発情期来たらでいいのに。そう送ると次は電話が掛かってきた。うわ、面倒くさい。
もしもし、と仕方なく出たおれに、久し振りの低い、何故か落ち着くような声がダイレクトに耳に飛び込んで来る。
『行くよ、明日。合鍵まだ貰ってないし、早い方がいいでしょ』
「……来てもまだ発情期来なかったら暇ですよ」
『いいじゃん、そん時は夕飯でも一緒に食べよ』
「外、出れないですよ、おれ」
『デリバリーか、そうだな、作ればいいじゃん』
「……ひとさまに出せるような料理、出来ないです」
ちょっと盛った。正直料理は苦手。
ひとりだと作らないし、レンジ調理とかラーメンとか、ちょっと焼いたり煮たりくらいしかしない。
栄養面はたまに花音と千晶くんが来てくれるし。
そんなことを隠しながら呟くおれに、電話口ではは、と笑いながら、俺が作ってもいいよ、と悠真さんが言う。
アルファさまはお料理まで完璧ってか。いや花音もおれ程ではないがあんまり上手くないからいつも千晶くん作なんだけど。
『何か苦手なものある?』
「……酸っぱいの」
『酸っぱいの?酢の物とか?』
「ん」
『おっけ、まろやかなの作るね』
「まろやかて」
ちょっと笑ってしまった。酸っぱいの避けるね、とかじゃなくて、その冗談めかした言い方がなんだか少し、かわいくて。
花音のような華奢な女の子でも、千晶くんのような犬みたいな性格でもないのに、かわいいと思っちゃうなんて。
『大丈夫?寝れる?まだ苦しくない?』
「まだ大丈夫ですよ」
『このアプリって結構信用出来る?』
「んー、そこそこじゃないかな、ちょっと今もう熱っぽいし」
『ほんとに発情期来そうだね、早く寝な』
「電話してきたのそっちでしょ」
『そうだけど。まあまだ元気そうだね、何かあったら連絡して』
おやすみ、また明日、と言う声はやっぱり落ち着く。
落ち着くのに、お腹の奥がきゅう、となってしまう。
電話を切ってから、オメガって面倒臭い、そうまた思って瞼を閉じた。
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