【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない

ちかこ

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 外せる?
 耳元で囁かれる低い声に甘いものを感じてしまう。
 お腹の奥が早く、と急かす。頭が痺れるように、目の前の男が欲しいとくらくらする。
 首輪を外そうとする手が急いて上手く動かない。
 早く、早く、外さなきゃ、悠真さんの気が変わらない内に、噛んで貰わなきゃ、そうしたら上手くいく、ちゃんと普通になれる、早く、指が引っかからない、外せない、いつもどうやって外してたっけ、

「っふ、う、あ、と、とれなっ……」
「落ち着いて、ほら、ここ」
「と、取ってえ」

 悠真さんが金具の所におれの指を導く。
 それでも震えた指先で上手く外せず、思わず懇願してしまったおれに、だめ、と悠真さんは返した。
 なんで、と少しショックを受けてしまった。
 だって、噛んでくれる、って……

「和音が外して。自分で」
「え……」
「俺に噛まれる準備、自分でして」

 これは事故なんかじゃない。自分で望んで噛まれるのだと、そう、自分で首元を差し出せということ。
 ごくんと喉が鳴った。
 頭の中ががんがんと警鐘を鳴らしているかのよう。
 いいの?本当に?噛まれても?
 あんたは?本当にいいの?おれを噛んでも?

 これはおれが望んでいた番のなり方なんかじゃない。
 大恋愛の末でも、愛しいひとを守る為のものでもない。
 おれの下らないプライドの為の、生活の為の、「普通」になる為の契約。都合のいいもの。相手。
 ただ躰が欲しがるだけの、それだけの番。
 でもこれを逃したらだめな気がする。
 おれはもう、普通になれない気がする。
 この甘いにおいじゃないと、もう、他じゃ満足出来ない気がする。

「……っ、はず、れたあっ……」

 かち、と小さい音がして外れた首輪。思わずそれを差し出すと、悠真さんは笑った。よく出来たね、と。
 不思議とそれが心地好くて、胸があったかくなる。
 その首輪を受け取ると、それもベッド下に落とされてしまう。金属音が少しだけ響いた。
 それから首元にそっと触れて、跡がついてる、とまた笑う。
 肌は強い方ではなかった。日焼け以外にも、首輪が擦れて紅くなってるのかもしれない。

「ッん!」
「痛い?」
「ったくな、い、」
「今はどこもかしこも敏感になってるだけかあ」

 首筋をなぞる指に躰が震える。
 そんな焦らすような触れ方じゃなくて、もっと、直接的なところに触れて欲しい。
 そんなんじゃもう、我慢出来ない。

「はっ、あ、う……」

 もじもじと足を動かすおれに気付いて、悠真さんはその膝頭に手をかけた。
 初めてはゆっくりしたかったけど、と言いながら、膝を開かせる。
 あっ、と声を漏らしたおれに、我慢出来ないってかおしてるから、と揶揄い混じりの声が落とされた。

「和音、何回イったっけ?」
「しっ、知らな……」
「ねえ、俺が気付かない間にもっとイってた?」
「んうう……!」
「凄いね、ぐっちゃぐちゃじゃん」

 これならすぐはいるね、という言葉に、またお腹の奥がきゅうっとなる。多分わかって言ってるのだ、この男は。
 おれがおかしくなるのが楽しいのだ。
 わかっていても、止めることが出来ない。
 そうだよ、ヒートってのはそんなのでしょ、欲しくて欲しくてたまんないの。
 こんなのいやなのに。いやでいやで仕方ないのに。
 それでも早くって、気持ちよくしてって、ナカをいっぱいにしてよって、みっともなくて、情けなくて、格好悪くて、惨めで、浅ましくも思ってしまうんだよ。

「……っ、もお、やっ、だ、」
「いや?」
「はやくっ……」
「早く?」
「……いれてよお」

 もう頭がおかしくなりそうだった。
 躰があつくて、何にも考えたくない、考えられなくなってきた。
 こんなにぐるぐるなってしまうなら、早く思考出来なくなってしまいたい。それが後で後悔することになったとしても。もう、今更だろう。

「……熱烈」
「んっ、う、」
「ナカも凄いな」
「は、ぁう……ッん、く」

 おれの要望に応え、悠真さんの長い指が焦らすことなく、でもゆっくりとナカへ挿入された。
 自分の指以外、そこに何か挿入したことはない。
 背中がぞくぞくして、足先に力が籠る。
 やばい、まだ指だけなのに、これ、気持ちい……
 全身が溶けてしまいそう、と思った。

「ん、ンん、あ、う……」
「結構すんなり挿入りそうだけど、でも流石にもうちょい慣らしておくね、初めてなんでしょ?」
「あっ、う、う、んっ……や、だいじょ、ぶっ」
「大丈夫じゃないよ、幾ら濡れてたってナカはまだ少し狭いからさ」

 たまに意地悪に笑うかおや揶揄う声はそのままに、触れる指先は優しい。
 おれが痛くないように、傷付けないように、そっと触れる。
 それはおれのことを想ってのことなのか、単純に癖なのか。
 いつもそうやって、番に触れているからだろうか、壊れ物に触れるかのように、そっと慎重に、柔らかく、優しく。

 いいなあ、やっぱり諦められない心の奥で、自分だったら、なんて考えてしまう。
 おれが、オメガが今更アルファになんてなれやしないのに、おれがこのひとだったら、こんなに強いアルファだったら、なんて。
 こんな最低な行為をしながらそんな夢を見る。
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