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ゆうまだよ、ほら、呼んで、と先輩がおれの手を取った。
その指先を先輩の口元に運ばれる。思わずさっきのことを思い出して、唇に触れてしまった。
少し大きくて、薄めの唇。
指先で触れると、リップクリームでも塗ってるのかと訊きたくなるようなしっとりとした感触に、あ、あんなキスをしたからまだ乾いてないのか、と思い出して頬があつくなった。
「和音」
「……っ、」
名前を呼んだだけ。呼ばれただけ。
それだけなのに、ぴく、と躰が揺れた。
「穂高悠真、ゆーま、俺の名前ね、覚えて」
「ゆうませんぱい……」
「先輩はいらないって」
「ゆぅ、ま、さん」
「ん、それもまあ……悪くない、かな」
それ以外に何があるというのだろうか、ほんの少し不満そうな、でも満更でもないような、そんな笑みを浮かべて、おれの指先にキスをすると、その指を軽く噛んだ。
「ぅあ……ッ!」
びり、とした感覚が躰に走って、下半身まで伝わった気がする。
足先を擦り合わせてそれをやり過ごそうとしているのを見透かすように、悠真さんはふ、と息を漏らすと、脱がして良いかと訊いてきた。
その手は下半身に伸びていて、その、シャツを脱ぐよりずっと恥ずかしい筈なんだけれど、でも脱がなきゃ始まらないとわかるから……いや、でも、とつい首を横に振ってしまった。
触ってほしい、そう思いながら、僅かに残った理性が邪魔をする。
そんなものは全て捨てて、欲しいまま強請ってしまった方が、記憶なんて消えてしまった方が楽なんだろうけれど、その後のことを考えてしまい、恥ずかしいのはいやだ、と思ってしまう。
そんなのはもう悠真さんにはわかっているようで、恥ずかしい?脱がない方がもっと恥ずかしいことになると思うけど、と服越しにおれのものに指の背で触れた。
ひっと情けない声が漏れ、腰が跳ねる。
慌てて口元を覆うと、その手は直ぐに避けられた。今更、と笑って。
「触ってほしいでしょ」
「う、う……ちが、」
「腰揺れてるのわかる?少ししか触ってないのに。和音は口より躰のが正直なタイプだ」
「や、やだ」
「嫌?止められないでしょ?こんなになってんのに。ほら、なかぐっしょぐしょ」
「や……ッあ!」
油断した。揶揄うようなことを言うのに、声音は柔らかいものだったから。
唐突に下着の中に入れられた手を止めることが出来なかった。
ねえ、もうイった?と訊かれて、沸騰しそうな頭を横に振る。
すぐ耳元で零れたような笑い声がお腹に響いた。
「イってないのにもうこんななんだ」
「……っ、う」
「イきたい?」
「う、あ、ッう、うう……!」
「このまんまじゃもっと下着、汚れちゃうね」
「あっ、あう、っん、う」
「いいの?」
いい訳がない、よくない。だめ。
なのに言えない、脱がせて、なんて。
頭がぼおっとする。耳を覆いたくなるようなぐちゅぐちゅと酷い水音がして、それでも指先ひとつ悠真さんを止めることが出来ない。
情けない声を出しながら、悠真さんの与える刺激をずっと追っていた。気持ちいい、気持ちいい、早く、もっと強く触ってくれてもいい、のに。
「んッく、ぅ、っん……っ」
「あーあ、ほら、早く脱がせてって言わないから」
「っあ、あ、は、う……」
「気持ちよかったね?」
「っう」
こっちは気持ち悪いかもしれないけど、と笑いながら悠真さんはまだ下着の中で手を動かす。
ゆるゆるとした動きなのに、それでも達したばかりのそこには強い刺激に思えた。
やっと口から止めて、と言葉を出すことが出来たおれに、こっちは?と下着のゴム部分を指先に引っ掛ける。
……わかってるくせに、そんなこと言わせるなんて。
「……せて」
「んー?」
「ぬ、脱が、せて」
「もう汚しちゃったし、このままでもいいんじゃない」
「……っ、きもちわる、からっ、ぬがせ、てくださ、」
「仕方ないなあ」
楽しそうな声だと思った。
おれがこんなにいっぱいいっぱいになってるというのに。
おれはお前のにおいにあてられてこんなになってるのに。
お前はおれのフェロモンにあてられてないのかよ、
そう思うと胸がぎゅう、となった。なんだかおれの一方通行のようで。そしてそれは間違ってなんかないんだけど。
おれの都合で、都合の良い相手に、にばんめか或いはそれ以下の番にしてもらうだけ。
それが望みの筈なのに苦しくなるのは理想だけは高く育ってしまったからだ。おれなら相手にそんな思いはさせないのに、と。
悠真さんはおれの変な願いを叶えてくれただけで、恨まれる道理なんてないというのに。
「すご、いっぱい出したねえ」
「そ、んなことっ、言わ、ないでも、」
「足上げて、ん、そう……男としては光栄ですよ、気持ちよかったってことだもんな」
足を通した下着をベッド下に捨て、あやすように髪を撫でた。
気持ちよかった、そりゃあそうだ、だってヒートきてんだもん。相手が下手くそだってなんだって気持ちよくなっちゃうもんだよ、……悠真さんが下手くそだとは言わないし、その、キスも手も凄かった、比べる相手はいないけど。
くい、と首輪を引かれ、眉を寄せる。苦しい訳ではないけれど、びっくりして。
でもそうか、これ、外さなきゃ。頭がもっとおかしくなる前に……噛んでもらう為に。
その指先を先輩の口元に運ばれる。思わずさっきのことを思い出して、唇に触れてしまった。
少し大きくて、薄めの唇。
指先で触れると、リップクリームでも塗ってるのかと訊きたくなるようなしっとりとした感触に、あ、あんなキスをしたからまだ乾いてないのか、と思い出して頬があつくなった。
「和音」
「……っ、」
名前を呼んだだけ。呼ばれただけ。
それだけなのに、ぴく、と躰が揺れた。
「穂高悠真、ゆーま、俺の名前ね、覚えて」
「ゆうませんぱい……」
「先輩はいらないって」
「ゆぅ、ま、さん」
「ん、それもまあ……悪くない、かな」
それ以外に何があるというのだろうか、ほんの少し不満そうな、でも満更でもないような、そんな笑みを浮かべて、おれの指先にキスをすると、その指を軽く噛んだ。
「ぅあ……ッ!」
びり、とした感覚が躰に走って、下半身まで伝わった気がする。
足先を擦り合わせてそれをやり過ごそうとしているのを見透かすように、悠真さんはふ、と息を漏らすと、脱がして良いかと訊いてきた。
その手は下半身に伸びていて、その、シャツを脱ぐよりずっと恥ずかしい筈なんだけれど、でも脱がなきゃ始まらないとわかるから……いや、でも、とつい首を横に振ってしまった。
触ってほしい、そう思いながら、僅かに残った理性が邪魔をする。
そんなものは全て捨てて、欲しいまま強請ってしまった方が、記憶なんて消えてしまった方が楽なんだろうけれど、その後のことを考えてしまい、恥ずかしいのはいやだ、と思ってしまう。
そんなのはもう悠真さんにはわかっているようで、恥ずかしい?脱がない方がもっと恥ずかしいことになると思うけど、と服越しにおれのものに指の背で触れた。
ひっと情けない声が漏れ、腰が跳ねる。
慌てて口元を覆うと、その手は直ぐに避けられた。今更、と笑って。
「触ってほしいでしょ」
「う、う……ちが、」
「腰揺れてるのわかる?少ししか触ってないのに。和音は口より躰のが正直なタイプだ」
「や、やだ」
「嫌?止められないでしょ?こんなになってんのに。ほら、なかぐっしょぐしょ」
「や……ッあ!」
油断した。揶揄うようなことを言うのに、声音は柔らかいものだったから。
唐突に下着の中に入れられた手を止めることが出来なかった。
ねえ、もうイった?と訊かれて、沸騰しそうな頭を横に振る。
すぐ耳元で零れたような笑い声がお腹に響いた。
「イってないのにもうこんななんだ」
「……っ、う」
「イきたい?」
「う、あ、ッう、うう……!」
「このまんまじゃもっと下着、汚れちゃうね」
「あっ、あう、っん、う」
「いいの?」
いい訳がない、よくない。だめ。
なのに言えない、脱がせて、なんて。
頭がぼおっとする。耳を覆いたくなるようなぐちゅぐちゅと酷い水音がして、それでも指先ひとつ悠真さんを止めることが出来ない。
情けない声を出しながら、悠真さんの与える刺激をずっと追っていた。気持ちいい、気持ちいい、早く、もっと強く触ってくれてもいい、のに。
「んッく、ぅ、っん……っ」
「あーあ、ほら、早く脱がせてって言わないから」
「っあ、あ、は、う……」
「気持ちよかったね?」
「っう」
こっちは気持ち悪いかもしれないけど、と笑いながら悠真さんはまだ下着の中で手を動かす。
ゆるゆるとした動きなのに、それでも達したばかりのそこには強い刺激に思えた。
やっと口から止めて、と言葉を出すことが出来たおれに、こっちは?と下着のゴム部分を指先に引っ掛ける。
……わかってるくせに、そんなこと言わせるなんて。
「……せて」
「んー?」
「ぬ、脱が、せて」
「もう汚しちゃったし、このままでもいいんじゃない」
「……っ、きもちわる、からっ、ぬがせ、てくださ、」
「仕方ないなあ」
楽しそうな声だと思った。
おれがこんなにいっぱいいっぱいになってるというのに。
おれはお前のにおいにあてられてこんなになってるのに。
お前はおれのフェロモンにあてられてないのかよ、
そう思うと胸がぎゅう、となった。なんだかおれの一方通行のようで。そしてそれは間違ってなんかないんだけど。
おれの都合で、都合の良い相手に、にばんめか或いはそれ以下の番にしてもらうだけ。
それが望みの筈なのに苦しくなるのは理想だけは高く育ってしまったからだ。おれなら相手にそんな思いはさせないのに、と。
悠真さんはおれの変な願いを叶えてくれただけで、恨まれる道理なんてないというのに。
「すご、いっぱい出したねえ」
「そ、んなことっ、言わ、ないでも、」
「足上げて、ん、そう……男としては光栄ですよ、気持ちよかったってことだもんな」
足を通した下着をベッド下に捨て、あやすように髪を撫でた。
気持ちよかった、そりゃあそうだ、だってヒートきてんだもん。相手が下手くそだってなんだって気持ちよくなっちゃうもんだよ、……悠真さんが下手くそだとは言わないし、その、キスも手も凄かった、比べる相手はいないけど。
くい、と首輪を引かれ、眉を寄せる。苦しい訳ではないけれど、びっくりして。
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