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「隠さないといけないの?」
「うん……う、うん……」
「無理でしょ?こんなにすぐ発情期来ちゃうなんて、今までどうやって隠してきたの」
「……病弱だって、ゆっ、て……でも、仕事……仕事、すぐ、クビになっちゃっ……て」
「ああ、いっぱい休んじゃうから?」
「うん……」
「番作って結婚しちゃったら?専業になった方が楽でしょ、こんな体質じゃ」
「やだ、働きたい、ふ、普通、がいい」
「普通って」
普通が無理なんていやという程わかってる。わかってしまった。
抑制剤が効かないというのは、おれひとりが我慢すればいい話ではない。
フェロモンを抑制出来ないということなのだ、周りに迷惑をかける。望まぬ番契約をさせてしまうかもしれない。
それは自分も、相手にもいいことではない。
勿論番を複数持てるアルファと比べて、生涯ひとりとしか番えないオメガの方が痛手ではあるのだけれど、おれのせいで誰かを縛る訳にもいかない。人生を狂わせてしまう。
だって番って、本来もっと、たいせつなもので……
「さっき、噛まれた方が楽、って言ってたよね」
「ん……」
「誰でも良いの?」
「せ、せんせ、が、番、作った方が、いい、って……おれ、薬、効かなくて……番、が、コントロール、してくれる、って」
「抑制剤効かないの?難儀だねえ、そう、そうだね、それならフェロモン出しっぱなしより番作った方がいいね、少なくとも他のひとにはフェロモン効かなくなるから……休みはその……周期がどうなるかわかんないからアレだけど、まあ外には出やすくなるよね」
「……普通、に、なりたい、」
仕事に執着している訳ではない。
おれは恵まれてる。仕事をしなくても金はあるし、生活は出来る。家族がそれを許してくれる、どうにでもなる。
でも普通になりたかった。
アルファになれなくても、ベータと同じように、仕事をして、普通の生活をして、普通に誰かと恋愛出来たら。
ううん、オメガなのはかわりはない、もう恋愛なんて出来なくていい、おれに誰かをしあわせにさせてあげることなんて出来ない。
でもせめて、迷惑をかけないよう、普通に生活が出来たら。
それでもう、いいのかなって。それがおれに出来る最善なのかなって。
「そんなに番がほしいなら、俺がなってあげようか」
「え、いや、いい……」
「えっ今の頷く流れだったでしょ!」
拍子抜けたように先輩が瞳を丸くした。
え、なんでなんで、と言うけれど、当然でしょ、だって番はそんな軽くない。
おれは自分の為だからいいとして、あんたには良い話ではないでしょ、なんのメリットもないでしょ?
「ちょっとかおを知ってるだけ、の、後輩と番になる、なんて……あんたなら、もっといい番、出来る、でしょ……にばんめとか、さんばん、め、っ……とか、でいいのに、都合のいい、時、だけで」
「都合のいい時だけ?」
「だっておれ、……コントロール、してくれれば、誰でもいい、し、それなら、ビジネスライクな方、が」
「じゃあ丁度いいじゃん」
ほら、と先輩の見せた指には光る金属があった。そんなとこまで見てなかった。
指輪、と呟くおれに、そう、他に番いた方がいいんでしょ、と少し狡く笑う。
「でも……それじゃあ相手に、悪い、から、だめ」
幾らアルファが何人も番を作れるとはいえ、それを嫌がるオメガは多い。
そりゃあそうだ。
オメガにとって番は運命の相手。捨てられたら悲惨な人生しか残らない。
捨てたアルファが死ぬまで新しい番は作れず、ひとりで生きていくしかない。
他のオメガがいいと捨てられたくはないだろう。
このひとがその番を捨てておれを選ぶ通りはない、でもそんなの、その番にはわからないだろう。これから先、ずっと不安を抱えることになる。
そんなの、……あまりにも酷い。おれが理想とするアルファは、ひとりのオメガをだいじにして、愛して、不安になんかさせなくて……
「大丈夫、俺の番は優しい子だから、こんなに苦しがってる子を助けても文句は言わないよ」
「でも、でも……」
「都合のいい時、というか、都合がいい相手、がいいんでしょ?俺はもう和音のこと知ってしまったし、都合良いと思うよ?誰かにばらされたくないんでしょ?番になったら共犯になれるよ」
だいじな番がいるならこの先結婚の話も出ないだろう。
先輩以外にフェロモンが出ないようにしてもらうだけ。発情期にたまに相手にしてもらうだけ。コントロールしてもらうだけ。
普通、にしてもらうだけ。
おれみたいに面倒なやつ、この先番にしてくれるひとがいるかもわからない。
ましてやこんな高待遇で、相手の番のことも気にしなくていいだなんて。
こんないい状況もうないと思う。
噛んでもらえれば、もう他に迷惑はかけない。
家族にも、花音にも、仕事先にも。フェロモンは他に効かなくなる。噛んでもらえれば。噛んで。噛んで。
噛まれたい、このひとに。
このひとがいい、ううん、今はまた来たヒートでおかしくなってるだけ。
わかってる、わかってるけど、我慢出来ない。
この先自分が、先輩が、誰かが後悔するかもしれない、不幸になるかもしれない、それでも今、おれの頭にあるのは噛んで、お願い、先輩の、アルファのものにして、噛んで、早く、
そんな勝手な思いだけだった。
「うん……う、うん……」
「無理でしょ?こんなにすぐ発情期来ちゃうなんて、今までどうやって隠してきたの」
「……病弱だって、ゆっ、て……でも、仕事……仕事、すぐ、クビになっちゃっ……て」
「ああ、いっぱい休んじゃうから?」
「うん……」
「番作って結婚しちゃったら?専業になった方が楽でしょ、こんな体質じゃ」
「やだ、働きたい、ふ、普通、がいい」
「普通って」
普通が無理なんていやという程わかってる。わかってしまった。
抑制剤が効かないというのは、おれひとりが我慢すればいい話ではない。
フェロモンを抑制出来ないということなのだ、周りに迷惑をかける。望まぬ番契約をさせてしまうかもしれない。
それは自分も、相手にもいいことではない。
勿論番を複数持てるアルファと比べて、生涯ひとりとしか番えないオメガの方が痛手ではあるのだけれど、おれのせいで誰かを縛る訳にもいかない。人生を狂わせてしまう。
だって番って、本来もっと、たいせつなもので……
「さっき、噛まれた方が楽、って言ってたよね」
「ん……」
「誰でも良いの?」
「せ、せんせ、が、番、作った方が、いい、って……おれ、薬、効かなくて……番、が、コントロール、してくれる、って」
「抑制剤効かないの?難儀だねえ、そう、そうだね、それならフェロモン出しっぱなしより番作った方がいいね、少なくとも他のひとにはフェロモン効かなくなるから……休みはその……周期がどうなるかわかんないからアレだけど、まあ外には出やすくなるよね」
「……普通、に、なりたい、」
仕事に執着している訳ではない。
おれは恵まれてる。仕事をしなくても金はあるし、生活は出来る。家族がそれを許してくれる、どうにでもなる。
でも普通になりたかった。
アルファになれなくても、ベータと同じように、仕事をして、普通の生活をして、普通に誰かと恋愛出来たら。
ううん、オメガなのはかわりはない、もう恋愛なんて出来なくていい、おれに誰かをしあわせにさせてあげることなんて出来ない。
でもせめて、迷惑をかけないよう、普通に生活が出来たら。
それでもう、いいのかなって。それがおれに出来る最善なのかなって。
「そんなに番がほしいなら、俺がなってあげようか」
「え、いや、いい……」
「えっ今の頷く流れだったでしょ!」
拍子抜けたように先輩が瞳を丸くした。
え、なんでなんで、と言うけれど、当然でしょ、だって番はそんな軽くない。
おれは自分の為だからいいとして、あんたには良い話ではないでしょ、なんのメリットもないでしょ?
「ちょっとかおを知ってるだけ、の、後輩と番になる、なんて……あんたなら、もっといい番、出来る、でしょ……にばんめとか、さんばん、め、っ……とか、でいいのに、都合のいい、時、だけで」
「都合のいい時だけ?」
「だっておれ、……コントロール、してくれれば、誰でもいい、し、それなら、ビジネスライクな方、が」
「じゃあ丁度いいじゃん」
ほら、と先輩の見せた指には光る金属があった。そんなとこまで見てなかった。
指輪、と呟くおれに、そう、他に番いた方がいいんでしょ、と少し狡く笑う。
「でも……それじゃあ相手に、悪い、から、だめ」
幾らアルファが何人も番を作れるとはいえ、それを嫌がるオメガは多い。
そりゃあそうだ。
オメガにとって番は運命の相手。捨てられたら悲惨な人生しか残らない。
捨てたアルファが死ぬまで新しい番は作れず、ひとりで生きていくしかない。
他のオメガがいいと捨てられたくはないだろう。
このひとがその番を捨てておれを選ぶ通りはない、でもそんなの、その番にはわからないだろう。これから先、ずっと不安を抱えることになる。
そんなの、……あまりにも酷い。おれが理想とするアルファは、ひとりのオメガをだいじにして、愛して、不安になんかさせなくて……
「大丈夫、俺の番は優しい子だから、こんなに苦しがってる子を助けても文句は言わないよ」
「でも、でも……」
「都合のいい時、というか、都合がいい相手、がいいんでしょ?俺はもう和音のこと知ってしまったし、都合良いと思うよ?誰かにばらされたくないんでしょ?番になったら共犯になれるよ」
だいじな番がいるならこの先結婚の話も出ないだろう。
先輩以外にフェロモンが出ないようにしてもらうだけ。発情期にたまに相手にしてもらうだけ。コントロールしてもらうだけ。
普通、にしてもらうだけ。
おれみたいに面倒なやつ、この先番にしてくれるひとがいるかもわからない。
ましてやこんな高待遇で、相手の番のことも気にしなくていいだなんて。
こんないい状況もうないと思う。
噛んでもらえれば、もう他に迷惑はかけない。
家族にも、花音にも、仕事先にも。フェロモンは他に効かなくなる。噛んでもらえれば。噛んで。噛んで。
噛まれたい、このひとに。
このひとがいい、ううん、今はまた来たヒートでおかしくなってるだけ。
わかってる、わかってるけど、我慢出来ない。
この先自分が、先輩が、誰かが後悔するかもしれない、不幸になるかもしれない、それでも今、おれの頭にあるのは噛んで、お願い、先輩の、アルファのものにして、噛んで、早く、
そんな勝手な思いだけだった。
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