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父親は祖父から受け継いだ会社を経営している。
長男として、アルファとして、それを継ぐ気でいた。花音と一緒に。
別にそれを強要された訳でも、そのように言われて育った訳でもない。
叔父や叔母もいる訳で、自身が継ぐことが当たり前ではない。
でもそんなマイナスな理由ではなく、両親も祖父も、和音と花音のすきにしなさい、すきなことをしなさい、それでいいんだよと甘やかされてのことだった。
でもだからこそおれは執着していたのかもしれない。祖父や父親にも憧れていたのだから。
そう、だからそれは単純におれのプライドの問題、自分がただオメガだと認めたくなくて、勝手に自分を偽ってるだけ、皆が流石アルファだというような、そんな自分を。
自分で考えていた佐伯和音を保つことが、生きていく理由になっていた。
最初に発情期が来たのは高校二年の時だった。
遅くも早くもない、普通だったと思う。ただ地獄だった。
家族は全員アルファという状態で、誰も近寄らせる訳にはいかない。
おれは別宅を用意してもらい、叔父や叔母の番に面倒をみてもらった。
基本的には番が見つかるまで自分ひとりでどうにかしないといけないことだ、幾ら心を許した相手とはいえ、叔父叔母の番に見てもらう面倒とは荷物の差し入れや体調の確認をしてもらうくらい。
ベッドの上で獣のように唸りながら呻きながら、ひとりで処理を続けるだけの期間は余計にオメガという性を惨めにさせた。
高校は私立ではなく、近くの公立を選んだ。
しっかりした学校や金の掛かるところはアルファが多く進学する。
少しでも少ないところを、かつ近くを選ぶことで、単に面倒なので家の近くが良かった、偏差値とかも関係ない、という花音曰く無駄な言い訳が出来るというものだ。
花音はすきに進学していいと言ったにも関わらず、花音はそれでも着いてきた。
双子だもん、一緒がいいよ、とそれこそ変な言い訳をつけて。
花音はおれがオメガだとわかってから変わった。
元は気の強い女だった。いやそれは今も変わってないのだけれど。
どちらかというと母親似のおとなっぽい、綺麗目なものを好む彼女が、ふわふわとした、如何にも「守ってあげたいタイプ」の女性になろうとした。
ストレートの肩上の髪を伸ばし、パンツ派だった服装はワンピースや膝下のフレアスカートに変わり、はきはきした喋り方すらおっとりしたような。
それはこどもの勝手なイメージだった、こうすれば少しはアルファっぽくないんじゃないか、そんな。おれもこどもなら、花音もこどもだった。
そしてそれはおれの為、おれだけがあいつアルファっぽくないな、オメガなんじゃ、と思われないように、自分を変えたのだ。まさにこどもの考え。
実際、花音のアルファ性はとても強い。おれはよくわからないけれど、昔から智子先生にも注意しなさいと言われる程。
周りを威圧するような、オメガを誘うような、検査をするまでもなく、小さな頃からアルファのお手本のような女だった。
おれはそんな花音の近くにずっといて、それは二卵性とはいえ双子だからか、それとも慣れてしまっていたのかはわからない、発情期が来ることはなく、花音のにおいが移っても何もなく、寧ろそれで守られてるような状態になっていた。
おれは馬鹿だったから、首輪なんてしてたらオメガだとばらすようなものだ、と首元を隠さず、その分抑制剤や避妊薬をお守りのように毎日服用していた。
そのせいで後々効かなくなり苦しむ自分が出来上がってしまったのだけれど、当時は誰に止められてもその行為を止めることはなかった。
薬を飲み、花音の近くで、薄着で、さもアルファのようなかおで学校に通った。
順調に躰はおかしくなって、それでも止めないおれを家族ですら止められない。
母親は産んだ自分のせいだと思ってるし、父親は祖母がオメガだったから、祖父は妻がオメガだったからかと考え、そして花音は自分だけアルファだなんてと、皆おれに強く言えないのだ。
そんなの文句言ったって仕方ないのに。当時のおれにだってそんなのはわかってて、でも我を通した。すきにさせてほしいと。
誰よりも立派なアルファになりたいと思っていた。
差別なんてしない、オメガに優しくして、素敵な家庭を作るのだと。
その考え自体が差別だったんだと、誰より差別をしていたのは自分だったのだと、オメガだとわかってから初めて理解した。
オメガはアルファがしあわせにしてあげなきゃしあわせになれないんだと、そんなのは自分がアルファだと思ってたからこその思い上がり。
かわいそうなオメガでいてほしかったのだ。
そして実際自分がオメガだとわかって気付くのだ、オメガの生きにくさ、心細さ、劣等感、そんなものに。
花音のお陰で高校まではどうにかなった。
クラスは違えど頻繁におれのところへ行き来し、アルファのにおいをつけるようにして戻っていく。
狙ったこともあり、他のアルファの生徒は少なかった。オメガは数人いたようだが。
運動が苦手なのは以前骨折して、でやり過ごし、勉強は必死でついていった。偏差値の高くないところなので上位は難しくなかった。
病弱でと発情期は乗り切った、乱用した薬のせいなのかおれの発情期は不安定で、そのきっちりとした周期ではないお陰でヒートだとばれることもなかった、多分。
問題はそこからだった。
長男として、アルファとして、それを継ぐ気でいた。花音と一緒に。
別にそれを強要された訳でも、そのように言われて育った訳でもない。
叔父や叔母もいる訳で、自身が継ぐことが当たり前ではない。
でもそんなマイナスな理由ではなく、両親も祖父も、和音と花音のすきにしなさい、すきなことをしなさい、それでいいんだよと甘やかされてのことだった。
でもだからこそおれは執着していたのかもしれない。祖父や父親にも憧れていたのだから。
そう、だからそれは単純におれのプライドの問題、自分がただオメガだと認めたくなくて、勝手に自分を偽ってるだけ、皆が流石アルファだというような、そんな自分を。
自分で考えていた佐伯和音を保つことが、生きていく理由になっていた。
最初に発情期が来たのは高校二年の時だった。
遅くも早くもない、普通だったと思う。ただ地獄だった。
家族は全員アルファという状態で、誰も近寄らせる訳にはいかない。
おれは別宅を用意してもらい、叔父や叔母の番に面倒をみてもらった。
基本的には番が見つかるまで自分ひとりでどうにかしないといけないことだ、幾ら心を許した相手とはいえ、叔父叔母の番に見てもらう面倒とは荷物の差し入れや体調の確認をしてもらうくらい。
ベッドの上で獣のように唸りながら呻きながら、ひとりで処理を続けるだけの期間は余計にオメガという性を惨めにさせた。
高校は私立ではなく、近くの公立を選んだ。
しっかりした学校や金の掛かるところはアルファが多く進学する。
少しでも少ないところを、かつ近くを選ぶことで、単に面倒なので家の近くが良かった、偏差値とかも関係ない、という花音曰く無駄な言い訳が出来るというものだ。
花音はすきに進学していいと言ったにも関わらず、花音はそれでも着いてきた。
双子だもん、一緒がいいよ、とそれこそ変な言い訳をつけて。
花音はおれがオメガだとわかってから変わった。
元は気の強い女だった。いやそれは今も変わってないのだけれど。
どちらかというと母親似のおとなっぽい、綺麗目なものを好む彼女が、ふわふわとした、如何にも「守ってあげたいタイプ」の女性になろうとした。
ストレートの肩上の髪を伸ばし、パンツ派だった服装はワンピースや膝下のフレアスカートに変わり、はきはきした喋り方すらおっとりしたような。
それはこどもの勝手なイメージだった、こうすれば少しはアルファっぽくないんじゃないか、そんな。おれもこどもなら、花音もこどもだった。
そしてそれはおれの為、おれだけがあいつアルファっぽくないな、オメガなんじゃ、と思われないように、自分を変えたのだ。まさにこどもの考え。
実際、花音のアルファ性はとても強い。おれはよくわからないけれど、昔から智子先生にも注意しなさいと言われる程。
周りを威圧するような、オメガを誘うような、検査をするまでもなく、小さな頃からアルファのお手本のような女だった。
おれはそんな花音の近くにずっといて、それは二卵性とはいえ双子だからか、それとも慣れてしまっていたのかはわからない、発情期が来ることはなく、花音のにおいが移っても何もなく、寧ろそれで守られてるような状態になっていた。
おれは馬鹿だったから、首輪なんてしてたらオメガだとばらすようなものだ、と首元を隠さず、その分抑制剤や避妊薬をお守りのように毎日服用していた。
そのせいで後々効かなくなり苦しむ自分が出来上がってしまったのだけれど、当時は誰に止められてもその行為を止めることはなかった。
薬を飲み、花音の近くで、薄着で、さもアルファのようなかおで学校に通った。
順調に躰はおかしくなって、それでも止めないおれを家族ですら止められない。
母親は産んだ自分のせいだと思ってるし、父親は祖母がオメガだったから、祖父は妻がオメガだったからかと考え、そして花音は自分だけアルファだなんてと、皆おれに強く言えないのだ。
そんなの文句言ったって仕方ないのに。当時のおれにだってそんなのはわかってて、でも我を通した。すきにさせてほしいと。
誰よりも立派なアルファになりたいと思っていた。
差別なんてしない、オメガに優しくして、素敵な家庭を作るのだと。
その考え自体が差別だったんだと、誰より差別をしていたのは自分だったのだと、オメガだとわかってから初めて理解した。
オメガはアルファがしあわせにしてあげなきゃしあわせになれないんだと、そんなのは自分がアルファだと思ってたからこその思い上がり。
かわいそうなオメガでいてほしかったのだ。
そして実際自分がオメガだとわかって気付くのだ、オメガの生きにくさ、心細さ、劣等感、そんなものに。
花音のお陰で高校まではどうにかなった。
クラスは違えど頻繁におれのところへ行き来し、アルファのにおいをつけるようにして戻っていく。
狙ったこともあり、他のアルファの生徒は少なかった。オメガは数人いたようだが。
運動が苦手なのは以前骨折して、でやり過ごし、勉強は必死でついていった。偏差値の高くないところなので上位は難しくなかった。
病弱でと発情期は乗り切った、乱用した薬のせいなのかおれの発情期は不安定で、そのきっちりとした周期ではないお陰でヒートだとばれることもなかった、多分。
問題はそこからだった。
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