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僕が間に入っても尚、殴らせろだのもっとやれだの物騒な言葉が飛ぶ。
何で佐倉が煽ってんだ、止めてくれ。
「な、なんで殴っ……」
「わかってたんならさっさと言えば良かっただろ」
「だから、ばらしたら僕が泡になって消えてしまうかもしれないから……だから、自然に皇輝が思い出すまで待ってって!」
「碧じゃなくてマオさんが言えばよかったじゃん」
「それやって人魚ちゃんが消えないって言い切れるー?言い切れないでしょ、だから俺も知らない振りしなきゃ、ねっ」
「……っ」
やっと皇輝が拳を下ろした。ほっとした僕とは対照的に、佐倉はにやにやと見物をしている。楽しそうだ。
女子に言うのもどうかと思うけどこの野郎。
「でもあれはわざとですよね」
「んー?」
「……俺が見るのわかってて、碧に触りましたよね」
「んえ」
「やっぱりバレるか、目ェあったもんね」
「んんん?」
「なにそれ詳しく」
「佐倉は煩い」
「呼んだのそっちじゃないのよ何よぉ」
「えっちょ、え、待って待って待って僕が意味わかんないえっ何それなんの話」
僕が主人公で、僕が一番知ってる物語の筈なのに、なんだか置いていかれてる。
なのに、なんか皇輝とマオさんは僕よりわかってるかのようにバチバチしてるし、飄々とした佐倉は頬杖をつきながらフォークを咥えている。
……僕は?
「なんで俺があそこいるのわかったんですか、なんか不思議な力ですか」
「えー、今そんな力ある訳ないし、そんなの碧ちゃんによく話聞いてればわかるよ、車校から駅までの帰り道だし、時間だって大体わかるし、それに君目立つからね、あーいるな、って」
「……そんだけであんなことを?」
「別にあの日に拘らなくても良かったし。俺としては何回碧ちゃんとご飯しても楽しいからさ」
「……っ」
「あっパンケーキ食べた時か!」
漸くわかって発してしまった言葉は我ながら間抜けだった。
毒気を抜かれたようにふたりが揃ってこっちを見るものだから、思わずごめんと謝ってしまう。佐倉が声を上げて笑った。
「ねえ冷めちゃうよ、先に食べなよ」
「……カラオケのメシ美味くねんだよな」
「じゃあ頼むなよ」
「甘いものならどこも似たようなものなのにね」
「どうせ業務用だし」
「ねえあたしもそのパンケーキ食べたい」
「今甘いもん食ってんのに?」
「今日じゃなくてー」
大人しく座ったふたりの間に僕も座って、ふたりの顔を覗き見る。
皇輝は呆れたような顔をしてるし、マオさんはなんだか楽しそうに笑ってた。
もう殴り合い、にはならなさそうだけど。
「碧ちゃんアイスついてる、拭いたげよっか」
「触んな」
「ぅぶ」
「碧もこんなとこでかわいいあざといことすんな」
「え」
「やだコーキこそどうしたのよ、そんなキャラじゃなかったじゃない、うける」
「佐倉煩い」
「は?アイス投げるわよ」
マオさんの手を払い、佐倉にも悪態を吐き、僕の口許を拭う皇輝に呆気にとられつつ、でもなんだかふわふわする。
なんかその、こんなにはっきりと周りに皇輝のだって言われることなんてないだろうから。
多分マオさん相手や佐倉の前以外ではこんなあからさまなことはしないだろう。それでいい。
でもやっぱり、なんだか嬉しいんだ、冗談でもおふざけでも。
お姫様みたいに皆には公表出来ないけど、限られたひとのなかでもわかってもらえるのが。
「嬉しそうな碧ちゃんかわいいなー」
「えっあたしも見たい」
「見るな、俺のだ」
「何よついこないだまで忘れてた癖にぃ」
「その分もだいじにすんだよ!」
「え」
「あら」
「ふたりとも顔真っ赤じゃん」
それを聞いて、皇輝を見上げる。確かに赤くなった皇輝がいて、僕も笑ってしまう。かわいい。嬉しい。……愛しい。
「アオくんおめでと!」
「これで人魚ちゃんじゃなくてちゃんと『ヒト』になれたな」
佐倉の明るい、嬉しそうな声と、マオさんの祝福の声。
僕の、人魚姫のだいすきだったひとの言葉。
皇輝から見えないようにふたりにピースで返す。
さっきまでのふざけた顔ではなく、あたたかい笑顔を見せてくれたふたりが心強かった。まだこれからも近くにいてくれることも。
「……帰ろ、碧」
「えっでも佐倉を個室にふたりで置いてく訳には」
「それ人聞き悪くない?俺が襲うような奴みたいじゃない?」
「いいわよ、あたしこの後先輩に呼んでもらったからライブ観に行くの、どうせこの魔女先輩も出るから送って貰うわ」
「言い方」
まだ耳を赤くした皇輝が財布からお札を出してテーブルに置く。
俺が出すのに、と言ったマオさんに、碧の分は俺が出す、と返して、皇輝は僕の手を引いて廊下に出た。
ひら、と小さく手を振る佐倉に僕も軽く手を振って、マオさんにも頭を下げた。
「碧ちゃん」
「あ、はい」
「上手く溺れさせられたじゃん!」
一瞬きょとんとしてしまって、それから意味がわかって笑ってしまった。
でもちょっと違うのかも。
皇輝だけが溺れた訳ではなくて、僕だってずっと、溺れてたんだろうな。
多分、これからだって。
何で佐倉が煽ってんだ、止めてくれ。
「な、なんで殴っ……」
「わかってたんならさっさと言えば良かっただろ」
「だから、ばらしたら僕が泡になって消えてしまうかもしれないから……だから、自然に皇輝が思い出すまで待ってって!」
「碧じゃなくてマオさんが言えばよかったじゃん」
「それやって人魚ちゃんが消えないって言い切れるー?言い切れないでしょ、だから俺も知らない振りしなきゃ、ねっ」
「……っ」
やっと皇輝が拳を下ろした。ほっとした僕とは対照的に、佐倉はにやにやと見物をしている。楽しそうだ。
女子に言うのもどうかと思うけどこの野郎。
「でもあれはわざとですよね」
「んー?」
「……俺が見るのわかってて、碧に触りましたよね」
「んえ」
「やっぱりバレるか、目ェあったもんね」
「んんん?」
「なにそれ詳しく」
「佐倉は煩い」
「呼んだのそっちじゃないのよ何よぉ」
「えっちょ、え、待って待って待って僕が意味わかんないえっ何それなんの話」
僕が主人公で、僕が一番知ってる物語の筈なのに、なんだか置いていかれてる。
なのに、なんか皇輝とマオさんは僕よりわかってるかのようにバチバチしてるし、飄々とした佐倉は頬杖をつきながらフォークを咥えている。
……僕は?
「なんで俺があそこいるのわかったんですか、なんか不思議な力ですか」
「えー、今そんな力ある訳ないし、そんなの碧ちゃんによく話聞いてればわかるよ、車校から駅までの帰り道だし、時間だって大体わかるし、それに君目立つからね、あーいるな、って」
「……そんだけであんなことを?」
「別にあの日に拘らなくても良かったし。俺としては何回碧ちゃんとご飯しても楽しいからさ」
「……っ」
「あっパンケーキ食べた時か!」
漸くわかって発してしまった言葉は我ながら間抜けだった。
毒気を抜かれたようにふたりが揃ってこっちを見るものだから、思わずごめんと謝ってしまう。佐倉が声を上げて笑った。
「ねえ冷めちゃうよ、先に食べなよ」
「……カラオケのメシ美味くねんだよな」
「じゃあ頼むなよ」
「甘いものならどこも似たようなものなのにね」
「どうせ業務用だし」
「ねえあたしもそのパンケーキ食べたい」
「今甘いもん食ってんのに?」
「今日じゃなくてー」
大人しく座ったふたりの間に僕も座って、ふたりの顔を覗き見る。
皇輝は呆れたような顔をしてるし、マオさんはなんだか楽しそうに笑ってた。
もう殴り合い、にはならなさそうだけど。
「碧ちゃんアイスついてる、拭いたげよっか」
「触んな」
「ぅぶ」
「碧もこんなとこでかわいいあざといことすんな」
「え」
「やだコーキこそどうしたのよ、そんなキャラじゃなかったじゃない、うける」
「佐倉煩い」
「は?アイス投げるわよ」
マオさんの手を払い、佐倉にも悪態を吐き、僕の口許を拭う皇輝に呆気にとられつつ、でもなんだかふわふわする。
なんかその、こんなにはっきりと周りに皇輝のだって言われることなんてないだろうから。
多分マオさん相手や佐倉の前以外ではこんなあからさまなことはしないだろう。それでいい。
でもやっぱり、なんだか嬉しいんだ、冗談でもおふざけでも。
お姫様みたいに皆には公表出来ないけど、限られたひとのなかでもわかってもらえるのが。
「嬉しそうな碧ちゃんかわいいなー」
「えっあたしも見たい」
「見るな、俺のだ」
「何よついこないだまで忘れてた癖にぃ」
「その分もだいじにすんだよ!」
「え」
「あら」
「ふたりとも顔真っ赤じゃん」
それを聞いて、皇輝を見上げる。確かに赤くなった皇輝がいて、僕も笑ってしまう。かわいい。嬉しい。……愛しい。
「アオくんおめでと!」
「これで人魚ちゃんじゃなくてちゃんと『ヒト』になれたな」
佐倉の明るい、嬉しそうな声と、マオさんの祝福の声。
僕の、人魚姫のだいすきだったひとの言葉。
皇輝から見えないようにふたりにピースで返す。
さっきまでのふざけた顔ではなく、あたたかい笑顔を見せてくれたふたりが心強かった。まだこれからも近くにいてくれることも。
「……帰ろ、碧」
「えっでも佐倉を個室にふたりで置いてく訳には」
「それ人聞き悪くない?俺が襲うような奴みたいじゃない?」
「いいわよ、あたしこの後先輩に呼んでもらったからライブ観に行くの、どうせこの魔女先輩も出るから送って貰うわ」
「言い方」
まだ耳を赤くした皇輝が財布からお札を出してテーブルに置く。
俺が出すのに、と言ったマオさんに、碧の分は俺が出す、と返して、皇輝は僕の手を引いて廊下に出た。
ひら、と小さく手を振る佐倉に僕も軽く手を振って、マオさんにも頭を下げた。
「碧ちゃん」
「あ、はい」
「上手く溺れさせられたじゃん!」
一瞬きょとんとしてしまって、それから意味がわかって笑ってしまった。
でもちょっと違うのかも。
皇輝だけが溺れた訳ではなくて、僕だってずっと、溺れてたんだろうな。
多分、これからだって。
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