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 それだけは本当に信じてほしいと念押しして、もう一度だけキスをした。
 今日はこれで最後、と皇輝が言う。
 ほっとしたような、でも残念なような。
 したかった訳じゃない、ただ、僕のことを欲しがってもらえるのは嬉しいから。

 きっちりと着替えさせられ、自分も着替えた皇輝はいつものように僕を待たせて、鍵を返しに行く。
 待ちながら、僕も頭の整理をしたいのに、頭の中が全部皇輝のことで埋まってしまう。
 もっとちゃんと話したい。なのに、上手く言葉に出来ない。

 自分の手のひらをじっと見る。
 なにもおかしいところはない。消えそうな気配もない。痛みも、傷も、欠けたところも何もない。
 ……これは、ちゃんと想いが通じたということなのだろうか。
 何かこの、例えばぱあっと光に包まれる、とか人魚姫が現れる、とかないから、上手くいったのかどうかわからない。
 もう泡になることに怯えなくていいのだろうか。

「碧」
「あ、鍵……ありがと」

 ジャージ姿の皇輝が戻ってくる。見慣れた姿なのに、まあその、どきっとしてしまう。
 何でも似合うんだよなあという気持ちと、制服をびしょ濡れにしてしまった罪悪感と、ついさっきまで抱き締められていた事実。
 そんな思考を追いやるようにして、帰ろ、と笑ってみせる。

「……土曜日」
「え」
「空けてて、夜」
「へ、あ……え、う、……うん」

 視線が空を舞う。
 誤魔化そうとして、そんなことも出来なくて、そのまま頷いた。
 意図なんて馬鹿でもわかる。別にいい、そうしたかったしそう望んでた。
 でもこの週頭に言われてしまうと、週末までをそわそわして待つ羽目になるということで……
 毎日のカウントダウンに、僕の心臓は持つのだろうか。

「あ、じゃあ土曜日に」
「なに」
「マオさん……魔女と会う、ってのは……」
「会う」

 食い気味に即答された。
 やっぱりちょっと怒ってるのだろうか。

「や、まだ、会うとか約束してないから、会えるかどうかはわからないんだけど、でも」
「会う、絶対会う、向こうの予定キャンセルさせてでも会う」
「それはちょっと……」
「なんなら佐倉が居てもいいから」

 あー、これは話し合いがしたいってことなんだろうな……四人揃っちゃう。
 僕上手く話せる自信ないんだけど。

「……きいてみる」
「そうして」
「……ん」
「その後俺ん家ね」
「ふぁっ」
 
 家の前まで送っていかれ、再度確認をした皇輝は心做しか満足そうな顔で帰って行った。
 感情ジェットコースター過ぎないですか……
 それはまあ、僕も同じなんだけど。


 ◇◇◇

「俺の読み通りになったじゃーん」

 土曜日、集まった途端に満面の笑みでマオさんが言う。

「は」
「カラオケでい?あ、マナちゃんも来たんだ」
「先輩の奢りと聞いて」
「えー、四人分はきっついわあ」
「あそこのカラオケならあたしハニトー食べたい、アオくん一緒に食べよ」
「え、あ、うん……?」

 何故か佐倉が僕の腕を引き、先頭を歩く。
 さっさと受付を済ませ、部屋に入るなり先に注文決めまーす、とオーダーも済ませてしまう。

 それから僕の隣に座った佐倉が、この四人で集まるってことは、とうとう思い出したんだ?と皇輝に向かって言った。
 挑発的な言い方だったにも関わらず、素直に皇輝は頷く。
 遅くなりました、と。

「ほんっと遅いわよ!あたしのことはともかく、普通アオくんとあんだけいたらすぐ思い出すでしょーよ!」
「返す言葉もない」
「俺だってあのステージで三人見てすぐ気付いたぞ」
「……」

 追い込まれた皇輝が何だか面白い。こんなところあんまり見たことないから。
 なんか笑ってしまう。
 そんな僕を見て、皇輝の視線が助けてくれ、と言ってるのに気付いた。
 タイミングよく頼んだ食事が届いて、佐倉が嬉しそうに手を伸ばす。

「で、今日この四人を呼んだ理由は?お茶なんかじゃないでしょ」
「……マオさん、のことがよくわからないのと、俺は前世なんかより、碧を選ぶって話しを」
「そんなんもうわかってるわよ、どうぞどうぞ、アオくんといちゃついて下さいな、あたしはアオくんにも話したけど、人魚姫の話を知ってまでコーキとどうこうなりたいとか思わないの、元々そんなつもりもなかったけど。でもこの話を終わらせる為にアオくんと早くくっついてくれたらいいなとあたしは思ってたの。それだけ!」

 早口で捲し立てた佐倉は、フォークを口に運ぶとハムスターのようにパンを詰め込んでいく。
 その流れで僕の口にも突っ込まれた。熱い。あまい。

 皇輝からしたら、皆のおかしいと思ってた行動の答え合わせのようなものだろう。
 だからあの時……と毎回発見したかのような顔をしている。
 佐倉が付き合う振りを持ち掛けたのも、僕と仲良くしてたのも全部皇輝に思い出させる為。

「そんで完全に思い出したのが碧ちゃんを助けようとした時なんでしょ、うける、人魚姫と王子様逆転しちゃってんじゃん」
「あは、ほんとだ」
「……俺アンタすきじゃないです」
「俺だって王子のことなんてそんなすきじゃないよ、人魚ちゃんの為だし」
「えっなんで急に喧嘩すんの」

 自然に喧嘩を売る皇輝も、喧嘩を買おうとするマオさんも意味わからん、慌ててふたりを止めに入る。
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