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◇◇◇
「くっっっそだるい……」
「口が悪いな碧チャンは」
「誰のせいだよ」
「その口の悪さは俺のせいではないな、こっちは俺のせいだけど」
「ひゃっ」
横になってされるがまの僕のおしりをぺろんと撫でられて、変な声を出してしまう。
酷い、恥ずかしくてしにそうになって、誤魔化したようなことを言う僕に対してさらに羞恥心を煽るようなことを。
「動けないー、ってぐずぐず泣くからここで綺麗にしてあげたのに」
「泣いてないっ」
「そういうことにしといてあげましょ」
「泣いてないっ」
「はいはい」
僕の言葉をスルーして、ベッド周りを綺麗にした皇輝が、さて寝るか、と声を掛ける。
「待って、パンツ履きたい」
「別にいいじゃん」
「……やだ、履く」
「仕方ないなあ」
脱ぎ散らかしたままの下着を渡され、横になったままもそもそと履く。
落ち着く。
流石に他人の家で下半身丸出しで寝るのはいやだ。
ズボンは……いいや、あのでかいのは寝るのに邪魔そう。
「……彼シャツじゃん」
「え?」
「なんも。電気どうする?真っ暗派だっけ」
「……今くらいのでいい」
「まだこわい?」
「……」
「いて」
無言でクッションを投げつける。抗議だ。
真っ暗はやっぱりホラーの後だからこわいのもある。
……でも、これくらいの薄明かりがいいのは、皇輝の顔が近くだと見えるから。
折角こんなに近くにいるのに、見れないのはさみしい。
明る過ぎると寝れないし、その、自分の顔を見られるのは恥ずかしいから嫌だけど。
まあ皇輝の顔が見えるんだから、僕の顔だって見られてる訳だけど。でも粗くらいは隠せるかなって。
「……痛くない?」
ぼすんと僕の横に倒れた皇輝に訊かれて、何が?と思ってしまい、それから顔が熱くなった。
どもりながら大丈夫、と答えると、さっきまでの意地悪な顔じゃなくて、酷く優しい顔で、良かった、と返された。
胸が苦しい。
「……次はその……最後までする?」
「うーん、そこは碧の躰次第」
「た、大変かな?」
「今日は調子乗っちゃったけどさ、別に俺は無理矢理したい訳じゃないんだよ」
「うん……」
「それに無理矢理最後までして、碧にトラウマになられても困るし。別に挿入るだけがセックスじゃないし」
「……~!」
「こうやって時間掛けるのも醍醐味ってやつだよ」
そ、そうなのかな?皇輝を我慢させたりしてないのかな?いや、我慢はさせてるんだろうけど、でも、それで僕のこと嫌になったりしない?めんどくせーなって、ならない?
ただでさえ色々面倒なのに、余計に僕にしなきゃよかったとか、思わない?
「碧だからだよ」
「……へ」
「碧だからかわいいしって許せるんだよ、碧だから大事にしないと、痛がらせないように、こわがらせないようにって気をつけんの。碧だから」
「……っ、うん……ありがと」
「嬉しい?」
「うん、うん……しあわせ」
勝手に悩んじゃうんだけど、勝手にうじうじしちゃうんだけど。
でもそうやって、皇輝が考えてくれてるなら嬉しい。
胸がぎゅうってなって、熱くなって、なんだかもう、皇輝だいすきだいすきって気持ちばっかり溢れていっちゃう。
「……もうちょっと近く、いっていい?」
「ん?いいよ」
「うん……」
ほんのちょっと、あわよくば、腕枕くらいしてもらえたらなあ、って、欲張りかもしんないけど、そんなことを思いながらのお願いだった。
だけどそんな願いも吹き飛んでっちゃうくらい、皇輝は僕のことをぎゅっと抱き締めてくれた。
皇輝の匂い。
ボディーソープと柔軟剤と、部屋の芳香剤とうっすら移った香水か何かの匂い。
なんかしあわせが急に押し寄せてくるばっかりで、頭がバグっちゃいそう。
これ起きたら夢でしたとかないよね?ないよね?
「……っ、皇輝、すき……」
「俺も碧のことすきだよ」
思わず言ってしまった言葉に、間髪入れずに返ってくる甘い言葉。
あああ、もうこんなの夢でしたってなってもやっぱりおかしくない。甘ったる過ぎる。
「……僕たちって、その、つ、付き合ってる、でいいの?」
「俺は昨日からそのつもりだったけど。何、言葉が欲しかった?」
「……や、その、違ったらどうしよって思った、だけ……」
「流石に付き合ってないと俺はこんなことしないなあ……あ、プールのはノーカンで」
「……」
「怒ってる?」
「怒ってないっ」
「……碧、ちゃんと付き合ってくれる?」
「……うん、ちゃんと、付き合う……」
皇輝の腕に篭もる力が強くなった。
はあ、と溜息と、良かったあ、と安堵の声。
……皇輝も不安だったりしたのかな?
中学の頃からってのは信じていいのかな?
同じってことで、いいのかな。
疲れた。なんだかすっごい疲れた。体力もなにもかも、使い切った気がする。
瞼が重い。閉じちゃう。
夢じゃありませんように。それだけ考えて、眠りに落ちた。
◇◇◇
がたん、と音がした。
「……?」
真っ暗。
なんでこんな真っ暗で、あれ、なんで僕動けないんだっけ。
なんで……
……あ、皇輝に抱き締められてるから。なるほどお互い寝相が良いもんだな。
「……!」
抱き締められたまま寝てたってことか!夢じゃなかった……うわ感動しちゃう。
さっきの物音はおばさんが帰ってきたのだろうか。
頭上では皇輝の寝息が聞こえる。おばさんはこの部屋を覗いたりはしないだろう、そんな歳じゃない。
それならまだ寝てても大丈夫。外はまだ暗い。多分。
まだこのあついくらいのしあわせを享受出来る。
おやすみ、と小さく呟いて、また皇輝の胸元に顔を埋めた。
人魚姫は泡にならない。
誰を刺すこともなく、明日もまた、王子様と一緒にいれる日常へ。
「くっっっそだるい……」
「口が悪いな碧チャンは」
「誰のせいだよ」
「その口の悪さは俺のせいではないな、こっちは俺のせいだけど」
「ひゃっ」
横になってされるがまの僕のおしりをぺろんと撫でられて、変な声を出してしまう。
酷い、恥ずかしくてしにそうになって、誤魔化したようなことを言う僕に対してさらに羞恥心を煽るようなことを。
「動けないー、ってぐずぐず泣くからここで綺麗にしてあげたのに」
「泣いてないっ」
「そういうことにしといてあげましょ」
「泣いてないっ」
「はいはい」
僕の言葉をスルーして、ベッド周りを綺麗にした皇輝が、さて寝るか、と声を掛ける。
「待って、パンツ履きたい」
「別にいいじゃん」
「……やだ、履く」
「仕方ないなあ」
脱ぎ散らかしたままの下着を渡され、横になったままもそもそと履く。
落ち着く。
流石に他人の家で下半身丸出しで寝るのはいやだ。
ズボンは……いいや、あのでかいのは寝るのに邪魔そう。
「……彼シャツじゃん」
「え?」
「なんも。電気どうする?真っ暗派だっけ」
「……今くらいのでいい」
「まだこわい?」
「……」
「いて」
無言でクッションを投げつける。抗議だ。
真っ暗はやっぱりホラーの後だからこわいのもある。
……でも、これくらいの薄明かりがいいのは、皇輝の顔が近くだと見えるから。
折角こんなに近くにいるのに、見れないのはさみしい。
明る過ぎると寝れないし、その、自分の顔を見られるのは恥ずかしいから嫌だけど。
まあ皇輝の顔が見えるんだから、僕の顔だって見られてる訳だけど。でも粗くらいは隠せるかなって。
「……痛くない?」
ぼすんと僕の横に倒れた皇輝に訊かれて、何が?と思ってしまい、それから顔が熱くなった。
どもりながら大丈夫、と答えると、さっきまでの意地悪な顔じゃなくて、酷く優しい顔で、良かった、と返された。
胸が苦しい。
「……次はその……最後までする?」
「うーん、そこは碧の躰次第」
「た、大変かな?」
「今日は調子乗っちゃったけどさ、別に俺は無理矢理したい訳じゃないんだよ」
「うん……」
「それに無理矢理最後までして、碧にトラウマになられても困るし。別に挿入るだけがセックスじゃないし」
「……~!」
「こうやって時間掛けるのも醍醐味ってやつだよ」
そ、そうなのかな?皇輝を我慢させたりしてないのかな?いや、我慢はさせてるんだろうけど、でも、それで僕のこと嫌になったりしない?めんどくせーなって、ならない?
ただでさえ色々面倒なのに、余計に僕にしなきゃよかったとか、思わない?
「碧だからだよ」
「……へ」
「碧だからかわいいしって許せるんだよ、碧だから大事にしないと、痛がらせないように、こわがらせないようにって気をつけんの。碧だから」
「……っ、うん……ありがと」
「嬉しい?」
「うん、うん……しあわせ」
勝手に悩んじゃうんだけど、勝手にうじうじしちゃうんだけど。
でもそうやって、皇輝が考えてくれてるなら嬉しい。
胸がぎゅうってなって、熱くなって、なんだかもう、皇輝だいすきだいすきって気持ちばっかり溢れていっちゃう。
「……もうちょっと近く、いっていい?」
「ん?いいよ」
「うん……」
ほんのちょっと、あわよくば、腕枕くらいしてもらえたらなあ、って、欲張りかもしんないけど、そんなことを思いながらのお願いだった。
だけどそんな願いも吹き飛んでっちゃうくらい、皇輝は僕のことをぎゅっと抱き締めてくれた。
皇輝の匂い。
ボディーソープと柔軟剤と、部屋の芳香剤とうっすら移った香水か何かの匂い。
なんかしあわせが急に押し寄せてくるばっかりで、頭がバグっちゃいそう。
これ起きたら夢でしたとかないよね?ないよね?
「……っ、皇輝、すき……」
「俺も碧のことすきだよ」
思わず言ってしまった言葉に、間髪入れずに返ってくる甘い言葉。
あああ、もうこんなの夢でしたってなってもやっぱりおかしくない。甘ったる過ぎる。
「……僕たちって、その、つ、付き合ってる、でいいの?」
「俺は昨日からそのつもりだったけど。何、言葉が欲しかった?」
「……や、その、違ったらどうしよって思った、だけ……」
「流石に付き合ってないと俺はこんなことしないなあ……あ、プールのはノーカンで」
「……」
「怒ってる?」
「怒ってないっ」
「……碧、ちゃんと付き合ってくれる?」
「……うん、ちゃんと、付き合う……」
皇輝の腕に篭もる力が強くなった。
はあ、と溜息と、良かったあ、と安堵の声。
……皇輝も不安だったりしたのかな?
中学の頃からってのは信じていいのかな?
同じってことで、いいのかな。
疲れた。なんだかすっごい疲れた。体力もなにもかも、使い切った気がする。
瞼が重い。閉じちゃう。
夢じゃありませんように。それだけ考えて、眠りに落ちた。
◇◇◇
がたん、と音がした。
「……?」
真っ暗。
なんでこんな真っ暗で、あれ、なんで僕動けないんだっけ。
なんで……
……あ、皇輝に抱き締められてるから。なるほどお互い寝相が良いもんだな。
「……!」
抱き締められたまま寝てたってことか!夢じゃなかった……うわ感動しちゃう。
さっきの物音はおばさんが帰ってきたのだろうか。
頭上では皇輝の寝息が聞こえる。おばさんはこの部屋を覗いたりはしないだろう、そんな歳じゃない。
それならまだ寝てても大丈夫。外はまだ暗い。多分。
まだこのあついくらいのしあわせを享受出来る。
おやすみ、と小さく呟いて、また皇輝の胸元に顔を埋めた。
人魚姫は泡にならない。
誰を刺すこともなく、明日もまた、王子様と一緒にいれる日常へ。
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