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「最近この女優よく見るよなあ」
「仕方ないんだろうけど学生役をいつまで出来るんだろうねえ」
「でも似合ってんだよなあ」
「わかる、かわいいよね」
「碧こういうのタイプだっけ」
「え、いや、タイプとは違うけど」

 序盤のまだあまり話が進まないところでだらだらと話してしまう。
 ホラーって急にどんっとくるからなんかしてないとこわいんだよね。

「てか碧のタイプ聞いたことなかったかも、どんな子?」
「えっ、え、それ聞くの?え?今?てか皇輝が聞く?」
「何焦ってんの、やっぱあれか、俺がタイプか」
「えーっ、や、えと、ううん……いや、タイプ……ではない、かな?」
「え」

 うーん、だって男のタイプなんて考えたことなかったし、王子様はもう絵本そのものな王子様だったし、皇輝だって王子様みたいでかっこいー!って騒がれてたけど、その王子様とは違うタイプっていうか……
 なんていうのかな、絵本の王子様と、現代の、漫画から出てきたような王子様との違いっていうか……同じ王子様の括りでもジャンルが違うっていうか。

「何、碧のタイプってどんなの」
「えええ、えー……っと、あの、僕より小さくてえ……ど、どっちかってーとかわいい系?」

 正直タイプだとか考えたことなかった。
 転校先で皇輝を見つけるまでは、彼女ほしー!とか言ってたけど、別に絶対この子と付き合いたい、と思ったひとはいなかった。
 クラスのかわいい女子は素直にかわいいと思ったし、話題のアイドルも女優もかわいいと思った。
 別に特別こういう子がすきだなとは思わなかったかもしれない。

「……ふーん、俺と真逆じゃん」
「何言ってんの?」

 女子の例なんだから当たり前じゃないか、いや、ちょっとかわいいとこだってあるけど。

「うちのクラスだと?佐倉は違うよな、真宮とか?結構話してるよな?」
「ちょ、まっ、待って、どっちかってーとだから!ねえ!ほら映画観るんでしょ、ほら!ね!」
「こっちのが気になる」
「僕!途中まで観ちゃったから気になる!気になるから!終わってから!話す!」

 ぐいぐい来る皇輝に困る。
 だって映画観てる間は何もないと思ってたから、心の準備がまだ出来てない。いつまで経ったって出来ないだろうけど、あと伸ばしにしたくなる。
 皇輝はあっさりしたタイプだと思ってたのに、思ってたよりずっと、僕のことがすきなんだろうか。

「そんなに映画観たいの」
「うん!うん!気になるなって!」
「じゃあこっち来て」
「え」
「ここ」

 誘導されたのは、皇輝の足の間。
 ……寧ろそんなとこ行っていいんですか?恋人の特等席では?
 皇輝を見上げると、早く、と言われて、ふらふらとそこに這ってしまう。
 すっぽりと収まって、背中の体温に皇輝を感じる。
 言い訳に使った映画なんてもう頭に入らない。
 あと1時間半くらいこのままなの?
 嬉しい、どきどきする、嬉しい、緊張する、嬉しい、そわそわする、嬉しい、挙動不審になる、嬉しい、嬉しいのにこれすっごい精神力が減ってく気がする。
 世の中のいちゃいちゃしてるひとはこれ平気なの?いつか慣れるものなの?

「……」
「ひぁ!」

 急に耳を触られてとんでもない声が出る。皇輝は僕に映画を観せる気がないのだろうか。

「な、なに」
「いや、耳小さいなと思って……てか頭も小さいし、肩も……碧ってこんなに小さかったっけ」
「嫌味?」
「違う違う、かわいいって言ってんだよ」
「……やっぱさっきのとこ戻る」
「何でだよ」
「そんなん聞いたら普通の顔出来ないじゃん……」
「意識させようとしてんだからこれで正解なんだよ」

 はいその通りです。
 なんなら皇輝が何もしなくても意識してます。
 触られなくたって、近くにいるだけで、ずっと。

「……皇輝映画観る気も観せる気もないでしょ」
「それはもう碧もでしょ?」
「……」
「図星だ」
「……観る気はあったよ、でも、皇輝が触るから」
「興奮した?」
「……そんないじわるな言い方しなくてもいいじゃん」
「ごめん」

 素直に謝った皇輝が、頬に唇を落として、その次にはちゃんと唇にキスをしてくる。
 軽いキスはさっきもした。
 でも、昨日みたいな、頭がぽーっとなってしまうような、舌の入るやつは?するの?
 思わず皇輝のシャツを掴んでしまう。
 皇輝が耳元で、ベッド上がって、とか言うもんだから、あ、やっぱり昨日以上の、プールの時以上のことをするんだ、と意識してしまう。

「映画はこれ今度借りるかなんかしよ」

 ホラーを流しっぱなしにする訳にはいかない。ムードもへったくれもない。
 皇輝がテレビを消した。

「で、電気」
「消す?」
「ううう」

 明るいのはやだ。絶対やだ。
 でも中途半端とはいえ、ホラーの後の真っ暗な部屋もいやだ。
 恐怖と羞恥心どちらをとればいいのか。

「薄暗いのは?」
「……」
「明るいままでいっか」
「それはやだ!」

 笑いながら、わかったわかった、と皇輝が電気のリモコンに手を伸ばした。
 薄暗くなった部屋、如何にもな雰囲気、暗いけど、皇輝の表情くらいは見える。

 今世で数年、前世から数えるとどれだけだろう、報われる訳がないと思っていたのに、昨日の今日でもう、繋がることが出来るんだろうか。
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