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「えっと、リビングでいいの?」
「俺の部屋に行きたいのか?」
「えっ、や、り、リビングでいいでーす……」

 相変わらず廊下もリビングもどこもかしこも綺麗で生活感がない。
 だから汚しそうでこわいなとも思っちゃうんだよね、汚すつもりはないですけど。

「座ってて」
「僕も準備……」
「お茶注ぐだけだし」
「ふぁい……」

 リビングのふっかふかのソファ。これ気持ちいいんだけど、やっぱ高いやつなんだろうな~……
 来る度にそう思ってる気がする。
 キッチンの方から冷蔵庫を開ける音や、何かごそごそ探してる音がする。
 ……2階の部屋で待ってるのも緊張するけど、うっすら音が聞こえるのも何か緊張するなあ……
 折角なら皇輝の部屋で待ってる方が良かったかな?
 なんかそっちの方がお付き合いしてるっぽくない?
 いやいやいやでもそんな、期待してるみたいな……期待してるとかじゃなくて、だめだめだめちょっと煩悩飛んでいけ、今考えるんじゃない!

「何、虫でもいる?」
「やっ、なんも!あっお、おいしそー!」
「……」

 皇輝が持ってきたチョコに手を伸ばす。
 これは絶対良いやつだ、美味い。残念ながら舌は肥えてる訳ではないから、大抵のチョコは美味いと思う舌なんだけど。
 クッキーも美味しい。全部頂き物なんだろうな、皇輝はあんまり甘いの食べないし、いっぱい食べちゃお。

 暫くお互い無言のまま、僕のクッキーを食べるさくさくという音だけが響く。
 自分から出しやすい話題じゃないだけに、早く皇輝から切り出してくれー、と思いながらクッキーを食べ続ける。

「皇輝食べないの?」
「こないだ少し食べたからいいや、全部食べていいぞ」
「わ、わーい……」

 それもどうなのか、と思ったんだけど、なんかその、皇輝の顔が嬉しそうだったから、そんなにいっぱいいらん、とは言えずに口に押し込む。
 美味いよ、美味いんだけどさ、今そんなにお腹が空いてる訳でも、クッキーに夢中って訳でもない。
 ただ手持ち無沙汰っていうか、黙って待つのがやりづらいっていうか。

「おかわりいるか?」
「いい、いいいい!食べ過ぎちゃうし!」
「うちんち甘いのあんま食べないし、いっぱいあるし後で持って帰ってよ」
「や、ヤッター……」

 気を遣ってくれてるのはわかるけど、今はそこじゃない。

「……佐倉のことだよな」
「ひゃい!」

 タイミングが良過ぎて、心の中が漏れたのかと思った。
 びっくりして倒しそうになったグラスを皇輝が支える。

「危な」
「ごめん……」
「いや、零さなかったらいいけど。濡れてない?」
「うん、全然」
「ん、で、佐倉だけど、今日話したんだろ?」
「あー……うん、えっと、佐倉に聞いた?」
「俺が昨日、佐倉に話すって連絡をして……今日、碧と話をしたってことだけ」
「ああ」

 皇輝への説明が困る。前世云々の話は出来ないし、どういう流れで佐倉と皇輝が付き合う振りだかなんだかすることになったのかも、よく思い出すと何も聞いてないんだよな。

「でも……その、佐倉とはそんな大した話してない、皇輝に聞こうと思って」

 ということにしておく。
 これで僕にも佐倉にも変に話は飛ぶまい。

「じゃあ何の話したの」
「殆ど雑談だよ、ジュースの話とか、中学の塾の話とか、そういう……」
「ふーん」
「……まさか妬いてる?」

 なーんてね、とちょっとバカップルみたいなことを言ってみたかっただけなのに、皇輝は平然と、そうだよ、と言った。
 ……ちょっと意味がわからなくて、頭の中にたくさんの?が浮かんでいく。
 妬いてる?誰が?皇輝が?誰に?

「一応すきな奴が他の奴とふたりで楽しそうに話してて妬かないやついないだろ」

 ふい、と視線を逸らしながら言う皇輝に、僕の中の皇輝への想いが爆発した。
 かわいい、皇輝がかわいい、かわいい!
 ちょっと照れてる、かわいい、すき!うわ、なんなの、ずるいよ、かわいい、ずるいずるいずるい!
 息が出来なくなるくらい、胸が痛くなる。
 でも嫌じゃなくて、嬉しくて、報われたような気持ち。

「……何笑ってんの」
「えへへえ」
「言わなきゃ良かった」
「やだ、嬉しいからもっと言って、聞きたい」
「……やだよ、こういうのはっず……俺にはあわないや」
「えーっ」

 王子様とは少し違う、たまに乱暴になる口調。
 それなのにやっぱり面影はあって、たまに重なる。わかってる、前世がそうってだけで、今は違うところも多いんだって。
 王子様としてすきだったところ、今の皇輝としてすきなところ。どっちもすきなんだから、いいことじゃないか。

「でもほんとだよ、佐倉とは……その、ほんとに皇輝の話で……寧ろ皇輝とのことを応援してくれたし、あ、でも皇輝は言葉が足りないとも言ってたな」
「……佐倉」
「だからやっぱり言ってほしいな、だって中学の頃から、とか……気付かなかったし、その、ほら、ね、言ってくれた方が嬉しいし、ほんとに僕でいいんだって思いたいし」
「……そんなに嬉しい?」
「そりゃもう!」

 元気良く頷くと、溜息を吐いて、少し困ったような笑顔で、たまにな、という皇輝に、飛びつきたいくらい嬉しくなってしまった。
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