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「碧、あーお」
「……んんん、」
「お前何時間寝るの?帰れば?」
「うるさいー……」
「起きたんなら起きな」
「んう」
眠りから覚めたら目の前に王子様がいた。
うわあ、顔面超好み、かっこよお……
……いや物語が違う。
「なに……こうきじゃん……」
「誰だと思ったんだよ」
「にいちゃん……」
「まだ寝惚けてんの?」
お前の兄ちゃんは大学だし、ここは家じゃなくて保健室だよ、と無理矢理躰を起こされた。
……ねむい。
時計を見る。まだ2時間目までしか終わってない。
「早退するなら早退する、帰らないなら授業受ける。熱下がってるだろ、はい」
「やーだー」
「やだじゃねえ」
額をぺちっと叩かれる。
ほら熱ない、と言われ、ベッドから降ろされた。
なんで逃げてきた相手がお迎えに来るんだよ、おかしいだろ、なんか最近、ずっと、おかしいよ皇輝。
「……教室帰るぞ」
腕を引かれてそのまま保健室を後にする。
……腕、離したって逃げないのに。
いや、逃げるか、そういう奴だ、僕。
……
こんなん、ただ教室まで逃げないよう連行されてるだけなのに、ちょっと嬉しくなってる方がおかしいんだよなあ……
◇◇◇
「えっメシ佐倉と食わんの?」
「……昼くらい友達と食べるでしょ」
「皇輝クンに友達って言われちゃった……♡」
「いや佐倉と友達がって意味なんだけど」
「うっせーはよ座れや」
昼休み。
大体つるんでるのは自分達を含めて4人。
口は悪いが仲はいい。と思う。
女子と違い、勝手に他所で食べたりもするけど、大体この4人だから、皇輝のことで声を掛けられるのも多い。
まあその中で一番声を掛けられるのが僕なんだけど。
でもこれからは佐倉がいるから告白の手伝いで声を掛けられることも、合コンのお願いとかもなくなるんだろうな。
僕は女子なんてどうでもいいんだけど。
「佐倉とどんな話すんの?お前等2人とも結構話盛り上がらないタイプじゃない?」
にやにやしながら黒川が訊く。
失礼だな、とその頭を塚山が叩いた。
「どんなって……普通だけど。授業の話とか」
「……楽しいのそれってェ」
「普通だけど?」
「皇輝って頭かったいのにモテるの腹立つ~」
「やっぱ顔いいの得だよなー」
「黙ってるだけで絵になるんだもんな」
「……」
そうだよ、船から月を見てただけで溜め息が出るほど綺麗だったし、海に沈む躰は息を飲むほど美しかった。
水の中だというのに、人間の躰は自分には熱く感じて、この間だって、プールの中なのに触れた肌があったかくて……
「碧?」
「まだ体調悪いんか?」
「へっ、あ、ごめ、ぼーっとしてた」
「大丈夫か?もう5限目帰れば」
「熱下がったしへーきへーき」
「またお前そんな言ってプール入る気だろ、皇輝、こいつ縛り上げて連れて帰った方がいいぞ」
「俺もそう思ってる」
「大丈夫だって言ってんじゃん!」
皇輝の持ってたサンドイッチを横から食ってやる。
たまごとハム。美味い。
食欲があれば元気な証拠だ。
「僕プール入るためにここ来てんだし、絶対入るよ」
「……」
じっと僕を見て、それから皇輝は笑った。
お前は止めてもどうせ止まんないからな、と。
「でも少しでも体調悪そうならすぐ上がらせるからな」
「もーこのジャーマネ碧にはくそ甘いんだからよお」
「そんなんだからこいつも我儘ボーイに育ったんだぞ」
「僕は我儘じゃないよ」
「我儘だよ、多分お前の母さん頭抱えてるよ」
「それは間違ってない」
「皇輝うるさい」
頭をぐしゃぐしゃにしてくる黒川の手を叩き落とし、皇輝の背中は叩いておく。
好き勝手言い過ぎだと思う。確かに間違ってはないけど。
「まあでもほんとさ、一応病み上がりだし。程々にしとかないとぶり返したらまた暫く入れなくなるぞお」
「……わかってるよ」
茶化してるけど、心配もされてるんだって。
だって最近、自分でもわかる程自分の行動はおかしい。
わかってる。わかってるけど、その原因は間違いなく皇輝だ。
なのに当の本人はいつもとかわりませんけど、という顔をしてるのが、不思議で不気味でこわくて腹が立つ。
プールの件に、更に僕の部屋に来た時のこと。
2回もあれば僕の勘違いってわけでもない。
本当に意味わかんない。
……佐倉と付き合って、それこそ僕なんかに手を出す必要はない筈なのに。
それなのに、そんな顔で笑ってくるのがムカつくくらいすきだ。
ほんとにムカつく。
早く佐倉としあわせになればいいんだ、僕の知らないところで。
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