【完結】人魚姫は今世こそ結ばれたい

ちかこ

文字の大きさ
上 下
4 / 55
1

4*

しおりを挟む
「……上がりたくないなあ」
「1往復の約束だろ」
「……うん」

 短いようで意外と長くて、でもやっぱり短かった。
 いいなあ、佐倉はこれから皇輝に、ずっと触れてられるんだな、もう……
 もう、僕の面倒より、佐倉の方を向いちゃうんだな……

「昨日さ」
「ん?」
「上北ちゃんから連絡きて」
「……ああ」
「佐倉が今日告るから手伝ってって」
「お前な、いつもいつもそういうの請け負うのやめろ」
「でも皇輝は毎回行ってくれるじゃん……それに今回は上手くいったんだし」

 自分で言っておきながら、声が少し震えた。
 違う、これはちょっと寒いからだ。だから、不自然じゃない。

「佐倉めっちゃかわいーもんな、流石に上手くいくよなあ」
「……別に顔で判断してる訳じゃない」
「わかってるけどさあ……美人だと性格もよかったりするじゃん、佐倉、結構良い奴だよね、最初はツンとしてるかと思ったんだけどさ、ほんとは明るいし、前、日直の仕事サボられて僕1人だった時、怒りながら手伝ってくれたんだよね……そゆとこ、ちょっと皇輝に似てるなって。ほら、中学の時同じことあったなって」
「碧」
「あ、ごめんごめん、そろそろ上がるからさ」
「……お前、佐倉のことすきなの」
「え」
「今までそんなに佐倉の話、したことあったっけ」
「え、いや……」

 皇輝が振り返る。近い。
 そこでやっと、自分が皇輝にくっついたままだったのを思い出した。
 普段なら身長差もあって、ここまで顔が近くなることはない。
 ……まるでキスをするような、距離。

 一瞬、時が止まって、慌てて皇輝から離れた。
 駄目だ、心臓が爆発する。
 あと少し、あと少しで触れそうだった。

「碧ってさあ」
「えっ」
「俺が相手とはいえちょっと無防備過ぎない?」
「えっ……え?え、だって……だって皇輝だし……」
「背中」
「背中……?」
「俺も脱いでんだけどさ」
「……?」
「乳首当たってんだけど」
「……!」
「いや男だけどさ……でもそういうのやっぱ……他の奴には止めろよ」

 一瞬で顔が赤くなったのがわかった。
 違う違う違う、そんなつもりで抱きついてたんじゃない。
 いや、下心がなかった訳じゃない。
 でも僕も男だし、普段プールなんて胸元あいてるのは当たり前であって……

「ほ、他の奴にって、そんな、そんな気にすることとか、そんな」
「高校生男子なんてな、性欲の塊なんだぞ」
「せっ……」
「お前なんてすぐ喰われる」
「くわ……っ」

 どん、と端まで追い詰められてしまう。
 わかった、わかったから、他の人には水着で抱きついたりしないから。
 今はそんなんより、皇輝が近い方がやばい。

「えっ……」

 水着の上から、皇輝が触れてくる。
 えっ、え、え?なに、何、何で?待って、意味がわかんない。
 何で皇輝が僕に触れてるんだ?

「ちょ、え、待っ……な、なんっ……」
「勃った」
「は……!?」
「抜きっこなんてよくあるだろ」
「ないっ、な、え、やったことないっ」
「責任取って」
「やっ、や、だめ、プールだしっ……明日、また皆っ……」

 訳がわかんなくて、え、なんで本当にこんなことになってんのかわからなくて、待って、今そんな流れだった?
 混乱する僕に、耳元で上がって、と言ってくる。

 でも待って、皇輝が触るから。
 触ったりなんかするから、耳元で話したりするから。
 僕も勃ってしまった。この状態で上がるなんて無理。
 でもプールを汚すのも無理。

 無理。

 無理だって。
 王子様と、皇輝と結ばれたいと思ってたけど、こんなことまで考えてなかった。
 したくないとか、そんなんじゃなくて、いや、結ばれたらその内って思うけどでも、今じゃなくて。
 だって佐倉とって……
 いや、抜きっこってなに、そんなの想定外過ぎる。

「……シャワー行くぞ」
「ちょ、待って、いまっ」
「無理」
「無理ってっ……」

 無理矢理プールから出されて、そのままシャワー室へ引っ張っていかれる。
 皇輝の大きな手が、しっかりと僕の腕を掴んでいて離せない。
 ずかずかと進んでいくものだから、転ばないように足を動かすだけで必死だった。
 こわい。
 いつもなら、もっと僕に合わせて歩いてくれるのに。

「……っ」

 シャワー室に着くなり、壁で区切られただけの個室へ押し込まれる。

 待って待って待って、本当にするの?
 こんなとこで?

「待って……!」
「すぐ終わらすから。このままじゃ帰れないだろ」
「や、やだ、ちょ、あっ」

 今度は水着越しではなかった。
 直接皇輝の体温が触れる。

「碧だってもう濡れてんじゃん」
「ちが、これ、水っ……」
「水はこんなぬるぬるしてない」
「止めっ……や、やだっ」

 皇輝の息が近い。耳がぞわぞわする。
 駄目だって、こんなの違うってば、そう思うのに、下半身が溶けてしまいそうで、こんなの、こんなの……自分で処理する時はこんなに熱くなかった。早い。すぐ、だめになっちゃいそう。

「碧」
「ンんっ、や、も、むり……っ」
「駄目、俺まだ」
「やだあっ、知らなっ、知らないっ……や、」
 
 見えなくてもわかった。
 手とは違う熱いもの。
 ……皇輝の。
 皇輝のと、一緒に、今、触られてる。

「碧、こっち見て」
「やだ、みれない、やっ、あ、だめ、やだあ、もうむり、むり、だめ、出ちゃうっ」
「碧」
「むり、ごめっ、ごめん、あっ、ごめんなさ……っ、や、あ、……ッ」
「……っ」


 あっさりと、出して、しまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ
BL
アイドル好きの姉4人の影響で男性アイドル好きに成長した主人公、雨野明(あめのあきら)。(高2) 学校にバイトに毎日頑張る明が今推しているアイドルは、「ラヴ→ズ」という男性アイドルグループのメンバー、トモセ。 そんなトモセのことが好きすぎて夢の中で毎日会えるようになって・・・。 攻めアイドル×受け乙男 ラブコメファンタジー

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...