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 ◇◇◇

「あの時は僕たちもいるのにあんないちゃいちゃし始めて……焦りましたよ」
「おっぱじめるかと思ったよね」
「ちょ、下品!」
「ずるい、わたしも見たかった、わたしもポールもお城に戻されたのに!」
「ゆゆゆゆりちゃんに見せられる訳ないでしょ!ポールも!」
「今時の子はスマホで何でも知ってるよ」
「フィルタリングしろ!」
「この海老みたいなやつ美味しい」
「おかわりもございますよ」
「あっおほしさま流れましたあ!」
「お願いごとした~?」

 賑やかな声に、聞こえない振りをしてグラスを口元に押し当てた。
 あの時は興奮状態だったんだと思う。
 女神と作者に会い、色々知ってしまった後で、まさかのノエが人間になってしまうなんて展開に、周りにいるひとたちを気にする余裕がなかった。
 更に気を遣えるひとばかりだったこともあって誰ひとり邪魔しなかった。
 ソフィとリアムはまだお昼寝してたし、ゆりちゃんは俺たちと違うとこに返されたから。
 莉央くんはともかく、怜くんに弄られるとは思ってなかったけど。
 ……思い出すと恥ずかしい、あんなプロポーズ擬きを見られてる中やってただなんて。

 あの後、夜になったというのに、ゆりちゃんはポールを引き連れて宿まで走ってきた。
 大仕事を終わらせ、疲れきったかおをしていたけれど、俺を見るなり口にしたのは、ご褒美ちょうだい!だった。
 女子高生とは自由である。

 そこからの彼女は頑張った。
 絶対に帰ってくるから、と王様たちを説得して説得して、最終的には家出するぞと脅して暫くの自由とちゃっかり良い船を手に入れた。
 お目付け役にポールまで味方につけて。
 豪華バカンス!と浮かれる彼女は大層嬉しそうで、ちゃんとした旅行なんて行ったことない、なんてトドメを刺してくるものだから、約束は守るしかなかった。

 当然怜くんは俺に着いてくるし、莉央くんもそれに着いてくる。サキュバスたちも。
 サキュバスたちが借りていた船を返しがてら、怜くんたちの住んでいた北の方へ一旦戻り、怜くんは街のひとたちへの用事も済ませた。
 次いつ戻れるかわからないから薬を多く渡しておかなきゃ、と。

 最初は急に現れた魔法使いに冷たかったと言っていた。
 怜くんがそういう人物だから、街のひとたちも怜くんを信じて心を開いてくれたのだろう。
 怜くんの物語は、きっとすごく丁寧に作られ、完結されたのだとリアムを見てもわかる。
 今日もわくわくしたかおと明るい話し声が皆の心を和ませる。
 短い尻尾が揺れるのは最高にキュートだった。

 いちばん変わったのは莉央くんかもしれない。
 悪役とか世界征服なんてしないよ面倒だし、と言い切った彼にはその気がなくても物語が放っておかない面もある。
 ハーレムとラブコメだ。
 すん、とした莉央くんには似合わないことばだけどまあ本当に彼はモテる。
 買い物に行った先々で、若い女性は勿論中年女性から幼女にまで熱烈な告白を受ける始末。
 シャルルだって中々の面をしている筈なんだけどな……なんかそういう色気が出てるんだろうな。

 モテるだけならそれでいい、その気のない莉央くんが断ればいいだけだから。
 問題なのは彼の物語がシリアスではなくラブコメなところ。
 そういうイベント……つまりはラッキーすけべが多い。そしてその対象は一般人でもサキュバスでもゆりちゃんでもない、怜くんだ。
 お風呂でばったり、着替え中の遭遇、足が縺れて壁ドン、寝惚けて寝床の間違い、事故ちゅう。
 一通りはふたりきりで、或いは俺たちの前でしでかしてくれてる。
 その度に怜くんは荒れ、俺たちに助けを求めてくるのにも慣れた。だって満更でもないのだ。
 皆にすかれる男が他所を向かずに一途に自分を想うのは、場合によっては恐怖を感じる。ストーカーかと。

 なのにそうならないのは莉央くんが上手だからだ。
 引くところは引く、自分の暗い過去を同情を誘うように話す、どんなに美女に、美少年に言い寄られても怜くんの手を取って君がいいとド直球ストレートで微笑む。
 文句を言いながらも堕ちるのは時間の問題、という感じなものだから、俺たちも生温く見守るしかない。
 物語は完結させなくてもいいけれど、イベントの発生は仕方ないのだ。ラッキーすけべこわい。

 ポールは隣国を見たいと言う。
 まだ彼の物語は途中で、隣国もまだ問題はない、と思う。
 けれどそれは船を出す良い言い訳にもなった。
 国のだいじな王子さまと聖女さまの護衛をする勇者、何もおかしいところはない。
 まだあどけない少年は夢を見てる途中。それはきっと隣国のお姫さまとやらもだ。
 どうなるかわかんないですけど、と口では言いながらも、隣国を救う為に今まで頑張って自分を鍛えてきたのだ、きっと彼は隣国を救い、この国と友好な関係を築き、物語を立派に完結させるのだろう。
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