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 シャルルさん、起きて!

 躰を揺すられて、なにごと、と瞳を開けた。
 思わずうわ、と声を漏らしてしまう。あまりの眩しさに。
 なんだここは、と考えて、ああそうか、と数秒もかからず思い出した。
 二年前に来た場所だ。白く発光するような不思議な空間。明らかに異質な空間。あのほんこつ女神さまと会った場所。
 懐かしさなんてものはなかった。こんなに眩しかったっけ、目ェ痛くなるな、そんな感想くらいしか。

「起きた?ねえ、怜さんも起きて!」
「ふあ」

 どうやら揺すっていたのはゆりちゃんのようだ。
 俺の左腕をしっかりと抱えながら、すぐ側に倒れている怜くんも揺する。
 首を動かすと、正座して座っているポールと、俺を見て小さく頷く莉央くん。
 ノエやサキュバスたちはいなかった。どうやらあの世界に飛ばされた俺たち、元日本人の五人だけのよう。

 そして中央にはまた土下座してひっくひっくぐずぐず泣いてる真っ白の人物。
 ……かおを見なくてももうその漂う空気でわかってしまう、あれは絶対にあのぽんこつ女神。

「なんでまた泣いてんの……」
「わたしが泣かしちゃったあ」
「ゆりちゃんが?」
「最初、わたししかここに呼ばれなかったから、皆も呼んでってお願いしたの、そしたら無理とか言うから……勝手にひとのこと召喚しといて酷いって言ったら」

 泣いちゃった。わたし別にいじめたりしてないのに!と心外そうにゆりちゃんは俺の腕をぶんぶんと振る。
 女子高生に負けちゃったの、女神さま。
 確かにゆりちゃんはよく口の回る子だけど、泣く程圧が強い子でもないでしょうに。

『この度はぁ……皆さまをお呼び立てして誠に申し訳なく……ひっく』
「いやまだ泣いてんの、落ち着いてよ」
『ううう、わ、私、私の説明不足でえ……』
「それはそうですが」
『ごめんなさいい』
「話進まないから泣き止んで下さい」
『うう』

 ずび、と鼻を啜り、女神は漸く綺麗なかおを上げた。本当に、見た目は綺麗な女性なんだけど。サキュバスでさえ敵わない程の。
 でも口を開くとぽんこつなんだよなあ。

「お久しぶりです」
『はいい』
「今日は色々訊きますからね、勝手に戻したりしないで下さいよ」
『私に訊かれてもわかんないですう……』
「じゃあ上の方呼んできて貰えます?」

 莉央くん、それよくクレーマーがやるやつ、と思ったけれど、確かにこの女神さまじゃ深くを知らない上にぐだぐだ会話も進まなさそうだ。
 そりゃあ上の……女神さまの上の者って誰になるんだ、神さまか?女神さま以上の人が現れてくれた方が知りたいことも願いも通じそうではあるけれど。

『わ、私、私はあ……その、こ、この世界の神しかお呼び出来ないですう』
「それでいいよ、てかそれがいいよ、呼んで」

 この世界の神、というのが少し引っ掛かったけれど、皆もそれに頷き、呼んでほしいと言う。
 女神さまに文句のひとつも言いたいと言っていたゆりちゃんは、既に言った後なのか言っても無駄だと悟ったのか。
 まあお礼も言いたいと言っていたし、ゆりちゃん自体はそこまで怒ってる訳でもないのだろう。

 呼ばれる神さまとやらは、髭もじゃの爺さんか、女神以上に輝く美女か。
 話の通じるタイプだと良いんだけど。
 ぎゅう、と俺の腕と怜くんの腕を掴むゆりちゃんの力が強くなり、怜くんの息を呑む音も聞こえる。

 納得いくまで話が訊きたい、その気持ちと、早く話を済ませてノエの元へ戻りたいという気持ちもある。
 大丈夫かな、今俺たちのいた空間はどうなっているんだろう。
 膝の上にいたノエはどうなったかな、落ちたりしてないといいんだけど。床に転がったとして、サキュバスたちもいる、面倒はみてくれるだろうけれど。
 魔力は持つかな、ソフィがいるから大丈夫だろうか。
 急に怜くんがいなくなってリアムは泣いてないだろうか。
 聖女さまどころか王子も消えてお城はパニックになってないだろうか。
 ノエ、ノエは寝ててくれてるかな、あの子、起きた時に俺がいなきゃ不安そうにすぐ探すんだ、だから、このことに気付かず寝ていてくれてたら……

 ただでさえ眩しく発光する空間に、亀裂が入ったように更に真っ白い光が差し込んで、多分、その場にいた全員が瞳を瞑ったと思う。
 眩しい、う、と声が近くから聞こえる。
 そろそろと瞳を開いた先には、二十代半ばの、こんなことを言っては失礼かもしれないが、ぱっとしない男性が立っていた。

「いや誰」

 髭もじゃの爺さんでもとびっきりの美女でもなく、そこに居たのは俺たちと変わらないような、そこら辺にいそうな日本人男性だった。
 皆して頭に「?」を出してその男のかおをよく見る。
 そして誰もそれが誰かなんてわからなかった。
 ここに来て六人目の日本人だなんて意味がわからない。
 だって怜くんの話と女神さまの選択肢の中に他に日本人が出てきそうな余地はなかった。
 もう出揃った筈だった。

『この世界の神ですう』
「神!?」
「うっそお」

 あまりの神っぽくなさに、俺とゆりちゃんの声が被ってしまった。
 だってそんな、まさか、普通のひとすぎる。
 そんな失礼なことを言う俺とゆりちゃんの横で、作者さん、と怜くんが呟いた。
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